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湖上さんは隠れ性癖を語りたい ―可愛い委員長が陵辱エロゲ好きではダメですか?―  作者: 時田唯


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4-6 僕に生まれたホントの気持ち(上)


 フィーンテイルは自分一人で作成したものではない。原稿の多くに師匠の修正が入ったし、最初の企画案から考えてみれば全く別物になった部分も多い。

 当然イラストレーターさんにプログラマーさん、進行係にデバッカーと幾つもの人が手伝ってくれた作品でもある。

 それでも、自分のねじくれた薄暗い感情を多く含んでいたのは事実だ。

 文章を書き連ねながら、こんなことを書いてもいいのか、自分は頭がおかしいのではないか、と疑ったことは何度もある。


 当然、人には決して明かしてはならない秘密だ。

 知られればドン引きされる。

 罵倒され罵られる。

 もし親に知られでもしたら、僕は明日にでも首を吊らねばならないだろう。


 そんな自分の後ろめたさの結晶――けど同時に、本当は……

 自分にとって密かな、大切な宝物でもあった。


 そんな作品を、彼女はとても嬉しそうに、……それこそ僕と顔を合わせるのが恥ずかしくて学校を休んでしまう程に、喜んでくれた。

 ――僕にとって罪悪の象徴であった栄美第一への入学を蹴るほどに。


 それがどれ程、嬉しい事か。


 これは本当に、僕個人の勝手な感情だ。


 自分の作品を理解し、自分の、決して言えない趣味をそこまで深く肯定してくれた湖上さん。

 陵辱趣味なんていう本来なら絶対に知られてはならないものを理解し、僕の前で堂々と肯定してくれたことが、僕にとって一体どれほど自分の心を満たしてくれたことか。

 たとえ誰にも理解できなくても、僕にとってはたまらなく嬉しいことだったのだ。


「…………」


 身体をぎゅっと抱き締め、零れそうになる涙をすする。

 こんな気持ちになったのは初めてだった。


 本当に、本当に嬉しくて……


 けどもちろん、人前で泣くなんてことなんて許されない。

 人前で涙なんて流してしまえば、彼女を心配させてしまうに違いない。

 自分の弱さなんてものは、他人に明かして良いものではない。

 弱い心には厳重に封を施し、海底の奥深く、宝物のように心の奥底に沈めておくべきだろう。


 だから僕は平然とした顔で帰宅し、一人こっそりトイレで涙を洗い流す。

 誰にも知られない小部屋の中で、自分だけの感情を噛みしめるために。


 そうして何度も息をついて唇を噛みしめ、僕は湖上さんとの会話を振り返る。

 ――あなたは素敵な人。

 ――尊敬に値する人。

 いま思い返しても、胸が熱くなる。

 自分自身ではとても考えられないし、誰に言われても素直に信じることはできないけど……


 楽しげな湖上さんを見てると、僕も、少しは……

 うん。すこしは自分のやってきたことに意味があるのかなと思えるし――後ろ暗い趣味を心から喜んでくれる人がいるんだなと思えると、無性に身体が熱くなるのだ。

 自分でも経験が無さ過ぎて、よく理解できない部分もあるけど……

 とにかくこう、温かくて柔らかくて、くすぐったい。


 同時に――

 彼女は本当にすごい人だな、と、改めて思う。


 今でも信じられない。

 自分の好きなもののために栄美第一を蹴るなんて、昔の僕なら驚きを通り越して軽蔑していたことだろう。

 その理由が陵辱趣味を楽しむためだと言うのだから、本当に……

 憧れる。

 好きなことを好きと認めるその勇気に、僕はとても憧れる。


「すごいなぁ……本当にすごいなぁ……」


 そうやって何度も何度も記憶を蘇らせ、僕はしばらくの間、彼女との会話を蘇らせ、ちいさく温かい息を吐いていた。




 感慨に耽った後、どれ位の時間が過ぎただろう。

 感情を整理したところで、ふと、僕はやり残したことに気付く。


「お礼……言ってなかった……」


 彼女の手前で泣かないことばかりを意識し過ぎたせいか、慌てて帰宅してしまった。

 ありがとう、とは言葉にしたけどそれでは全く足りない。

 いまの抱えた気持ちを伝えるには、全く足りない。


 慌ててスマホを取り出し、彼女宛のLIMEを開く。

 お礼を。そう思いながらメッセージを打ち込もうとして、


 ――なんて伝えれば良いだろうか。

 ――僕は君の言葉にとても感動しました?


 言葉にすると、物凄くチープな気がした。

 その程度の言葉では、今僕が抱えた感情をうまく放出できない気がしてならない。

 どうしたことだろう。

 シナリオの文章は十万文字でも並べられるのに、実際に友人への感謝の言葉となると経験がなさすぎて手が震える。


 気持ちだけが先走り、文面に出てくるのは『ありがとう』や『嬉しかった』なんていう、つまらない文字ばかり。

 ああ、物足りない。

 全然、足りない。

 この暴れるような感謝をどうしても伝えたいのだけど、でも伝えるのが上手くいかない。


 何か方法は無いだろうか?

 自分の気持ちを、うまく伝える方法――


 ……と、僕はトイレの中で一人じーっと考えこんで「あ」と閃いた。


「そうだ」


 答えはすぐそこに存在した。


 トイレから出て自宅の押入を開けば、僕が集めてきた背徳的な資料の山がどさりと現われる。

 純愛。NTR。ロリに乱交そして陵辱系。

 ゲーム作成のための勉強用資料として集めたものもあれば、自分の趣味でかき集めたものもある。


 恥ずかしい、という思いが今もない訳ではない。

 けど湖上さんが喜ぶものが何か、今の僕は一番よく知っている。

 そのうち幾つかを手に取った後、続けて師匠に急ぎのメッセージを打ち込んだ。


『師匠。すみません、社外秘のデータを持ち出しても良いでしょうか』

『え。普通にダメだけど』

『絶対に悪用はしません』

『何に必要なんだい?』


 手早く帰ってきた返事に一瞬手を止めたものの、すぐに次の文章を打ち込んだ。


『僕の友達が、フィーンテイルの大ファンでして。お礼を言うために、どうしても必要なんです。その、友達というのが――』


 付け加えるべきか、否か。

 けど師匠をどうしても説得したかった僕は、半ば勢い任せにぽちりと最後の文章を送信する。


『先日アイデアをくれた後輩さんでして。彼女が、このゲームを好きと言ってくれたので。――代わりに次の仕事は、何がなんでも、頑張りますので』


 その後に送られてきた返事を確かめたのち、僕はスマホを片手にすぐさま家を飛び出した。

 それは全くもって引っ込み思案な僕らしくない行動であったと、今でも思う。


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