殺し屋
お題:
〇まくら
〇沈む
〇××がなければ即死だった
俺は殺し屋だ。今回のターゲットの部屋の天井裏に潜んで一時間が経過した。
ターゲットは47歳・会社員の男性、山下トモアキ。独身で安い二階建てアパートの203号室に住んでいる。十五分前に帰宅した山下トモアキは、スーツから部屋着らしい甚兵衛に着替え、買って帰ったコンビニの総菜をつまみに日本酒を飲んでいる。
頭上に殺し屋がいることに気づいた様子もない。今夜の仕事は楽なものだ。
アパートは築年数が相当なもので、天上板は一切の細工をしなくても隙間が多かった。指一本でも動けば、山下は異変を感じるかもしれないが、それなら一切動かずに殺せばよい。
俺の武器は吹矢だ。
即効性の高い毒針が一瞬でターゲットの命を奪う。音もなく、隙を狙えば暴れられることもない。
あらかじめスタンバイしていた矢の延長上に山下が来た瞬間に、息を吹き込むのだ。山下の死亡を確認してから部屋に侵入し、山下の持ち物の包丁で首を切るなりして、自殺を装う。この男にはたいした資産も名声もないから、警察が詳しく調べることもないだろう。
のそ、と山下が立ち上がる。
一つあくびをして、ベッドに向かう――今。
緊張も不安もない。全くいつも通りに俺は息を吹き込む。次の瞬間、山下は静かに倒れ、息を引き取る…………はずだった。
キイン!
高い音がして、山下が足を止める。俺は目を疑った。
山下の首に刺さるはずだった毒針は、その手前で、山下のワンカップのガラス瓶に突き刺さっていた。
「のんでいなけりゃ、即死だったな」
くつくつ、と山下が喉を鳴らす。笑ったのだ、と理解したのは一瞬後だ。
失敗した、と判断するや、速やかに撤退に移る。
伏せていた板の上から、太い梁に体を乗せようとして、体が沈む。腹の下の天井板が突然傾いた。
「やっぱり男かぁ。華がないねぇ」
天井板の一部がはずれ、宙に浮いた俺の足を山下がつかんでいた。自由な片足で蹴りつければ、奴はあっさりと手を離した。音が立つのも構わず、天井裏から空き家の205号室に降りる。ベランダから飛び降りて、俺の足を銃弾が掠める。
「はっ!?」
203号室のベランダに山下がいる。黄ばんだ枕を手すりの上で緩衝材にして、サイレンサー着きのライフルで俺を狙っていた。
「俺は引退したんだが……殺しに来るってこたぁ、やり返される覚悟があんだろうな」
その瞬間、俺は思い出した。
暫く前に姿を消した伝説のスナイパー、Y。奴は、依頼には金とは別に酒を要求するほどの酒好きで、たしか飲めば飲むほど強くなる。
まさか、それが山下――……。
「おうい、バッチャン、バッチャーン!!」
203号室のベランダから、一階へ大声を出す。
「うっせーぞ、ヤマシタぁ!!」
「くたばれヤマシタぁ!」
「うるせぇ。てめぇらも殺すぞ」
下の階の住人と舌戦を繰り広げていると、一階の角部屋から、85歳の大家が顔を出す。
「何時だと思ってんだい。叩き出すよ」
「おう、バッチャン。今度も俺が勝ったぜ。引退したんだからよう、もうタマ雇うの止めてくれや」
「なんだい、若いもんは根性がないね。こんな腹の出た会社員ひとり殺せないのかい」
老婆が嘆いて、頭を部屋に引っ込める。
山下はため息をついて、死体の処理のため、最近痛む腰をよっこらせと持ち上げた。
恋愛お題が大すぎぴえんな毎日にさよなら。
ちょうどいいお題メーカーが見つからないなら、作ればいいじゃない。作りました。
創作お題3つだしったー
https://shindanmaker.com/1010061
あれ、思ってたより難しいお題が出るわ……。