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ガンメタル・グリード  作者: 刹那
25/60

24:並列駆動

 千歳たちが所属する神国の基地に、あの異様な格好の神父がいた。

 名をキング、キング・ヘッドショット。それが本名か偽名かはともかく、その姿の奇っ怪さだけは真実である。サングラスのレンズの部分がライトで反射されていて、その目にどのような感情があるかはうかがい知ることができない。

 白手袋で包まれた手で角張った己の顎をさすり、彼はそれを見上げていた。三メートル超の身長でも見上げなければならないほどに巨大なもの、というだけでそれがなにか限られていた。

「ふむ」

 とキングはつぶやいた。視線の先にあるのは一機のGAだった。それこそが、この男がこの地に訪れた要因である。

 蒼。蒼。蒼。塗り尽くすように蒼。その深遠たる色合いに神秘を見いだす者もいるであろう、そんな不可思議さを内包した機体だった。全高は二十メートルと通常のGAよりも巨大だが、マッシブな肉体で被弾面積はそれほど増えていない。それでいて、パワー不足ということもなさそうである。機械の肉体でありながら、溢れでる活力を感じるようだった。これなら重量級の相手でも渡り合える。それに、この全高も、小型の鬼獣ではなく、その先にあるもの、つまり鬼神などを相手どるときには丁度良いものだ。体格で負けていては力で押される。人型である限り、その制約はつきまとう。もっとも、そう単純な話というわけではないが、ともかくこのバランスはすばらしいものがあった。

 試作段階でこれである。なるほど、と神父は頷いた。これなら国が欲しがるはずである。そして、こんなものが他国にあることを警戒もするであろう。これは〈鬼獣〉に向けられるべき兵器だが、神国がこれ以上他国よりも〈鬼獣〉にアドバンテージを持てば、面倒なのだ。〈鬼獣〉は全人類の敵。これはほぼ共通している。で、あるが、それが間接的にもたらす効果を望まぬ者がいないかといえば、否である。〈鬼獣〉によってもたらされる経済効果というものも存在するのだ。

 〈鬼獣〉は殲滅される手段が見つかっていない。台風などの異常気象の一種といっていい。排除する方法はない。その場しのぎで撃退をするのが精々だ。ならば、それを利用してやろうとするものがいるのは当然であった。しかも、それが今の世界情勢に大きく関わっているとあっては、無視する方がおかしい。

 神国は今、独自の手法でGAの技術は一歩先を行っている。機士級までなら他国も変わらない。だがそれでも重機士級には及ばない。人類にとってのブラックボックスを搭載した機体だ。現在の技術力で作りだせる最高峰なのである。

 さらに、神国は特殊だ。他の機軸国である栄国、衆国、鑞国は自衛のために複数の国家が合併したものであるのに対して、神国はそのようなことをしていない。周りを海に囲まれた島国というのも原因のひとつであろう。そのため、神国は独自の技術力を研鑽した。職人気質の人間が多かった国だ、既存の技術を料理することは他国よりぬきんでている部分があった。なにより宗教からなにまで、文化の違いもひとつである。合併をおこなわなかった分、余計な処理や人間同士の諍いが少なかった、というのも物事をスムーズに運ばせていた。

 ただ合併こそしなかったものの、この国の気質に惹かれた者や技術に興味を持った者など、そういった人種が多数流れ込んできた。そのため、純血神国人は少なくなっていたりする。

 人は変化しただろうが、国全体が他とは一線を画しているのは変わらない。これ以上この国にアドバンテージをもたれては、利用できなくなる。各国は神国の〈鬼獣〉に対する知識が喉から手が出るほど欲しているのである。

「なるほどなるほど。これは確かにほシがるわけでスね」

 ――自分たちの機体よりも、生産性はありそうだ。

 選ばれて製造された数機と同性能の機体が生産ラインにのったら、神国につけいる隙はどんどんなくなってしまう。

「これは確かに壊してしまうのがいいでショう」

「誰がなにを壊すんだい?」

「おや」

 神父が声のした方へと顔向ける。廊下の影から、ひょろりと細身の身体が現れた。メガネをかけた白衣の男だ。

 神父は面識がないが、その白衣の男の名はオーバル・オレニコフ。この蒼い機体――〈天斬〉の開発主任である。

 ひょろりと枝のように生えた細い手足を揺らしながら、オーバルはいつもと同じ、口の端に笑みを浮かべた表情だった。両手を白衣のポケットに突っ込み、ゆらゆらと揺れながら歩くオーバルは、〈天斬〉の足下に設置された手すりに腰を預けた。

 困惑している様子の神父――本来は逆の立場のはずだが――に目を向けて、オーバルは困ったように首をかしげた。そして、その視線を神父の背後にある通路へと向けた。

「困るなあ。ここは関係者以外立ち入り禁止なんだよ。無関係な人間に立ち入って欲しくはないなあ。特に乱暴者は嫌いだよ、僕」

 オーバルの視線の先にある通路、そこには血だまりが広がっていた。転がっている腕の服装を見るに、ここの警備員の人間だろう。彼らはみな物言わぬ屍になっていた。よく見ると、神父の白手袋にも紅いまだら模様が浮かび上がっていた。それはそういう刺繍などではなく、まだ乾ききっていない血液である。

「それ、みんな死んでるのかな?」

「生かしておく理由がないでスからねえ」

「そりゃあそうだ。よかったよかった。作業員逃がしておいて。人手がなくなったら困るんだよねえ」

 警備員の遺体のことには気をかけず、オーバルは極めて軽い調子でいった。

「ほう、ではアナタは何故戻ってきたのでスかね」

「なに、簡単な話。ここまで無断で進入した人の顔を見たくなってね。キング・ヘッドショットさん?」

「ほう! ワタシの名をご存じ! つまり機士団についても知っているということでいいでスかね?」

 大仰に反応する神父に、オーバルもつかみ所のない様子で応対した。

「もちろん。円卓十三機士団。栄国が秘密裏に保有する壊し屋集団。跡形もなく対象を破壊するから自分たちの名が知れ渡らない。そんな人のひとりでしょ、アナタもね」

 神父は黒い肌に刻み込んだような笑みを浮かべることで肯定した。

 円卓十三機士団。栄国が所有してる独自の部隊である。自国の実在する神話をモチーフに名付けられた組織名であり、祖国の危険となるものを実力行使で排除する集団である。

 ネットや人の噂になることはあっても、一般人には実在の証明がされていない、都市伝説のモノのひとつである。なにせ目撃者となるべき人間は皆殺されている。いつも派手に暴れ回っては、世間にはひた隠しにされる異端児である。さすがに、国ともなると存在自体は把握しているのだが、公にできるようなものでもない。簡単に指摘できるようなものでもないし、こんな死神じみた者を登場させて、ただでさえ〈鬼獣〉のせいで殺伐とした街の人間を疑心暗鬼などに持ち込むのもいい傾向ではない。

 彼らのような手合いはけして表舞台に出てはいけないようなものたちだ。もし彼らが衆目の下に曝される時がくれば、それは即ち国家間の戦争が始まる瞬間に他ならない。

「いやはや、恐い。ここに来たってことはあれでしょ、〈天斬〉に興味を持ったということかな」

「exactly! その機体はこの国が保有スするには、あまりに危険。ここで破棄させていただきまスよ」

「おやおや。それはできないなあ。ここまで形にするのにはなかなか、苦労したんだよ? 知らないだろうけどね」

「HAHAHA! 大丈夫、苦労は報われまスよ。ワタシたちの国で、ネ?」

 警備員から奪い取った拳銃を、神父はオーバルに向けて、無造作に発砲した。かんしゃく玉がはじけるような渇いた音が響いた。

 キング神父と対比した時は玩具のようだった拳銃は、しっかりと狙いを定めてオーバルに放たれた。それは、立っていただけのオーバルをいとも容易くとらえた。

 が、身体に何発も銃弾を撃ちこまれようとも、オーバルは倒れなかった。

「ああ、無駄無駄。対戦車ライフルでもないとこの白衣は打ち抜けないよ」

 オーバル、正確にはオーバルの白衣に命中した銃弾は、ひしゃげて地面にからからと小気味良い音をたてて転がっていた。

「この白衣はね、キミの着てる服よりも優秀だよ。命中したと同時に硬化して弾丸を防ぐし、衝撃だって白衣全体に分散して逃すんだ」

 自身の発明品さ、とオーバルは得意げに鼻を鳴らした。これも雷華が支払った経費から落として制作していて、発覚した時はえらく怒られたものだが、本人はそんなことを気にしていなかった。ただ、この瞬間硬化型防弾防刃白衣を作れたことで満足であったのだ。備えあれば憂い無し、である。

 その白衣を見て、アフロの頭を叩き、神父は素直に感心した。

「それは凄い。……なら、直接手を下すしかないようですね。ワタシ、人を殺すのは好きではないんですけどネ」

 ぐっと力を込めて、神父は歩き出す。

「やれやれ、そこの警備員を殺しているのによくいうよ」

「あれは猿ですヨ。この国の血を引くのは猿ですヨ、猿。アナタは我が国の血をひいてるようじゃないでスか」

「本当に少しだけれどね。基本は鑞国さ」

「ええ、ですからアナタはまだ人でス。悪魔に魂を売った異端ですけどネ」

 神父とオーバルの距離が縮まっていく。硬く握り締められた拳も、本来ならオーバルの白衣で防げる類のものである。で、あるが、オーバルは直感的にこの白衣では対応できないな、と気がついていた。第一、衝撃吸収、分散ができたとしても、それは万能ではない。点ではなく面で一度に大量の衝撃がくれば許容量はオーバーするし、さきほどあげたように対戦車ライフル級の衝撃が点に集まれば引きちぎられる。科学とは、けして一にして万能とはならない。なんとも不便なことに、必ず穴は存在する。だからこそ進化をやめないのだが――。

 そもそも、オーバルはこういう力を使ったことが微塵も得意ではない。この場にいるのは〈円卓十三機士団〉という集団に対しての知的好奇心だけだった。だが好奇心は猫をも殺すとはよくいったもので、オーバルは今己の好奇心で死の危険に瀕していた。

「やれやれ、これは困ったなな」

 さすがに冷や汗がオーバルのこめかみを流れ落ちた。その間にも、神父とオーバルの距離は縮まっていた。

 かつん、かつん、こつん……。

 神父の靴音に異音が混じった。別の音だ。靴ではない別のモノが地面を叩いたのだ。

 オーバルが音のした方へ目を向けた。そこには、見知らぬ誰かが立っていた。

 地面を叩いたのは、抜き身の日本刀だった。本来刃を保護するはずの鞘は見あたらず、しかし曇りひとつない切っ先が、地面を一度叩いていた。

 フードを深くかぶった男だった。体格は成人にしては小柄だ。年齢は少年といったところか。服装と日本刀はまったくといって見合っていなかった。柄を握り締め、彼はゆらりゆらりと歩を進めていた。そのくせ、隙がない。身体の芯がぶれないとでもいうのか、無造作に少年は歩いていた。

 目指す先には、あの神父がいた。

「ほう……不思議な格好ですネえ」

 サングラスの下にある目で少年を見て、自分のことは棚に上げ、私服に日本刀という奇異な組み合わせを神父は評した。

 のんきな神父の一方で、オーバルは困った顔をしていた。判断に困る。これは自分は死ぬのか死なないのかはっきりしない。

 栄国の人間が知らないのも無理はない。そして、神国に住むオーバルが少年を知るのは道理である。これは神国内の防犯カメラに幾度となく撮影された映像の中で動くものと同じであったのだから。

「凶刃のシリアルキラー……」

 そして、シリアルキラー、あるいは剣鬼と呼ばれた少年は神父に斬りかかった。

 緩慢な動作が嘘のように、一足で神父へと距離を詰め、胴を薙いだ。

 それを神父はとっさに腕で受け止めた。

 肉と刀が激突し、しかし斬れないがために発生する鈍い衝突音。

 防刃防弾の神父服で刀を受け止めた神父は、自分よりも遙かに小さいシリアルキラーを見下ろして肩を竦めて笑った。

「ほう、速いですネ。正体は知りませんが、さっきの猿よりはやるようでスね。この基地の用心棒、といったところでショうか」

「それならいいんだけどね」

 オーバルが曖昧に笑ったことに神父が違和感を覚えるよりも速く、シリアルキラーが動いた。

 無言で刀を引き、霞の構えからくっと腰を捻って刀で突いた。

 槍のような速度で狙うは神父の左胸。

 途端に神父の表情が凍り付いた。

「ぬ――」

 ボクサーが拳を避けるときのように上半身を逸らす。目にも止まらない早さの突きをとっさに回避した。ちっ、と神父服の裾を刀が擦過した。

 シリアルキラーがさらに刀を振るうよりも速く、神父はその場から飛び退いた。長身故か、その移動速度は図体に似合わず素早かった。

「これはこれは――」

 神父が自分の服の襟を見て声を洩らした。

 雨のように弾丸に撃たれても、ナイフで斬りつけられても、現に先程一度は刀を受け止めたほどの服であるのに、

 その裾は真っ二つになっていた。

 刀自体は防いだのである。なのに、二撃目でこうもあっさりと神父服は切り裂かれた。つまりシリアルキラーは、一瞬で服の弱点を見抜き、己の技量のみでこの強固な服を破ってみせたのである。

「この服、札束積むくらいには高価なんですがネェ……」

「…………」

 シリアルキラーは黙して語らず、切っ先を神父へ向けていた。

 一点に力を集約することで紙きれのように服を引き裂く。それが彼の出した神父への対策であり結論。

「これは……少々厄介なようですネ」

 サングラスを中指で押し上げて、渇いた笑みを浮かべる。得体の知れないこの少年、尋常ではない腕の持ち主だとは容易く認識できた。

 この神父にここまで危機感を抱かせたものなど、久しく存在していなかった。

 オーバルはふたりの戦闘能力を類推する。

 神父、正しくはキング・ヘッドショット・ガラハッドは栄国に存在する円卓十三機士団という機関に所属される騎士である。騎士とは名ばかりで、単なる戦闘集団であり、政治的問題を文字通りの力業で解決する集団だ。十三にも満たない数しかいないが、その実力はひとりひとりが馬鹿のようなものである。まさしく、人間ではない。

 軍という単位で人は〈鬼獣〉に対抗する。だが円卓十三機士団は違う。

 単機で〈鬼獣〉の群れを蹴散らし、山のような死体を築く。一般的な〈鬼獣〉と軍人のキルレシオが八対一程度なのに対し、記録にこそ残らないが、十三機士団は桁をふたつほど塗り替える。

 そして、生身の戦闘能力も化け物じみていた。否、事実化け物だ。それは、この基地内に神父が傷一つなく進入したことが証明していた。身体能力向上、そしてGAの操作にかかわるプログレス因子の量が常人とは違うのである。

 で、あるのに。

 危険。そんな一念を神父に抱かせたシリアルキラー。彼もまたただならぬものだった。

「……これはとんだハプニングですネ。そして逃がしてくれそうもない。

 断罪といきましょうか」

「…………破砕」

 一言だけ、シリアルキラーはつぶやいた。それは神父への返答ではない。ただ行動の自己確認のためのつぶやき。

 そうして、シリアルキラーは凶刃を振るった。体格差をモノともせず、むしろそれを利用するように死角から喉への斬撃。

 鋭い急所への斬撃。それは神父にとっては想定内。目に見えぬ速度。見えなくとも、事前の予備動作さえ見えていればどこに突きがくるかなど把握できる。

 身体をずらして軌道を外し、神父は蛇のように長く太い腕を横から叩きつけた。

 相手の側頭部を狙った豪腕。刀に劣らぬ速度の拳。シリアルキラーは上半身を反らして拳から逃れる。自分がさっきまでいた眼前を鉄球のような拳が抜けていっても、シリアルキラーはをまったく動じない。

 だがシリアルキラーが体制を直すより速く、ラッシュをかける神父の拳が連続で繰り出された。

 右を打てば左が、左を打てば右がさらにあとを追って撃たれる。空を撃つ拳はどれもが必殺たり得る暴力。

 素手と得物を持つ身。本来は刀によるリーチ差はアドバンテージとなるはずが、腕のあまりの長さに機能しない。神父の両腕はそれ自体が凶器であり武器。無手でありながら徒手空拳ではない。もはや腕の形をした何かだ。

「シャッHAァ!」

 長いリーチを生かした拳。それがガトリングのような勢いで次々と打ち込まれる。それらを総て紙一重でやり過ごすシリアルキラーが、わずかな合間を縫って反撃にうつった。

 身体を低くして、顔を砕きにきた拳を避け、神父の足下に潜り込んだ。

 機動力の機転である足。その太ももに向けて刀をはしらせる――。

「…………斬」

「ィYAァ!」

 同時に、神父が膝を跳ね上げた。

 ドッ、と防御を捨てた神父の膝蹴りがシリアルキラーの胸を叩いた。それでも鋭利さを欠片も失わない斬撃は防刃繊維を引き裂いた。太ももを中程まで断つ。

 衝撃に身体が吹き飛ぶシリアルキラーは地に片手をついて、地面をひっかき停止。

 神父に手応えを与えた膝蹴り。常人なら肋骨がすべてへし折れ、肺が破裂するほどの衝撃を受けたはずだが――それでも、シリアルキラーは立ち上がった。

 太ももから紅い血を流す神父は、傷口も押さえずに口笛を吹いた。

「このワタシの一撃を受けても立ってきまスか! アナタ、本当に人間でスか?」

「それはこっちの台詞でもあるかな」とオーバルがいった。「キミホントに人間? どう見ても身体に細工してるでしょ、それ」

「ええ、まあ肉体改造を少し」

 もう神父はオーバルには視線も向けなかった。そんなことをすれば、次の瞬間には自分の首が地面に転がっているのは明かだった。

「なるほど、違法遺伝子操作(アベレイションカイン)か」

 オーバルはひとり納得する。アベレイションカインとは、違法な遺伝子操作によって肉体を異常に強化する技術のひとつだ。

 元はと言えば、肉体の部位欠損などを快復させるために発達した技術からの派生だ。公式では禁じられているが、高い金を積めば施せないほどでもない。筋繊維の発達、反射神経の補助、その効果はプログレス因子の能力をさらに増すほどの効率だ。

 ただ、欠点がないわけではない。肉体の急激な成長は精神に異常を来す。通常の人間が発揮できない領域の力を発揮できる肉体を持っても、認識がそれについていかない。突然の進化は精神失調を引き起こす要因のひとつだ。だから、その強化の幅も自然と決まってくる。

 なのだが、神父の動きはその許容範囲を遙かに逸脱していた。

「少し、ねえ」

 どこが少しなものか。もうその皮の下は、人間のものとは違う構成になっているのではないか。そういう次元の話で、神父は狂っていた。もう、〈鬼獣〉や〈鬼人〉を唾棄する彼らの方も同じくらい人間をやめていた。

「ええ、少し。それだけではないですがネ」

 意味深に笑う神父を一瞥し、剣鬼がゆらりと動いた。

「…………抹殺」

 シリアルキラーが身をわずかに膝を沈めて剣を構える。それを見て、神父は笑みを浮かべた。

「すいませんネェ。これ以上アナタに関わっていると面倒なんでスよ」

 神父がサングラス越しにオーバルを一瞥した。正確には、端末に伸ばしている手を見た。それが救援を呼ぶためのものだとは考えなくともわかった。

「だから、この辺りで機械仕掛けの神にお出ましになってもらいまショうか!」

 そして、基地が震撼するほどの衝撃が地面に響いた。

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