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ガンメタル・グリード  作者: 刹那
21/60

20:遠き日の残照

「……くそ」

 栗色の髪をした兵士――真二・トゥファン・不知火は、苛立ちを抑えきれずに吐き捨てた。

 先ほどから苛立ちが収まらない。胸の内に、形容しがたい感情が渦巻いていた。

 肩で風を切りながら、基地内の廊下を横断する。その背中について歩くのは、長身の黒人男性だった。

 ドレッドヘアの黒人は、不機嫌な背中に気負いもなく声をかける。

「おいおい、真二。いくらなんでも荒れすぎだぞ。いったいどうしたっていうんだ」

 黒人の軍人、ジャック・モルダー=ブラウンは相棒にそう訊ねたのだった。

 真二は、お世辞にも素行がいいと言えるような人間ではないが、それでも常識はわきまえている。鉄砲玉のような、勢いのある男であるが、けしてそれは無鉄砲に撃たれているわけではない。狙い澄ましたうえでの、猛進。そうでなければ、〈鬼獣〉などというものが跳梁跋扈する世の中で軍人としてはやっていけるわけもない。

 で、あるのに、今日の真二はそうではない。本当に考えなしだ。感情に完全に押し流されている。これは、そう。

「……八つ当たりか」

「なにが八つ当たりだ!」

「その反応、どう見たって当たりだろうに」

 あからさまに食いついてきた真二にジャックが呆れる。それに真二は舌打ちをして歩行を早める。が、身長差故の歩幅の違いにより、ジャックは苦もなくそれについて歩いた。

「大方、神国内じゃなくて人工島配属の人間が新型のテストパイロットとしてやってきたのが気にくわない、だろ?」

 行き場のない鬱憤を晴らすために、真二は粗野な口調でそれを形にした。

「当たり前だ。気にくわないに決まってんだろ。今までこの国を護ってきたのは誰だと思ってんだ。それがいきなり来て新型のテストパイロットで我が者顔だぞ? バックにあの皇ヶ院財団があるだとかなんだとか知らねえが、気にいらねえよ」

「やれやれ……。お前の本音は新型のテストパイロットはこの基地内から選出するべきだった、とでもいいたいのか? あわよくば、自分が乗りたかったとか」

「んなこたぁねえよ。オレはだなぁ……」

 と、振り返って言いかける真二の前に、ジャックは大きな手を突き出して首を横に振った。

「もういい、わかった。お前の腹の虫が治まらないのはわかったよ」

「け……っ」

 真二はまた歩きだす。今度は早歩きではない。どうせ追いつかれるのだ、自分だけ体力を浪費させてもバカのようではないか。

 服のポケットに両手を突っ込み、周囲を威圧するような空気を漂わせる真二は、しばらくは黙って歩き続けたのだが、ついに我慢の限界が訪れたのだろう。急に大声を出して、ジャックを振り返った。

「だぁああああ、くそが! なんでオレがこんなに不機嫌にならなきゃならねえんだよ! こうなったら憂さ晴らしだ。おいジャック、ちょっとつきあえよ」

「ん? いったいどこにだ?」

「街だよ、街。このままじゃ息がつまるぜ」

「そいつはまた唐突だな……」

「さっきまで待機中だったんだ、オレとお前は暇なはずだぜ? 今は別の小隊の連中たちが備えてるはずだ。こんな殺伐な世の中で兵士やってんだ、数時間くらい外出したって文句はいわれねえさ」

 ジャックは眉間を抑えて溜息をひとつつく。頭痛をこらえるような仕草だが、真二が感情の赴くままに行動するのは毎度のことである。もう慣れてしまっていた。

 そして、それにつきあう自分がいるということも、ジャックは理解していた。

「まったく……。仕方ない。許可をもらうのを忘れるなよ」

「わーってるよ」

 途端、その口元に笑みを浮かべ、真二はジャックに応えた。


     *


 神国の首都、その名を〈神都〉と云う。

 千歳の所属する基地名も、その名を冠している。

 ……のだが、実は配属以来、その千歳はこの基地から出たことはなかった。あったとしても、〈天斬〉に搭乗しての訓練などで、本当に私事で離れたことはなかったのだ。空き時間があった時も、自主的な訓練や、自室での休息程度。異常なほどに禁欲的といっていい生活だったが、千歳は別段それが苦しいとは思わなかった。

「…………」

 しかし、それが当然の義務だ。責務だ。

 そう胸に秘めて生きてきた。


 それでも、数年ぶりに神都の街へと訪れると、言いしれぬ興奮が胸にこみ上げてきた。

 車で数分もいけば、すぐにその街にはたどり着いた。たったそれだけの距離が、千歳と外界とを隔てる壁だった。

 雑多に行き交う人々。立ち並ぶビル群。そのビルの壁面には映画の宣伝と思わしき映像が投影されており、人の視線を浴びている。

 道路を四輪の乗用車が列を作って走っている。エンジン音と人間の声が入り交じった、統一性のない音。

 とても、懐かしい。

 千歳は、ここにきただけでちょっとした感動に包まれていた。

 人工島とは違う、この活気。あちらも人はたくさんいた。島の大きさを考えれば充分なほどだった。でも、建物ひとつひとつはここよりもこじんまりとしている。あちらは敷地も許容重量も、なにもかもが限られた世界だった。小さな器を溢れないように計算しながら、いつも小さく身を寄せ合っていた。さらにそれを〈鬼獣〉という存在が抑圧して、殺伐と、まではいかずとも、常に退廃的な空気が漂っていた。

 しかし、この神都はどうか。首都というだけはあり、建造物も、人も、活力がみなぎっている。その力に圧倒された。

 少し前は、千歳もこの環の中にいたのだ。そのことを考えると、信じられなかった。当時はこれが当たり前で、こんなことを思うことになるとは予想もしていなかったのに。

「……? ちょっと千歳、どうかした?」

「え……?」

 ひょこり、と目の前に顔を出してきた雷華によって、千歳は自分が時を忘れて立ち尽くしていたことに気がついた。

 いったいどれほどの間そうしていたのか。千歳たちを送った車も、既に基地へと引き返していた。

 不思議そうに見つめてくる猫のような目に、千歳は我に返って弁解した。

「あ、ああ。少しばかり懐かしかっただけだ」

 千歳の言葉に雷華はあっさり納得して、頷く。

「そっか。確かに千歳は四年ぶりくらいだもんね。懐かしいか。こっちの方はあまり来たことなかっただろうけど、同じ神国だしね」

 嘘を見抜くことに定評のある雷華だ。千歳の気持ちに偽りがないこともわかっている。だから、その反応がうれしかったのだろう。

 ……事実、嘘ではない。だけど、それだけが真実というわけでもない。

 今が職務中ではなく、長い付き合いの千歳相手だから雷華もそこまで気を張っていなかった。だから、その裏のもうひとつの感情にまでは感づかなかった。

 それでいい、と千歳はひとり頷く。

 自分がここにいていいのか、など。雷華に教えても悲しませるだけなのだから。

 すぐにそれを振り払い、千歳は努めて平常通りに振る舞うことにした。彼女のせっかくの休暇を無駄にすることは本意ではない。それではなんのために誘ったのかわからなくなってしまう。以前潰れてしまった予定の分、埋め合わせなければいけないのだ。

「……と、いっても、どこに行けばいいのかわからないな、俺には」

 なにぶん、私用で街に来るなど、今の千歳には早々あることではない。昔はそれなりに娯楽のために足を運んでいたものだが、数年もの空白があると、街に来てもなにをしていいのかわからなくなっている。街という歯車の中から、独りだけ外れてしまったような疎外感。それで途方に暮れてしまった。

 食事にでも行けばよいのだろうか。その程度の認識だった。

 だが、雷華としてもそういうものを千歳にはまったく期待していなかったらしい。

「いいわよ、千歳はここに来たことないんだし、そもそも女の子のエスコートについてはアンタに期待はしてないから」

「それはそれで傷つくんだが、さすがに俺でも」

 ぐさりと心に突き刺さるものがある。しかもナチュラルにいわれると。

「だって、ねえ。それでわたしがお願いしたとして、千歳は街を案内してくれる?」

「……まことに遺憾ながら無理だ」

「でしょ? だから、そういうのは次から。今日はわたしに任せなさい!」

 びしっ、と千歳を指さして、雷華は楽しげに笑みを浮かべた。

 その笑顔に、千歳は肩から力が抜けた。昔から見てきた雷華の笑顔だ。たとえ成長しても、変わらないものもある。なら、気負う必要などなかった。今までと同じように接していれば、それで千歳と雷華はよかったのである。

 硬く凝り固まった陵千歳が、彼女の前だけでは昔に戻れていた。

 そこでふと、千歳は雷華とは別の視線に気がついた。

 雑踏の中でもない、別の場所から――。

「これは……?」

 まさか雷華を狙っている人間でもいるのか、との考えが一瞬脳裏をよぎるが、すぐにそういうわけではなさそうだと否定する。殺意や敵意、そういう感情は見あたらなかった。意図的に隠しているのかもしれないが、なんというか、そこには別の指向性が乗っていた。

 好奇心。

 好奇の目を引くような格好ではないはずだ。千歳もさすがに任務外にこんな賑やかな場所へ軍服では来ないし、雷華もドレスではなくブラウスのような常よりもラフな格好である。

 そして雷華はメディアへの露出を避けているので、こんな街中に彼女の素顔が一発でわかり、好奇の目を向けられる人物がいるわけがない。

 千歳は歩き出す。と見せかけて、ばっとそちらに振り返った。

 と、物陰に消えていく金色の髪を見た。

 つかつかと無言でそちらに行って腕を突き出し、長髪を掴んで物陰からその人物を引きずりだした。

「……痛い、陵千歳」

 むっ、と口を結んだ、金髪で琥珀色の目をした女性が目と言葉で不平を述べた。

「……なんでこんなところにいるんだ、レムリア」

 片方の手でこめかみを撫でながら、千歳は当人の名前を口にした。

 そんなことをしていると、雷華もそれに気づいてやってくる。

「今度はまたどうしたのよ、千……って、レムリア? なんでここに?」

「う……っ」

 雷華に見つかってばつが悪そうになり、さっと背中になにかを隠した。

 それを見逃す千歳でもなく、無造作にレムリアが隠そうとしたものを取り上げた。

 またいっそうレムリアの表情が追い詰められる。

 千歳は自分の手の中にあるものを見て、疑問符を浮かべた。

「これは、デジタルカメラ? なんだってこんなものを」

「さ、さあ。いいから返して」

 珍しく慌てている様子のレムリアが両手をカメラに伸ばすが、彼女より先に雷華が横からカメラを奪い取った。

「あ、」

「ねえ、レムリア。カメラの中身を拝見してもいいかしら、というよりいいわよね」

「そ、それはダメ」

「問答無用」

 レムリアの答えが返ってくるよりも先に、雷華はカメラのデータに目を落としていた。そして、想定通りの結果があったのか、うんざりしたような顔になった。

 千歳も横から覗き込むと、そこには千歳と雷華がふたりで写っている写真が何枚も画面に表示されていた。

 身も蓋もなくいってしまえば、盗撮である。レムリアはカメラでふたりの休日をファインダーに納めていたのである。

 千歳がおそるおそる隣の雷華に目をうつすと、彼女の表情が変わっていた。横から見ていた千歳も思わず後ずさるほどの、迫力のある――不気味と思うと殴られる――笑みだった。

「ねえ、レムリア。正直にいってほしいんだけど、誰かに頼まれたの?」

「……私でもそんな簡単に人を売るような人間ではー」

「権力って一番強い力よね」

「オーバルの眼鏡野郎です」

「あっさり売ってるじゃないか……」

 いつの間に雷華はあんなに人をおびえさせる笑みを覚えたのだろう。時間の流れに千歳は胸の中で涙を流した。

 その横で雷華は得心がいった、とカメラを力強く握り締めた。

「ふっ、道理でわたしを千歳にけしかけたわけね……。あの野郎、帰ったら死なす。絶対死なす」

 わなわなと震える雷華に、レムリアがおずおずと手をあげて進言する。

「ところで雷華さん。そのカメラはもう返してほしく……」

「却下。没収」

「えー、私物なのに……」

 しょぼんとするレムリアを一顧だにせず、雷華はバックに乱暴な手つきでカメラを叩き込むのだった。

 そんなふたりに千歳は苦笑する。こうしていると、まるでふたりが姉妹のように見えてほほえましさがある。姉の方が頼りないというのは、少し問題であるけれど。

 表面的には無表情のまま、おろおろとしているレムリアに珍しいと感想を抱く。でもそこで、千歳は自分がそれほどレムリアのことを知らないことに至った。出会って、そろそろ二ヶ月程度の時間が経過するだろうか。思い返せば、それなりに時間が経過している。なのに、千歳はレムリアのことはプロフィールにあるような単純なパーソナルデータでしか知らなかった。

 レムリア・オルブライト。女性。二十一歳。因子係数が九十を超えたエリート。優秀な相棒。無口。無愛想。無表情。

 ぱっと思い浮かぶことを脳内に列挙してみると、本当に知らないことだらけだった。

 これは少し問題なのではないだろうか。一応、命を預けあっている人間同士であるのに。無論、レムリアの腕は信用している。実戦も経験した間柄だ、そこを疑問視はしていない。

 良い機会か、と千歳は判断した。

「どうせだ、レムリア。お前も一緒に来ないか? ここにいるってことは、お前も暇なんだろう?」

「……え?」

「……へ?」

 レムリアと雷華が、さっきまでの騒ぎを忘れて千歳の方へ振り向いた。

「どうした、そんなに驚いて。そんなにおかしなことを聞いたか?」

「いや……そうじゃないけど。別に、時間はある」

「そうか。雷華、せっかくだからいいよな? 仲が良い奴が他にも一緒の方が楽しいだろう」

「そ、そりゃ、レムリアなら構わないわよ。構わないけど……」

 頬を膨らませて雷華はぶつぶつと不満を口にするが、それは小声で千歳の耳には届かなかった。

 雷華の変化に首をかしげる千歳に、レムリアはやれやれと首を振った。

「陵千歳。それがわざとじゃないなら才能ね」

「なんの話だ?」

「馬に蹴られて地獄に堕ちろという話」

「なんだそれは……」

 いつものことながら、レムリアは千歳に理解のできぬ言の葉を操る女である。

「……まあいいわ」

 と、気を取り直した雷華が諦観混じりに場を仕切る。

「最初から期待してなかったわよ。こいつはこういう奴だったってことはわたしが一番よく知ってるんだから。レムリア、こうなったら遊び倒すわよ! 気絶するくらい!」

「あいあいさー」

「って、いや待てお前ら。どれだけ羽目を外すつもりなんだ」

 千歳が苦言を呈したら、ものすごい勢いで雷華が千歳を睨み付けた。

「あンか文句あるっての!?」

「な、なんでもない」

 どうして雷華は怒っているのだろう。その理由がわからずに顔を引きつらせる千歳に、レムリアが追い打ちをかけた。

「雷華、仕方ない。こういうのには行動で示すしかない」

「だからなんの話だ」

「それを聞くのがマナー違反だというのよ、陵千歳」

「もういい、訊ねた俺が悪かった」

 女心と秋の空、という。千歳は理解することを早急に放棄することにした。

 その間にも、雷華のボルテージは右肩上がりだった。

「さあさあさあ! 時間がもったいないわ。これ以上浪費しないうちに行くわよ。時は金なり!」

 たくましく育った雷華は、レムリアと並んで早足に進んでいった。

 それに千歳は肩を竦める。慌ただしくなってしまった休日だが、これはこれで楽しいものだ。雷華も、言葉ほど不機嫌というなさそうである。

 ならまあ、後は振り回されもいい。今日は彼女のために使うと決めた時間だ。気の済むまで付き合ってやろう。

 そうして、千歳も彼女たちの背中を追いかけ――。


 ――――視界の隅に現れる。

 真っ赤な和装が現れる。

 十二単に身を包み、

 魔貌の少女がそこにいる。


「――――――――――ッ!」

 はっと振り返る。

 人混みの合間。風に揺れる編み込まれた豊かな頭髪。それは、それは――

 手を伸ばす。彼女に潰されたはずの右手を伸ばす。何故伸ばすのか、千歳にもわからない。ただ無意識に、恐怖などを感じずに、ただ突き動かされるままに手を伸ばした。

 彼女に恨みはなかった。ただ哀しさだけがあった。

 だから今度は手からこぼれ落ちぬように、手を伸ばす。

 人混みが彼女を遮る。それは本当に一瞬のことだ。時間にして瞬きひとつ、その程度の時間、彼女の姿が視界から消えた。次に視界が開けた時、そこに少女の姿はなく。伸ばした手は、霞でも掴もうとしていたかのように宙をさまよった。

 息を呑む。確かにいたはずだ。あのような姿、見間違えるはずがない。

「…………!」

 身体ごと回って周囲を見渡す。歩道、車道、歩道橋。建物の入り口、窓からのぞける内部。

 だけど、そこにあの姿はない。幻覚。否、そんなわけはない。このタイミングで見るようなものではない。

 それとも、

「俺に幸福を享受する権利などないといいたいのか、那殊(ナコト)――」

 胸がずきりと、えぐれるように痛んだ。

 そして千歳は、彼を心配した雷華たちが戻ってくるまで、その場を一歩たりとも動くことができなかった。


     *


 空。そこは文字通り空だった。空中だった。当たり前だが、そこに物などない。完全なる空白地点。

 だから、そこに人間が生身で存在するというのはあり得ざるべきことなのである。

 足場などないのに、まるでそこに透明な床でもあるかのように、その少女は天に降臨していた。

 眼下の人間は誰も彼女を知覚できない。空間が静かに歪み、眼下からでは彼女を観測することはできなかった。それは、あの陵千歳でも叶わぬことである。ただ、彼女は一方的に彼を注視していることができた。

 ほくそ笑む。自分を見た時のあの表情を思い出して、口元をつり上げる。

 あの驚き様、まさに見物であった。あれを見れただけでも、ここに出向いた甲斐があるようなものだった。抑えきれぬ笑み。それを扇子で覆い隠す。

 思い出す。零れんばかりに見開いた双眸。息をするのも忘れて自分を凝視する姿。掴もうと伸ばした手。そのどれもが懐かしく、愛おしく、焦がれる。

 本当はすぐにでも、逢いたい。話したい。愛したい。それを堪えるのは、今までの年月を無駄にしないためだ。もっと、劇的に、情熱的に、熱狂的に、ふたりは再会するべきだ。

「妾がお膳立てをしようかと思っておったが……どうやら、その手間も省けたようだしの」

 遠くを見る。そこには、彼女からしてみても面白そうな連中がいた。

 狂気的。それは面白い。

 道化だ。彼女は道化を見る目で彼らを眺めていた。

「足掻けよ、人間。妾の念願成就のために」

 独断でこんなことをしていては、神蛇侘にまた怒られてしまうのだろうな、と思いながらも、その様子を想像して笑みを濃くしながら、那殊と呼ばれる少女は空にとけた。

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