49:Embrace
動力炉から供給される力によって推進剤が燃え盛り、火線と共に〈防人〉が噴出する。見えない地面を蹴ったような加速は鋼鉄の身体をギルトの真上まで導いた。
突然の軌道変更について来れなかった触手の群れを後方に置き去りにした〈防人〉は、勢いのままに〈夜叉姫〉の姿を模倣し始めたギルトの肉体にEVナイフを突き刺した。
中心にある核が弱点――。
EVナイフがギルトを切開する。その刃の先には、腫瘍のような球体。EVナイフによって表面に張り付いた肉を引きはがされれば、真っ赤な真珠のような姿をさらけ出す。
「千歳、それが輪廻核じゃ。砕け!」
「承知!」
ギルトの絶叫をバックに、返り血にまみれた〈防人〉がEVナイフを手放して両手で傷口に手をかける。ぐっ、と千歳が身体に力を込めるイメージを浮かべれば、パイロットの神経を伝う信号を体内のプログレス因子と〈GA〉によるスキャニングが拾い挙げた。〈防人〉は負荷によって機体の各部を軋ませながら、マニュピレーターで強引にギルトの身体をこじ開ける。
肉がさらに裂け、ギルトの心臓である輪廻核が月下に曝された。
千歳はギルトの身体に突き刺していたEVナイフを〈防人〉に右手で引き抜かせ、トドメを刺そうと振りかぶる。だが、〈防人〉を襲う震動によって動きを邪魔された。
己の命の危機に、ギルトが取り乱していた。身体を乱暴に振り回し、自分の背中にとりついた〈防人〉を引きはがそうとしているのだ。人の身体を部分的に模したために、背中にいる〈防人〉には手が届かないために、こんな動物的動作でしか対抗できないのである。人に擬態しようとしたせいで動物じみた行動をせざる得なくなったギルトの姿は、欲望の成れの果てであり、酷く滑稽だった。
しかしその醜態を笑っている余裕は千歳にはない。必死に振り落とされまいと〈防人〉をギルトにしがみつかせていた。ここでギルトから離れてしまえば、肉体の再生によってギルトの輪廻核は覆い隠されてしまう。敵の急所を引きずりだした好機を逃すことはできない。だが、パイロットスーツを身に着けていない千歳は常よりも過剰な衝撃に襲われ、狙いを定めることができなかった。
〈防人〉のレーダーが警告音を鳴らして、後方から凄まじい速度で迫る触手の存在を主張する。このままでは振り落とされるか、触手の餌食になるか。行き止まりの二者択一。
また先日のような無茶な慣性制御をおこなおうにも、準機士である〈防人〉に搭載された安全装置により、この機体の慣性制御による係数は六〇が限度だ。
――オオオオオオオオオッ
己の力を信じて千歳がEVナイフで輪廻核を狙おうとした時、〈狂剣〉が吼えた。破壊され、そして再生していたギルトの手足を切断したのだ。〈防人〉が困窮している原因を察知し、援護したようなアシスト。片腕と片足を喪失したギルトがバランスを崩して斃れ込む。今ここに、千歳が相対する敵が一時的に無防備となった。
何故――そう問うよりも先に、千歳は〈防人〉にEVナイフを振り上げさせた。肉に埋もれていく輪廻核目掛けて。
「……っ、喰らええええええっ」
振り下ろした刃先は真紅の宝珠に触れた。
硝子を貫く感触とともに、EVナイフが輪廻核の存在を浸食していく。
奇声を上げてギルトが蠢く。純白の身体がデタラメに姿を変容させる。腕が生え、裂け、顔と目が浮かび上がり、また壊れては傷口からマトリョーシカのように同じものが現れ壊れ現れる。蟲の脱皮を早送りでみせられるような時間を超越した変化、ただおぞましさだけは常軌を逸している。
ギルトの変容の中、千歳は光学センサ――自分の視界に入る変化は眼中の外だった。今目に映るのは刃の向かう先と接近を止めない触手の群れだ。
〈防人〉がギルトの息の根を止めるのが早いか――。
白い肉塊が〈防人〉の胸部を潰す方が早いか――。
これは命を賭けたチキンレース。
「そうだ、千歳、殺せ。その醜き造形物を粉砕せよ。この世界から――!」
化け物殺し、人外殺し、人ならざる者と戦い神国の懐刀となるための一族である陵家。その嫡子は、那殊の言葉を心の裡で肯定する。この災厄を駆逐するのだ。
「…………ああ」
――それは陵としては正しくとも陵 千歳としてはどうだろうか。
殺すこと、同意。殲滅すること、同意。このままトドメを刺すこと、同意。
それでも、こうして千歳がギルトと生死を賭けて戦っているのはその責務ではない。それよりも人として、兄としての憤慨でもって戦っているのだ。
千歳を駆り立てたもの。千歳にとって最優先すべきこと。それは何よりも己の妹の救出に他ならない。
様々な臓器や器官が波打つギルトの体表に、千歳は意識を向けた。そして、EVナイフから手を離して、浮かんだ人型に向けて手を突き出した。
「千歳!?」
後一歩でギルトに引導を渡せるというのに千歳がEVナイフから手を離したことで、那殊が初めてあからさまに動揺した。
「お主、自害でする気か!」
自分の膝の上で叱咤してくる那殊の言葉に千歳は思わず失笑してしまった。その結論、千歳にとってはあり得ぬ決心。
こうして命を救おうとしているのに、彼女の顔を見ずして死ぬなど考えられない。
〈防人〉のマニュピレーターが、それとシンクロした千歳の手が、ギルトの身体から浮かび上がった〈夜叉姫〉の、裂夜の手を掴んだ。
「返して、もらうぞ」
〈防人〉の足裏でギルトの身体を踏みしめ、負荷による警告も何も無視して、千歳は腕を引いた。
「たったひとりの家族なんだよ。貴様なんぞにくれてたまるか!」
ずるりっ、と〈防人〉の手がギルトの身体から〈夜叉姫〉が引きずり出す。
体液と血液にまみれた〈夜叉姫〉の身体は、それでもきちんと原型を止めて、〈防人〉の鋼鉄の身体に抱きしめられた。
〈防人〉のコクピット内に反響する無数のアラーム。触手が致命的な距離まで肉薄していると狂ったように喚き散らしている。〈防人〉が再びEVナイフに手をかける時間はない――。
「とっととぉ、くったばれえええええ」
千歳は輪廻核に突きたったEVナイフを〈防人〉で力一杯に蹴り抜いた。
そうして、EVナイフがギルトの輪廻核を――砕く。
千歳は動かなくなったギルトの巨体から〈防人〉を離れさせた。〈防人〉よりも大きい〈夜叉姫〉の身体を支えながらだったが、この程度の動作をさせるのはギルトとの戦いに比べてみれば子供のお使いでしかない。
オーバルが通信でいっていたコンテナの降下地点とされていた場所まで〈夜叉姫〉を連れて移動すると、千歳はその身体を地面に横たわらせて、すぐ隣に〈防人〉を跪かせた。
未だ健在である〈狂剣〉の妨害を予測していたのだが――、〈狂剣〉はギルトが活動を停止してから、同じく行動を止めていた。
「一先ず、こちらへ仕掛けてくることはあるまい」
と那殊が進言してきたので、以前として警戒はしつつも、千歳は敵対行動をとろうとはしなかった。どちらにしろ、今の機体で〈狂剣〉とやり合うのは無謀というものだ。
〈防人〉はコンテナの落下カウントを始めている。到着前に決着がついてしまったわけで、残念ながら無用の長物と化してしまったわけだが。
「那殊……〈夜叉姫〉から裂夜を出すことはできるか?」
「誰に物を申しておるのやら。本来、アレは妾の所有物。出来ぬ訳がなかろう」
千歳がコクピットを解放すると、那殊が千歳の膝の上から外へと躍り出た。重力を無視して、ふわりとタンポポの綿毛のような柔らかさで〈夜叉姫〉の胸部に着地した那殊は、愛機に向かって手を突き出した。その動作に反応して、〈夜叉姫〉の胸に淡い光がともる。それは徐々に大きくなり、人の形を成した。
「裂夜!」
〈防人〉から飛び降りて、千歳も裂夜の方へと駆け寄った。千歳が裂夜を抱き上げると、気絶していた彼女も意識を取り戻した。
まだ夢に微睡んでいるのか、ぼんやりと千歳の顔を見返した。ふわりと裂夜が笑う。再会してからの棘がとれたような、柔らかい笑みだった。
「あれ、兄さん……おはようございます」
「おはよう、じゃないだろう。心配したんだぞ」
「心配……?」
千歳の言葉で、裂夜の表情に理解の色が広がっていく。無防備だった笑顔が一転、驚愕にこわばって裂夜は千歳から飛び退いた。とても先程まで意識を喪失していた者とは思えぬ俊敏な動きだった。
「なっ、気安く触らないでくださいっ」
まるで痴漢にでもあったような態度に、千歳は予想外な角度から傷を負った。おそらく、娘に邪険にされた父の感情もこのようなものなのだろう。単純に罵詈雑言を浴びせかけられるよりも、よっぽど堪えた。
新しく刻まれた胸の傷に脂汗を流しつつ、千歳はなんとかそのショックを記憶の角へと追いやる。
「これまた、随分と酷い対応の落差だな」
「あ、当たり前でしょう! ああ、もう、なんで兄などと呼んでしまったのか、思い出しても寒気がするっ」
「そういわれても仕方ないことは理解しているが」
「ええ、理解してもらっていないと困ります。どうして自分が恨まれているのか、それを自覚していない人に報復しても味気ないですから」
改めて裂夜にそういわれて、千歳は黙り込んだ。しかしそれは罪悪感や、後ろめたさで口を閉じたのではなかった。ギルトによる騒動は、ひとつだけ千歳にとっては良いを決心をさせてくれた。
裂夜が呑み込まれた時、千歳は心の底から恐怖した。それは無論、裂夜がこの世から居なくなってしまうことに対するものであったが、同時に、このまま謝ることもできずに永遠と離ればなれになってしまうことが怖かったのだ。
告げるべき言葉も伝えることができずに別れることになるなんて、もう御免なのである。
だから千歳は今まで逃げていた家族に、真っ向から目を向けた。
「裂夜、俺は……」
「今更、何を云うつもりですか」
「ああ、本当に今更だ。俺が裂夜の目の前に姿を現さなかったのも、連絡もいれなかったのも。本当に今更だよ」
「わかって、わかっていながら、どうしてそんなことを云えるんですか」
裂夜の表情が苦しみで歪んだ。千歳は薄々、裂夜が自分へ向けていた怒りの感情がなんであったのか感づいた。再会してからというもの、裂夜が千歳へ向けていた怒り、その源流は、失態によって一族を皆殺しにしたことの怒りだけではなく――。
「なんで、云うんですか……泣きそうな顔しながら!」
そうか、そんな顔をしているのか。と、千歳は裂夜の言葉で自覚した。
「俺は、怖かったんだ。だから、恐ろしくて、涙が溢れそうになるんだ」
「それが、どうして……」
「俺は自分の妹のことがどうしようもなく大切だったんだ。だって、もう残された最後の肉親なんだぞ。血を分けた妹なんだぞ。それが大切じゃないわけがない」
家も、財産も、総てを失った男が千歳だ。路上で力尽き、斃れて、身ぐるみを剥がれていながら、それでも死を選ばないのは、たったひとつだけ。掌の中で暖かに光る宝石があったから。それが裂夜だ。千歳にとって、裂夜こそがこの世に己をつなぎ止めていた楔なのである。他にあるしがらみ――死者への罪悪感、死への恐怖、そんなもの、千歳の身体に纏わり付いて動きを阻害することはあっても、歩みを妨げるには至らない。真実、千歳を掴んで離さなかったのはたったひとつ。
「でも、もしこのまま俺が大切に宝物を抱えていたら、きっと裂夜まで壊してしまいそうだったから――俺は怖くなって逃げ出した。自分がこの世で一番大切にしているものが、他ならぬ自分のせいで壊れてしまうのが堪らなく怖かったんだ」
最後にすがっていた宝物を、掌から解き放つ。信頼できる友に託して、自分はいずこかへ消える。もうその綺麗な姿を目に入れることは叶わなくとも、この空の下でずっと輝きを失うことがないのなら、それだけで自分は生きていることができたから。
そうして千歳は宝石のことを頭の中から追い出した。悲しかったけれど、手にすることはできなくても、無事であることだけがなによりの救いだったのだ。
でも千歳が自覚的に忘れたのではなく、失念していたことがあるとすれば、その宝石にも自意識があったことだった。それは宝石ではなく、子供だ。人だ。生き物だったのだ。
「でも、そうだ。俺は自分恋しさで、忘れてはならないことまで頭から落としてしまっていたんだ」
裂夜の顔が歪む。屹然としていた、氷のような冷たい造形物に変わり果てていた裂夜に亀裂が走った。氷層がこぼれ落ち、その下に隠されていた肌がついに日の光を浴びたのである。
「俺は、こんなことを、総て自分ひとりで決めて、お前から逃げ出したんだ」
自分と一緒にいれば裂夜にも危険が及ぶ。なるほど、確かにあの状況下ではそう思うのは正しい。でもそこで、勝手に彼女のためと大義名分を立てて離れるのは――人に責任を押しつけての逃避でしかなかったのだ。
「どうして、兄さんは、そんなにも……馬鹿なんですか。いつもいつも、遅いんですよ。兄さん、自分のことを凡人だといか云いますけど、とんでもない。兄さんは心底馬鹿なんです。……ばかなんです」
「そうだな……大馬鹿者だよ、俺は。
裂夜にとっても、俺が最後の肉親だってことも忘れて、勝手にいなくなるなんて――」
昔守ってみせると誓ったくせに。想像もしなかった。自分がいなくなることで裂夜が、自分と同じ類の恐怖に襲われるだなんて、千歳はこれっぽっちも考えることができなかったのだ。
「わたしは、こわかった。捨てられたかと思ったんです。見捨てられたかと思ったんです。忘れられたと、そうこわくなったんです。兄さんは、わたしのことなんてこれっぽちも必要としていないんだと、そう突き付けられたようだった。一度も顔を合わせないで、どっかへ高飛びして、連絡もなくそれっきり。
――ええ、恨みました。恨みましたとも。そうしなければ、きっとわたしは縋るものもなく、生きる気力さえ沸かせることができなかったんですから」
災害ともいえる理不尽で暴力的な現象によって家族を奪われた裂夜は、最後の肉親にまで捨てられたと思い、そうなれば、幼い少女が絶望の中で生きる目的を作るには、屈折した理念を作り上げるしかなかった。意図的に歪むことで、死を免れた。賢しかったものだから、裂夜はそうすることが一番効率的に身体を駆動させることができると判断したのだ。例え、健全とはいえないものだったにしても。
「今でも、それは変わらない。自分を手ひどく捨てた男ですよ。絶望させてやらないと気が済みませんとも」
「それは……勘弁して欲しいと云いたいが、それで気が済むのなら好きにしてくれ。俺はもう、お前から逃げて何も伝えられないままでいたくない」
「兄さん、気づいていないんでしょうけど、こうやって償わせないことが何より兄さんにとっては苦しみになるんですよ。精々寸止めにされたままの苦しみを味わってください。わたしはそれを眺めさせてもらいますから、隣で。……良い見せ物です」
「そうだな。……好きに眺めるといい。今ならそれができるんだから」
かつて千歳が裂夜に向けた心配など最初から余計なお世話だったのである。兄よりも、よっぽど妹の方がしっかりとしている。むしろ、隣で見守ってもらうのが丁度いい。
「あー……」
千歳でも裂夜でもない、三人目の人物が居心地の悪そうに声をあげた。
そうだ、千歳と裂夜が立っているのは〈夜叉姫〉の上であり、その〈鬼神〉から裂夜を引きずりだしたのが――三人目である那殊だ。
そして、千歳と裂夜が離ればなれになる根本的な原因を作った式神。
ふたりの一連の会話を間近で聞かされていた那殊は、大層所在なさげになっていた。
目が醒めたばかりだった裂夜は、ようやく那殊の存在に気づいてうわずった声をあげる。その反応に益々那殊はばつの悪い顔になり、それを扇で隠して、振り向いたふたりと目を合わせようともせず空中に視線を逃がした。
「どうしてこんなところに、この女狐が!」
「仔細話すのは面倒じゃ。別にどうでもよかろう」
「良い訳がない! こんな女の目の前で、わたしが取り乱したなどと、一生の恥。
兄さんも、どうしてこの女狐が一緒にいるんですか。真逆、憎き怨敵の軍門に下ったとでもいうのですか」
「そんなわけがないだろう。利害が一致したから協力したまでのことだ。
……いや待て、そうだ、那殊。どうしてお前は俺に協力などしたんだ」
時間もなく、なりふりも構っていなかったから、今の今まで捨て置いていたが、千歳は那殊がここまで力を貸してくれた理由を訊いていなかった。
ギルトという存在についての知識があるようだったから、あの怪物を殺させることが目的だったのかもしれないと考えたが、どうにも、それだけではない気がする。〈夜叉姫〉を取り戻したかったのだろうか。
訊ねられて、那殊はしどろもどろにあの、その、と言葉を濁す。何か隠し事をしているのは明白だった。
「なんだ、お前のことだ。云えないようなことなのか。内容によっては、この場で……」
「……心配だったから」
千歳が交戦も辞さない構えに移ろうとした時、那殊がぼそりと言葉を洩らした。
突然だったからだろうか。千歳は何か重大な聞き間違いをしたのではないかと思い、すぐに訊ね返した。
「……なんだって? もう一度いってくれ」
「…………」
「那殊?」
「心配だったからといっておろうが! 何度も人の口から、このような些末事を云わせるないわ戯け者め!」
何故か顔を真っ赤にして怒られた。その理由を訊いて千歳は唖然としたものの、この様子からそれが嘘ではないのがありありとわかったので、それで尚更唖然とした。どういうことだ。もしかしてこれは夢の出来事なのではないかと疑ってしまうほどに、那殊の反応は天変地異じみていた。
「な、那殊が人の心配? なにかの冗談だろう?」
「失敬なことを抜かすな! 妾も心配する相手くらいおるわ。……お主らふたりだけじゃが」
千歳も那殊も言葉を失っていた。どうして自分たちの仇に身を案じてもらわねばならないのか、それが不思議でしょうがなかった。那殊も自分の口にしている内容がおかしいことを承知しているのか、いつもの不遜な態度はなりを潜め、秘め事を囁くような調子だった。
「わざわざ云わぬでも、お主ならば理解できるじゃろう、裂夜」
「よしてくれませんか。そんなこと云われても、わたしの殺意が鈍ることはないのですから」
「それは承知しておるし、そのままであってくれて構わぬのじゃがな」
「……なんの話をしているんだ、ふたりとも」
イマイチ、千歳は裂夜と那殊の会話の内容を掴めていない。ふたりの共通認識なのか、主語が欠落していた。
「気にするでない。それよりもお主は上を見ておれ」
「上?」
千歳が空を見上げ、言葉を失った。
ミサイルが、落ちてきた。