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ガンメタル・グリード  作者: 刹那
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29:ガンサバイブ/フルバースト

 戦火の中、オーバル、真二、ジャックの三人は無事に第七小隊の格納庫へと移動することができていた。

 格納庫の中に、普段ならんでいるはずの〈GA〉の姿はない。どれも出撃しているのだろう。この状況だ、全機が出払っている。ただし、パイロットが不在であった真二とジャックの機体を除いて。

 真二とジャックが格納庫へ駆け込んでくると、待機していた整備士が声を張り上げる。

「真二! ジャック! お前らいったい今までどこで油売ってやがったんだ!」

「すまねえ、街の方に行ってたんだ! 今すぐ出撃するよ! ……で、眼鏡のアンタ。何をしようって言うんだ?」

「キミの機体に、細工させてもらうのさ。いや、もう先に細工の方は指示してあったんだけど。まあ、キミは機体に乗っているといい。あと、そうだな。それをするとキミの機体は動けなくなるだろうから……。ドレッドヘアのキミ、〈GA〉で支援を頼むよ」

「ジャックだ。それはいつものことだ。今すぐにでも出撃はするさ」

 そこからオーバルの動きは機敏だった。

 格納庫に残っている整備士に指示を飛ばして、目的の作業を素早くこなしていった。事前にこちらの格納庫に指示して作業させていたということもあるだろうが、それにしても作業速度は異常だった。

 特に、今やっていることと比較すると。

 自分の愛機――〈切人〉に搭乗している真二の顔も、作業が比例するにつれて引きつっていた。いや、より正確にいうならば、搭乗するよりも先に既に変わり果てた機体の姿に呆然としていたのだが。

 コクピットの中で、真二は首を左右に振る。その動きを〈切人〉の頭部が追随する。正面ディスプレイに、固定されている機械の両腕が映し出される。普段なら、そこには洗浄された機体の装甲があるのはずが、今は違った。

 カーキ色の分厚い装甲。普段の〈切人〉のカラーはグレー系統であり、本来のものではない。真二が勝手におこなったペイントの類でもない。なにより、こんな可動範囲の狭くなるほどの過剰装甲なんてつけない。これだと両腕の反応速度も極端に低下して、〈鬼獣〉のすばしっこさに対抗できるとは思えない。

 違う。この場合、する必要がないからこうなっているのだろう。

 真二は頭を抱える。両腕を操縦桿から離したので、〈GA〉にその動きは反映されないが、しかし、酷く頭が痛かった。

「これ……別におれじゃなくたっていいだろうが……なんだよこれ。おれの機体はどうなっちまうんだ」

 今、真二の機体は砲台というべき代物だった。

 外から、オーバルの間延びした声がスピーカー越しに真二へと届く。

『いやあ、〈天斬〉用だったから〈切人〉に接続できるかどうかは不安だったんだけど、素材自体は全部流用品だったからなんとかなったね。固定が緩いかもしれないけど、まあ、大丈夫だよね』

「……なあ、おい。これはいったいなんなんだ?」

『うん? 名付けて、砲撃戦用装備、アサルトパンツァー! かな』

「これでアサルトかよ! なんつー統一感のないネーミングだよ!」

『キミ、以外と突っ込むね。まあ今考えた名前だから細かいことはいいんだよ』

 真二の機体には、過剰なまでの火器と装甲が搭載されていた。

 百ミリ口径砲が両肩に一門づつの計二門。両腕に七十口径四十ミリ機関砲。背部から人間でいう脇腹の辺りまでを閉めるのは、連装式二百三ミリロケットランチャー。それら火器が大量に搭載されている。全身重装甲なのは、あくまでオマケでしかない。これだけの重量がなければ機体が反動に耐えきれず転倒し、満足に固定できないためである。

 そう、固定前提。つまりは、動くことなどできない。関節も固定していなければ、いくら慣性制御していても、崩壊してしまうだろう。

『で、その機体なんだけど、慣性制御を全部機体の維持に回すから、パイロットへの衝撃保護は全部緩衝材任せになる。だからかなりきついと思うね。本来は〈天斬〉とそのパイロット用に想定してたから、〈切人〉だとかなり無茶をしなきゃあならない』

「はっ、おれみたいな平凡パイロットじゃあ、慣性制御の上限には限界があるからな」

『そういじけなくてもいいと思うよー。係数五十レベルもあれば充分充分。あっちがおかしなだけ』

 オーバルの言葉に鼻を鳴らし、〈天斬〉とそのパイロットである陵 千歳のことを真二は思い浮かべる。

 試作機のパイロットに選ばれて、人工島から呼び戻された男――。

 気にくわない。と真二は思った。この国を護っていたのは自分たちなのに、何故人工島などに出向していた人間がいきなりそのような役目を任されるのか。

 スポンサーとのコネか。それで抜擢されたのか。国を護る、ということにそのようなくそったれな人間の私情が絡んだとでもいうのか。

 違う。そうではない。真二もわかっている。奴がパイロットになった理由はそんなものではない。

 単純に、実力があったからだ。だから、呼び戻されたし、パイロットにもなったのだ。

 それが真二にはくやしかったのだ。今、この機体の説明を受けていてさらによくわかった。

 奴の実力を想定して設計されたこの装備に自分の身体はついていけない。

 歴然たる力量さ。それに奥歯をかみしめる。そうだ。真二はくやしかった。だから、陵 千歳が気にくわなかった。なるほど、これはジャックに以前言われたとおり、単なる嫉妬だ。

 嫉妬、あるいは矜持を傷つけられたことによる怒りか。真二には神国を今まで護ってきたという自信があった。自負があった。それが崩されたような、そのことに対する危機感。理不尽だと理解していても覚えてしまう激情。

 ああ、だが、それだけではない。きっと真二が千歳に苛立つのは、おそらく、奴本人がどこかで――。

『……どうかしたかい? 自信なくなった?』

「バカいえ。なんとかしてやるさ。正面の門を開いてくれ。出撃する」

 横に逸れだした思考を振り払い、真二は操縦桿を握り締めた。

『おーけー。先にジャックくんがつゆ払いしてくれているはずだ。場所取りは問題無いだろうね』

「あったりまえだ。おれの相棒だぞ。こんな状況、屁でもねえさ」

 どれだけ絶望的だろうが、なんとかなる。

 格納庫の扉が開く。装甲越しでもわかるほどの戦闘による轟音が肌を震わせた。これほどに悲惨な状況、思えば真二は初めて経験する。それでも、戦意はいささか衰えていなかったが。

 乾いた唇を舌で舐める。望むところだ。そう気合いをいれた。

「真二・トゥファン・不知火……やってやる!」

 戦闘稼働状態になった〈切人〉の動力炉が最大まで稼働し、エネルギーを機体全体に行き渡らせる。鈍い足音を響かせて表に出た〈切人〉は、射撃地点まで走り出した。

 走る。それだけで機体各部が悲鳴をあげた。しかも、今、スラスターによって補助しているにもかかわらず、速度は〈切人〉の出せる通常のそれにも満たない。コンクリートで頑丈に作られた基地の地面に、みしりと罅が入るほどの重量だった。

 モニターに表示されるエラーメッセージを真二はすべて黙らせる。無理してるのは重々承知。だから、うるさい金切り声をあげるんじゃない。ただでさえ、慣性制御がコクピットにかかっていなくて、Gで吐きそうだというのに。

 流れ弾が装甲を叩いた。この程度、蚊に刺された程度にしか感じない。

 射撃地点は格納庫からそれほど離れていなかった。そこには〈鬼獣〉の死骸が積み上げられていたが、障害はない。センサーが反応。真二のものとは違い、過剰カスタムが施されていない〈切人〉が、射撃地点に近づこうとする〈鬼獣〉を片っ端から叩き落としている。あれがジャックの機体だ。

「……へ、さすが相棒。慣れてるな」

 狙撃手の相棒は、ふとした瞬間大量の〈鬼獣〉に囲まれてしまっている時がある。そこを切り抜けるためには、一対多の戦闘が強いられる。そのため、ジャックのようなパイロットは、このような劣勢にも慣れていた。もっとも、限界はある。ジャックも必死だ。〈GA〉と〈鬼獣〉の一般的なキルレシオは一対七か八である。そのことを考えると、弾薬の残りから考えても、相当な無理をしている。

 射撃地点に到達。機体の関節をロックし、少しでも射撃による負荷を減らす。射撃目標は、もっとも敵が密集し、味方のいないところ。片っ端から数を削り取る。これが今回この機体に与えられた役目だ。

 最適目標、確認。狙撃なんてやっていると、そういうものを見つけるのはお手の物だ。友軍への待避メッセージも出した。

 そして、標的は――

「〈狂剣〉、〈ガラハッド〉……は、誰も近づけてねえな。バカな〈鬼獣〉以外は」

 なら、狙う場所は決まった。

「ガンサバイブと洒落込もうぜ……。砲門解放――」

 〈切人〉に搭載された大量の砲門が、狙いをつける。正確には、機体はロックオンしていない。だが、機体と意識を接続できる〈GA〉ならば、肉体の延長線上、目視だけでなんとかしてみせる。

「全弾発射ァ――!」

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