第五十六話
魔法少女が何故戦うのか?それは単にキメラに殺され、悲しい、悔しい思いをする人間が一人でもいなくなれば良いと思っているからである。
キメラを殺せば金が貰えるからと言う魔法少女も居る。しかし、どんな魔法少女ではその現実を見るまでは「他人を救いたい」その思いが根源としてあるはずである。自分に出来る事を自分に出来る範囲でする。魔法少女の場合はそれがキメラを駆逐すると言う事だ。
「確かに、魔法少女は賛否両論があります。キメラを人間とし、キメラは病人であり、我々魔法少女は病人を殺す犯罪者だと言う人も居ます。そして、そんな人殺しをして金を貰ってるんだから政府公認の殺し屋だとまで言われたことがあります。
私の両親はキメラに殺されました」
クアトロ・セブンの言葉に柳葉達が止めようとしたので、クアトロ・セブンはそれを制するように掌を向ける。哲子が今起こった自体をカメラに向かって説明した。何故ならば、哲子の部屋は編集をせずに放映するからだ。
しかし、ディレクターがカンペで『CMの時間10秒前』と差し出した。
哲子はそれに頷き、一旦CMに入りますと告げる。
「あの、よろしいので?」
「構いません。
折角の機会ですから、せめて私が戦う理由だけでも世間の皆様に聞いて欲しいのです」
クアトロ・セブンの言葉に哲子は分かりましたと頷き、ディレクター達の方を見る。ディレクター達も分かっていると頷いた。
「勿論、身バレをしない限りの部分しか話しませんが、私が今から語るのはほぼ事実です」
クアトロ・セブンがそう告げるとタイマー係がCM明け5秒前と叫ぶ。そして、CMが明けた。哲子がこれから、クアトロ・セブンさんがキメラと戦う理由に付いてお話下さいますとカメラに向かって告げた。
「私の両親はキメラに殺されました。
父親は私達家族を守る為にキメラに立ち向かい、首を刎ねられました。母親は私の姉妹を守るべく庇って、心臓を一撃で切り裂かれました。姉妹もそれが元で大怪我をしました。
私は知っています。肉親がキメラに寄って殺される辛さ、悔しさを。人間ならば、犯罪者として罪を償わせる事が出来ます。反省させることも出来ます。
ですが、キメラはそうではありません。興味本位で犬猫を殺し、序のように人間も殺す。そして、並の人間では到底捕まえられない。捕まえたとして、キメラは人を殺した事を反省もしなければ、殺した理由すら喋りません。
不謹慎な話ですが、遺族としては家族が殺された理由を知りたいのです。遊び半分で人を殺す様な人間のクズも居ますが、それでも他人の憶測よりはだいぶハッキリします。そして、そういう犯罪者は然るべき処罰を受ける訳です。ですが、キメラは違います。病人として病人に入り罪を償わせる為の裁判にすら通されない」
クアトロ・セブンが珍しく饒舌に、そして、少し感情的に言葉を告ぐ。その場にいる全員が黙ってクアトロ・セブンの言葉を、深見昇の言葉に耳を傾けた。
「私がキメラを恨みを持って殺したのは後にも先にも、私が最初に殺したキメラだけです。両親の敵であった為、純粋に憎しみを込めて殺しました。
二体目からは私の様な気持ちに成る方を出さないために戦っています」
13人です、と告げた。哲子が何の人数ですか?と尋ねる。
「私がこれまでに関わったキメラに殺された警察、自衛官、民間人の方を合わせた人数です。
民間人は2、これは私の両親ですが、11人の警察官と自衛官の方が死にました。警察官が6名、自衛官が5名です。その内の1人は記憶に新しいと思いますが私とジェーンで心臓マッサージをしていた警察官の方です」
「ですが、こう言ってはなんですが、あの方達はそれも仕事の内なのでしょう?貴女のせいでは無いのでは?」
哲子の言葉にクアトロ・セブンはそうですねと少し難しそうに頷いた。
「ですが、私はそう思いません。
魔法少女はキメラを唯一倒せる存在です。本来なら、私達魔法少女だけでキメラだけを排除するのが理想ですが、現実は違います。
警察、自衛隊が本業の枠を超えて一般人を保護し、魔法少女が駆けつけるまで文字通り命懸けで戦います。彼等の持つ装備は一般人よりは『マシ』ですが、それでも魔法少女と違って殆ど歯が立ちません。
彼等の本分は人間を人間から守るのであり、人間をキメラから守るのではありません。それは私達魔法少女の使命なのです。そして、そんな使命を果たせず彼等に手助けして頂いていると私は思っています。
故に、私は彼等には生き残って貰うためにキメラの弱点と習性をテレビの生放送でやりました」
クアトロ・セブンの言葉に哲子は大きく頷いた。
「確かに、彼等は私のせいで亡くなったのではありません。
警察や自衛隊がキメラから民間人を保護しましょうと、法律で決めたので彼等はその職務に従って、結果死亡したのです。ですが、私はそう思いません。彼等の使命は飽く迄も人間が人間を守るのであって、キメラから民間人を守るのではないのです。
彼等を侮辱したり貶したりする意味は一切ありません。しかし、彼等は私達魔法少女とは違うのです。ダンプカーはレーシングカーとは違い、レースする車ではありませんし、戦車はゴミ収集車と違ってゴミを集める車ではありません」
「つまり、用法が違うと言うことで?」
「そうです。
用法が違うのにそれを無理に付きあわせてしまっているので、私はその犠牲と成った彼等を単に『殉職』とするのを良しとしていないのです」
クアトロ・セブンは長々と下らないことを語ってしまい申し訳有りませんと自傷めいた笑いを浮かべた。哲子はそんなことはありません断言した。
「私、正直、今の今まで魔法少女の方達って少し野蛮な方達だと思ってましたの。
勿論、悪い意味ではなく、何というか、ほら、テレビで見てるとビルを飛び越えたりして大きな剣を振り回したり機関銃を撃ちまくってるでしょう?」
「ええ、魔法少女排斥派は私達を悪鬼羅刹の様に言っていますからね」
クアトロ・セブンの言葉にジェーン・ザ・リッパーもウンウンと笑う。
「私は少なくともクアトロさんがどのような思いを抱いて、あの方達と戦っているのかよく分かりました。
貴女の思いを下らない何て私は絶対思いません」
哲子の言葉にクアトロ・セブンはありがとうございますと頭を下げる。
それから、哲子は話題を変える為に大きな剣を振り回したりしているが、あれは重くないのか?と尋ねた。
「重いですよ。
私の銃は8kgあります。持ってみますか?」
「よろしいので?」
「ええ」
クアトロ・セブンがM1918“ブローニング・オートマチック・ライフル”自動小銃を取り出す。弾倉を抜いて、槓杆を5回引く。安全装置を掛けた上で哲子の前にBARを置いた。
「これはM1918自動小銃です。
ブローニング・オートマチック・ライフルと言い、BARとも呼ばれます」
クアトロ・セブンが補助をしながら哲子にBARを持たせる。
「あら!とても重いのね!
これ、本当に8kg?」
「ええ、正確に言えば8kgとちょっとあります」
哲子がありがとうございますとクアトロ・セブンにBARを返すとクアトロ・セブンはそれを消した。
魔法少女の武器は魔法少女が任意で消したり、変身を解くと消せるのだと説明すると、哲子がそれなら盗まれても大丈夫ねと告げ笑いを誘う。勿論、盗まれる事はあまり無いが乙種や一部甲種魔法少女は使い捨てで武器を取り出しては捨てるという戦い方をするので、紛失することが多々ある。
しかし、上記の理由から殆ど気にされることはないのだと説明すると哲子が成る程と頷いた。
「折角なんで私のも持ちますか?」
ジェーン・ザ・リッパーがどーぞと太刀を取り出して哲子に渡すと哲子がそれを受け取る。
「そういえば、ジェーンさんはこの刀やその甲冑の様なドレスを作って売っているそうで」
「ええ、そうですよ。
コスプレしたいっていう人用に私の衣装や武器をそのままデザインして複製してるんですよ。刀は日本では模造刀として販売してますが海外ではちゃんと刃が付いてて売ってますよ」
大体10万円位ですと告げると、哲子がそれは高いので?と首を傾げた。
「どうなんでしょうかね?
でも、世界中で売れてますし、下手なコスプレ品より上部で動きやすいし、多分、価格に見合った性能ですよ。まぁ、それでもキメラに斬られたら下手したら死んじゃいますけどね」
そりゃそうでしょうと哲子が笑う。説明書には『この衣装を着てキメラと戦わないで下さい』って書いてありますよと告げると、哲子が嘘でしょう?と告げる。クアトロ・セブンが携帯を取り出して本当ですよと衣装の説明書の写真を哲子に見せる。
哲子があらほんと!と驚いた顔をした。
「良かったらプレゼントしますよ。
と、言うかプレゼントします。模造刀と衣装。セーラームーンのコスプレしたので良かったらこれも着て下さい」
「はい、着てみます」
哲子の言葉にジェーン・ザ・リッパーがありがとございますと笑った。
「戦っている最中は何を考えているので?」
「私は周囲への被害を考えながら戦ってます。
私は銃を使います。包囲をしている警官や自衛官に流れ弾が行かないように、また、キメラが彼等の方に向かわないように考えています。私が教育係をしているテン・バーにもキメラを包囲の中心に持って行き、自分の武器、キメラの攻撃が周囲へ行かないように徹底指導しています」
「私は特に何も考えてないかなぁ~
最近じゃ、とっと始末して家に帰る事ね」
「そういえば、最近ジェーンさんとクアトロさんは一緒に活動しているそうですね。
お友達なので?」
哲子の言葉に2人は向き合い、それから大変仲の良いお友達ですと答えた。
「家族ぐるみの付き合いもありますよ」
「ええ、そうですね」
「あら!そうなの?
魔法少女の方達って仲がよろしいのね」
「私の周りは比較的仲が良いですね。
ですが、基本的には商売敵でもあるのでこれはもう人それぞれです」
クアトロ・セブンの言葉にジェーン・ザ・リッパーがそうだねと笑った。そこでちょうどディレクターが1日目の収録分は完了、締めに入って下さいとカンペを出す。哲子はそれを見たあとに頷いた。
「本日のゲストは魔法少女のクアトロ・セブンさんとジェーン・ザ・リッパーさんです。
明日も引き続きお二人のインタビューを流します」
哲子がそう告げた所で頭を下げ、カメラが引いて2人も頭を下げた。そして、暫しの休憩。クアトロ・セブンが立ち上がり、ジェーン・ザ・リッパーも立ち上がる。
「トイレに行ってきます」
「私も」
そして、2人は廊下に出ると、ジェーン・ザ・リッパーがクアトロ・セブンの隣に並ぶ。
「女子トイレに入るの?」
「私、女性の排泄に興奮する性癖は持っていません。
勿論」
クアトロ・セブンがジェーン・ザ・リッパーの耳元に顔を寄せる。
「仁のなら別だが」
クアトロ・セブンの言葉にジェーン・ザ・リッパーはとんだ変態だと笑い、そのまま2人はトイレに入っていった。
暫くした後に外に出るとスタッフの何人かが外に居た。
「あ、あの、多分、貴女は知らないでしょうが、貴女のお陰で名古屋に居る親戚の命が救われました。
ありがとうございました」
「俺の母さんもアンタに豊田で助けてもらったんだ。ありがとう」
スタッフ達はそう言って頭を下げる。
「どういたしまして。
私達はその為に居るのですから。守れて良かったです。それでは失礼します」
クアトロ・セブンはそう告げるとジェーン・ザ・リッパーと共にスタジオに戻っていった。




