表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/42

高校生活①(本編)

結城とはそれきりなんとなく気まずくなった。話しかけてはくれるし、カード屋にだって時々誘ってくれる。

 でも、前とは違う。流れる空気が決定的に変わってしまったのを感じていた。

 男女の間に流れる、どうしようもない壁。それがオレたちの間にできてしまったかのようだった。


 中学2年になるとクラス替えで離れ離れになった。

 それからは自然とどちらともなく口を利かなくなった。


 時々廊下で見かけた彼は、スポーツ部のグループに溶け込んでいて、楽しそうにはしゃいでいた。

 国領の勝ち誇ったような顔も、結城の態度も、何もかも気に食わない。

 でも、結城が無事に友達を見つけてくれているのを見て、どこかほっとしたのも事実だった。

 

 中学の間に生理が来て胸が膨らんで腰やお尻がまるっこくなって、心で拒否しようが、どうしようもなく体は女らしくなっていく。

 そんな体でも、結城と友達で居られた自信は正直なかった。

 


 オレは結局、幽霊のように3年間を過ごした。

 病気で可愛そうなちとせ君。みんな仲良くしてあげましょうね。

 粘着質な優しさと、無視の中で生活していた。

 話しかけてくれるのは、別のクラスのあかりと、同じく違うクラスの国領ぐらいだった。


 オレは自分の選択を、失敗を、後悔していた。

 あかりや結城と離れたくなくて、意地でみんなと同じ中学を選んだけれどそれが間違いだったのだ。 


 だから、高校は誰もオレを知らないであろう遠方を選んだ。都心に向かって電車で40分ぐらいだ。

 あかりや結城と離れ離れになるのは、少し寂しかったけれど、皆から無視をされる生活も辛かった。


 今度こそ、最初から女としてちゃんと溶け込もうって、思ったんだ。

 

 そうしてオレは高校2年になっていた。


「ちとせ? どうしたん。ぼーっとして」


「ごめんごめん」


 前を歩く文彦にあわてて追いつく。

 人混みの喧騒が一気に戻ってきたかのようだった。

 嫌なことを思い出してしまった。最近はあまり思い出すこともなかったのに。


「6月なのに全然雨ふらないよな。今年は暑くなるって」


 彼がオレを見下ろして、少しためらいがちに手を握った。

 汗ばんだ指と指が絡む。

 山田文彦はオレの彼氏だ。

 もう、私って言うべきか。


「うん。そうみたい」


「あーそのさ。夏休み入ったら」


「うん」


 文彦がもじもじと少し顔を赤らめる。

 あーそろそろか、って喉をごくりとならした。そろそろ、こういう話しが来ると思ってたんだ。


「泊まりで、どっかいかね?」


「うん。良いよ」


「え? 良いの?」


「良いよ?」


「あ。おお、まじかあ。すっげえ緊張したわ、俺。まじでいいの?」


「なんで。彼氏なんだし、普通でしょ」


「いや、ちとせって美人じゃん。なんで俺なんかと付き合ってるのかなあって、ずっと思ってたんだよ、正直。でも、本当に良いんだ」


 くふふ、みたいに低く笑う。その笑い方はいい加減直してほしいなあ。

 なんで。気が弱そうで無害そうだと思ったから。

 正直に言ったら文彦は怒るかな。いや、泣くか。


 別に悪いやつじゃない。1年間付き合った今ではそれなりに好きだ。

 でも、そっかあ。ついに来てしまった。随分待ってくれた方ではあるんだ。

 まだキスすらしてないんだ。女なんだし、いつかは経験しないといけないことだ。


「全然美人じゃないと思うけど。どこ行くの?」


「海の方! ちとせの水着見てみたい」


「おー」


 そんなに鼻の穴を膨らませないでも。


「なに、おーって」


 苦笑いされてしまった。

 この反応は間違ったっぽい。彼氏なんだし、大事にはしたいって思ってる。


「泳げないんだよね、私」

 

 半分は嘘。小学5年生までは泳いでたけど、それっきりなのだ。

 中学は特別扱いで水泳の授業にも出ていない。高校はそもそも水泳の授業がない。


「良いよ。俺が水着みたいだけだし」


「正直なやつだね。わかった。考えとく」


 水着。水着かあ。

 また調べないと。どういうのが良いんだろう。面倒だなあ。


「めっちゃ楽しみ」


「うん」


「ねえ、ちとせ。俺、本当に嬉しいんだよ」


「わかってる」


 ここは『私も』って答えるべきだったのかも。

 彼氏と彼女。男と女。今も慣れないな。


「俺、お前のこと本当に好きだ。俺が絶対幸せにするから」


「ありがと、文彦は優しいね」


 盛り上がってるなあ。高校生で、将来もわからないのに。

 君だって明日いきなり女になってるかもしれないよ。なんてね。


「ん……あれ、国領さんだ」


 道路を挟んだ向こう側から、こっちに向かって歩いてくるのが見える。


「そうだね」


「なんか、すごいよね、彼女。なんか、もったいない」


 文彦が苦虫を噛み潰したような顔をした。


「まあ……うん。すごいね」


 国領。偶然なのか狙ったのかは知らないけど、あいつも同じ高校に通っている。

 国領は高校になった今でも。クラスから浮きまくっている。

 一言で言えば、空気が読めない。言いたいことを、思ったことをはっきりと口に出しすぎる。


 ぞっとするぐらい美人ってだけでも、クラスっていう閉鎖的な空間では相当なディスアドバンテージなのに、そういう態度を取るものだから、当然女子の間から不評を食らっている。

 噂じゃ誰々の彼氏を盗っただの色々流れているけれど、まあオレは信じては居ない。

 あいつが誰かと深い交流を持つところが想像できないし。


 クラスの異物なのだ、あいつは。


「うわ、こっちみた」


「……うん。」


 国領が一瞬こっちを見て、微笑んだ。

 演技してるのがバレたような、そんな居心地の悪さを感じる視線だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ