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第五十八話

 夏休み最後の週、昇達は突然宇山江に呼び出された。場所は高校の職員室。


 短パンTシャツでパタパタと団扇で風を動かしながら額に冷えピタを張っている様はまるで教師には見えない。最も、宇山江の教師と言う役職からして偽りの仮面であるのだが。そもそも、何でこの女とも男とも分からん自衛隊がこの学校で教師をやっているのかすら不明だ。


 それを聞いても答える訳が無いだろうが笑われるのがオチであるため、昇は尋ねたことはない。




「それで何の用だ税金泥棒」


「おう。お前等、明後日から櫻丘と一緒に剣道の合宿な」


「聞いてないぞ」


「言ってないもん」




 昇の言葉に宇山江が6月の頭ぐらいに合宿しましょーよって言われたのを適当に了承してからすっかり忘れていたのだと宇山江がバラすと。昇は勿論、その場に居た教師を含めた全員が信じられないものを見たと言う顔だった。


 それから教務主任と教頭が慌ててやって来て、先方に失礼のないようにしろよと宇山江を囲んで確りと言いつけた。


 因みに、櫻丘とは県内でも有数の剣道強豪校の一校であり、此処数年は全国大会でも優秀な成績を残している。勿論、色々な地方大会にも出ており、昇や真とも渡り合って辛酸を嘗めているのだ。




「櫻丘か~


 彼処強いもんね!」


「いや、正直、今のままでは僕等は反則だろう」




 真の言葉に昇が告げ、慶太郎と仁が確かにと頷いた。櫻丘は男女合わせて50人を超える部員を持っており、一軍二軍にわかれている。一軍の主将や副将は県内でも有数の選手であるが、昇には及ばない。魔法少女の恩恵以外にもキメラとの戦闘で培った冷静さと判断力を前にスポーツ剣道に特化した高校生では昇に切っ先すら当てられないのである。




「た、確かに……」




 そして、真が剣道部には魔法少女しか居ないことを思い出し、これはチート行為だと思い直す。




「良いんだよ。相手方が言い出したんだ。


 ボッコボコにしちゃれ」




 説教を聞き流してあっちいけと追いやった宇山江がニタニタ笑いながらそう告げると明後日の午前7時に校門前に集合な告げて解散を告げた。


 昇達は剣道場に入り、防具やら竹刀やらを持って帰宅する。その帰り道、宇山江が仁に5人乗れる車持ってたら貸してくれと電話が掛かって来た。学校で車を出せないのか?と仁が尋ねた所、出せたら苦労しないと帰った来たので仁が渋々G63AMG6×6で良いか?と尋ねた所、それで良いと返って来た。




「それってあの装甲車みたいな車?」


「せやで~数億円した」




 仁の言葉に真と慶太郎が飲んでいたジュースを吹き出し、ゴホゴホとむせていた。




「此奴の家にある車は1台数千万が当たり前だ。


 200万程の車を“安い”と言ってのける女だからな」




 昇の言葉に真がトップランカーの魔法少女ってそんなに儲かるの?と尋ねた。


 仁は自分の儲けの内訳を簡単に説明する。魔法少女としての儲けは週3で活動したとして年間2億とちょっと、其処に仁が立ち上げた魔法少女のブランド品やグッズで十億近くが入るそうだ。更に其処に株式やら何やらも入れて年に数十億の儲けになると告げた所で真が昇を見る。




「アンタ、玉の輿よ!


 仁さんを大事にしなさいよ!」


「お前に言われなくてもそのつもりだ」




 昇が詰め寄ってきた真を鬱陶しいと押し退けた。




「と、言うか週3で出動するだけで年間に二億も稼げるわけ?」


「ああ、しかも出動した際の特別手当で非課税金だ。


 それに、僕等は今、未成年だが18歳以上は特別職公務員枠で採用される。で、この特別職公務員は公務員であるが兼業が認められてる唯一の公務員だ」




 真が公務員って副業ダメなの!?と驚いていたのに昇は驚いた。




「お前の彼女だろう。どうにかしろ」


「ぜ、善処します」




 昇の言葉に慶太郎が申し訳ないと頭を下げる。


 そもそも、何故魔法少女だけ副業が認められているのか?と言うと魔法少女の正体は原則公開禁止だからだ。


 しかし、魔法少女で働き、その収入が何処から出てるのか?と言う問題が起こった。言ってしまえば常に家にいる人間が何故か一般サラリーマンよりも高収入な生活をしているということに成り、さては犯罪をしているな?と勘ぐった近所の人が通報したと言う事件まで起こった。


 その為、魔法少女の身分を隠すために国が用意した会社に籍を入れて働く事が許されているのだ。勿論、国が用意していない会社に勤めており、ある時突然魔法少女に成ったと言う者も居る。その為、通常は国が用意した企業に原則入社するが、別の企業に入っても良いと成っている。


 勿論、周囲からの目が厳しい時代の法律故に現在ではベルサイユの中の人、野上健の様にフリーターと言って憚らない魔法少女も居る。


 因みに、健の様な人間にも一応の身分として公務員手当が支給され、防衛省職員と印刷された名刺を渡されている。所謂CIAのスパイが「私はCIAの職員です」と言うだけで自分がどの仕事をしているかまでは言わない様なものである。




「へ~


 じゃあ、警察とか自衛隊にも入れるの?」


「入れるだろうな。そこら辺はタケさん辺りに聞け」




 昇がそう告げると、前方から桜と見知らぬ少年が歩いて居た。今日、桜はフリースクールの登校日なのだ。




「桜ちゃんだ」


「あ、本当ですね。桜ちゃんだ」


「隣に居る男子は誰だろう?


 彼氏?」




 仁の言葉に昇が即座に違うと訂正する。仁が小さく冷血のシスコンメイドと呟く。昇は桜の方に足早によっていく。




「桜」


「あ、兄貴」




 桜も前方から自身の兄が居ることに気が付いた様で昇の元に合流する。桜の隣に居た少年が初めましてと少しオドオドした感じで頭を下げる。桜が私の兄貴と昇を紹介し、少年を武志よと紹介する。




「妹とはどういう関係だ?」


「ふ、深見さんとは、お、同じクラスです……」




 昇の視線に怯えたように桜の後ろに隠れようとする武志。そんな武志を更に訝しむように見る昇の後頭部を真が叩く。




「こら、イジメるんじゃない!」


「イジメるとは失礼な言い草だな。


 僕は妹の学友と言う少年がどんな人物なのかを見定めようとしていたんだ」




 心外なと昇が抗議するも、真は無視して自己紹介を始めた。




「初めまして。私は山口真よ。


 昇の友達ね」


「は、初めまして」


「初めまして」




 武志と桜が真に挨拶をし、慶太郎と仁を見る。それぞれ2人が自己紹介をし、お互いに顔見知りになった所で昇が口を開く。




「何処に行こうとしていたんだ?


 家とは逆の方向だろう」


「武志のバカがまだ夏休みの宿題終わらないって言うからその手伝いの為に、武志の家に行こうとしてたのよ」


「2人でか?」




 昇が目を細めて武志を睨まん勢いで尋ねるので、仁が昇の後頭部を打撃する。




「何をする……」


「邪魔をするってのは野暮なもんだよ、昇君」




 仁がニヤニヤ笑いながら桜に頑張りなさいな、若人よと告げると桜が変なことなんかしないわよ!と仁に怒鳴り、武志の腕を掴んで行くわよ!と歩き出す。昇が待てと追いかけようとするので真と慶太郎がそれをブロックし、仁が昇の腕を掴んでズルズルと駅前のBARウィリアムズに。


 通常なら歩いて10分ほどで行けるのだが昇が抵抗するので30分程掛かった。




 真達が店に入ると、相変わらず人がおらず、ガランとした薄暗い店内だった。カウンターにはNHKでの過去に放送した戦争特集の再放送を見る赤池と何かの勉強をしている礼威、何かの小説を読んでいるタケさんの3人が居た。


 そして、礼威が昇達に真っ先に対応する。




「どうしたんですか、そんなに汗だくで?」


「このシスコンが桜ちゃんの友達に尋問みたいな事をし始めたから連れて来たんですよ」




 取り敢えずコーラと礼威に注文をしながら真が告げると慶太郎は首にかけていたスポーツタオルで汗を拭いながら仁と共に廊下に通じる椅子を占拠し、昇を奥に追い込んだ。




「誰がシスコンだ。訂正しろ。


 僕は桜に変な奴が寄り付かんようにする義務があるんだ」


「それは昇じゃなくてお爺さんの役目でしょーが」




 昇の言葉に仁がアホチンめと苦笑気味に告げ、礼威が人数分のコーラを置く。時間は昼にはまだ少し時間があるが、もうすぐ昼とも言える時刻だ。仁以外の全員の携帯に昼ごはんの有無を尋ねるメールや電話が来た。


 この際だからタケさんにも件の話を聞こうと言う事で此処で食べると告げた。




「タケさん、真と慶太郎が魔法少女の給与体系に聞きたいそうです」


「えぇ?俺?


 俺は自衛隊と魔法少女協会の繋ぎみたいなもんだから俺じゃなくて柳葉に聞けよ。まぁ、簡単にだが説明すると一般的に魔法少女の給与体系は自衛隊と一緒だな」




 えっとだなとタケさんは頭を掻いてカウンターから出てくる。自衛隊と一緒というのは基本給の上に特別手当として金が出る。簡単に説明をするべく取り敢えず魔法少女の中の人が成人を超えている場合で説明する。


 魔法少女の基本給は月給25万である。此処から所得税やら何やらが引かれていくが、それでも20万前後は自分の手元に残る。初任給は非常に高い理由として『様々な負荷があり、更には命の危険が非常に高い』と言う理由がある。


 現に国別死傷者数が高い公務員で、日本では魔法少女の死傷率が自衛隊の倍以上の差をつけてランクインしている。職業別にしても建築業や運送業を含んでも上位に食い込んでいる。




「一回の出動で50万、討伐すれば其処に100万だ。


 此処は聞いただろう。日本でのキメラ出現率は世界で最も多い。人口比で考えてもダントツだ。出撃して、キメラと戦闘をしたら150万だ。下手すりゃ月一で出撃すりゃそれで小金持ち並みに暮らしていける。4ヶ月に1回出撃するだけでサラリーマンの平均年収より少し高い位だ。


 月一でも年収が1500万だ。真面目に働くのがアホらしくなるな」




 タケさんがそう言うも俺は絶対には御免だという雰囲気だった。


 金額だけ聞けば誰もが羨むが、死傷率と更には『キメラになったとはいえ家族も居るし更には人としての人生もあった者』を殺すという拭い切れない嫌悪感がある為に魔法少女に成ることを辞退する人間は多いのである。




「まぁ、君達の進路は心配せずとも既に墓場まで決まっているから給料の心配もする必要はない。


 と、言うか君達は深く拘り過ぎた。よく生きていられると思うよ」




 カウンターの奥から一人の女が現れた。上杉と名乗ったあの女である。




「上杉!」


「上杉“さん”でしょう。


 君より年上だよ?」




 上杉は昇に年上には敬意を払わねばねと笑ってみせる。胡散臭いにも程がある。宇山江と同等の人間であることはその笑いを見れば一目瞭然だ。


 上杉は私はアイスコーヒーと告げて席に座る。全員が突然現れた上杉に警戒をした。別に上杉が何をしたわけでもない。だが、宇山江とはまた別の危なさを含んでいるのがこの上杉だ。油断成らない“敵”であることは間違いない。




「敬意とは文字通り、尊敬する意識だ。僕はお前を尊敬する理由がない。


 年上だから敬意を払えと言うのはただの老害だ。僕に尊敬して欲しくばアンタの行動で僕に何らかの恩恵が有ることを説明しろ」


「まー、腹の立つ子。


 良いわ。私はこの日本における安全を担ってるわ」




 上杉の言葉に昇はアホだ此奴はと言う顔をする。




「それを基準に敬意を払えというなら、アンタも僕に敬意を払え。


 僕は魔法少女クアトロ・セブンだぞ?」




 昇の言葉に上杉はそうだったと思い出したように頷き、人差し指を立てた。




「国家情報網統合局と言う言葉を聞いた事はあるかい?」


「2ちゃんの妄想だ」


「最初はそうだったんだけどね、実際そう言うのが必要な時代な訳じゃん?


 言ってしまえば、それよ」




 上杉の言葉に昇が眉を顰め、周囲の者は首を傾げる。ただし、タケさんと赤池はその表情から余裕が消えていた。


 タケさんは両手をカウンターの下にやっており、赤池に関してもカウンター席から何時でも立ち上がれるよう体勢を移行している。




「おっと、勘違いしないで。


 私は別に貴方達を殺そうと思ってないわ。どちらかと言えば味方よ?特にそっちの山口真の為なら世界中何処にでも行っちゃうわよ?何ならホワイトハウスにジャンボジェットを突っ込ませても良いってレベルので」




 何故なら、山口真は日本における核ミサイルなんだからと笑う。そして、タケさんに銃は抜かないようにと告げる。




「もし、銃を抜くと、壁を抜いて.50Calが飛んでくるわよ?


 モルタルとコンクリの壁なんて直ぐに抜けるわ」




 上杉はそのまま真と慶太郎に私が貴方達の担当官でも有るからと笑って2人の前に名刺を置く。其処には『上杉愛』と書いてあり魔法少女協会一級担当官と書いてある。きっと、ニセの身分なのだろう。昇達は確信した。


 国家の息のかかる場所に身分偽装をして潜り込ませることなんぞ訳がない。何故なら、大本をたどれば国に行き着くのだから。上杉はそれだけ言うと私達の事を喋っちゃダメよ?と告げて、正面のドアから去って行った。


 一体何が目的だったのか、昇達はタケさんを見たが、タケさんは“ああ言うの”の考えは分からんよと告げて昼飯はナポリタンで良いなと勝手に決めてしまった。



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