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「シンって本当に器用だな」


「こういうギミック作るの好きだしね」


 商人ギルドのバランから「面白い話の礼だ」と、鍛冶ギルドの炉職人を紹介され、その分被服ギルドからかなりの金額を上乗せして貰った。流石に当座の資金だけでは少なすぎて、不正を疑われるらしい。

 上乗せされた資金で炉を購入しようとしたが、流石に炉自体は売っていない為、耐熱煉瓦と溶けた鉄に耐えられる釜を購入。ついでに、手押し(手引き?)車も購入して、フィリアの街を歩いた。


 チャコは手押し車の上に立って周りを見ていたが、シンと交代で荷物を引っ張っていた棒に噛み付き、後ろ脚だけで歩くようになった。ついつい構いたくなる可愛さだ。

 そんな訳で、シンは宿の中庭で鞄を作ってる。


 いまいち思考が読めないが、チャコを撫でたい。でも、手押し車に載せきれない荷物が邪魔だけど、何かあったときにすぐに身軽になれる鞄が欲しい。

 気持ちは理解できるが、過程を抜くなと言いたい。


 鞄を作ってると言っても、ズタ袋に4か所穴開けて、2メートルのフォレストリザードの背中の皮に括り付けて、肩に背負って反対側の脇に回して前で止めるらしい。

 それで今は街で買ったノミとカナヅチで木を削っている。すぐに脱着できるようにするのが目的なのだそうだ。


「縛ればいいんじゃないのか?」


「縛り目が痛いし、帯としては幅があるからキツイところと緩いとがあって、イヤだ」


 わかるけど、そこまでやるほどのものか?


 潰れた輪っかに板を差し込めるように削っていくシンは、焼きリザードの串を口に咥えたまま鼻歌歌ってご機嫌のようだ。

 やがて板が簡単に入るようになったら、板に溝を掘るように削っていく。横から見ると、鏃の反しのようだ。


「やっと何やってるか解ったよ。穴に突っ込んで引っ掛けるんだ。で、外すときは、返しを外すと……」


「そう。差込錠ってやつ。本当は穴ギリギリの大きさで、返しが出たり引っ込んだりするようにしたいけど、本格的に作るのは帰ってからだね。木製だから、割れちゃいそうだし出来れば金属製がいいな」


 リザードの皮に炭で印をつけて、二つのパーツを取り付けているのを眺めていたら、シンの横で丸くなって寝ていたチャコが顔を上げた。


「ん?」


 ひと月も一緒にいないが、チャコの行動原理はシンと一緒にいる事だ。

 何かにつけてシンにくっつく。シンがやる事に興味津々で見ているが、やる事が無いとくっついて寝る。起きるときはシンが移動したときぐらい。

 そして、フィリアに来るまでに寝ていたチャコが起きるときの数少ない例外は魔物が近づいてくるときだった。


「へえー、ジル坊が他人といるなんて珍しいじゃん」


「アルザス……」


 一世代上のトップ白星6の渡り人。

 ほとんどの冒険者は星4辺りから特定のパーティーを持ち、得意とするものを伸ばす傾向にあるが、どんな場面でも平均して星の数程度の能力を引き出す化け物がいる。

 旅の工程やら力配分やらを無視して星4の仕事をしていた俺とは違う本物の天才。しかも、未だに鼻歌まじりで一人仕事をこなす化け物。必要なら臨時でパーティーを組むことから渡り人と呼ばれる玄人(ベテラン)だ。


「へー、いいなー。見た目からして強そうじゃん。俺もこれくらいかっこよかったらモテるのかな?」


 チャコを片手で抱き上げ自分の力こぶとアルザスの濡れた縄を絞ったような強靭な腕とを見比べている。

 17・8の動いてれば身に付く筋肉と、25過ぎの鍛えないと身に付かない筋肉を一緒にするな。

 まったく、何やってんだよコイツは!!


「何だ坊主? オレみたいになりたいんか?」


「筋肉お化け……って奴より、鍛え抜かれた肉体ってのは誰でもなりたいだろ? それと坊主は辞めてよ。実年齢より若く見られるのはともかく、侮られるのは我慢したくないんだ」


「ん? あぁ、すまねえな。オレ達も挨拶代わりの一発は習慣なんだ。

 聞こえてたと思うがオレはアルザス。ジル坊の知り合いか?」


「俺はシンで、こっちはチャコ。よろしく」


「よろしく。それよりジル坊の妹どこにいるんだ? 2日以上離れると禁断症状が起きるって聞い―――」

「起きねえよ! 誰だよそんなデマ流した奴は!!」


「ふっ……。こいつが初めてギルドに来た時に隠れてついてきたんだぞ。離れるとお兄ちゃんが迷子になちゃうから見守ってるって言ってた。

 こいつも、あまり時間のかからない依頼しか受けないし……。ぷぷぷ……。最近だよなぁ?泊りがけの依頼受けたの?」


「何それ。詳しく」


「お前らいいかげんにしろォォォォ」









「俺に襲いかかったらチャコが出るって知ってるだろうに」


「星4と6の経験の差はそう簡単に埋められんぞ。

 そんな事よりも、ジル坊は白星になったんか? 強化がスムーズだったけど、チャコに負けるなんて……ぷっ、くくく」


 からかっていた二人に負けました。いや、正確に言うならアルザスに避けられ、シンに行くまでにチャコに遊ばれました。

 チャコの体当たりで吹っ飛ばされたが、服に噛み付かれ振り回された後のペシペシ前足攻撃の途中で冷静というより、熱が冷めました。ワイバーンを倒す犬に勝てるわけないよ。


「昔っからまあまあ強かったけど、これなら星5なら行けそうかもな。ただ、安定させた強さってなると星4だろうな」


「星4だって……。自慢してたのに?」


 うっせい。


「間違いなく星4だけど、一度休んだら動けなくなる。オレにあしらわれた上にチャコに抑えられて立ち上がる元気もない。ベテラン星4なら負けはしてもジル坊みたいに倒れたままって訳じゃない。まぁ、今までみたいに実力を誤魔化しながら生きてるって感じじゃ無くなったようだが?」


「桁外れに強い奴しかいないんだよ。そいつらは善人じゃないかも知れないが、いい奴でね。弱くて馬鹿野郎に俺の強さを見せなくちゃいけないが、こいつらには仲良くした方が良いんだよ」


 一応ほめてはいるんだが、当の本人は興味が薄れたのか「ふーん」と呟き差込錠の仕上げに入っていった。


「ところで、聞きたい事があるんだけど、いいか?」


「いいけど。あの物騒なの連れたシンが作ってるやつ何だ?」


「取り外しが簡単な背負い袋? みたいなヤツ?

 とにかく聞きたいのが、今この街がどうなってるんだ? シンがちょっと言っただけなのにギルドが動く。

 いくら何でも、ちょっとした情報で簡単に動くのはおかしいだろ」


 黒い染料が欲しくて聞きに来るのまではまだいい。商人なんかはたびたびやる事だ。

 一般人相手にギルド長が動くのか?


「なるほど。そんな事があったのか……。

 そっちの情報が無かったから坊に声かけたんだが、当たりだったようだ」


 アルザスが掴んでいた情報はダンジョンの活性化による周囲の魔物の強化と、一部の貴族の避難依頼が街の防衛依頼に変更されたことだ。


「祭りの気配があったから、貴族連中は逃げ出した。そんな中、ギルドがシンの泥染めの情報を流して貴族を取り込んだのか……」


 良い事も悪い事も神々が関わる出来事は祭りと呼ばれている。

 ダンジョンの活性化は昔から自然災害と同じで逃げられないものだと思っていたが、逃げても神罰などないし、逃げ込んだ先から腕自慢が助けに来たら、その内の一人が明らかにドロップ率がいい事に気付いた。そこから噂を呼び遠征する人数が増えてきた。

 遠征に関して初めのうちは情報を持つギルドが中心となっていたが、現地住民とのトラブルで兵が動く事になる事も多くなり、入出管理の問題も出て街を統治する貴族が口を出す事態になった。だが、粗野なふるまいを嫌う貴族の好みが珍しく良いように働き、貴族の推薦が無いと地元の冒険者以外は依頼もなく祭り期間のある土地での戦闘行為は買取拒否や戦闘に至るまでの報告書など制限されるようになった。


 アルザスも貴族から推薦は貰っているが、別口で偶々このフィリアに居てギルドから情報を貰ったそうだ。


「たぶんそうだろうな。

 それで? いい加減メイン武器は決まったか? ここを拠点としなくても身を守るには戦いは避けて通れないぞ」


「……一応、剣だ」


「ジル坊はスピードと技術があるから刀がいいのに……」


「刀は扱いが苦手なんだよ。懐に入って叩きのめすには繊細過ぎる」


 刀は嫌いじゃない。嫌いじゃないが、たまに無心で叩きつけたい衝動に駆られる。そういったときに砥ぎ直しの事(修繕費)を考えないといけない。

 それに、大きな声で言えないのだが、刀も剣も俺には長すぎる。


 はったりを利かすのが戦闘職の矜恃だとしても、両手で二本あるんだから両手なんだ。別々の動きをした方が体のキレもいいのに、冒険者が剣に拘るのか解らない。剣は確かに万能だけど、長期の依頼を受けなければ安価で特化している武器の方がストレス溜めずに扱える。

 アルザスが使っている威力を乗せやすいしリーチもある長柄武器(グレイブ)なら理解ができるが、高価で手が出せない。もし戦闘中に折れてしまったら?と考えると、武器が重くて強化魔法が苦手だった今までの俺には扱えなかった。


「刀? さっきから刀の事話してたよね? こっちの刀ってどういうの?」


 随分と嬉しそうだな? なんとか錠ってのは……想像していたのより良さそうだな。後で俺の分も作ってくれ。


「ああ。色々あるんだが、剣に比べて刀は軽くていいけど俺には長いんだ。なんていうか……。軽くて取り回ししやすい分、長さを間違える。

 下段から上段に構え直すのに素早く出来るんだが、どうも……な。手首の動きだけで出来る分、足元の草なんかに当たって集中力が拡散しちまう。剣を動かすのは腕から力を入れるから気にならないけど、どうしてもなぁ。

 他にも予想より斬れて、怪我させるくらいの気合でやったのに、腕を落とした。って事があると、感覚のズレが大きいのもあるな」


「ジル坊は視野が広いから接近戦でもいける。手数も多くなるし、戦闘時間が短く済むのも魅力的だが、短剣だと威力は無いし刺すと隙が大きい。

 一応言っておくが、外骨格持ってる魔物なんかじゃ、刺すときも両手じゃないと力入んないからコイツみたいに懐に入るやつはいない。

 ジル坊が活きるのは接近戦だが、それに合う武器がないんだよ。難しい問題だろ?」


 ものすごい不満げな顔で「短刀二刀流って浪漫だと思うだろ?」っと……。カッコいいと思うが、元々メイン武器決めてないからそこまで愛着は無いんだ。


「……ナックルは?」


「武器ってのは受け流すときにも使うんだよ。他に穴掘ったり、こじ開けたり……。刃を痛めたくなくても鞘があるのとないのじゃ段違いだ。ナイフなんかは出来るだけ口に入れたり、治療用に使えるようにしてるな。水で洗えないから……。

 あぁ、弓メインの奴は組んでいるから、周囲警戒だぞ」


「なんでわざわざ弓兵の事言うのかな~」


「シンはぜってー突っ込むだろ。上げ足取るの好きだしな」


「……。いーよ、いーよ。ジルに合いそうな武器教えようとしたのに……。チラッ」


「シン坊よー。教える気があるなら条件言え。無いなら言うな。

 オレ達冒険者で命掛ってるとき、そんなことやってる暇ないんだ。ジル坊と多少なりとも顔見知りなら、それぐらい覚えとけよ」


「ごめん。流石に無神経だった」


 少しはムッとはしたが、どう見ても教えるつもりみたいだったし元々話せば分かるガキっぽい性格に付いていくつもり。追々この風来坊に一般人との付き合い方を教えるつもりだった。


「今回はフィリアに入ったときの手間賃でチャラな」


「仕方がないかー。作りとしては単純なんだけど……。トンファーって知ってる?」





本来は今回で街から出る予定でした。(別のキャラクターも登場)

ですが、よくよく考えてみたら主人公たちの性格を正確に知っているのは書いている私だけ……の状態。

年度末が終わって初めから読み返したら今のままだとキャラクターが生きていないので書き直しました。

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