物言い
「帰らないんです?」
「順番から考えて、たぶん次にあのベテラン組とあの子が当たる。見たくないか?」
「……ニトさん、なんだか悪い顔してますね?」
「レフィは興味ないのかなあと思っただけだ」
「それは、見たいですケド……」
「じゃあ見ていこう」
俺は席に深く座りなおす。
空席もちらほら見えていた観客席も徐々にヒトで埋まり始めている。フェアリークラスなんかを見たがるのはそれこそ参加者の知り合いか、物好きか。あるいは早期の勧誘目的でパーティーの引き抜きを考えている奴くらいのものだろう。派手なドンパチを期待するなら大会の後半だけを見ればいい。
なにはともあれ、これでシューラさんがあの知り合いをどんな形で参加させたのかが判明する。俺たちを優勝させるな、という具体的な話ならば俺たちが参加していないことがわかった時点で辞退することもできる。しかし、もし俺たちのことは伏せた上で、ただ参加させたということならばきっと面白いものが見れるはずだ。
「きたな」
「きましたね」
ハウンドクラスを序盤から見ていた観客から歓声や野次が飛んだ。
ベテラン組と、少女。三回戦にて激突。
「クー、クー! 面白そうなものが見れますよ!」
レフィが少し興奮した手付きでクーをはたいた。
クーはまったく起きる様子も無く、座席の中で小さく寝返りを打っただけだった。
「……んんし、しろはいがぶなんなのぅ」
「相変わらずクーの寝言は意味がわからないな」
「何の夢なんでしょうね」
「始まるぞ」
事前情報をある程度集めたか、ベテラン組はここにきて初めて何かを話し合っている。おそらく彼女達の方が格上ではあろうが、この油断のなさがなんとも、長年狩場を回ってきた含蓄を感じさせられる。
戦い方はエリアと変わらない。
とすれば、擬似モンスターの想定だろう。
ぱん。彼女達の戦場の中心が白く弾ける。
まるでその閃光を目くらましに使うがごとく、少女が光の中から飛び出す。それに相対する三人がお互いに距離を取って広がったのも同時。その対応を見て一瞬動きを止めた少女は、強化魔法(と思われるもの)を詠唱し始めた一人を狙って地面を蹴った。
中断。
バッファーの女性はすぐさま詠唱を止めると、慣れきった様子で後ろに飛びのいた。少女は表情を変え、踏み込んだ足をギリギリで抑えて退避する。しかし後手を踏まされた少女にベテラン組みの二人は一気に距離をつめ、後ろの一人は中断した魔法を再開する。
あまりにもスムーズな流れだ。これは年季が違う。
下がり切るかと思った少女は、やや無理な体勢から反転し強烈な一撃を前衛の一人に叩き込んだ。前衛の女性は虚を突かれたかギリギリでそれを武器で受け止める。
マナの強烈な衝突音。
女性がその衝撃に二三歩後退し、面食らったような表情を見せた。想定はしていたものの、格下であるはずの少女の攻撃が予想以上に強かったと見える。
攻撃の隙間。拳を打ち切った姿勢の少女に、もう一人の前衛の女性が武器を横なぎに振る。強化魔法が乗り、少女は体制不十分のままそれを腕に受けきる。
受け、きれない。
少女の体が宙を浮き、背中から地面に落ちる。観客席の一部から怒号が飛んだ。
両腕が赤く腫れている。けれど少女はすぐに身を起こして青年との間に立ちふさがる。明らかにハウンドクラスでぶつかる相手としては不適切であるのに、その闘志がまったく揺らいでいない。
少女が大口を開く。恐らく青年への音指の要求だろう。
あまりの状況に縮み上がった青年は、それでも少女の求めるままに声を与える。
前衛の二人が両斜めから挟み打ちに入る、その一瞬の広がりに、少女は姿勢を低くした。連携が良すぎる、が故に生じたその隙間を間一髪で少女はすり抜け、後方のひとりへと雷の如く地面を駆る。
ガキン。と衝突音。
半透明の半球はヒビ割れる。弾かれた少女は腰を打ちつける。カバーに入った一人に武器を突きつけられ、同時にボロボロの物理盾は解除される。前衛のもう一人は司令の青年を捕らえ口を封じていた。
ここまでだ。
ぱん、と白い閃光。
おそらくは上空の有翼種の方が投げ込んだものだろう。
少女は仰向けのままぐったりと四肢を放り出した。物理盾から出てきたバッファーの女性は未だ警戒態勢を解いていない。その姿勢が、少女の最後の一撃の凄まじさを物語っているように感じられた。
「す、すごかったですね」とレフィ。
「すごかったな」
返答すると、レフィが俺を見上げた。
「あの、あのヒト、なんで最後に司令を見捨てたんでしょうか?」
「それしか勝ち筋がなかったからな。強化された二人と、音指ありのあの子はほぼ同じくらいの強さだった。後衛のヒトを先に潰して、強化魔法が切れるまで耐えるくらいしか方法がなかったんだと思う」
「それをあの一瞬で判断したってことです?」
「初動のぶつかり合いで察したんだろう。時間をかけたら負けるって。獣性の高さはもちろんだけど、それ以上にカンも良さそうだな」
「はあ……」
レフィは痛く感心したように息を吐いた。
実際、いまの場面はあの後衛のヒトを先に倒す以外に方法がなかった。
前衛のふたりは少女の強さに舌を巻いていた。けれど圧倒的な優勢が崩れるほどではなかった。それを理解していた。だからこそ生じる気持ちの余裕があった。少女はそこを突いた。
勝ちを確信した瞬間が一番気がゆるみやすい。
少女はその素早さでもって、一撃で後衛を地面に沈める。それに驚き、前衛のふたりが動きを止めている間に青年のもとへと戻り、守る。かなりめちゃくちゃなコトを言っているのはわかるけれど勝ち筋はそれくらいしかなかった。それほどの戦力差だった。
「……なんか、ざわついてますね」とレフィ。
見れば少女たちと反対側のエリアにも誰もいない。おそらくそちらも決着したのだろう。
けれど次の組が入ってこない。上空の監視員たちは地面に降り立ち、なぜか出入り口の方へと向かっていく。
中断?
「まさか」
「え?」
はっとして、俺は例の豪華な応援団の方へ目を向けた。
表情までは分からない。けれど、少女の家系の従者と思われる者が、さきほどから入れ替わり立ち代り、動き回っている。観客席のざわめきもその辺りから広がっているようにも見えた。
「ふはっ、ぶははははっ」
「にっ、ニトさん!?」
「“物言い”が入ったな。最高だ。あっははははは!」
「な、なんです? なんですか?」
「もう帰ろう、レフィ。ふ、くくくくっ」
ケッサクだ。これは面白いことになった。
口元を押さえながら立ち上がり、俺はクーを呼び起こす。ぼんやりとした表情のクーが「んあ?」と声を上げた。
レフィは納得いかないような表情で立ち上がる。クーは目元を擦る。
「――――あの、すいません」
そでに誰かの手が触れた。
振り返ると、近くの席に座っていた女性が俺を見上げていた。よくみれば少女だった。おそらくレフィ達よりは少し年上だろうか。少女でなく女性、と感じたのは彼女の身なりがとても整っているからだろう。
俺はとっさに自分が座っていた席を見回した。
とくに落し物や忘れ物は見当たらなかった。
「はい?」と俺はもう一度彼女に振り返る。
「もうお帰りになるのですか?」
「……? ……ええ、まあ、はい」
彼女はどうやら友人と二人で観戦しに来ているようだ。その奥に座っているもうひとりもこちらをまじまじと見つめていた。
こんな育ちの良さそうなお嬢さんたちには覚えがない。俺が知っているのはやけにひとのスネに攻撃したがる野蛮なイキモノと、世界大陸を一周走破してもケロっとしていそうなバケモノだけだ。
俺を見上げる少女の瞳に強い意志を感じて、はっとした。
「クー」
少女が次の言葉を口にするより早く、俺はクーを呼んだ。
こんなところで笑い声なんて上げるんじゃなかった。
「んー……?」
ごしごしと目をこすりながら近づいてくる彼女に俺は両手を広げた。クーは何のためらいもなく、もそもそと腕の中に入ってくる。俺もそれが普段どおりであるかのように抱き上げた。
レフィが目を剥き、俺に声をかけた少女が小さく「ぁ」と声を上げた。よくよく見れば周囲の視線がかなり集まっていることに、俺はいまさらになって気づいた。
「すいません、急ぎなので」
返答を待たずして俺は観客席の階段へと歩き始める。軽く振り返ると、少女たちと同じような顔で固まっていたレフィがわれに返ったように後を追ってきた。いやな汗をかいた背中が少し涼しく感じた。
「何をむくれてるんだ、レフィ」
「むくれてないです」
長い階段を下り、闘技場の出口へと向かう通路。客の姿はまばらだったが、闘技場の関係者と思われるヒトがばたばたと動き回っていた。
そのままもう一度寝るつもりだったのか、腕から降ろされたクーはどこか不機嫌そうな顔をしていた。レフィも似たように口を尖らせていた。さっきまで緊張で青ざめていたはずの少女に、俺は軽く苦笑した。
「あとで甘いもの買ってやるから」
「ほんとなのだ?」
「いやクーには言ってない」
「ぜんぜんかまわないのだ」
「……? そうか、聞き分けがいいな」
「ううん、クーにも買ってくれてもかまわないって言ってるのだ」
「お前は何を言っているんだ」
「ぜんぜんかまわないのだ」
思わぬ側から反応が上がり、思っていた側のレフィの不機嫌指数も二割ほど上がった。もはやそっぽを向いてしまっている。感情豊かに動く耳が理不尽に俺の右腕を誘ってくる。
「こんなときにツンツンしてたら、ヘタしたらヤキモチを疑われるかもしれないぞレフィ」
「そんなヘタをする司令とパーティを組んだ覚えはないですから」
「そうだな。ドリテルの、しかもヒトが多い場所で高笑いなんてしたこともないし」
「優秀そうでなによりです」
「……、仕方ないだろう、急のことだったんだから。普段の俺とクーが恋人同士に見えるって言ってたのはレフィだろう?」
「恋人同士でもあんなところで抱き合ったりしないですケドね」
「だから、ほんとに急だったんだって」
「緊急のときにはニトさんはクーを頼ることがよくわかったのでいいです。わたしには恋人のフリをしろとか言ったのに。恋人のフリをしろとか言ったのに」
「怒ってるのか」
「ぷんぷんです」
「あんまり怒ってなさそうだな」
「じゃあぷんぷんのぷん! です!」
「いっこ増えたな。……おっ」
右肩がぶつかり、ひとりの女性がぺこぺこと頭を下げながら俺とレフィの間を抜けて行く。前に振り返るタイミングを逸したのか、かなり痛そうな音を立てて扉にぶつかり、小さなうめき声を上げ、そしてなぜかまた俺たちに頭を下げてから関係者用の通路へと入っていった。
ひどくあせった様子は、謝る時間すら惜しんでいるように見えた。俺は心の中で同情しながら、また足を進める。
「さっきから何の騒ぎなんです?」とレフィ。
「物言いが入ったんだよ」
「モノイイ、です?」
「さっきの、強かった子がいただろう? あの三人に負けちゃった子。あの子の家族っぽいのが客席に応援にきてたんだよ。あの子はどう見てもハウンドクラスじゃ別格の強さだった。シューラさんがあの三人を参加させようとしなければ、間違いなく優勝してただろうと思う。それくらいの実力だってことを家族も知ってたんじゃないかな」
「家族が知ってたら、どうなんです?」
「その家族ってのがこの街の権力者らしいんだよ。金持ちなんだと。もしかしたら闘技場の運営費にも一枚噛んでるかもしれない。そんなお偉いさんの娘は前評判も上々、試合の内容も圧倒的。なのに、ぽっと出てきた三人組に手も足も出ずに負けた。だから観戦にきてた親が運営に文句をつけたんだろう。絶対にオカシイって。あの三人組はなにかズルをしているんじゃないか、ってな」
「まあ、ほんとにズルみたいな強さですし……」
「これだけ大会の進行が遅れたら運営も大変だろう。最悪、調査も入るだろうな。そうなったときシューラさんがどう対応するか、俺は楽しみで仕方がない」
「あの三人じゃなくて、あの人がです?」
「あの三人は言われて出場しただけだろう? 大会の出場条件も一応守ってる。だとするとなんでいまさらになって大会に出ようと思ったのか、その理由を聞かれても不思議じゃない。あの三人がシューラさんの名前を出すかはわからないけど、もしシューラさんが知らないフリをするようなら三人に恨まれることになるだろう。出たくもない大会に出させられて、そのせいで面倒ごとに巻き込まれて、そそのかした本人がどこかに逃げたりしたら」
「それはそうですね」
「逆にシューラさんが正直に名乗り出たとすると、それはそれでかなり厄介なことになる。ここら一帯を縄張りにしてるゴノーディスの幹部のひとりが大会荒らしの主犯格だ。いたずらで参加させたことがバレたらギルドの評判にも関わる。それこそゴノーディスに苦情が入ってもおかしくはない。おたくのギルドメンバーはなんてことをしてくれたんだって。ゴノーディスにも力があるからそんなに強くは言われないかもしれないけど、“東の首都”とゴノーディスの関係にヒビが入るのは絶対避けたいことだと思う」
「それ、わたしたちも困るんじゃないです?」
「べつにー? まだ俺たちは正式には加入してないしなー?」
「悪い顔してます……」
「レフィも口元が笑ってるぞ」
「ふ、へうっ」
慌てたようにレフィがそっぽを向いた。どうやら機嫌は直ったらしい。
いずれにしろ、これで俺たちは三つ目の条件をクリアするしかなくなった。
基地に着いたとき、真上にあった太陽は少し西に傾きかけていた。
とくに闘技場から連絡が入っているというような様子もなく、朝に時間が取れなかったこともあって俺たちはいつもの空き地に出かけた。
「ふぎゅっ」
俺とレフィが準備体操している間にも、すでにクーはスレイジングの練習を始めている。一定間隔で聞こえてくる水棲魔物のつぶれたような声を聞きながら、レフィは音指の練習を開始した。
規則的に並んだ石は昨日のまま。いくらかは風に飛ばされたか蹴飛ばされたかで無くなっていたけれど、ほとんどが残っていたおかげで準備はすぐに済んだ。レフィ流の発声練習を尻目に俺も走りこみを始める。
ざ。ざ。ざ。
は、は、ふ。
舗装されていない土の地面の方が走りやすく感じる。街中は物流優先なのか、固い足元がヒトが歩くにはあまり向いていないように思える。
石を指差すレフィの後ろを通り過ぎ、通り過ぎ、また通り過ぎる。右へ左へ。適当な距離で折り返し、往復往復。
まだシューラさんが闘技場から戻ってきていないにしても静か過ぎた。ゴノーディスにはなんの連絡も来ていないのかもしれない。そこまで大事にはならなかったのだろうか。あるいはシューラさんがあの三人を切り捨てることを選んだのか。
どちらにしろ空気がおいしくて、体も軽い。
きっと飯もうまい。
「ニトさんニトさん」
「おっ?」
ちょうど通り過ぎようとしたところ、レフィに呼び止められた。
「は、ふう、どうした?」
「音指って、技とか魔法みたいに練習したら強くなるんです?」
「音指が? ……うーん、そうだな。まあ、使い方に慣れてくればそうだな」
「それはやっぱりマナのせいです?」
「マナのせい?」
マナのせい。マナのせい。
レフィの質問の意図がわからず、俺は宙を見つめてくりかえす。
どうだろう、マナのせいで音指が強くなるといえばなると言えるのだろうか。
「そうだな、マナには関係してるぞ、もちろん」
「だったらニトさんは、クリスタルはぜんぶ自分に使ってるんです?」
「クリスタル?」
「マナが強くなれば音指もすごくなるんじゃないんです?」
「……ああ、そういうことか。ええっと、なんていうかな。どう説明したもんか」
よくやくレフィの疑問に合点が行き、俺は腕を組む。
レフィのまん丸な瞳がまっすぐ俺を見上げている。
「結論から言っておくと」と俺は口を開く。「エリア数は音指にまったく関係ない」
「えっ、そうなんです?」
「そもそも技や魔法と音指は原理がぜんぜん違う、らしい。協会で習得した技だとか魔法はマナから影響を受けて使えるものだ。だけど音指は逆に、“マナに向かって影響を与える”ようなイメージに近い」
「マナにむかって……」
「そう。俺自身からマナへ、レフィ自身からマナへ働きかける。それが音指だ。力を貸してもらったり、助けてもらうんじゃなくて、こっちから事を起こすわけだ。実際に何が起こってるかは知らないけどそういうことらしい。クリスタルを取り込むのはあくまでこっちがマナの影響を受けやすくするためのもので、どれだけ取り込んでも音指は強くなったりしない」
「じゃあどうするんですか?」
「練習」
「めんどくさくなってますね?」
「いや、神性ももちろんだけど、それよりも音指の内容のほうがずっと大事なんだよ。指定が細かくなればなるほど音指の効果はどんどん上がるけど、そのぶん言葉にしなきゃいけない情報が多くなるし時間もかかる。それを実戦でどれだけやれるかは圧倒的に基礎力が大事で、それプラス経験と、あと少しの発想力だ」
「ふむう。それで、わたしのコレは、キソの練習なわけですね?」
「そうだ」
「ぬー……」
レフィは自分の唇のあたりをつまみながら眉を寄せた。
俺が何をいうまでもなく、彼女も自分自身でよく考えてる。
「何かお悩みで?」と俺は言葉でつついてみる。
「いえ、せっかく音指も練習をするんだったら、これからクリスタルをどうしたほうがいいのかなーって考えてたんです。自分にたくさん使ったほうがいいのかなとか、でもいまの話だとそうでもないのかなーとか。むずかしいです……」
「まあまあ、そんなへちゃむくれた顔をなさらなくても」
「だれがへちゃむくれた顔ですか。へちゃむくれってなんですか」
「へちゃむくれです」
「聞いたことないですっ、そんなことば!」
「え? 言わないですか?」
「知らないですよ。あと、とぼける時だけ丁寧な話し方になるのやめてください」
「けっこう言いますよ、へちゃむくれ」
「言いません」
「いやあ昨日だったかな? たしか寝る前のことだったと思いますけど、口からへくしゃみが出たんですよね」
「ふつうにクシャミでいいですよ。なんですかヘクシャミって」
「口から出たんですよ」
「ふつうは口からですよ。いままでどこから出してたんですか」
「……そんなに僕が気に食わないですか」
「なんですか突然。口以外からくしゃみをしてるヒトがいたら誰でも距離をおきますよ」
「そんなに言うなら距離を置かれないような会話の仕方を教えてください。どうしたら嫌われないようになりますか。ちゃんと教えてください。面白い話してください」
「な、なんですか? 嫌われないはなしです? おもしろいはなしです? どっちですか」
「面白い話してください」
「お、おもしろいおはなしですか? ええっと……」
「ぶははははははははははっ!」
「まだ何も言ってないですよ。なんなんですかもう。いいならもう練習もどりますね?」
まったく、なんですかへくしゃみって……。
などとぶつぶつ言いながら、レフィが並んだ石の前へと向き直る。
その小さな背中をなにとなく眺めていると、レフィは不意に口元に手をやり、肩をぴくりとさせた。おや。
「……もしかして、へくしゃみがちょっと気に入りましたね?」
「なっ、なんですか!? なんの話です!?」
「いま笑うのガマンしてましたよね」
「し、してないです。へくしゃみとか、……ふっ、い、意味わかんないです」
「そうですか……? ふーん」
かたくなに振り向こうとしないレフィに、俺はひとまず追求をやめ、新たな単語を探す。
「……クー、…………クーシェマ・フェンリウル。……クーシェマ?」
「…………」
「……昨日、ヘクシェマさんが」
「ぶっ、くふっ」
レフィが腰を曲げ、明確に肩を震わせた。
勝った。
「だっ、だれですか! ヘクシェマって……っ!」
「レフィさんそんなに顔を真っ赤にしなくてもいいですよ」
「ヒトのなまえで笑わせようとするなんてっ! サイテーですっ!」
「笑ったのはレフィさんですけどね」
「もうっ、もうっ! サイアクですうっ!!」
悔しいやら恥ずかしいやら。
いろんな感情で茹で上がったレフィは俺をにらみ、ギリギリと歯噛みする。
へぶちっ。
と、どこからともなく不細工なくしゃみが聴こえ、俺とレフィは同時にそちらを向く。
ずずっと鼻を鳴らしながら、頭に疑問符を浮かべるクーが遠くに見えた。
「ふ、くくく」
「……んふ、ふっ」
俺とレフィは顔を見合わせることもなく、一緒に体を震わせた。




