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おせったい

作者: ガイア

大分県佐伯市上浦町浅海井で毎年、1月21日に行われる「おせったい」は、この地区で行われる恒例の行事である。その光景を初めて目にした人は、おそらく驚くであろう。何しろ、駄菓子、それからみかん、そればかりでなく、時にはスリッパなどの日用品までもが宙を舞う光景なのだから。家を建てた際などに行われる、「もちまき」のスケールの大きいバージョンと考えれば想像しやすいだろうか。


この行事には、「人にふるまうことで災厄を逃れ、無病息災を祈る」という意味がある。駄菓子等をばらまくのは主に厄年の人達だが、その他希望する人もまくことができる。まく人は、この日のために大量の駄菓子等を買い込み、「暁嵐公園」と「そうず川」にあるお堂に駄菓子等を預けておき、当日になるとそれらをばらまく。まくのは主に「暁嵐公園」と「そうず川」の二か所であるが、他の場所でも突然まきだしたりすることもあり、町中で駄菓子等が宙を舞い、まるで一日中お祭り騒ぎのようになる。


小学校の頃、ある「おせったい」の日に、クラスのお調子者が、

「今日はおせったいなんで、ホームルームはやめてください。」

と言ったことがあった。「おせったい」の風習を知らなかった先生は、冗談だと思ったようで、

「なんや、それは。」

と言っていた。しかし、他の生徒までもが口々に言い始めると、冗談ではないことが先生にも伝わったようで、

「わかった、今日はホームルームはやめにしよう。」

と言ってくれた。


学校が終わると私達は、ダッシュで下校し、おのおの、ゴミ袋を持ち、お菓子を集めに周った。このゴミ袋が家に帰るころにはパンパンになるぐらいなのだから、それはもう恐ろしいくらいの量をまくのである。


小学生の小さい体では、お菓子を空でキャッチすることは難しかったが、人が取りこぼし、地面に落ちたお菓子を拾い集めるのは、容易であった。そのため、人と人の間に落ちたお菓子や、時には人の足元に落ちたお菓子までもうまいこと拾い集めた。「子供が拾いやすいように、大人が手加減したのだろう」と思われた方もいるだろう。しかしそんなことはなかった。なぜなら、この「おせったい」は手加減なしの真剣勝負だからである。だからおばさんに押しのけられたこともあるし、大人に手を踏まれかけたこともある。この行事には、子どもも大人もないのである。しかし、腹が立つなどということはなかった。真剣勝負だからこそ面白いのだということを子どもながらに理解していたからである。しかし、おばさんが腰に大きな布の前掛けの、袋になっているのをしていて、それを見たときばかりは、さすがに、「あれはずるい」と言い合った覚えがある。ふつうは片手に袋を持っているため、片手でお菓子を拾うのであるが、このおばさんは袋が腰にくっついているので両手がきくのだ。周りの2倍の効率でお菓子を拾い集める様子を見て、初めはずるいと思っていたが、そのうち、よく考えたなと妙に感心した覚えがある。これも一つの「おせったい」における「技」なのである。


「おせったい」での技といえば、うちの弟もある技を持っていた。弟はお菓子を拾うのに飽きると、最前列に行き、かぶっていた帽子を脱いで、お菓子をまく人の前に、ひょいと差し出していた。するとぼうしのなかにお菓子を入れてもらえるのである。あからさまな反則であるのだが、その動作がすごく自然で、至極当然のようにするので、見ている方も嫌な気はせず、なんだかそれも可愛らしい一つの「技」のようだった。


ある「おせったい」の日、自分の親戚のおばあちゃんの家でおせったいをするという情報を聞き、僕と弟とで、向かった。その時、その親戚のおばあちゃんは私達に手招きをすると私達が持っていた袋にガサッとお菓子を入れた。あからさまな依怙贔屓に、私達はさすがに恥ずかしくなったが、今思うとあれはそのおばあちゃんの愛情表現だったのある。普段は黙して喋らないまるで岩のようなおばあちゃんだったので、その時は突然の行動にびっくりした覚えがある。今ではそれは、楽しい思い出の一つになった。


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