第五十九話
合宿の日程は5日間。櫻丘の学校に泊まりこんでこ行うらしい。昇は籠手を6個持参し、竹刀も5本とバラシで5本持ってきていた。仁は籠手を5日分との事で5個に竹刀は3本だった。
真と慶太郎は防具一式に竹刀を3本だ。
「何でそんなに竹刀持ってきてるのよ」
「櫻丘は手口が荒いんだ。力強いといえばそれまでだが、正直、当たりがキツい。下手をすると竹刀を折られるぞ」
「あぁ~……
でも、試合だけでしょ?合宿で其処までやって来ないでしょ?」
真の言葉に慶太郎も頷く。
「強豪校の練習は基本的に厳しい物だろう。
相手を殺す気で行かねば殺されるぞ」
「そんなに!?」
昇は漫画ではそうだったと告げ、仁がウムウムと頷いていた。真と慶太郎は2人の言葉を本気にするのを止めることにした。そして、やぁやぁと宇山江が現れる。大真面目に防具を肩に担ぎ、竹刀を持っていた。そして、仁に鍵寄越せよと手を差し出す。仁は事故らんで下さいよ?と訝しげに鍵を渡す。校門前には一車線の半分をほぼ占領してしまっているG63AMG6x6を見遣った。
カラーは前と違い、青色である。
「おぉ、F2カラーじゃん」
「うわ、先生が昇と同じ事言ってる!
ミリオタ!」
「み、ミリオタじゃねーよ!
本職だし!」
宇山江が勘違いするなよ!と叫びながらG63AMG6x6の荷台を開けて荷物を放り込む。荷台には既に4人の荷物が置いてあるが、まだまだ余裕だった。
「スゲー広いな、これ幾らよ?」
「本体が8千万で、改造費入れて1億位しました」
「マジで?
何に金掛かってるんだよ」
「外板をレベル4規格の防弾板にしました」
「お前何処に行くつもりだよ。中東か?中東にPMCでもしに行く気か?」
「いや、趣味ですよ。趣味」
どんな趣味だと宇山江が告げ、運転席に乗り込む。それに合わせて全員が後部座席に乗り込むと宇山江がエンジンを掛けた。
あれこれとスイッチが有り、それを触ろうとするので仁が一々止める。
「触らんでいいので確り運転して下さい!」
「えぇ?触りてーじゃん?
こう、スイッチとか?」
「先生、絶対飛行機乗ったら余分なスイッチ押して事故るパターンだよね」
映画とかであるパターンの奴とどんな事を想定しているのか真がそんな事を告げる。慶太郎も確かに大きく頷いている。昇がそもそもパイロットがこんな奴をコクピットに入れんと告げ、脇においてある小型冷蔵庫と保管庫を開ける。中にはチョコレートやらポテトチップスが置いてあり、昇はキットカットを取り出した。
「食べるか?」
「食べる」
昇と仁は諦めた様子で菓子を食べ始める。
真や慶太郎は確りと食べて来たが仁と昇は正直、夏バテ気味で余りちゃんと食べていないのだ。だからといって菓子を食べるのはどうか?と言う話であるがチョコレートはカロリーも取れるし、何より手軽に食べれるという事が昇が手にとった理由である。
「え、冷蔵庫まで付いてるの!?」
「金持ち用の車みたい」
慶太郎の言葉に昇が金持ちの車だと答え。慶太郎が金持ちの車かと頷いた。真は仁に他に機能が無いのか?と尋ねテレビがあるとか最高品質のステレオがどーのと説明をし始める。真はよく分からんけど何かすげーと言う感じでそれを聞き、昇と慶太郎はテレビを付けて朝の情報番組を見ている。
1時間も車を走らせてると櫻丘の高校が見えてくる。市街に校舎を備えており、広い敷地を持っている。スポーツに力を入れている学校だ。
「アホみたいにデカい学校だな」
「スポーツに特化してるから、らしいですよ。
運動部の数が国内でもトップクラスらしいですよ」
昇の言葉に慶太郎が答える。昇はだから馬鹿ばかりなのかと頷いた。
「まぁ、スポーツで名を挙げてる学校はどうしても頭の方を切り捨てるのはしかたないですよ。あっちを立ててもこっちが立たずって奴ですよ」
「知っている」
昇はそれだけ言うと窓の外を眺めている。まだ8時だというのに野球部らしき連中がユニフォーム姿で並んでランニングをしている。全員、G63AMG6x6を見ており何だ何だと騒いでいる。校門前に来るが、校門は開いていない。宇山江はそのクラクションを鳴らして、脇に居た野球部員を呼ぶと、門を開けろと告げる。
野球部員が御用は何でしょうか?と告げるので、剣道部の連中と合宿しに来たと告げる。野球部員は困った様子で今、コーチ呼びに行きますと告げると中に入っていった。
「門開けるだけだろうが」
宇山江が掛けていたサングラスを下にズラし、煙草を咥えると仁がそれを脇から取る。
「車内禁煙ですから」
「けち臭い事言うな」
「臭い着くの嫌なんですって。
内装全部クリーニング出すとそれだけで数十万掛かるんですから。先生が金払ってくれるなら別に良いですけど?」
「なら喫煙可能なG63買え」
宇山江がそう告げると小太りのジャージ姿の男が走ってきた。何故かバットも持ってきている。宇山江がよっぽどあれに見えたのだろう。
「アンタどんだけだよ……」
「本当ですよ」
宇山江が昇と慶太郎に中指を立て、そして、桐明高校の宇山江だ、剣道部の顧問呼んで来いとコーチに怒鳴りつけん勢いで告げるとコーチが慌てて中に入っていく。
暫くして胴着袴姿の男と先ほどのコーチが走ってやって来る。宇山江が合宿に来ましたよと若干イライラを隠さずに告げる。胴着袴姿の男は櫻丘の剣道部顧問として地方大会等でよく見る顔であり、仁以外の3人は見覚えがあった。
「どーも、櫻丘さん。宇山江でー御座います。
門、開けて下さい」
そして、宇山江が車上からそう告げると櫻丘の顧問とコーチが門を開け始めたので、昇達も降りて挨拶をしながらそれを手伝う。
宇山江はそのままG63AMG6x6を来客用駐車場に後部をはみ出して駐車した。
「大きなえっと、車ですね」
「ええ、生憎学校のバスがなかったんで生徒の一人のを借りたんですよ」
宇山江が荷台から荷物を取り出してそれぞれに放り投げる。全員が少し慌てた様子でそれを受け取る。防具だけでも数キロはあるし、何よりもデカい。故に下手をすると怪我をするので、本来なら投げるべきではない。
それぞれが荷物を持ち、宇山江を待つ。宇山江はG63AMG6x6に鍵をかうと鍵を仁に返却した。それを見た顧問と何故か未だに居るコーチが目を見開いた。
仁は鍵を確認する。
「なんだよお前。私を信用していないのか?」
「先生にしてはかなり笑えるギャグですよそれ」
仁の言葉に真と慶太郎がブフッと吹き出し、当然の反応だなと頷いていた。宇山江は昇達にファックと中指を立てる。
そして、それぞれが荷物を持ち、櫻丘の顧問を先頭に剣道場に向かう。
「櫻丘って試合だとどんな感じなん?」
「剣を交えたのは個人で数人だけだが、基本的には攻めだな」
「あぁ、そーゆーパティーン?」
仁がそーゆーの好きよと笑う。
「仁さん、カウンター好きだもんね」
「だって動かなくて良いし、相手に合わせて竹刀を振るだけの簡単なお仕事」
仁の言葉に全員がそれはどうかとと言う表情をする。真がそういえば仁さん地稽古で殆ど動かないもんねと納得した様子だった。
「悔しいが仁に関しては仕掛けて一本取れる気がしない」
昇の言葉に仁がドヤ顔を披露する。
「まぁ、突けば問題ないがな」
「女子相手に平然と突きを放ってくる男子は昇だけだよ」
「男女平等だ。
僕は男女差別をしない男だからな」
昇の言葉に仁がそれは男女平等ちゃうとツッコミを入れた所で剣道場に辿り着いた。剣道部用の道場が丸々1つ建っているのだ。4人はそれを見て感嘆の声を漏らした。
そして、仁がウチ等の道場とぜんぜん違うねと笑い、真がそれは言わない約束だよと告げた。そして、中に入ると数十人の男女が胴着袴姿で竹刀を振っている。全員が4人に対して挨拶をすると、4人はおはよーございますと数段劣る声で挨拶をした。
「おっすおーす。
じゃ、私等少し話ししてくるからお前等テキトーにやっとけ」
「何時も通りだ」
宇山江の言葉に昇が振り返って3人に告げる。そして、一年生と思しき坊主頭の男子とショートカットの女子が案内しますとやって来る。
昇と慶太郎は坊主頭の後に付いて行く。男女は更衣室の方向からして違うようだった。
「見ろ、慶太郎。坊主だ」
「ですね。本格的ですね」
「君」
昇は前を歩く部員を呼び止める。一年生はハイと良い返事をすると振り返るので、昇はその頭を触る。ショリショリとした感触が昇の掌に伝わり、何に納得したのか昇はウムと頷いて手を離す。
一年生はその行為に対して若干嫌な顔をするが、年上故になされるがままという感じだった。
「先輩、そんな小学生みたいな事しないで下さいよ」
「イギリスの登山家、ジョージ・マロニーは有る時『何故貴方はエベレストに登るのですか?』と聞かれた。マロニーはその問いに『そこにエベレストが有るからだ』と答えた。
『何故、人は坊主頭を触るのか?』と言う問いに『そこに坊主が有るからだ』と答えるしか無い」
つまり、坊主頭をしているこの一年生が悪いのだと昇が答えると慶太郎が恥ずかしいんでそう言うの止めて下さいと釘を刺す。昇は善処しようと掌に付いた汗をどうしようかという顔でニギニギしているので、坊主君がそこに手洗い場がありますよと案内する。
そして、更衣室で着替えると2人は防具と竹刀を片手に道場に。道場には既に真と仁が来ており柔軟をしていた。
「男子遅いぞ」
「他人の家に来ると興奮するのと一緒だ」
昇の言葉に仁が君はそういう性格だったねと引越の時を思い出し苦笑した。それから4人がタラタラと柔軟をし、素振りを始めた。ところに宇山江がやって来た。
「よーし、お前ら試合だ!
男女混合で勝ち抜き。我が校は私入れて5人な」
「じゃあ、仁が大将、僕が副将、中堅は真で次鋒が慶太郎。
戦法は宇山江、先生だ」
昇の言葉に宇山江がいや、私が大将だろう!と反論するが、昇は勿論全員、それが妥当だなと頷いた。
因みに選考基準は宇山江が常日頃から仕事をしていないから先鋒を無理やり押し付け、後は戦力順でエントリーしている。櫻丘の生徒達は直ぐに準備を始め、昇達はタラタラとした動作で感嘆な準備運動をする。
「審判はお互いの大将……はやめておこう。
仁、剣道初心者だからな~深見昇、テメェが出ろ」
宇山江は軽い柔軟をして素振りをしてから防具を付け始る。暫く垂れを前にゴチャゴチャやっていたと思ったら、首を傾げる。
「なぁ、垂れってどうやって結ぶんだっけ?」
「仕事しろよ、給料泥棒」
昇の言葉にう、うるせぇ!と宇山江が中指を立て、仁が垂ネームを付ける大きな垂れの下で結ぶんですよ~と小学生に教えるような声色で告げると、宇山江は何時か泣かすと告げてから面以外の防具を付けた。真がそんな宇山江を見遣りながら何であの人剣道部顧問やってるのよと悲鳴にも似た声で慶太郎に告げる。慶太郎はさぁ?と首を傾げる。
それからそれぞれ防具を付けると、昇が宇山江に相手をしますよと告げると有無を言わさずに竹刀を構えた。宇山江は上等だコラとそれに答え、竹刀を構えた。
「地稽古風に行きますか?打込みで行きますか?」
「打込みだ。ボコボコにしたる」
宇山江の言葉に昇は分かりましたと笑う。それを見た仁がいい顔してるわ~と苦笑した。
打込み稽古とは通常は受け側が敢えて隙を作り、打ち側がそれに合わせた打突をしていく稽古である。例えば、竹刀の切っ先を少しずらして面を少し下げることで『面を打て』と合図し、同様に籠手を開ければ籠手を打て、両方やれば小手面と決められる。
基本的には上級者が下級者に向けてやるのだが、部員が少ない桐明剣道部ではこの男女混同で上級者下級者関係なくやる。
宇山江が男子顔負けの低い裂帛の声を上げ、昇もそれに応じるように声を上げた。それからまずは面、次いで籠手、胴と最初は簡単な打込みをさせていき、小手面、籠手胴、籠手からの体当たり、引き面とバリエーションを増やしていくのだ。
しかも、どんどん昇がスピードを上げていき、遅れると昇がヘイ!と叫んで先を促してくる。傍から見れば完全な扱きだったが、宇山江のスピードは劣ることのない速さだった。
それを5分ほどやり、終了。
「テメェ……」
「どうします?
まだやりますか?」
「いや、後で試合だ。
地稽古で泣かせてやる」
宇山江が右腕を掲げ、左腕とクロスさせる。きっと、右手でファックサイン、左手でブーイングをしているのだろう。礼儀もへったくれもない奴だと全員が思う。
そして、準備ができたので試合の運びに成る。試合をする理由としてはお互いの実力を確認し、合宿中にお互いの欠点を見直すためであると説明があった。宇山江は面を付け、場外に立つ。
主審は櫻丘の監督が行い、副審は昇と相手チームの主将、鬼頭だ。
「お互いに礼」
先鋒同士が場内に入り、開始線の少し前にして頭を下げた。相手は二年の女子だ。一応、女子に女子を当てるという考えで組まれているようだった。相手は女子一軍である。お互いに開始線の前に行き蹲踞し竹刀を構える。
主審の始めの合図でお互いに直ぐに立ち上がり、宇山江が女子に面を一本打ち込んだ。昇は手を挙げず、鬼頭はそのまま一本揚げ、主審は一本を上げそうだったがそのまま取り消しをする。剣道では多数決を取り、1人上げても2人上げな掛かったらそれは取り消しになる。また、2人が別々を上げた場合でも主審と副審2人で協議となり、話し合いをして決定する。
昇は宇山江に旗を揚げる気がなく、鬼頭はその迫力に旗を揚げ、主審もそれに釣られそうに成って今のは武道家として如何なものか?と言う観点から取り消しをした。つまり、この時点で宇山江は完全に1人分の得点を失っている。
本来なら有るまじき事であるが、昇と宇山江の因縁浅からぬ仲であることは桐明剣道部全員が知っているので全員が已む無しと思っていた。




