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ガンメタル・グリード  作者: 刹那
34/60

33:刃が舞う

 家族、家族か。と千歳はうそぶいた。

 家族、両親、血の繋がった誰か。

 この言葉を聞くと、千歳の脳裏に色々な記憶が浮かび上がる。厳格で遊びという言葉を知らないような父。いつも頑固な父の側で笑っていた、病弱ながらも芯の強い母。そして、――と――も。

 いつも千歳の身体は傷だらけだった。骨が折れるのは、わりとよくあることのような気もする。それが良いものだったとか、悪いものだったとか、千歳にはわからない。嫌だと感じたことがなかったわけでもないが、具体的な比較対象はないし、善し悪しをつけるような代物ではないように思えたからだ。こうしてみると、自分が体験していたことのはずなのに、まるで別人の生活を見ているように思えた。それは、きっと当時と現在があまりに乖離しているから、なのだろう。他人のアルバムを覗き込むような、不思議な気分。ああ、これはきっと、懐かしんでいるということなのだろうか。胸に満ちるこのふわふわとした、地に足着かぬ感覚は。

 そう、だから、わかるのだ。善し悪しの区別はつかない。だけど、それがかけがえのないものだったのだと、わかるのだ。

 故に、許せない。

 かけがえがない、代え難い、生涯唯一つの、家族というものを子供から取り上げたことが。そしてなにより、親を取り上げられた子供たちが悲しんでいた。泣いていた。震えているのだ。

 ――全身の血液が沸騰していた。

 抑え付けられない。おかしい。ここのところ、自制がきかない。さっき解き放ったばかりの獣が、また鎖をじゃりじゃりと引きずり、蠢こうとしていた。

 ――それでも頭だけは冷たく、だけどこの激情は忘れず。

 ……構うものか、と千歳はつぶやいた。なんで、ここまで来て、なりふりを構う必要がある。なにも気にすることはないではないか。過去だろうが、戒めだろうが。そこまで気を配っていられるほど、千歳に余裕はないのだ。

 だって、今、陵 千歳は怒っているのだから。

「レムリア! ……奴に、教えてやるぞ。自分がなにをしたかをな」

「了解。叩きつぶす。完膚無きまでに。やって、陵 千歳。ついていく。あのゴミを焼却する、その瞬間まで」

「ああ、行くぞ。断罪(さばき)を……っ」

「受けさせる!」

 千歳が吼え、レムリアが猛り、そして〈天斬〉が雄叫びを上げた。

 ――オオオオ……オオオ……!

 実際は、動力炉の出力があがり、抑えきれない駆動音が大気を震わせただけだった。それでも、千歳には〈天斬〉がふたりに同調したように感じられた。

 不気味だと、千歳は〈天斬〉のことを思っていた。それは生理的反射だった。この瞬間だけは違う。

「行くぞ……相棒っ!」

 それはレムリアと、〈天斬〉にかけた言葉。

 〈天斬〉は地を蹴り疾走。

 隻腕となった今、膂力不足を片手上段で刀を構えることで補う。最速の剣速、一刀によって敵を斬り捨てる。

『真正面、最短距離! 最大火力! しかしでスねェ……無駄ァッ!』

 カッ、とキング神父が声を張り上げるのと同時に、〈ガラハッド〉正面にあのエネルギーシールドが展開される。構わず、〈天斬〉は刀を振り下ろす。

 フラッシュ。

 刀は――シールドに受け止められる。これもまた、〈ガラハッド〉の前では無力化される。あまりに堅牢、あまりに強固。機体一機でありながら、その防御能力は単独要塞。この斬撃すら及ばぬ領域の能力。

『だから無駄といいまシたよォ! さきほど〈モルガン〉に砕かれたようには行きませんッ、一度壊されれば、進化する。それがこの身体なのですからネェ!』

 キング神父の言葉を信じるなら、このシールドはさっき破壊されたことにより、さらに強化されたという。ならば、これだけで破ることができないのは道理。

 千歳がキング神父と生身で相対していれば、このシールドの役割が、彼の着ている対弾、対刃繊維であまれた神父服と同じである、と評しただろう。

 そうだ、これは〈ガラハッド〉自体が堅いのではない。〈ガラハッド〉のエネルギーシールドが厄介なだけなのである。

 なら、まだやりようはある。このシールドの下の〈ガラハッド〉など、この防御能力と比べれば、まだ普通といえる程度の装甲だ。機士や準機士よりは頑丈でも、その程度なのだ。

 千歳の顔色は変わらない。内心、心が獰猛に笑む。千歳は今、お互いに首もとに歯を立てながら絡みあう獅子の気分だった。獅子の鬣は強力な防具だ。あれがあっては、首もとに噛みついても、邪魔されて牙は肉にまで届かない。つまり、シールドは獅子の鬣。獅子の筋肉は強靱なれど、〈天斬〉という牙をもってすれば、貫くことは容易い。

 喰い破ってやる。その鬣!

『さあ、おとなしく砕けなさい、〈天斬〉ィ!』

「冗談だろ――!」

 〈天斬〉と〈ガラハッド〉が激突する。刀と拳、刃と盾、弾ける鋼と刃金。

 鳴る、哭く、啼き叫ぶ。

 〈鬼獣〉など、余波で死ぬ。流れ弾で、不用意に近づいてきた〈鬼獣〉は消し飛ばされる。この二機にとって、〈防人〉や〈切人〉が苦戦している〈鬼獣〉など、蟻でしかない。二機が作るは破壊の空間。何人も邪魔できない。

 〈天斬〉のコクピットの中をアラームがけたたましく満たす。先程から無茶な機動ばかりしていたから、もうアラームなど千歳は完全に無視していた。

 新たに出た警告は、右腕の負荷が規定値を超えているということだ。刀を振るい、敵とぶつかりあい、力比べをすれば、当然、腕への負荷は計り知れないものになる。

 ディスプレイの端に、簡略化された平面の〈天斬〉の図が現れる。肩、関節、手首――それらの位置が真っ赤に染まっている。人工筋肉(マッスルベアリング)が負担に耐えきれず損傷していた。人間が壁を思い切り殴りつけたら手首を痛めるように、〈天斬〉は度重なる戦闘行為により、筋繊維に当たるものが破損していた。

 それだけではない。フレームにもダメージがはいっている。今や、〈天斬〉の右腕は内部からボロボロとなっていた。無事な部分などひとつもない。

 ここまで酷使し、限界スペックまで振り回しても、〈天斬〉は千歳に応えた。試作機だということを忘れそうなほどの活動であった。

 機械が応えたのだ。なら、千歳も応える。〈ガラハッド〉を討ち取ることで。

「陵 千歳。あのシールドの解析ができた。ディスプレイ下部に表示」

「ああ!」

 〈天斬〉と一体化した視界。並列して脳内にできているコクピット内のディスプレイを見ている自分で、情報を確認する。

「あのエネルギーシールドは、最初、均一なエネルギー分布で展開、対象が激突した瞬間、その一点にエネルギーを集約させることであの防御能力を得ている」

「流動的だな。まるで水かなにかだ」

「だけど、シールド作成に使われているエネルギーの総量に変化はない。わかる?」

「つまり、ひとつの攻撃を受けている時、他の部分はがら空き……そういうことだろう」

「その通り」

 実際、そこまで簡単な話ではないだろう。元々のエネルギーの総量からして、〈ガラハッド〉は膨大なのだ。銃弾の雨に晒されたとして、このエネルギーシールドは破れまい。銃弾のパワー程度では、強度が薄くなった部分にも効果がない。そもそも、ほんのわずかに激突する瞬間が遅ければ、シールドの脆弱部分はうまれないだろう。光りの早さで流動しているのだ。

 超音速といえど、銃弾では荷が重い。確実にことをすますなら、白兵距離で攻撃を加え続け、その間にもう一撃いれる必要がある。

「どちらにしても、仕掛けられる好機は片手で数えるほどだろうな」

 いや、それはあまりに楽観的だと千歳は撤回する。あと一度。全力で〈天斬〉が刃を振るえるのは、それだけと考えた方がいい。生半可なものでは、〈ガラハッド〉の装甲すら打ち抜けない。

 しかし、どうする。千歳は、ヘルメットの中で不快な汗を流しながら黙考していた。

 エネルギーを一点集中させるような強い一撃、さらに弱くなったシールドごと装甲を貫く一撃。この二撃を同時におこなう必要がある。

 今の〈天斬〉に、それができるだろうか?

 〈天斬〉の現在武装――刀一本。何度確認してもその事実に変化はない。掌部砲、というのも、搦め手による手段のひとつとして可能ではある。が、今の〈天斬〉は片腕しかない。刀を持った状態では掌部砲は撃てない、掌部砲を撃てる状態では刀を扱えない。どちらかひとつを選択するしかない。

 同時に撃つ/振るうことは不可能。

 どうする――。

『戦場で隙を見せる――それは、自殺と同じでスよォ!』

「――っ!」

 しまった、と口に出来ない。ディスプレイ/〈天斬〉の視界が、〈ガラハッド〉のボディで埋め尽くされていた。刀が使えないほどの超至近距離、しかし相手の拳の致死領域――。

 〈天斬〉を強大な破壊が襲った。

「ゴッ――」

「きゃ――」

 レムリアの悲鳴が意外とかわいらしかった――などと、思うことすらできなかった。

 パイロット保護のため、慣性制御がコクピットに集中される。それでも、首が折れたかと勘違いするほどの衝撃がふたりを襲った。

 全身がびりびりと電流でも走ったかのように痛み、頭の中が白濁とし――。

「……っ」

 ぐっ、と千歳は奥歯をかみしめる。閉じかけたまぶたを、間一髪で押し開く。内臓をはき出しそうな感覚、無視。

 今ので思考が途絶えた時間――三秒。致命的。

 次、〈ガラハッド〉の第二破接近。それがなんであるかも確認せず回避運動始動。

 アラームがけたたましく金切り声をあげている。原因、〈天斬〉の脇腹がえぐり取られて、内臓フレームがむき出しになっていた。出力低下。だが損傷は思いの外浅い。千歳が、苦し紛れに〈天斬〉の身体を逸らしたからだろう。でなければ、今頃、〈天斬〉は腹部に風穴をあけて機能停止していた。

 なら、もう一度――そう唸って、〈天斬〉のスラスターとブースターを全開。羽撃く――。

 〈ガラハッド〉の掌から、あのエネルギー砲が発射された。光りが刃となり、地を這い、天まで縦に一閃。

 ジュンッ

 斬られた。

 〈天斬〉が体勢を崩し、頭から地面に墜落する。ボディをコンクリートにこすりつけて火花を散らしながら、〈天斬〉は勢いよく転がり、建物に激突することで、その動きを止めた。

「今のは……」

 立て続けに襲ってきた攻撃の数々に、心身共に打ちのめされながら、千歳がうめいた。操縦桿を握り締めて、全身の刺すような痛みに耐えながら身体を起こす。と、背後から、レムリアから報告があった。

「両翼……切り落とされた。飛行不可」

 いつもと同じ、淡々とした声。されども、そこに活力はない。病人みたいな力のなさだった。あのレムリアも、相当参っている。

 〈天斬〉の損傷、甚大。パイロットのステータス。こちらも最悪。

 敵損傷、軽微。

 打開策、なし。

 もう一度、問いが千歳の頭の中で響いた。

 ――どうする?

 間違いなく、今の千歳は出し惜しみなしの全力……であるが、それでも、〈ガラハッド〉とキング神父の力には及ばなかった。

 このように、〈天斬〉のシンボルたる翼も断たれた。まさに地に落ちたイカロスだ。墜落死は高度が低かったがために免れたが、これが本当に太陽へ近づこうとしていたなら、即死だったのだろうな、などと意味のない思考に逃げたくなるほどに、切羽詰まっていた。

 ディスプレイには、こちらを標準に収めた〈ガラハッド〉の姿がある。撃たれたら、躱せない。コクピットに命中し、痛みを感じる間もなく千歳たちは蒸発するだろう。

 もはや〈天斬〉は既に翼人などではない。翼を失った今、ただの人だ。以前のような機動など望むべくもない。攻撃も後一撃が限界。満身創痍。

 〈ガラハッド〉の掌に光りが集まっていく。ここまでか――、そう思った時、

 爆発。

 それは〈天斬〉のものではない。〈ガラハッド〉の、正確にいえば〈ガラハッド〉に打ち込まれたミサイルによるものだ。

 ミサイル、砲弾、銃弾。雨霰。重火器のオンパレードだ。嵐のような弾雨が、獲物に群がるピラニアのように〈ガラハッド〉を呑み込んでいった。

「これは、さっきの援護射撃……!」

『ぬ――あ――――邪魔……!?』

 轟音の中、辛うじて神父のそんな声が聞こえた。それごと押しつぶす、と砲撃が〈ガラハッド〉の姿が見えなくなるほど何百何千発と叩き込まれる。

 しかし、巻き上がる粉塵のわずかな合間から、〈ガラハッド〉がシールドを張っているのが千歳には見えた。

 これでも足りない。シールドは貫けない。

 そうだ、あれは一撃では打ち壊せない――。

 だが、あと一撃あれば、突破できる!

「レムリア!」

 彼女に呼びかける。苦痛は、勝機の前に消え去った。

 この弾雨が止むより疾く、〈ガラハッド〉に攻撃を叩き込む。そうするために今足りないものは、速度。翼を失った〈天斬〉は機動力を大きく損なっている。残ったスラスターと足の速度だけでは駄目だ。なによりも、速度を乗せた攻撃でなければ、刀であのシールドを脅かすものを打つことはできない。

 そのために必要な処理はひとつ。

「慣性制御機構の稼働率を、九十六まで跳ね上げろ!」

「それは――」

 慣性制御の稼働率をあげる。それは、ある種の禁忌だ。いや、多少上下させるだけなら、構わない。有効な戦術だ。慣性制御を上昇させるということは、機体の機動力とダメージを軽減させるということでもある。

 だがそれも、微細な数値を変化させるうえでの話だ。

 現在の〈天斬〉の慣性制御機構の係数は六十。一気に三十六もあげろと、千歳はいっているのだ。レムリアの係数に対応する因子量数値は、九十六で、問題ない。おそらく千歳はそのことを考慮したのだろう。当の本人、千歳はというと、七十一。明かに規定量オーバー。それでは――。

「速くッ!」

 また千歳が声を張り上げた。

 もう反論はなかった。

 レムリアがすばやく出力、機械制御を調整する。慣性制御、その稼働率をあげれば、〈天斬〉はさらに世界の法則から逸脱した動きができる。空気抵抗、衝撃、動作により発生する障害の軽減。速く動くために、これがもっとも簡単で、なにより効果のある判断だった。

 係数を六十で固定していた〈天斬〉の慣性制御機構が、稼働率を上げる。七十、八十、九十――。

 

 千歳の視界が真っ赤に染まった。


「目、――」


 上下感覚が、なんだかおかしい。

 ちぐはぐな世界、目が回る、〈ガラハッド〉が五体に増えた、手足の感覚の喪失、嘔吐感、頭痛、倦怠感、動悸、息切れ、身体が熱くなる。

 これが、慣性制御の数値をいじった代償。戦場では通常、このような真似は滅多におこなわれない。そもそも〈GA〉の訓練を身体の芯まで叩き込まれた人間、つまり士官学校を出た人間は、絶対にこのようなことはおこなわない。何故なら、自分の因子数を上回る係数まで上昇させた時、なにが起こるかわかっているからだ。

 肉体限界(バーンダウン)

「があ、ああ、あ、……!」

 慣性制御の際に発生する力場は、人間にとっては有害でしかない。その有害物質を、プログレス因子が一定数以上あれば、耐えることができる。のだが、その因子が処理できる限界を突破した時、なにがおこるか。それが、これだった。

 体調不良、精神失調。

 〈GA〉パイロット以外にもわかりやすくいうならば、これは放射線をなんの防御手段もなしに浴びてしまうのと同じことだ。身体は耐えきれず傷み、精神にも多大な悪影響を及ぼす。こんなものを実戦中でおこなわない理由はそれだ。動きが機敏になっても、そもそも動き出せなければなんの意味もない。

 千歳の全身に鳥肌が立ち、寒気に身体が震えた。

 無理だ、と弱音を吐いてしまいそうだった。吐きそうだった。でも吐けない。呼吸が巧くいかない。吐こうとしたら喉に嘔吐物がつまって窒息するだろう。だから、なんとしてでも吐くわけにはいかない。

 肺が痙攣していた。だから巧く呼吸ができないのだろう。自律神経にも負担がかかっている。

 視界の明滅。早打つ心臓の痛み。まずい、まずい、まずい。

 つーっ、と鼻からなにかが肌をなぞって、唇の中にはいってきた。鼻血だ。毛細血管の断裂。

 このままでは、戦う前に、死――。

「――ぬおおおおおおおおおおおっ」

 咆哮。

 千歳は吼えた。こうしなければ勝てないのだ。ここでいつまでも悶絶しているわけにはいかないのだ。あと十秒、満足に動ければいい。それ以上は望まない。だから、もう少しだけ身体よ、動け。

 気を確かに持つ。手足の感覚を取り戻し、一体の〈ガラハッド〉を視認する。上下感覚を確かめる。動悸、息切れ、頭痛、こちらはどうしようもない。赤い視界も手がつけられない。毛細血管でも切れたか、それとも視神経に直接異常がでたのかはわからない。だが、敵は見える。なら大丈夫だ。

 荒い呼吸。長年の武芸の稽古をおこなってきた千歳でも、呼吸を落ち着けることができない。

「後、一撃」

 打つのだ、全力で――!

 〈天斬〉が疾駆した。

 弾雨を突っ切る。流れ弾が装甲を吹き飛ばす。無視。

 爆風。それに体勢を崩すことはない。慣性制御の賜だ。

 流れ弾。不思議なことに〈天斬〉には大口径射撃が当たらない。援護射撃をしているパイロット――真二の飛び抜けた狙撃の腕が発揮されたのだ。これほど撃って、そのことごとくを〈ガラハッド〉にのみ集中させている。

 〈ガラハッド〉が〈天斬〉に気づく。掌をこちらに向ける。が、撃てない。今シールドをとけば、この弾雨に晒されることになるからだ。

 〈天斬〉、〈ガラハッド〉の前に到達――

「貫けぇ――――ッ」

 ――刀を、突き出す。

 それは一筋の雷撃だった。高レベルの慣性制御制御下における、千歳と〈天斬〉によって打たれた刺突は、栄国の最高戦力でも対応できない領域の速度で――。

 シールドに刀が激突する。

 〈天斬〉の肘関節が不気味な音を立てた。壊れる。あと、少し、このシールドを貫くまで、耐えろと、千歳は念じた。

 砕けない。シールドは健在。

 〈天斬〉の損傷が広がっていく。千歳の肉体的ダメージも増大していく。

 これは我慢比べだった。千歳と〈天斬〉。キング神父と〈ガラハッド〉。どちらが先に音を上げるかの勝負だった。

 勝者は――はたして蒼き巨人であった。

 エネルギーシールドが、消し飛ぶ。

『なんと……!』

 驚嘆。驚愕。絶望。

 それはキング神父が真実、本当に心の底から驚いた初めてのもので。

 そのまま、〈天斬〉は身体ごと〈ガラハッド〉に突っ込むと、刀で敵を突き刺すのだった。

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