第五十二話
昇と仁が部活を終え、仁のマンションに帰宅すると同時に、宇山江から電話が掛かって来た。
「何だ」
「おう、真が魔法少女に変身したぞ」
「はぁ?顔でも洗って来い税金泥棒」
「違う違う、マジだから。マジの奴」
昇と話していると仁の携帯が震える。仁はそれを見てから、ディスプレイを昇に見せる。其処には西洋人が考えたSF忍者っぽい奴が写っている。周囲には何やら黒っぽい粒子が浮かんでいた。桜がエロゲの陵辱ヒロインだとしたら、此方はアメリカのダークヒーローだろう。
「本当みたいだな。
学校から一歩も動くなよ。柳葉に連絡してやるからな」
昇は電話を切り、柳葉に電話をする。柳葉は3コールで出たので、真が魔法少女に成り現在学校にいると告げると、柳葉は直ぐに向かうと切れてしまった。
昇も電話を切ると、仁がメールで送られてきた画像を見ながら誰ぞ?と首を傾げているので、昇は真だと告げる。仁ははぁ!?と昇を見るが、昇は僕はそれどころじゃないんだと告げて台本に視線を落とす。
撮影は夏休みが始まったその日の午後から行われる。
「この撮影スケジュールは順位不同なのか?何故行き成り最終場面に近い場所から撮るんだ?」
「いや、自衛隊や警察に協力してもらうにしても、彼等にも時間の都合があるからでしょ」
仁の言葉にああ、そうかと思い付かなかったと言う表情で頷き、台本に視線を落とす。
「しかし、クアトロ・セブンはこんな事喋らんぞ」
「まぁ、アドリブで変えても良いって言ってたし、セリフの意味が通れば良いんじゃね?」
「そうか」
昇は台本を暫く見てから、脇に置いた。仁はどうしたの?と尋ねると昇は飽きたと告げ、モソモソとゲームを付ける。魔法少女をモデルにしたアクションゲームだ。愛用はクアトロ・セブンをモデルにしたキャラでザコ敵を撃ち殺していく。
「台本読み込まないで良いの?」
「基本的な流れさえ分かっていれば、あとはアドリブでもなんとかなる。
それに、僕は演技が苦手だ。学芸会では木Fや村人Eだったぞ」
「それは私も」
「なら、下手に練習をしない方が良い。
生兵法は怪我の元だ」
昇は尤もらしい言葉を述べ、コントローラーを脇に置いた。区切りがついたので止めたのだ。
「しかし、真が魔法少女と成ったらより一層手強いだろうな」
「だね~
正直、真っちとけーちゃん滅茶苦茶強い。飛び道具相手の戦いに慣れ過ぎでしょ」
仁の言葉に昇は全くだと頷いた。仁も慶太郎もM1918“ブローニング・オートマチック・ライフル”自動小銃が放つ.30-06弾の弾頭にビビる事がなく、冷静にその銃口と昇の視線、トリガーに掛かる指の動きを見極めて致命弾に成る弾丸は避け、そうでない弾丸は相手にしない。仁ですら長い間の修練を必要としたその技術をわずか1ヶ月ほどで手に入れたのだ。
昇は勿論仁もその恐るべき成長力に舌を巻く。そして、いかに自分が慢心していたのかを思い知った。
「真は丙種だろう。
丙種ははっきり言って最強か最弱のどちらかしか居ない」
「あぁ、まぁ、そうだね。
けーちゃんみたいなガチの超能力系ははっきり言ってヤバイぐらいに強い。けーちゃんもあと1年もすればきっと私でも手こずる相手に成るよ」
仁は前は運良く勝てたけど、次はそうもいかないだろうと告げる。事実、慶太郎と仁が戦った際に慶太郎を生け捕りにした高速道路での戦いは慶太郎が自身の能力に不慣れで、理解が及んでいなかったら勝てたのだ。
電撃の特性と自分が出来る事、出来ないことを完全に把握し、熟知されていたら高速道路に貼り付けにされていたのは間違いなく仁の方だった。
「真は持ち前の運動神経の良さにキメラ並みの運動能力と反射神経、筋力を持ってる。
あれは反則だ。到底かなわない。僕はもうあんな“化け物”と戦いたくない」
「酷い言い方。
でも、まぁ、昇の言いたい事も良く分かる」
仁は寄りかかってきた昇を抱き、そのまま頭を撫でる。
「しかし、桜とコンビを組ませれば実に映えるだろうな」
「あー、コスプレっぽいしね」
仁の言葉に昇はああと笑う。コスプレっぽいと桜に告げると桜は烈火の如く怒る。そして、兄貴なんてニッチなコスプレじゃないのよ!とご尤もな事を言う。桜の言葉に思わず納得してしまった。そして、その事を告げると更に激高し昇の部屋に立て籠もってしまい、ご機嫌を取るのが大変だった。
因みに、仁の家に泊まるので毎晩、毎朝、桜から電話が掛かって来る。朝は最低でも15分、夜は1時間の通話をしないと桜が納得しない。仁は良くもまぁそんなに話すことが有る感心している程だ。
「しかし、このサイボーグ忍者めいた格好はどういう能力なんだろう?」
「画像を見る限りは周囲に浮かんでいる粒子が攻撃なり防御なり特殊な作用をするんだろう。
実際に能力を見てみないことにはどういう物か分からんがね」
「せやな」
2人は情報が足らないのでこれ以上考えても無駄だと判断し、早々に風呂に入って事をいたして寝ることにした。
◇◆◇
翌日、案の定真は学校を休んだ。慶太郎は学校に来ており、事情を聞くとどうやら宇山江と柳葉が真の処遇を巡って何やら火花を散らす静かな交渉をしていたそうだ。
具体的な能力は不明であるが、何か忍者っぽい。とにかく忍者っぽかったと余り参考に成らない情報を受け取った。また、真からの連絡は内容で放課後、3人でBARウィリアムズにでも行って情報を手に入れようという話になった。
宇山江は当然のごとく休みで部活も無しになった。能力は丙種で確定しているが、その能力がいまいち分からんとの事で多分、その力を制御するのに苦労するだろうと慶太郎は告げる。昇も仁もそれぞれ乙種と甲種なので丙種特有の能力での悩みというのが分からない。
なので、そうなのかと素直に頷いておいた。知ったかぶりをした所で何の利益もないし、意味もない。
「慶太郎は魔法少女に目覚めた時は電撃を操れなかったのか?」
「ええ、まぁ、そうですね。
変身して、母さんが驚いて警察に電話。その後、自衛隊が来て、取り敢えず変身の仕方だけ教えて貰い、能力を制御出来るようになるまで訓練してようやく開放って感じでした。
母さんが魔法少女として仕事するのは大反対だったんでその後柳葉さんとかの監視下に置かれてましたけど、今は警察協力の魔法少女として登録してます。講習会で会いましたけど、覚えてませんか?」
慶太郎の言葉に昇も仁も覚えていないと告げ、慶太郎は昇に背中をゴム弾で10発程撃たれたと告げると、そういえばそんな事もあったなと漸く思い出した様子で頷いた。
最も、慶太郎は今のところ警察協力の魔法少女としては何の仕事もしてないので報酬も成果もゼロなのである。その内、この警察協力の魔法少女制度も正式に枠組みが作られ、現在は一部の政令指定都市でしか実行されていないが、全国規模に拡大する予定らしい。
そうなると、今度は魔法少女が少ない地域と多い地域で地域格差が起こったり、また現場刑事との啀み合いが起こるのは容易に想像出来るが、まぁ、それは昇や仁、慶太郎の関知する所ではない。問題が起こってもきっと5年や10年経たないと法律改正はしない。
日本は憲法に始まり法律に至る全てにおいて「一度決まったら変えるのは凄く難しい」と言う国だ。時代にそぐわない憲法や法律を尊重するので段々と憲法や法律と国の在り方が矛盾しているのである。
「そういえば、先輩達はドラマの台本読み込みは終わったんですか?」
「昨日一晩二人して考えたが、あれは流れと何を言えば良いか分かっておけば多少変えても問題ない。
僕達は木と村人だ。ある程度は隙にやらせて貰う」
昇のバッサリとした宣言に慶太郎はまぁ、そうなんだけど、それでいいのだろうか?と思ったりもする。最も、無表情で無感動のミステリアスボーイたる昇と変身前は凄まじい人見知り、変身後は気違いな仁にまともな演技を求める方が間違っているのだろう。
棒読くん、棒読みちゃんが演技した方がマシと言うレベルに成らなければ良いと慶太郎は勝手に納得し、頑張って下さいと当り障りのない応援を口にしておいた。
そして、そんな下らない話をしているとあっという間にBARウィリアムズに着く。扉にはCROWSの表札が掛かっているが昇はそれを無視して中に入る。中では礼威と赤池が夕方の営業に向けて仕込みの為か野菜を切っていた。
「あ、どうしたんですか?」
「やぁ、昇君に仁さん。そして、慶太郎君」
2人は昇達に顔だけ向けて挨拶をする。昇はタケさんをと告げると、赤池がマスターなら今は出掛けているよと告げた。何でも“上”に呼ばれたそうだとかで夜には帰ってくるらしい。
要件があるなら伝えておこうと赤池が言うが、昇達は其処まで大した事ではないと告げる。
「真が魔法少女に成ったのだ」
昇の言葉に赤池と礼威が少々驚いた表情を見せる。そして、先を促すが、昇も仁もそれ以上の詳しいことは知らないし、慶太郎にしてもあの後10分程で柳葉が来て真の処遇を巡って冷戦状態に突入し、そのまま真を連れて3人でどっかに行ってしまったとか。
一端家に帰ってから柳葉がお子さんが魔法少女に成り、丙種魔法少女だったので能力の解析、そして、その能力が安全にコントロール出来るようになるまで自衛隊が保護しますと告げ、保護者、つまり真の母親にそう告げたそうだ。
勿論、真もその席に同席して変身をしてみせると、母親は家出の次は魔法少女か!と驚いていたそうだ。それもそうだろう。
現在は滋賀県にある大津駐屯地に居るらしい。大津駐屯地は教育隊が置かれている。其処で魔法少女としての基本的な訓練をしたり、能力をコントロールする訓練をするらしい。昇も3ヶ月の自衛隊での特訓は此処で行った。
コントロール出来るようになるまで早ければ2日、遅くとも1ヶ月はかからんとの事だが、真の場合キメラにも変身出来るので多分、1週間は帰ってこれないだろうと昇達は算段していると告げると、赤池もそうだろうねと告げた。
礼威は完全に他人ごとで、大変そうですね~とじゃがいもの皮を剥く作業に専念している。赤池がこれ幸いにとサボっているので礼威までサボると開店までに終わらないからである。
「しかし、丙種魔法少女か。
私の時は力加減が大変だったよ。最も、多くの“実体験”を重ねたから今では自在に操れるけどね」
赤池は脇においてある包丁に来いと指でやると、包丁が浮かび上がり、そして、皮の剥けていないじゃがいもを1つサイコキネシスで取り寄せると手を使わずに綺麗に向き始めた。3人はその行動に素直に感心する。
「因みに、皮むきは最大で5つまで出来るよ」
赤池がそう言うとキッチンの方においてあるナイフが全て飛んで来てじゃがいもの皮をシャカシャカと向いていくではないか。
礼威がそれが出来るなら最初からやって下さいよ!と憤慨すると赤池は能力を妄りに使うのは良く無いことだと笑う。礼威は知っている赤池が物臭で能力を使って接客をしていることを。やって来る客は驚いているが、魔法少女なんですよと笑って告げると客達は納得した上に羨ましそうに見ている。カウンター席に陣取り、接客どころからウェイターの役割すら放棄している赤池に今一度、今の言葉の指す所を教えてもらいたものである。
「お前はそう言ってこの前家で夕飯を食べた時に能力を使ったそうだな。
桜が凄い凄いと言っていたのを知っているぞ」
「あれ?桜ちゃんには言わないようにと告げたのにな」
赤池はまぁ、良いやと笑い、君が居ない事を桜ちゃんは大いに憤慨していたよと告げると、昇は知っていると頷く。
「僕が居ないことを良い事に桜に何かしたら貴様を殺しに行くからな」
昇はそう告げると、タケさんが居ないんじゃしょうが無いと帰る事にした。それから昇と仁は昇の家に行こうと言う話になる。昇が慶太郎も来ると良いと告げ、3人は昇の家に向かう事にした。慶太郎は突然の来客に迷惑じゃないか?と聞くが、問題ないと断言し家に向かう。
弓やクロスボウ、スリングショットって一体甲乙丙のどれに成るのか考え始めたら割と真面目にわからなくなった今日此の頃
普通に乙種なのだろうけど、乙種と違って矢単体でも武器になりうるから甲種とも言える
矢の特性で甲乙丙を分けるのはどうだろうか?と思ったけど、そうなると乙種ではなく甲種と丙種に成ってしまう
甲種はよくある矢で丙種はまどマギ的な矢
で、結局弓とクロスボウは甲種と丙種でスリングショットは乙種にしようと決めた
荒木貞夫もそう言っている




