はじめてのはっけん!
「うわあ......、これ全部食べきれるかな」
「これでも小さい方なんだよ。あと、残したら罰金だから気をつけて」
「ごくり......」
カウンターテーブルから豪快に登場したラーメンは、私が知っているラーメンとは最早別物だった。
太めの麺に大量のもやしとキャベツ、巨大な豚肉の塊に所々浮いている白い脂。見ているだけでお腹がいっぱいになりそうな料理が私と萌路の目の前に置かれていた。
「い、いただきます」
「いただきます!」
割り箸で麺を掴み、そのまま啜るとこってりとした味わいが口いっぱいに拡がる。何これ、美味しい......。
これが都会のラーメン......、癖になる味は私をやみつきにして止めることなど最早不可能。萌路も満足げに麺を啜っていた。
「どう? 美味しいでしょ」
「うん、最初はどうかなって思ったけど、全然大丈夫だったよ!」
「良かった、実家の方でも同じ系統のお店があったからここに来るの楽しみにしてたんだ」
「そうだったんだ、教えてくれてありがとね」
一口、二口と入れる度に豚骨スープのコクと野菜の甘みが私を虜にしていき、もうどうにも止められない。
これから通うことにしよう、勿論萌路と一緒に。
「ずっと気になってたんだけど、実羽歌ってどこ出身なの?」
「西吹市だよ、ここよりも北西の方の」
「あ! あの海が綺麗な所?」
「そうそう!夏になるとよく海に行ってたんだ」
「そっか、いいなー」
「他には何にもない所だけどね」
正直、18年間住み続けていた町よりもまだ住み始めて一日の街の方が私は好きだ。田舎には田舎の良さがあるのかもしれないけど、賑やかな場所が好きな私からしたら鳴成市は最高のスポットなんだ。
私の通っていた西吹高校は一学年にクラスが一つしか無くて、大体20人くらい、多くても30人には行かなかった。
だからクラス全員の人と仲良くなることも出来たし、人間関係も悪くなかった。何て言ったって、学級委員を務めていたんだし、どうしたらクラスが良くなるのかも考えていた。
生徒数が少なくても大学進学率は高かったし、先生達も一人一人の成績を鑑みてそれなりの対応もしてくれていた。お姉ちゃん同様学年一位を取っていた私はみんなから勉強を教えてくれと頼まれていたし、先生からの評価も高かったと思う。
そして次の舞台はこの鳴成市。首席は取れなかったけど、授業が始まったら学年で一番成績の良い生徒になりたいな。すぐに首席の人を追い抜いてやるんだから!
「実羽歌すごい!」
「ぷはっ! これくらい、どんなもんよ!」
学業への想いを考えながらスープを完飲していたら、萌路が感嘆の声を挙げていた。
喉の渇きが最大級に達したところでピッチャーの水をコップに注ぎ、一気に飲み干す。
「美味しかったよ」
「そっか、良かった。あと、食べ終わったらすぐに帰らないと怒られちゃうからね」
「え!? そうなの? そしたら早くお会計を済ませないと!」
「そこまで慌てなくても大丈夫だよ」
徐に立ち上がり、ポーチから財布を取り出す私。店員のお兄さんにお金を渡して店を後にした。それにしても、あの量で700円って安すぎない!?
・・・・・・・・・
「萌路、この後どこか寄りたい所ってある?」
「うーん、私は特にないかな。実羽歌は?」
「実はどうしても気になってるところがあるんだ」
私はそう言いながらエスカレーターに向かい、萌路を誘導する。
どうしても行きたい所、それはたまにお姉ちゃんから話を聞くとある店......。
「2階にあるんだよ」
「何のお店なの?」
「それは着いてからのお楽しみだよ」
2階に辿り着き、奥の方へと進むとお洒落なロゴでStringsと書かれた楽器店が視界に写った。
「ここって......」
「みての通り、楽器のお店! 実は私、軽音部に入ろうと思ってるんだ! 今日はどんな楽器あるのか見るだけだけどね」
「......」
萌路は店の隅から隅まで拡がる色とりどりの楽器や、いかにも高そうなスピーカー類に感銘を受けていた。きっとこんなお店に入るの初めてなんだろうな。
「萌路も、良かったら一緒に軽音部、入らない?」
「なんか、楽しそう。実羽歌と今日会ったのも何かの縁だし、入ってみようかな」
「本当? そしたら一緒だ!」
私達はロックなBGMが流れる店内に入り、どんなものが揃えられているのか偵察することにした。
実を言うと私、お姉ちゃんがベースやってる動画を見て同じ事をしてみたいと思っただけで、まだ一度も楽器に触れたことないんだよね。