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第五十一話

 真は宇山江達と一緒に居たせいもあり、最近暇になったら常に魔法少女の勉強をするようになっていた。甲、乙、丙の三種類いる魔法少女を相手にどう戦い、制圧するか?と言う実に物騒な思考を持って考えてしまう。


 また、戦う場所によっても幾つかのパターンを想像しなくてはいけない。戦闘はその時その時、一瞬一瞬で勝敗が決定するのであるが、それでも事前にある程度の戦術を決めておけば体が勝手に動くだろう。そういう意味では非公認の魔法少女纏めウィキのようなサイトはありがたい。


 日本の魔法少女に関して言えば、このサイトを覗けば1から10に至る全てを網羅出来る。現在の所、クアトロ・セブンとジェーン・ザ・リッパーに唯一黒星を付けられており、それ以外は圧倒している。戦っていはいないが多分、宇山江とザ・オールド・ワンと戦えば負けるだろう。


 宇山江は魔法少女の種類は不明だし、どういう戦術を取るのかも不明だが、生半可な強さじゃないのはその態度からして分かる。隙しかないように見て隙がないのだ。“家出”中に呼んだ剣客商売に出てきた秋山小兵衛はきっとあんな感じなのだろうという恐ろしい程に隙のない人物だった。




「あ、パックがまた何か動画あげてる」




 そして、夜になり、速報と出して見出しにパックがフェイスブックやツイッターに上げた動画がまとめサイトに取り上げられている。動画の内容はクアトロ・セブンが栄の地下街でひったくりを捕まえたと言う内容の動画である。


 コメントには『僕の親友がひったくりを捕まえたよ!日本の魔法少女はスーパーマンみたいだ:-)』と描いてあり更にその続きには『しかし、その後に悲劇が起こったんだ。僕は日本の魔法少女に酷く同情するよ:-(』と書いてある。どんな内容なのかと気になった真は動画を再生する。動画は編集されているようで、ひったくりよ!と声が聞こえた瞬間から始まる。暫く動画にはクアトロ・セブン、ジェーン・ザ・リッパーとジェシカが映っており、クアトロ・セブンがジェーン・ザ・リッパーにハンディーカムを渡すと同時に人垣から1人の男が現れる。手には女物のカバンを持っており、動画が一時止まり矢印で『彼がひったくり犯だよ』と注訳が付く。周囲の人間とひったくり犯は顔にモザイクがかかっていた。


 そして、ひったくり犯が退けと叫び、クアトロ・セブンが嫌でございますと答える。下にはご丁寧に英語の字幕付き。


 すると、男は包丁を抜いてクアトロ・セブンに斬り掛かる。この程度の動きならクアトロ・セブン、昇は余裕で躱せる。昇は手にM1918“ブローニング・オートマチック・ライフル”自動小銃を出現させると、槍を突き出すように突進してくる男のみぞおちに銃口を叩き付けた。男はその証言に小さく呻きながらバタリと倒れ、包丁とカバンを取り落とした。


 映像はジェーン・ザ・リッパーが取っている物に成り、パトリックやジェシカの凄い!とかカッコイイ!という声が聞こえてくる。ジェーン・ザ・リッパーがカメラを掲げて自分も入れながら皆は真似しちゃダメだぜ?と言っている。


 そして、また動画が止まり『此処までは良かったのだけれども、次からは本当に残念な出来事が起きたんだ』と表示された。




 動画が再開すると1人の女が顔にモザイクが掛けれた状態で喚いていた。カバンに傷が出来ているとしてクアトロ・セブンに弁償を要求し、更にはクアトロ・セブンの正体に気がつくと人殺しと叫び出したのだ。


 そして、また動画が一旦停止して字幕が出る。『日本ではキメラを病人と考えている人間が非常に多く、魔法少女をヒトラーやスターリンと同様に大量殺人鬼だとする考えが非常に強いみたいなんだ。そして、この女性はその考えの人間なんだろう』そう書かれていた。


 文章はまだ続く『僕はそういう考えはいけないとは言わない。だが、親友の行った行動に感謝もせず非難するような事は絶対にしないで欲しい。ジェーンに「これの光景はいつものこと」と言われ強いショックを受けた。僕は別に彼女を責めたり、魔法少女を非難する人に何か言うわけじゃない。でも、こう言う非常に残念な事は絶対に止めて欲しい。パトリックより』と書かれて終わっていた。


 動画には公開から2時間ほどしか経っていないにも関わらず既に1万を超える再生と2千を超えるコメントが投稿されていた。動画の8割がグッドと評価し、残りがバッドと評価していた。そして、コメントの殆どがクアトロ・セブンを賛美し、女を貶すのが殆どであり、世界各国の言語で投稿されていた。


 真は早速慶太郎に電話を掛けてこの動画を知らせることにした。




「もしもし」


「どうしたの?」


「うん、パックが凄い動画上げてる」




 真の言葉に慶太郎がああ、俺も見たと笑う。それから、先輩大変だよねと少し同情した様子で告げる。真もそうね~と少し苦笑気味に告げた。それから少し会話をしてから電話を切る。


 テレビを付けると深夜のニュースに既に取り上げられていた。魔法少女排斥派のテレビ局ですら最初はクアトロ・セブンに同調気味であったが、結局魔法少女排斥に走る論調だったので画面に向かって中指を立てておく。


 次に擁護派のテレビ局を見ると徹頭徹尾クアトロ・セブンに味方し、反魔法少女派を扱き下ろしていた。真はどちらかと言えば魔法少女擁護派に転化し始めたので見ていて気持ちのよい此方のテレビ局を贔屓することにした。


 BPOに文句言ってやろうかとも思ったが、どう文句を言えば良いか分からないので止めておいた。しかし、それにしたってクアトロ・セブンは強い。一切無駄な動きがなくBARを取り出してから男の鳩尾をど突くまでの一連の動作が一挙動で終わっている。


 他所から見れば見るほど、クアトロ・セブンを打倒するのは難しいと思うようになる。2対2で戦い相打ちに終わったのはあの2人が用意と覚悟を持てば自分を凌駕出来ると言う事だ。勿論、2人にはもう何の恨みもなければ過去の事は綺麗さっぱり水に流し、今では前以上に良い関係を築けている。


 だが、剣道一筋に生きてきた真にも大なり小なりの自負とかプライドというモノが有る。2人に勝ったのは後にも先にも最初に出会ったあの時のみで、それ以外は引き分け、いや敗北にも等しい引き分けをしている。


 どうしても、あの2人を想定する戦いだと何をどうやっても負けてしまう。個別での戦いは条件に寄っては勝てるだろうが、どうしても他の魔法少女より負けが多くなる。


 ぶっちゃ、クアトロ・セブンやジェーン・ザ・リッパーと同等かそれ以上の経歴を持った魔法少女も多い。しかし、アイアン・フィストやベルサイユと対峙した戦いを想定しても、ジェーン・ザ・リッパーやクアトロ・セブンと対峙する戦いよりも簡単に相手を圧倒出来てしまう様な気がするのだ。


 実際に戦ってみないことにはそれはどうにも分からないのであるが、あの2人のコンビに敗北したからかクアトロ・ジェーンと言うコンビが真の中では最強のコンビに成っている。




「う~ん……


 やっぱり、昇は強いなぁ。私も魔法少女になったら強くなるのかしら?」




 真が取り敢えず、仮面ライダー風の変身ポーズを取ってみる。モデルは一号。トウ!と掛け声をかけてジャンプしてみるが、勿論変身はしない。そして、着地してから自分のやっていることが近所の小学生低学年どころか幼稚園児と殆ど変わらない事に気が付き、その場で悶絶する。


 暫く悶絶した後、気を取り直してから気晴らしに慶太郎に電話を掛ける事にした。さっきの今なので出るだろうと思い電話を掛けてみたが、出ない。どうしたのだろうか?と考え、時刻を見れば8時を回っているので、風呂だろうと勝手に納得した。


 暫くすると、慶太郎から電話が掛かって来る。お風呂に入っていたという返答だ。




「それで、どうした?」


「うん、クアトロ・ジェーンコンビをどうやったら倒せるかなって……」


「あぁ、うーん……」




 慶太郎が真の意図を読み取ったらしく暫く沈黙。それから、今のままじゃ無理じゃないかな?と無情な結論を出す。真もその結論には辿り着いており、お互いにう~むと唸りながら思案する。勿論、特訓と言う方法がある。特訓を頼む相手は戦いに関して言えば2人が一番信頼をおいている宇山江であろう。


 勿論、宇山江に頭を下げるのは御免被るし、そもそもクアトロ・ジェーンの組み合わせと表立って本気で戦うことはないだろう。ウィークエンドは既に死んだのだ。だが、負けっぱなしは気に入らない。多分、再戦は2人に頼めばお安いご用で行けるだろうが、策無しに突っ込むのはアホの極み。


 故に2人は悩んでいるのだ。覆しようのない圧倒的な経験値の差、これが一番の問題だろう。




「う~む、やっぱりしょうが無いから先生に聞いてみよう」


「やっぱり、それしか無いか」




 2人はそう告げると実に嫌そうに溜め息を吐くと、また明日と告げ電話を切った。それからせめて何か必殺技めいた物が欲しいとそれから仮面ライダーやら戦隊ヒーローものやらの動画を見始め、気が付いたら深夜を回っており、結局月曜日は寝不足でまともに授業が受けられなかった。






◇◆◇






 月曜日の放課後、部活も終わり昇と仁は一足先に帰っていった。何でも台本の読み込みが有るとかで忙しそうだった。真と慶太郎にとっては調度良いと、何時ものように道場にマットを敷いて寝ている宇山江を訪れる。




「おい、起きろ宇山江」




 慶太郎が宇山江の頭に先程まで自身が使っていた籠手を宇山江の顔の前に持っていく。剣道の道具で最も臭いのは籠手である。理由としては最も汗を掻くためであり、その臭いは雨季になるとカビが生えるんじゃないか?と言う程だ。


 因みに、昇は金に物を言わせて籠手を複数個持っており、日替わり+定期的に選択しているので臭いは殆ど無いし、雨季はカビも生えさせない徹底している。また、籠手の皮も直ぐに破けてしまうがこのローテーション制のお陰で一度も破れていなかったりする。


 話を戻そう。慶太郎も真もそこまで金を持ていないので籠手は1つ、雨季明けとは言え先程まで稽古に使い汗をびっしょり掻いている籠手を顔に押し付けたのだ。宇山江は声もなく悶絶、慶太郎に目にもともらぬ速さで蹴りを食らわせた。




「クッセ!?


 何だテメェ!?」


「イテテ……


 俺じゃなかったら絶対大怪我してたぞ……」




 宇山江の蹴りを後方に飛んで緩衝した慶太郎がそう告げると、宇山江は脇に転がってる籠手を蹴飛ばして次やったら殺すと中指を立てる。




「で、何の用よ?」


「先生、クアトロ・ジェーンのコンビに勝ちたいから何か教えてよ」


「適当過ぎるだろうお前。


 何かって何だよ」




 真の言葉に宇山江がよっこらしょとマットに座る。それから、真の慶太郎に向き直り、確かに今のお前等じゃ彼奴等に勝つのは逆立ちしたって無理だなと告げる。例えるなら、チャック・ノリスとスティーブン・セガールに挑むテロリスト一味のAとBだからなと笑う。


 つまり、雑魚と言いたいらしい。




「まぁ、私なら彼奴等倒すのは楽勝だがぶっちゃけ技術だけあってもお前等経験ねぇもんでどうしようもねぇんだよなぁ~」


「そこを何とかして欲しいんだよ、先生」


「無茶言うなよ馬鹿かお前」




 真の言葉に宇山江がやっぱりお前はアホだと告げる。真はう~むと唸り、仮面ライダーみたいな必殺技が欲しいと告げる。真の言葉に宇山江は何じゃそりゃ首を傾げた。




「ほら、慶太郎は電撃が有るわけじゃない?ジェーン・ザ・リッパーは刀、クアトロ・セブンは機関銃。


 でも、私って私固有の武器ないじゃない。だから、それに纏わる必殺技的な物も殆ど無い」


「お前にHCARと日本刀あげただろう」


「だって、あれ柳葉さんが持ってるから貸出するの面倒臭いんだもん。


 それに、あの人に「必殺技開発したいから銃と刀貸してください」って言って貸してくれるとは思えない」




 真の言葉に宇山江も慶太郎もそりゃそうだと笑った。




「じゃあ、もう、お前、魔法少女になれよ」


「そう、ポンポンなれるもんじゃないだろうが」




 宇山江の言葉に慶太郎がアホらしいと言わんばかりにそう告げる。




「いや、分からんぞ。


 科学の技術で自制可能なキメラが出来るんだ、気合で魔法少女にだってなれるだろう。しかも、お前は人造キメラだ。その力も作用するかも知れん。もし、魔法少女に変身したらお前はお前に仮面ライダーの名前をやるよ」




 宇山江がそう笑い、真は馬鹿にしやがってと思いつつ仮面ライダーの変身ポーズをやってみる。その瞬間、真の体が光り輝いた。




「え?」



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