第六十五話
Chapter:4 Change before you have to.
昇と仁と言う東海地区最強の2人が5日間の不在ということでお鉢が回ってくるのは日々の活躍は殆ど挙げられない無名の魔法少女達である。
彼女達の中には昇達に追いつけ追い越せで頑張って居る者も居るのだが、中には出動日目当てで駆け付けて戦わずに調節する魔法少女も居る。魔法少女は24時間制である為に、基本的には事件発生近場の魔法少女が当てられる。
彼女達では手が負えないと成ると上級の魔法少女が呼ばれる仕組みなのだ。そして、今回の場合がまさにそれだった。所謂やる気なし魔法少女が駆け付け、日頃から最低限度の鍛錬しかしていない魔法少女では相手に成らない程度には強靭なキメラが現れた。
魔法少女が手始めに軽く攻撃したが、キメラは魔法少女の攻撃に激昂、魔法少女が負傷したのだ。魔法少女が負傷したので包囲を完成しつつあった警察と自衛隊は更なる増援を要求。魔法少女協会もその魔法少女よりも強力な魔法少女の派遣に踏み切る。通常なら、この段階で昇と仁が呼ばれるのであるが、今回2人には呼集掛けず、2人よりもレベルが低いが実力のある、魔法少女達の派遣を決定した。
「ん、ん~?
私が出てきちゃっていいのかい?」
「わ、私、まだ教育期間中なんですけど……」
呼集が掛けられたのは赤池と礼威の2人であった。赤池はスーツをドレスのようにした魔法少女の服装で、サングラスをかけている。礼威はテン・バーの衣装に巨大な剣を担いで、二重三重の包囲陣をしく現場に立っている。
「君は、私よりもちゃんと戦闘訓練をしているんだから大丈夫だろう。
それより問題は私だよ。私、人を丸めたことはあってもキメラは初めてなんだが?」
赤池はそう笑うと警官と自衛官の間を悠然と歩いて行く。礼威もその後に続いて中央に向かう。中央からは時折銃声が発せられてキメラが包囲の際に近付かないようにしている。
「堪らんね。醜悪だ」
赤池は両手を鎌に変質させたキメラに目をやり首を振ると指を鳴らす。その瞬間、キメラは瞬きするまもなく直径10cm程の赤黒い球体に変化している。その場で何が起こったのか誰も分からなかった。
赤池は脇に居た礼威に一応切ってご覧よと告げる。アレで死んでなかったら切っても無駄だと思うが礼威は大剣を掲げて振り下ろす。円球は両断されても尚血等は出ない。血液やその他体液はその圧力で凍りついたのだ。
「うん。討伐完了。
さぁ、帰ろうか」
そして、赤池は礼威、テン・バーの肩を叩き元来た道を歩いて去っていく。あまりの光景に誰も動くことが出来なかった。効率重視、一切の慈悲もなければ容赦もない唯敵を殺すという行動のみに特化した丙種魔法少女の攻撃に誰もが戦慄を覚えたのだ。
この件は直ぐにネット上で話題となり、そして、赤池の事件が直ぐに浮上する。そして、防衛省側にもこの犯罪者赤池荒子が魔法少女として出ている事に戸惑ったが、記録には確りと『赤池荒子』と記されているし、官報の片隅にも載せていた。勿論、其処には赤池荒子と言う文字はなかったが。
非常にグレーゾーンに近い形でひっそりと赤池荒子は魔法少女として警察及び自衛隊に協力して過去の罪を贖っていると公表した。
勿論、それに対して一部メディアや国民は反発するも防衛省と警察庁の上層部意見として一部メディアが現状魔法少女の数と近年増え続けるキメラに対して追い付いておらず、地方都市等ではキメラに拠る殉職者や負傷者が多い為に少しでも魔法少女として働いてくれるのであればそれこそ犯罪者も投入したいのだという意見を新聞に載せた。
こうなると、今度は警察や自衛隊は無能だという話になって行くも、実際自衛隊や警官は対人戦に置いては滅法強いが、キメラと言う人外に対しての存在には手が出せないのだ。銃弾が効かない、高火力武器が使えないで市民を守っている彼等を無能というのはナイフで羆を殺せないプロレスラーを無能と詰るような物なのだ。
昇達が5日間という短い合宿を終えて帰ってくると、昇も仁もこの騒動をゴキブリを見付けて警察を呼んだアホと同等以上の蔑んだ目をしていた。
「しかし、いよいよ赤池の手も借りなけれキメラを倒せんようになったのか」
「ああ。実際問題、実力者が足らん。
誰も彼もがお前のようにキメラ絶対殺すマンな訳じゃない。殆どの者が金と自由の為に魔法少女になった。勿論、礼威の様な正義感に溢れる奴も居るが、大抵は先輩魔法少女のせいで夢と現実の差を確認して零落れる。
そういう意味じゃ、礼威は本当に運が良い」
BARウィリアムズ、昇は柳葉と共に赤池の出陣に付いて話をしていた。
ウィリアムズには仁と真、慶太郎も居り、それぞれが夏休みの宿題をやっている。最も、仁は真と慶太郎の監督をしており、昇も仁も既に終わらせていた。礼威も同様に大学で受ける模試に向けての勉強をしている。
「まったく冗談じゃない。
犯罪者の手も借りなければキメラの被害が抑えられんというにアホ共は魔法少女を廃止しろと愈々声を大にしだした」
「夏はもうすぐ終わる」
柳葉に昇はそう答え、登校日に配られた進路に関してと言う書類に目を落とした。それは始業式に進路調査票を配るから考えておけというものである。昇は暫く考えてからフイッと仁の方を見る。
「どうしたん?」
「いや、進路調査に関してお前はどうするんだろうかと思ったのだ」
「あぁ、あれね。取り敢えず、近くの大学行って学士貰ったら魔法少女と株で生きてくよ。昇も養ったげる」
昇はそんな仁の物言いに腹が立つと言うだけで特に反論をする様子もない。そして、昇は一枚の緑色の紙を取り出した。左隅には『婚約届』と書かれている。その紙に仁は勿論、柳葉も大きく目を広げていた。
既に昇の欄には名前も住所も書き込んである。ただし、年齢は18とありまだ17の昇の年齢ではない。
「お前が持っていろ。
高校卒業時に役所に出せば良い。僕はお前の行く大学へ共に行く。お前の場合、堕落しきった生活のせいで大学を留年しかねん」
昇の言葉に仁は少なからず思い当たる節があるとかで反論できず、また慶太郎と真も騒がしい2人に釣られて宿題のやる手を止め話に加わってくる。
「高校卒業と同時に結婚って……」
「学生婚ですか?
まぁ、2人なら学生婚だろうが何だろう問題なさそうですけど」
「私は……推薦狙いよねぇ~」
「真は馬鹿だからな」
うなだれている真に昇が平然と告げると真は脇においてある楊枝入れから爪楊枝を抜き取って指で弾き、昇に投擲する。昇はそれを脇においた教科書で防ぐ。教科書にはビィィンと用事が突き刺さった。
昇は教科書を見てから小さく舌打ちをする。
「お前は僕を殺す気か?」
昇は楊枝を抜くとそのまま真のノートに投げ返し、突き立てる。
「そこの問題、間違ってるぞ」
「うぇ!?
ノート穴開いた!!」
真はギャーッとノートを広げるが、真は相手をせずそのまま用紙を鞄に放り込む。そして、そのまま脇にノソノソとやって来た仁に婚姻届を押し付け、柳葉を見据える。
「それで、何が目的だ?」
「あん?」
「柳葉さん。アンタが態々こんなアホな愚痴を言うために僕等を呼び付けるわけがないでしょうが」
昇の言葉にタケさんがそりゃそうだと笑う。
柳葉はやれやれと言うように自分の頭を掻くと、鞄から一枚の書類を出す。防衛大臣の印鑑が押されており『命令書』と書かれている。そして、其処には小難しい言葉でズラズラと何か書いてあった。昇はそれを読み、それから仁の顔に押し付ける。
「何?」
仁がそれを読み、しばらくするとそれをテーブルに放り投げるように落とした。
「魔法少女を大規模獲得のためにキャンペーンやるからその先頭に立てって事?」
「概ねそうだ」
仁の言葉に柳葉が肩を竦めた。ドラマなんて出たばっかりにキャンペーンガールにさせられたかと昇は辟易した様子で背凭れに倒れた。
「それで、どうするのだ?」
「魔法少女各個の能力アップを図ると同時に、国民との間を狭める。
AKBみたいに近くて会える魔法少女を目指したいらしい」
「僕はゴメンだ。鋸で斬りかかられては堪らん」
昇の言葉に慶太郎と真は笑うが仁だけは笑わずに、鋸ならまだ良い方だけどねと何時に無く冷静な言葉で告げる。
「ホームセンターや農協に行けばアンホ程度ならだれだって作れる」
「アホ?」
昇の言葉に真が口を開いた。昇はアホはお前だと告げると、タケさんが笑いながら肥料と軽油で作れる爆薬のことだよと教えてくれた。
似たような爆薬に硝酸アンモニウム、アルミニウムの粉末、水からなるスリラー爆薬もあり、現在では安価でより安全なアンホとスリラーが発破業界では使用されている。また、材料さえ有れば現地でも製作可能なためにダイナマイトやC4軍用爆薬と言った物よりも多く使われている。
「オクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件ではこのアンホ爆薬に寄って構造上弱点を狙われたとはいえビルの前半80%は壊滅、死者164人だか167人をだし負傷者だけでも400人を超えた事件だな。
起爆剤は鉱山から盗んだダイナマイト等を使っていたが、爆薬は自分たちでラジコンヘリのニトロ混合軽油を使っていたそうだ」
タケさんはアタッシュケースやリュックサック程度の量を持って来られたら確実に魔法少女は死ぬなと告げる。昇はタケさんの言葉に頷いた。
「でも、まさか其処までする人はさすがに居ないですよね?」
話を聞いていて怖くなったらしい慶太郎が努めて明るい声で告げる。しかし、そんな慶太郎の努力を無下にするように昇が首を振った。
「自分の家族を殺されたら大抵の人間は何でもする。憎しみに駆られているならそれはもう酷い事になる。
僕は両親を殺し、妹を重傷にしたキメラの頭をBARの重傷で文字通りミンチに成るまで叩き潰した。其処には憎しみしか無かった」
昇の言葉に慶太郎も真も口を噤んでしまう。
「私は彼の気持ちは分からんでもない。
ある殺人犯は当時7歳だった少女をレイプし、殺した後もう一度その遺体を犯した。裁判では犯人には精神的に問題があり責任能力は欠如していたとして無罪。法廷を出る際、その殺人犯は遺族に向かって楽しいおもちゃをありがとうと言った。
その言葉に遺族の父親は憤死、妻も気が狂ってしまい、自分からトラックに飛び込んで死んだよ」
赤池が笑みを浮かべているが実に冷たい声色で告げる。
「犯人はその後も数人の婦女を暴行したがその都度精神に問題がありとなりノウノウと生きていた」
赤池の言葉に真が酷いと声を上げる。
「その事件、俺、聞いたことありますよ」
「うん。その犯人は赤池荒子、つまり私に殺された最初の被害者だ」
慶太郎の言葉に赤池はニベもなく告げた。
「私はね。連続殺人犯と言われているが私は別に人を殺したと思っていない。
彼等を人だというなら私は犬も猿も人だと言おう。あれは悪魔だ。鬼だ。人の形をした畜生にも劣る屑だよ」
赤池はニッコリ笑って告げた。それから、脇に置かれている週刊誌を慶太郎達の宿題の上に放り投げる。
「私が出所して居ることを世間様は知ったら、急激に犯罪が減り始めたそうだよ。
特に再犯率の低下は目覚ましいらしい」
赤池の言葉に昇は一過性だと告げる。しかし、第二、第三の赤池荒子は現れるだろう。社会に絶望し良くしようと気が狂った正義の味方気取りが現れるだろう。そう告げる。
「まぁ、魔法少女が増えることは良いと思いますよ。
週4週5で呼び出されては僕等だって給料を使う暇もない。僕と仁が5日間現場に出ないだけで負傷者が倍増するとは情けなさ過ぎる」
昇の言葉に仁はそうだね~と何時もの抑揚のない返事をする。そして、昇の肩に頭を乗せてけーちゃんとまこちゃんもちょっと厳し目に修行しなきゃねと笑った。
「取り敢えず、真は弓とクロスボウも扱えるからそっちの錬成に体術を徹底的に覚えろ。
理想は一撃でキメラを屠れる様になることだ」
セガールよろしく一瞬でキメラを殺せるように成るのが理想だと昇が告げると仁が所謂セガール拳と呼ばれる顔の前で素早く手を動かすモーションをしながら昇に冗談めかしなパンチを繰り出す。昇はその手を捻り、さっさと宿題を終わらせろと告げると、仁を抱き寄せる。
「話が固まったらまた報告してくれ。
内容次第では協力する」
そして、荷物を片付け帰るぞと仁を連れて帰ってしまった。
久しぶりの投稿だね~
書きたいことも概ね書いたしそろそろ完結させる




