第六十一話
試合が終わると櫻丘の顧問と宇山江による公評だ。
主に自校生への試合中の不出来な点を教えると言う物で、櫻丘は昇の非常に冷静な動きと足捌きを見習えという物で、宇山江は櫻丘の生徒達のように教師に対する敬いを持てと言う日頃の行いを全く無視した公評を行った。
「取り敢えず、11時半までは地稽古だ。
相手校と多く剣を交えるように」
櫻丘の顧問が宇山江に良いですよね?と事後承諾に近い感じで確認を取ると、宇山江は良いんじゃないですかね?と頷いていた。
全部員が面を付けるとのことで、道場の入口近くには櫻丘の一軍から三軍に至る生徒達が並び、入り口から奥には桐明生たる昇達4人と櫻丘の顧問に宇山江が座る。
4人は普通に面を付けて居ると、突然、相手の三軍部員や二軍部員が昇や真の前に走り込んで来てお願いしますと頭を下げる。宇山江にも一軍の部員が並んでいる。真は大きく感動した様子でウンウン頷いていた。昇はズラリと並ぶ部員達を見てから出遅れた部員が少なく並ぶ仁の方を見遣り、ウムと頷いた。
「僕よりもあっちの井上と言う選手の方が数百倍強い。
どうせなら、あの井上と言う選手に稽古を付けて貰った方が数倍勉強になる」
昇の言葉を聞いた仁がは?と声を上げ、真が昇と仁の人数差を見てから苦笑しつつ、でも確かに井上さんは強いよと告げると昇が十数人並んでいた部員達の後ろ半分を仁に押し付けてしまった。仁は内心楽が出来ると喜んでいたのだが、それが一気に数倍に膨れ上がったので昇に後で勝負しろと恨み事に近い感じで告げた。
対する昇は涼しい顔で時間があればなと告げる。
そして、4人が何時もよりも少々早く面を付けてから、軽く伸びやら何やらをして、構えを取る。仁は前屈と後屈をした後軽くピョンピョンと飛ぶと、そのまま右手だけで竹刀を持って左右に回すように手首を回す。そのまま6人が適当な間隔に広がる。剣道のコートが4コート分入る大きな道場いっぱいに広がって剣道をする。
その場にいる全員が中段の中、仁は先ほど見た上段の構えを取ってみせる。すると、二軍の部員は些か驚いた顔をした。仁は上段を取ってから足をどっちに前にするべきだ?と言う顔で足元を見た後にまぁ、良いやと言う感じに左足を前に掲げた。理由としては此方のほうが構え易いからだ。
右手が後ろに成り、右足が前にすると上半身と下半身が左右に捩れるので左足が前の時、左手が前の方が無理がないのである。
「さぁ、やろう」
仁はにべもなく告げる。対する部員はお願いしますと告げて中段で構え気声を上げる。その瞬間、仁がトンと前に飛びつつ左手だけを振り下ろして、面を放つ。声を出さなかったために試合では一本には成らない。が、確実に一本になるほどに綺麗な面だった。
仁とやるために並んでいた生徒達から感嘆に近い声が漏れた。
「ほぅほぅ、何となくわかったぞ」
仁は構えを取るとスッスッと動き始める。小刻みに前後左右に動き、攻める機会を窺うように。二軍部員は竹刀を構えて負けじと攻め込もうとして、そこに容赦の無い面を放たれた。上段相手に切っ先を少し上げる構えは仁からすれば大層動きが見やすいのである。相手の目を見、腕を見、雰囲気を読む。
キメラの時と違い、駆け引きが出来るのでより面白い。
「はい、こて~」
仁が相手の隙を突いて小手を打って相手に体当たりをし、そのまま引き面を打つ。既に2本取られた。
「ほらほら、攻めて来ないと。
君、死んじゃうよ?」
相手が竹刀を振り上げると同時に胴を放ってクルンクルンと廻る。
「これ試合でやると怒られるんだってね~
でも、試合じゃないのでやりま~す」
仁がそう言いながら三本取ったので交代ね~と次の生徒を指差す。
二軍部員はハッと我に返ると直ぐに後ろに居た三軍の生徒に変わる。仁は上段を止めて中段に戻した。
「じょ、上段じゃないんですか?」
「だって、上段腕疲れるもん」
仁はそれだけ言うと中段で構えて切っ先をブラブラとやりだす。三軍の部員はそれを見ると同時に空かさず攻め込んで見るが、同時に竹刀を上に跳ね上げられると同時に胴を食らった。仁はハッハッハと笑い、プラプラとまた切っ先を遊ばせる。
その態度は実に喧嘩を売っている。喧嘩を売っているが、確実に勝てる見込みはない。
「ほら、相手の様子を確り見て攻撃しないと。
あと、手と足の挙動を合わせないと一本に成らないらしいよ」
仁はアドバイスをしながら、手と足の動きがバラバラである事を指摘する。ジェーン・ザ・リッパーで習得した剣術はほぼ独学であり、これは剣道では通じない。キメラを無傷で殺せればなんでもありな魔法少女と心技体及び伝統を受け継いで形式化された剣道ではかなりの溝があるのだ。
仁にしてみれば竹刀での有効打突部が決まっており、其処以外で叩いてもノーカンと言う謎の考えは未だに意味がわからないのだ。刀の根本、つまりはばきや鍔周辺で斬ろうが切っ先近くで斬ろうがそれは切れる。剣道では切っ先から中結と呼ばれる上3分の1辺りに結ばれている部分で叩かないと意味が無い。
また、剣道で一本に成らなくとも頭部や腕部をボコスカ打たれており、逆胴で一本入り難いと言う考えも矛盾しまくっていると仁は感じる。が、それを言うと「そういうもんなのだから仕方無いだろう」と言われる。と、言うか昇に言われた。
で、有るからして剣道にしみれば未だに意味不明かつ無意味に近い行動をする仁であるが、その戦闘技術は確かに受け継がれており、高校剣道程度ならば問題無く戦えるのである。
「はい、小手」
そして、相手を翻弄しまくってから三本取った。三軍とは言え櫻丘の部員だ。精強無比と書かれた部旗を掲げるこの櫻丘だが、彼等の実力派かなり高い。ランク付けするなら一軍が真より少し弱い程度、二軍が慶太郎程度、三軍は慶太郎よりも少し弱い程度の強さであり、その実力派かなりの物である。
対外試合も基本的には二軍と三軍の混成チームを組んで出されることが多く、今回のように一軍のメンバーが出て行くことは基本的に珍しいのだ。
そして、そんな三軍と二軍の選手を相手にして未だに息を切らさずに余裕を持って竹刀を交えれている仁や昇、真に慶太郎はある意味異様だ。勿論、魔法少女としてのブーストもあるが、戦い方を知っているのだ。連戦の仕方を、力の抜きどころを。
それが一番の違いだろう。
「ま、先は長いからさ~
気長にやろう」
仁はそう笑うと次の人~と告げた。
仁の隣、昇は仁とは違い情け容赦のない全力で挑んで来た相手を叩きのめしている。相手が男子だろうが女子だろうが隙があれば平然と突きを放ち、少しでも撃てるなら連続技を放っていく。小手面、小手胴、面からの体当たりで引き胴、引き後手等々。
相手をどんどん攻めていって昇にだいたい10本程取られた所で終わる。そして、其処で一言二言のアドバイスややっていて感じた事を告げ、交代と言う感じだった。此処で分かるのは仁と昇はアドバイスが短い。口下手というのもあるだろうが、ぶっちゃけ感覚で剣道をしているので何をどうすればどうなるのかを出来る限り言葉に直して伝えているのだ。
対して慶太郎は理詰めで話し、真に至っては感覚を足りない知識で必死になって言おうとするので擬音語のオンパレードになる。そして、相手に伝わらないものだから更に擬音語を併用した謎の解説になり、結局相手がわかったような分からないような感じになる。
宇山江は最早、数手交えてからあーだこーだと超軽いノリで昇や仁、真の弱点を暴露しながら竹刀を交える時間を減らそうとしている。サボりの天才だ。隣で稽古をしている慶太郎はその徹底的な姿勢にある意味尊敬を覚える。勿論、見習おうとは思わない。
そして、話し終わってから行って来い!と昇や仁、真の方に送り出すのだからよくやる。勿論、宇山江から送られてくるのを見た仁と昇は此処ぞとばかりに、一旦、宇山江に行って来いと2人を追い返す。慶太郎と櫻丘の顧問は普通にやっているだけで別に殆ど人が来ないし、適度に大変なので問題ない。
熾烈な部員の送り合いの果て、櫻丘の顧問が其処までと終了の合図を掛けた。
部員達は先ほどと同じ様に並び、一礼威してから面を取る。その後、黙想をしてから櫻丘の顧問と宇山江の方に集まった。
「今日から5日間と言う短い日数だが、桐明高校さんが来てくれた。
お前達も知っている通り、桐明は個人戦で県内トップクラスの実力だ。部員数が足りないだけで部員数が足りていれば桐明が全国大会に出ても可笑しくない実力を持っている。
お前達は桐明の力を良く見、よく学び、充実した5日間を過ごせ。桐明の者達も、ウチの部員達をシゴイてお互いに高め合っていきましょう」
櫻丘の顧問は実に教師らしい立派な言葉を告げる。櫻丘の部員達はハイと威勢良く返事をし、桐明は昇を代表に5日間よろしくお願いしますと頭を下げる。
次いで、宇山江の番になる。
「あー……
まぁ、あれだな。ウチの連中は櫻丘の様に顧問を敬う、先生を敬うって気持ちを学ぶべきだな。お前等、全員櫻丘の連中の爪の垢を煎じて飲め。そんでもって腹壊してトイレに篭ってろ。
んで、櫻丘はこの顧問を敬わない4人、特に其処の深見昇とか言う澄まし顔で立ってるアホをボッコボコにしなさい。私が許可します」
「櫻丘の生徒達にまで迷惑をかけんで下さいよ、先生。
教育委員会に言いますよ?」
昇が呆れた様子で告げると、宇山江が教育委員会は止めろよ!卑怯だろうが!と言い出す。
「もう先生終わって下さい。
ただでさえ恥ずかしいのに……」
真が告げると、宇山江が解散!と告げる。それから櫻丘の部員達が大急ぎで自分の防具を片付けに入り、櫻丘の顧問が宇山江に午後の予定を話し始める。
昇達4人もぞろぞろと自分の防具の元に行く。
「昇くぅ~ん、勝負しましょう、しょーぶ」
仁がソロソロと昇の横に並び、ズイズイと肩を押し付けてくる。先ほどの恨み忘れたとは言わせんと言わんばかりだ。
「良いだろう」
昇は頷き、自分の防具の前に座る。仁はフッフッフと笑いながら竹刀袋からカーボン竹刀を取り出した。カーボン竹刀とは文字通りカーボン製の竹刀で竹で作られている竹刀よりも丈夫で割れないが、重量がある。
その為、竹の竹刀からカーボン竹刀に変える。カーボン竹刀には軽重二種類の重さが有る。正確に言えば、通常型と重い型の2つであるが便宜上は軽重と表記する。そして、仁はこの重い方を買った。と、言うのも普段振っている日本刀は1.5kg程あり、出来る限りこの重さに近づけたいと言うのが仁の気持ちなのだ。
つまり、竹刀は軽すぎる。本気でやる分には此方の方が性に合っているのである。
昇はそれを見て、眉を顰め入念に柔軟をしてから面を被る。脇で見てた櫻丘の部員達が全員動きを止めて2人の試合を見守ることにした。また、話していた櫻丘の顧問と宇山江も興味を持ったように眺めている。真と慶太郎は二人共ガンバレ~と適当な応援をしながら防具の片付けに入った。
昇と仁はテープで仕切られいたコートに入り、そのまま気声を上げず静かに立会を始める。お互いに切っ先を向け合った瞬間、恐ろしいまでの集中力でお互いに先の先を奪い合う闘いが始まった。昇の微動だにしない中段の構えに対し、仁のゆらゆらと波間に揺れる木の葉が如く動く切っ先。
お互い、ゆっくりと反時計回りに動きながら、相手にプレッシャーを掛け続けている。昇が半歩攻め込めば、仁が切っ先を抑える。仁が昇の切っ先を払おうとすれば、昇が空かさず後ろに下がる。その熾烈な争いは実に静かで変化が無い。
お互いが睨み合うこと5分が経過、真と慶太郎は既に防具を片付け、竹刀も袋に入れて何時でも更衣室に戻れる状態で、勝負が終わるのを待っていた。
「昨日は深見先輩が負けたんで、今日は勝ちますかね?」
「勝つでしょうね。
今日の昇はウォーミングアップ完璧に出来てたし」
「なら、どっちが勝つかに昼飯賭けようぜ。
私は仁だ。昇死ね」
宇山江がやって来てそんな事を言い出すので、真と慶太郎は昇に賭けた。
2人の勝負が付いたのは野球部らしき金属バットが小粋の良い音を立ててホームラン球を打った瞬間だった。昇が凄まじい勢いで仁に突きを繰り出したのだ。竹刀が一瞬、まるで月鎌の様に撓ると仁はその弾性と衝撃で後方によろける。
昇は空かさず間合いを詰めて面を叩き込み、其処から更に体当たりをして完全にバランスを崩させるとトドメだと言わんばかりに引き面を打ち込んだ。
「先生のお昼ごはんは無くなりました~」
「先生は見る目をもうちょっと鍛えなきゃね」
真と慶太郎はやられた仁に巫山戯んなと怒っている宇山江の肩を叩き、昇と仁の元へよっていった。
正直、剣道はやってた時より、思い出してる時の方が楽しい
あと、今日何気に七夕だったりするので驚いた




