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「ほー。これいいな。そんなに荷物にならないし、オレも作っとくか」
「ばらせる簡易版でも役に立つんじゃない? 詳しく知らないけど?」
「短いのは採取用のタガネで、長い方は……、ピッケルの頭。イヤ、いっそのことピッケルをトンファーに出来るようにした方が良いな」
「元が護身用?暗器? まぁ、ないよりあった方が良いってヤツだから、打撃武器だけど、ハンドルの反対側が杭になってても防衛武器から普通の武器に変わるだけだしね」
「お前らうるさい!」
その場にあった皮を巻いて、紐でぐるぐる巻きにされたトンファーという名の武器の模型を作り試させてもらった。
戦う者の中で「最速の攻撃は?」という口論がよく起こる。
距離的な事から、ほとんどの人は「突きが最速だ」と答えている。槍はもちろん剣も突きを極めようとしている流派もあるのだから、この考えはほぼ間違いないだろう。
では、「最速の有効打は?」となると、話は変わってくる。
突きでは相手の防御力を突破できない事もある。それどころか、手首をひねり負傷してしまうこともある。スライムやゴーレムなどの魔法生命体群などは核を破壊しないかぎり突っ込んでくるし、昆虫系は切り離したとしてもしばらく動き、攻撃してくる。それで潰されたり噛み切られたりされたなどの話はいくらでもある。
万能の武器だど所詮ありえない。だから自分に合う武器を見つける。
ハッキリ言って俺は自分の性格が悪いと思っている。それを何とか取り繕っているだけなのかもしれない。
敵対した相手の攻撃を受け流し、全力の一撃を繰り出すのが好きだ! 相手の急所に決まったときは最高だと思う。両手に持てば連打出来るのも魅力的だ。力を込めて最速の攻撃を出せる可能性があるトンファーは、俺にとって相性のいい武器になりそうだ。
「ジル坊の顔が暗い笑いなんだけど。どう思う?」
「意外とヤバいかも? ジルって元々どんな戦い方してました?」
「片親だったから裕福とは言えなかったな。そのせいで狡い戦い方が染みついたみたいでなー。しかもトンファーは打撃武器だから丈夫そうだし。
親が再婚したらしたで、結婚に反対してないって態度で暗くなる前に帰ってた。
こわーい嫁さん貰った奴らより親父業やってたんだよなー。家族が見てない今が素なんじゃないか?」
「所謂はっちゃけちゃった状態か……。不憫な」
「人を勝手に可哀そう呼ばわりするんじゃねえ。ほらっ、鍛冶屋いくぞ」
トンファーを手にしてから、使いやすい片手武器の長さがハッキリした。
まっすぐに伸ばした指先から肘までの長さ。取り回しを考えると、最長でその長さに拳一つ分プラスした長さが限界だったのに、今までは敵に攻撃を当てる為、もう少し長い物ばかり使っていたのだ。
腰に差した剣も拵を変えなくてはならなくなったのだ。
「おーっと、ジル坊はその前にギルド行くぞ。偶然でも祭り前の街に来たんだ。報告しとかないと、後々面倒だろ?」
このフィリアに来たのは、シンの欲しい鉄製品。具体的に言うと鍋とフライパンが欲しい。出来れば他にも作りたいものがあるから、質の良い鉄と炉が欲しい。
……普通欲しかったら買うもんだよな?
「ホントここに来たのは偶然なんだけどなぁ」
「善意も悪意も魔法より不確かだからな。何かあった後で弁明してもいい気分で仕事できんぞ~」
面倒だけど仕方ないってやつだ。
ギルドに入った早々アルザスさんは「そんじゃ、情報仕入れてくる。またな」と言って離れた。
「想像以上に口入屋っぽい? それより壁際の荷物が気になる」
「口入屋? まあいい。他のギルドはともかく、ここは喧嘩が多いからな。殴り倒されたとき頭を打たないようしたんだ」
大きく広い部屋がある公共の建物には、慣例として避難場所として下の方に石壁を使う事になっているのだが、怪我防止のせいで中が混とんとしており、冒険者ギルドだけは住民たちは避難場所にしたくないらしい。
「板でも張り付けりゃいいじゃん」
「それだと、汚れも破損も多いんだってよ。つい蹴り入れたりしてな。で、ついに事件が起こった」
ある時、とある冒険者ギルドで賠償問題が起きた。それは、置きっぱなしにした阿呆の荷物を馬鹿冒険者が汚して賠償問題になるという良くある話だった。ただ、風土病が猛威を振るう時期で皆がピリピリしていた。
そんな中で殴り合いの喧嘩をしたら、ギルド職員だってキレる。しかも、家族に風土病と同じ症状が出ていたら、キレる。
自棄になった職員が子供の事を叫びながら薬草袋を荷物の周りに積み上げ「さわるな!」と叫んだら、反抗的な冒険者も近づけずに職員は業務を終え帰ったそうだ。
翌日にギルマスから罰として普通業務のほかに壁掃除を命じられたときに、積み上げられた箇所だけ妙に汚れていなく「寄り掛かるから掃除の手間が増えて帰りが遅くなる」とさらに暴走し、壁際にスペースを作り報告に関係ない荷物置き場を強行して、殺気のこもった目でルールを守らないと報告を受け付けないと脅した。
職員の気迫に飲まれた冒険者は、普段の「武器が当たった」や「荷物が埃っぽい」などのトラブルも起きなかった。
初めて聞いたときは呆れて、もう少し肩の力を抜こうぜ。と言いたい。
「とにかく、職員は夕方の掃除当番が減る。冒険者は荷物が気になるから喧嘩を売らないし売られない。ギルドは出費なし・喧嘩なしで業務がスムーズに進むと……」
「回転率を上げる飯屋みたいだな」
「冒険者になったばかりの頃は知らなくて怒られた。滅茶苦茶視線が痛かったけど、実際そんな奴いると本~当に邪魔だから公開されてないルールなんだよな」
他にも「ギルド傍の屋台は面倒見がいい」や「旅で主要街道を外れる前の酒場では値引きするな」などギルドに伝わる噂話をいくつか話していると、俺たちの番に居なった。
「星4のジルです。友人の買い物でこの街によりました。明日にでも出る予定でしたが、白星6のアルザスさんが情報を集めるのは安全を集めるとの指導で挨拶に参りました」
まだ祭りの正式発表はされていない。そんな中で堂々と言えるはずもなく、だけど意味が通じるように……。
「アルザスアルザス…、。あ~、アルザスさんの指導ですね。
明日でしたら問題はないと思いますが、3日後辺りからギルドは忙しくなるのではないか?と言われてますね。
ここはジルさんの育った街と違うでしょうから長く滞在するのでしたら必ず声をかけてくださいねね」
「ハイ」
最後のねが怖かった。罪には問われないが……。というヤツで釘を刺された。ギルド職員は法を守るがそれ以上に戦う者と戦わない者の区別をつけて、迷惑をかけないようしている。
他にも地元と余所者など法では平等とされているが、考え方や習慣が違う事を認めた上で我を通す相手を排除する。例えば強い魔物が現れたら、他から戦力を連れてくるが、戦力だけで指揮官にしない。ただし、その人が必要と思う物はどんな手を使ってでも揃えようとするのがギルドの方針らしい。
「うごっ」
「長くなるなら屋台行っていい?」
「ガキかお前は! なぜ脇をえぐった? 言え! さあ言え」
「
コイツは博識のくせにやる事がクソガキと同じだ。
「とにかく、こういう訳でしてコイツが変な事しないかぎりは明日の朝出る予定です」
「はぁ……。何というか、大変な友人をお持ちのようですね」
その大変な友人が貴族をこの街に繋ぎ止めたんですが? 面倒事になるんで言わないけど……。
「んじゃ、先行ってる」
「あんま迷惑かけんなよ。
すみません。他に注意事項はありませんか?」
「いえ。忙しくなる前の行動は黙認しますが、その後に余計な仕事を増やさないでくださいね」
「ハッ、ハイ」
ヤバいよ。あれ絶対ヤベェ。祭りは忙しくて大変だけど、よく考えたらギルドの方が大変だわ……。
フィリアのダンジョンは森と地下湖のある洞窟ダンジョンが有名だけど、どのダンジョンが祭りに入るかまだ判明してはいないようだ。
「へー。やっぱりこの辺しか屋台ないんだ」
「軽くつまむ程度だな。それに冒険者ギルドの前ぐらいしか広く開いてない。おやっさんが防火用水とか用意してくれてるから、許可されてるんだ」
「おやっさん。ありがとうっす」
「いやいや、ワシはギルドの雑用じゃよ」
「ヘイっ大将! おやっさんに一番いい酒を」
「あははは。テメェ、俺の店は食い物しか置いてねえって見れば分かるだろうが!」
ギルドを出たところで明るい怒鳴り声。静かなのは考えてるときと作業中だけかよ。それよか、ギルドの雑用ってそんな仕事もしてたんだ。
「シ~ン~。迷惑かけるなって言ったろうが! すいません、連れがバカで」
「気にせんでええ。バカはバカでも気持ちのいいバカじゃて」
「そりゃないよ、おやっさん~。
ジルは用件終わったの? 白星?ってヤツになるんじゃないの?」
「すぐになれもんかよ。何か試験やるってのは知ってるけど、帰るんだから今日じゃなくてもいいだろ」
冒険者には誰でもなれる。ただ、冒険者一本で生活出来るのは、少し前のティルみたいに魔力の活性化が出来ないと生きていけない。
そして白星なんかは本当に金持ちか、4・5ヵ所のぼ街で有名になっている人が多い。また、将来そんな人になる可能性が大きい奴が持っている白星なんかすぐに認めるわけないだろ?
そういうのを知らないから聞いてきたんだろうけど……。
「そうなんだー。ところで、おやっさん。このトンファーって武器なんだけど、金属で作れるとこ知らない?
真っ赤にした鉄の棒にピッケルの頭打ち付けるだけのヤツでいいから。とにかく試作品みたいでも話聞いてくれるところ」
「ほっほほ。そういうのは、鍛冶ギルドか地元の冒険者に聞いた方が良いの~」
「え? おやっさんって裏の人間だったんでしょ?
完全な裏じゃなくて、裏の顔を表で使うタイプの人じゃないとギルドの雑用係になれないんじゃないの?」
書きたい事かいていたら予定と大幅に変わってしまいました。
でも、これはこれで次へ繋げられるストーリーも出来たのでOKかな?