おだやかな朝
私は自転車を漕いでいた。ペダルを踏み込むと、擦り切れた制服がはためく。冷たい空気を飲んで私の胸は膨らむ。
ふと、近くの川に水鳥を見つけた。水鳥は言った。
「そんなに急いでどこに行くの?」
私は鳥語がわからないので、ちょっと笑って通り過ぎた。
しばらく行くと、狸が倒れていた。人語で狸は言った。
「車に轢かれました。助けてください。」
私は獣臭いのが苦手なので、聞かなかったふりをした。
駅に着いた。定期で改札を通った。ホームへの階段をのぼっていると電車が来た。慌てて走ったので階段から落ちてしまった。
目がさめると、私は階段の下にいた。はて、私の学校はどこにあっただろうか。思い出せない。困っていると優しそうな女性が階段をおりてきた。私は言った。
「私、記憶喪失なんです。この制服はどの学校のものですか?どこにあるのか教えてください。」
優しそうな女性は優しそうな表情をたずさえて、改札を出て行った。