わたしの雨
空に暗い灰色の雲が立ち込めている。生暖かい風が私の肌を逆撫でしだす。アスファルトの匂いが鼻を刺す。その予兆が私の心を掻き立てる。
今日はどこにしようかな。世界の終末を見届けるのにふさわしい場所。あなたも一緒にいれて、もっとあなたを知れる場所。
ここかなと思ったのはとある公園の小さな屋根のある一人ぼっちのベンチ。
…うん。ここならいろんなものを見ることができる気がする。あなたのことも。私のことも。
そのベンチに腰掛けると、一つまた一つと空から涙が降って来た。
さあ開演だ。新しい物語の幕開け。
一つはどんどん増えて多数になり、やがてこの世界の“全て”になる。
“全て”の中には誰かの苦しみがあって、違う誰かの希望もある。
けれどこの世界には私1人だけ。
この世界の“全て”の中には私の孤独だけしかない。
やがて私1人だけの世界を“全て”が力強く殴ってくる。世界に気持ちの悪い湿っ気が入り込む。それはどんよりとしているくせにうるさくて、とても寒い。まるで私を追いやろうとする目障りな奴らみたいだ。
嫌いだな。
そんな奴らも、そんな世界も、そんな自分も。。。
雨の中には私が映る。
なぜならそれは私自身だから。
「だから雨は嫌いだ。」
けれど気が済んだのか、“全て”は殴る力を弱めた。そして私に考える余裕ができる。
するとあらゆるものが見えるようになってくる。
私は世界の中に一つを見つけた。
全てから際立つ、一つ。
一つは自分の場所に着いたのにも関わらずさらに次の場所に行こうとする。
次の場所に行こうと頑張って、落ちる。
生きようとして、死ぬ。
そんなにベンチの屋根に引っかかっているだけは嫌なのか?
地面は、、、お前の行こうとする次の場所はその価値があるところなのか?
一つはそれを何遍も繰り返している。
そんな一つは、そこだけじゃなく周りのいたる所にたくさんの一つがあってそのいたる所で同じように落ちていく。
ただそれだけ。
あなたはそんなこの世界が好きだろうか?
どんな意味を持たせるだろうか?
それとも意味はないのだろうか?
あなたはこの世界にいるのだろうか?
私がこの世界にいるのはなぜだろうか?
私があなたのことを考えるのはなぜだろうか?
そういう思考にばかりなってしまう。けどそれが妙にワクワクしてならない。
そうやって悩むからこそ、私がいることを知り、あなたがいることを知れるのだ。
そしてどれくらいこの世界にいるのかも忘れてしまった時に、やっとあなたが会いに来てくれる。
全てが消えてゼロになる。
世界が終わって明るい灰色の雲の隙間から光が差す。
その光に照らされたものが輝いて世界が新しく生まれ変わる。
一人ぼっちもまた色んな人に巡り会うだろう。
所々では一つがまだ一生懸命になっている。
そんな中、とある一つの落ちたところに一輪の花が咲いているのを見つけた。
なるほど、一つはこのために頑張っていたのかもしれない。
たくさんの一つが紡がれてやがて一輪の綺麗な花ができあがったのだ。
いやむしろ完成させたのだろう。
そのための小さな一つの命だったのだ。
「だから雨は好きだ。」
雨は神様の悲しい涙だと言われるけど、私はそうじゃないと思っている。
雨は私の涙を洗って希望を持たせてくれる、あなたのちょっとした魔法だ。
さあ物語の始まりだ。
立ち上がって、進みだそう。
あなたがそうやって私に頑張れと言ってくれて、そうやって導いてくれて、そうやって私のために頑張ってくれるから、あなたを信じてもう一度向き合ってみよう。
そこに一輪の花があると信じて。
次に世界に雨が降った時もどうぞよろしくね。
「それじゃあ、また。」
二作目の投稿です。
といっても前作の「ヒナ」よりも前に作っていたもので、執筆を始めてから一番最初に書き上げたものです。
どうせなら完成している作品は上げておこうかと思い投稿しました。
今回のものは「表現の仕方」を特に意識して書きました。(逆に分かりにくくなっているかもしれませんが。汗)
自分なりに比喩を使ってみたり、心象世界と風景を噛み合わせようとしたり、といったところを挑戦してみました。