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第三十八話

「さて、桜ちゃんと言ったかな?」


「そうよ」




 現在、赤池は昇の妹である桜と共に昇の通う高校近くのカフェでお茶をしていた。時刻は午後5時。学校が終わる時間だ。桜もフリースクールが終ってそのまま此処に来ていた。貼り込みだからという理由で桜は何時になく気合の入った派手な地味目の衣装を着ている。赤池はファッション雑誌にある服を一着丸々買って着ている。


 二人共服のセンスは良いので2人揃って座って居るのでモデルの撮影会か何かと思うほどに似合っていた。




「アンタは何で人殺しなんてしたのよ」




 話の種にしては余りに早過ぎる上に直球な質問に赤池は思わず苦笑した。桜は気が強い少女だ。実に気が強い。其処が赤池の好みの点であり、この尾行と張り込みにも採用した長所である。敬語を知らないのか、赤池に敬語は使わないようだ。




「君はゴミを処分するのに一々理由を考えるかい?」


「つまり、犯罪者はゴミってこと?」


「そうだね。


 人間誰しも1度は間違いをする。でも、それに悔いること無く平然と犯罪を貸し続けるのは最早人間ではない。犬畜生と違って人間の利益も成らない。そういう存在をゴミと言う以外に男と言えばいいのか私は分からない」


「成る程。アンタは確かに気違いね!」




 桜はでも気に入ったわと告げると手元のアイスティーを一口飲む。 




「しかし、君は私を恐れないのかね?


 刑務所の刑務官達は皆一様に銃を握り締め、ガタガタと震えていたよ?」


「別にたかが人殺し程度で驚きはしないわ。


 アンタはたった30匹ぽっちのゴキブリの子供を殺した所で、私のお兄ちゃんは300匹の耐久性ゴキブリを狩ってるんだもの。アンタ程度でビビってたら、私はお兄ちゃん相手に小便を垂れ流して気絶せにゃいけないじゃない。


 そうでしょ?」




 桜がパンケーキにフォークを突き刺して口に運んだ。




「まぁ、アンタとお兄ちゃんを同列に並べて考えるのは私が許さないけどね。


 アンタは人殺し、お兄ちゃんは正義の味方。アンタとお兄ちゃんじゃ雲泥の差よ。いや、石ころと月ね。勿論、アンタが石ころ」


「ハッハッハ、君は本当に昇君が好きなんだね」




 赤池はそう笑うと、ウェイトレスにメニューからカルボナーラを頼む。


 時間はまだある。教師達が帰宅するのはだいたい7時以降で、酷いと9時や10時になる。つまり、彼女達はこれから2時間ほどこのカフェの一角を占領しようと言うのだ。因みにカフェは午後8時で閉まってしまう。




「べ、別にす、すす好きじゃないわよ!」




 桜の言葉に赤池はそうだねと笑い、コーヒーを一口飲んだ。


 それから彼女達は実に他愛のない会話が行われていく。と、言うか桜が一方的に刑務所では何をやっていたのか?とか丙種魔法少女は弱いと聞いたが本当なのか?とかそういう話をしていく。そうこうしているとアッと言う間に2時間ほど過ぎて午後7時に成った。


 周囲は既に暗くなりカフェにも照明が灯る。学校からも教師と思われる成人を超えた男女がチラホラと出て来る。赤池は今一度桜に尾行対象である宇山江神代の顔写真と身体的特徴を確認させる。




「尾行の心得はね。相手を見ないことだよ。尾行が悟られそうに成った場合はそれ以上無理に尾行しては行けない。そもそも、不審がられた瞬間には既にそれは失敗さ。


 問題は、その失敗した瞬間にどうするか、が焦点となるんだ。一番簡単なのは素知らぬ顔で暫く後ろを歩いて行き、適当な場所で曲がったりすることだ。まぁ、今回は君と一緒だからね。君はただ付いて来るだけでいいさ」




 赤池はそう言うと校門に視線を飛ばす。宇山江が出て来たのだ。車に乗り、運転席に宇山江が、助手席には同僚と思われる女性が乗っている。彼女達は知らないだろうが、宮城である。




「ほぉ、TVRのタスカンスピード6じゃないか」


「なにそれ?」


「知らないかい?


 西部警察ってドラマは知ってるかな?」




 赤池は伝票を片手にレジに向かい会計をしながら話を進める。




「西部警察?


 ああ、ショットガンで狙撃するって奴でしょ。お兄ちゃんが言ってたわ」




 桜の返事に赤池はそうだがそうではないと笑う。




「まぁ、良い。


 兎に角、2003年にテレビドラマシリーズを復活させようって話になってね。日本の主要な都市、確か名古屋とか大阪とか広島とかだったかな?そこで大規模な撮影をしていたんだよ。


 で、第一話は名古屋の栄で撮られたんだ。後は金城埠頭やガーデン埠頭でも撮影しててね。君、名古屋港に行ったことあるかい?」




 2人は外に出て止めてあった自動車、BMWのM3に乗り込む。赤池が運転席、桜が助手席だ。色は黒で、警察用無線も受信できる無線機が積んであった。柳葉が用意した自動車であり、一応念のためということで発信機も付いている。




「名古屋港は行ったこと有るわ。小学生の頃と、まだ私がさくらの中に居た頃に」




 名古屋港水族館と南極観測船ふじを見たと告げた。




「後、特別公開された南極観測船しらせも見に行ったわ。


 お兄ちゃんが魔法少女だから、乗組員の激励も兼ねてだったけど関係者の一人として特別におばあちゃんとおじいちゃんと一緒に」


「ほぉ、君のお兄さん、ノボル君は随分と妹思いなのだね」


「当たり前よ!」




 赤池の言葉に桜は胸を張って言う。




「私がお母さんと一緒に刺された時、お兄ちゃんは逃げずにキメラに向かっていったんだから!


 魔法少女に成って、お父さんとお母さんを殺し、私を刺したキメラに敵をとってくれたんだもの!」




 お兄ちゃんは世界で一番凄いのよと桜は赤池に告げる。


 故に、その最愛の兄を困らせている目の前の宇山江某が許せないのである。桜自身にほとんど力はない。同じ魔法少女ならば正規の訓練を受けているテン・バーこと高橋礼威の方が遥かに役立つだろう。今も、キメラを見ると足が竦んで動けなくなり、息が苦しくなる。


 下手をするとさくらが出て来て桜を外界と遮断してしまう。しかし、だからと言って命を助け、そして常に気に掛けてくれた兄におんぶに抱っこのまま生きていくのは耐えられなかった。決して兄はNoと言わないだろう。迷惑だ、何て言わないだろう。


 だが、それでは桜のプライドが許さないのだ。兄である昇には命を救われ、そして新しい環境と新しい信頼出来る友達を貰った。今度は自分の番なのだ。


 兄である昇に何か少しでもお返しをしてやらねば、桜の気が済まぬのだ。故に立候補をした。例え、殺人鬼と共になろうが関係無い。敵の敵は味方なのだ。チャーチルも言っていった。


 もし、この殺人鬼が兄の障害に成るのであれば殺すしかない。この殺人鬼を殺した所で怒られはするだろうがそれ以上のことはないはずだ。




「だから、アンタには言って置くわ。


 お兄ちゃんの邪魔をするなら殺す。司法だろうが警察だろうが関係なく、私が、私・達・がお前を殺す。お前が殺人鬼だからじゃない。私のお兄ちゃんを邪魔したから殺すの。


 それだけは覚えておいて頂戴」




 シートベルトを締めつつ桜は告げた。


 赤池はそんな桜の言葉に安心して欲しいと告げる。




「私は殺人鬼であるが、犯罪者以外は殺さない。しかも、何度も再犯を犯して罪を悔い改めないゴミを処分するだけだ。


 ごみ収集をしている者達は道においてあるものを片っ端から持っていかないように、私は無差別に人殺しなんかしないよ。さ、行こうか」




 赤池はそう言うとアクセルを踏み込んだ。しかし、車は出ない。




「何やってんのよ?」


「あぁ、これマニュアルだ」




 少し危なっかしい手付きでギアをニュートラルから一速に入れ、クラッチを繋ぐ。が、余りに急に繋いだためにエンストする。




「ありゃ?」


「ちょっと!何やってるのよ!見失うじゃない!」


「いやはや、マニュアル車なんて教習所以来なんだよ。何で態々マニュアルを選んだのかね柳葉君は」




 赤池は半クラ半クラと言いながらソロソロとエンジンを操作する。




「今どきマニュアル車なんて殆ど走ってないらしいじゃないか。


 君は免許は何を取るつもりかい?一応マニュアル車をとっておきたまえ。AT何て馬鹿でも乗れるからね」




 赤池の言葉に桜はAT限定の免許しか持っていない礼威を思い出し、そうねと賛同する。礼威は決して馬鹿ではないが、どことなく抜けているというのが桜の総評である。そして、若干危なっかしい運転をしながら尾行は行われていく。正直、初心者マークを貼ったほうが安全に運転できるんじゃないか?と思うほどの操縦レベルだった。


 暫く付けていると、宇山江の車はラブホテル街に向かう。




「あら、未成年厳禁かしら?」


「別に構わないわよ」


「でも、流石にこんな人通りがない場所で後につけて行くのは危ないわねぇ~」




 赤池がそう言うと自動車は途中の立派な城のようなラブホテルに入っていった。


 赤池はフムと笑い、宇山江の車を抜かして別のラブホに入る。10分ほど駐車場に停車してから車を降りた。




「どうやら、本当にラブホに入ったようだね。


 女同士でラブホとはこれ如何に?」


「その点に関してだけ言えば、アンタは未成年の私を連れてる時点で言う資格はないわよ」




 桜の言葉に赤池はハッハッハと笑う。


 それから、ちょっとGPS付けて来るよと告げて車を出て行った。桜はオーディオを触る。音楽を流す為だ。適当にスイッチを弄るとKRSoneのSound Of Da Policeが流れだす。




「なにこれ?五月蝿いわね」




 桜は音量を下げると、曲を次に飛ばす。SABATONの重厚なメタルだ。スウェーデンのバンドで古今東西のあらゆる戦いをモデルに歌を作っている。現在流れている曲の題名はMidway、つまりミッドウェイだ。ミッドウェイはミッドウェイ海戦を指す歌だ。


 勿論、桜は何を言っているのか分からないので、五月蝿いと変えてしまった。




「何なのこれ?


 日本の曲ないのかしら?」




 桜は暫く弄って漸く気が付いた。どうやら、自分はラジオを触っていたと思ったらどうやらCD、正確に言えばiPodからデータを入れたオーディオを弄っていたのだ。


 故に、曲が限られており偏っていたのだ。結局色々と弄っていたが、遂に面倒臭なりスイッチを切ってしまう。




「やぁ、おまたせ。


 じゃ、帰ろうか」




 そして、赤池が戻ってくると運転席に乗り込んでM3をラブホから出る。




「じゃあ、家に送るよ。


 今日の所はこれで終わりだね。明日以降は必要があれば呼ぶよ。GPS。付けたから多分、大丈夫だと思うけどね」




 赤池はギコチナク自動車を操作して赤池は桜を山口家に送り届けた。


 玄関には昇と仁が待っていた。そして、昇は桜に無事だったか?と聞き、お疲れと告げた。




「赤池、報告を聞く」




 そして、昇はそう言って赤池と仁と共に部屋に行ってしまったので、桜も部屋に入ろうとして、昇はお前は夕飯を食べて風呂に入りなさいと言われて入室を拒否された。桜はそれに不満を持ったが、腹も空いていたし風呂にも入りたかったので言われた通り、祖母が温めなおしたロールキャベツを頂き、風呂に向かう。


 脱衣所で服を脱ぎ、風呂にはいる。浴場には120cm程の大きめの鏡があり、其処にはまだまだ細い体をした桜が写っていた。腕にはだいぶ薄くなってきたが暴れた時に出来た傷が残っているし、胸には確かに消えることのないキメラによって刺された傷がある。桜はまだまだ若い。心臓の傷も完全に塞がっているし、激しい運動をしても問題無い。


 が、忌々しい傷口は未だに残っている。桜には些細な夢がある。出来れば兄と共に肩を並べてキメラを討伐したいが如何せんそれは難しそうだ。トラウマがどうにも難しい。故に警察の逮捕を手伝う魔法少女に成ろうかと考えている。


 人間相手ならキメラと対峙した時のような恐怖も危険もない。勿論、完全に安全というわけではないがそれでもキメラと戦うよりも一等マシだという。


 兄の話では、試験導入した魔法少女達は一定の成果を上げておりいよいよ本格的法整備が始まるらしい。


 無論、それに反対する団体も居るが、正直、魔法少女に手を借りないといけないレベルにまで人員不足である理由として警察の死傷率の高さがあり、その死因の殆どがキメラである。


 この前、兄である昇と仁が必死に心臓マッサージをして蘇生措置をしていた警官は彼等の蘇生措置も虚しく殉職した。反魔法少女系マスコミは一斉にその際に昇と仁が心臓マッサージの際に童話を歌い、片腕だけで真面目にやっていなかったと無知を曝け出して大々的に叩いたが、その直後に日本救急医学会が心臓マッサージの際にはあの歌のテンポで心臓マッサージをする様にと専用のCMまで作って1分半ものCMを流した。


 また、魔法少女は総じて力が強いので絶対に両手で一般人の胸を押さないようにとも流れていた。




 これを受けて魔法少女協会は救急医学会と提供して全国で魔法少女達と共に行う救命講習会を画策しており、試行段階からかなりの人気を博しているそうだ。


 また、昇と仁の処置が非常に適切だったこともあり彼女達を賞賛する声が世界中で上がった。そして、その行為を批判していたマスコミ達は一斉に叩かれて謝罪報道までする羽目に成った。桜はこれを見ていてザマァミロと非常にスッキリしたのを今でも覚えている。


 体と頭を洗い、湯船に肩まで浸かる。じんわりと体の芯から暖かくなる感覚が広がった。取り敢えず、今日は色々と刺激的で楽しかった、そう桜は結んで風呂を上がることにした。



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