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「さて、これからどうするか」
4人と1匹が集まったところで話を切り出した。
「鉄か銅が欲しい。それと炉とかあった方が良いな。なんちゃってなら作れるけど、どうせなら本格的なのがいいな。ジルはそこらへん知ってる?」
膝の上に乗っかってきたチャコの耳をいじりつつ、暢気すぎる事をのたまいやがった。
「本来てめぇが仕切るんだろうが! 便利バカ」
シンは色々知ってる。俺と妹の家を作るのに小さなコツが色々あり過ぎて、どっから仕入れて来たのか謎過ぎる。ただ、バカだ。
どれくらいバカだというと、人が作っている最中に「これの方が良いよ」と言うことがままあり、それがまた的確だから反対しにくい。
この前焚火をしていたところは、土を焼いて硬め風呂に石と海岸の砂を入れ、風呂を作ってしまった。
何の材料で何を目的とした、何をどうやって作るのかまで言わないと、シンの能力は活かせない。
「シンさんはどんなことがしたいのです?」
「適度な刺激と平和な世界。誰かの前に立つつもりもなければ、誰かの後始末に翻弄されないすごーく平和な世界」
そりゃサイッコーだろうな。エルさんもそんな痛ましい顔で見ないで他の人に付いていった方が良いんじゃないのか?
「あはははは。お父さんと同じ事言ってます」
妹は最近よく笑うようになってきた。ほとんどが呆れた笑い方でも親父さんの事も口に出すようになってきてる。
普段からやる気のない能力者の助手と、よく話している。エルさんが無表情に近いが、なかなか良好のようだ。
「鉄や銅はダンジョンでどうにかできるが、炉なんて聖域の人呼ばないと出来ん。
チャコがいるから、ここを捨てる気はないんだろ? だったら金もいる。食料も欲しい。相手がここに住みたくなるメリットが欲しいんだ」
ほれッ、なんか持ってんだろ? 相手が欲しそうな事。
「メリットってのは、人によって違うんだ。常識で考えろよ」
「守護者で遊ぶ奴に言われたかないわ!」
チャコの耳を後ろに倒して「変な顔ー」って見せびらかすな! それとチャコは抵抗しろよ……。
住処から出て3日目の昼。強化魔法が強力になってかなり進めて聖域都市にたどり着いた。
シンと俺とチャコの旅は、ストレスは無いが呆れることが多く、エルさんの苦労がうかがえた。
「列からはみ出すなよ」
「流石にそんなバカな真似はしないよ。でも、いつもこんなに混んでるの?」
「そりゃ、時間帯が悪かったねー。ワシら農家が収穫して帰る時間じゃもの。
アンチャンたちは旅か?仕事か?」
「仕事なのかなー? 魔物の皮を売って、欲しいのがあってそれを探しに来たってとこ。
でも野菜って、朝収穫するとみずみずしいけど、午後の方が味が濃いってホント?」
「おーおー、よくわかってるが、ワシらの作る野菜はどーれも美味いが、採れたてが一番じゃて。
一仕事して採れたてを食えるのがワシらの贅沢じゃ。んーじゃけど、市に並べなきゃいかんからこの時間が限界やて。なんか食うか?」
こいつ、馴染みすぎだろ。
ダンジョンのにモンスターがいるのは当たり前だが、人気のいないところにも多くいる。その為、聖域都市では壁を作り身を守っている。
ほとんどの都市で、見通しの悪い夜には門を閉じており、早朝に農家・冒険者が出ていき、昼に農家、夕方に冒険者が帰ってくるのが一般的で、商人などは合間をぬって出入りするのが習慣になっている。
また、共同で働く大きな穀物農家や畜産業などは、外に小屋を建てて交代で働いている。冒険者ギルドでも、この夜間の護衛を積極的に受けており、野営の準備期間としている。
「ほー。藁を敷いた方が良いのか?」
「そうそう。乾かないし、泥はねしないしで、小さい農園やったとき、雑草が生えないのが一番良かった。あっ!土にすきこむと根っこが腐ったり、えぐみが出るから気を付けないとダメだけどね。
他にも、虫が寄り付かない花なんか一緒に植えるといいっての聞いたことがある。まぁ、聞いたことあるってだけで、何の花かは覚えてないんだけどね」
「ほうほう、ほとんど息子夫婦に任せとるから、組み合わせはワシが試そうかの~。美味い不味いは食ったら判るが、野菜の状況はまだまだワシの方が上じゃて」
「そりゃ経験が違い過ぎるでしょ。ハハハハ」
何意気投合してんだよ。
「おぉ、もう順番じゃ。またなアンチャン」
「おじいさんもお元気で……」
「……。予想外だよ。結果がすぐわかるようなもんにしか興味ないかと思った」
「不確定要素が多いのも、それはそれで楽しいぞ。さて次だ」
農家のおじさんも門の中に入り、俺たちの番になる。
「身分証と目的をお願いします」
シンが地元民と話していたせいか、かなり友好的だ。
「はい。星4の冒険者ジルだ。目的は必要なモノを買いに来た」
「シン。同じく。それと犬のチャコ」
「はい。身分証をお願いします」
「ん?」
「あー。すいません。ちょっといいですか? シンはそこで待ってろ」
一緒にいるのが長すぎて忘れてた。さて、上手く行くか?
「あいつ、いいところの坊ちゃんで、手続きとかやったことないんだ。目悪くしたときに、家を継げないからって家族からそのまま……。って訳。
たぶん再発行とかの手続きとかも知らないから、今回はスラムから市民へって事で、税の分俺が払うから、処理してくれないか?」
都市を囲む兵がある場所は入場税が当然ある。
不正に入って安全を享受させないよう市民には、手伝いが出来る10歳から税を支払い年号の刻印された身分証を貰って、いつでも確認が取れるようにしなければならない。
村からの引っ越しや上京など外部から入る場合は、タグを更新するか村長などの紹介状が必要になる。
用意周到なエルが用意していないとなると、当然シンは両方持っていない為、新規の手続きが必要になる。
農業など地元に住み着く職人系ギルドと店を持つ商人ギルドは、タグの代わりにギルドカードでまとめて支払いが行われている。
また、商人ギルドの中でも行商を行う一部と、冒険者ギルドは出入りする度、確認など人件費がかかる為、少ない金額だが入場税を支払わなくてはならない。(地元民の農家は食糧安定の為、免除される)
門番はシンの身分証に対してのやり取りで色々察したのか、溜息一つつき、
「知らないってのは大変だな。まぁ、さっきの感じからヤバそうでもないしな。しっかりしろって言っとけよ」
変に同情されたが、エルさんも似たような世間に疎いところがあるから、何か手を考えないとな……。
このまま何とか誤魔化して、手続きをし宿で一休み。
「準備周到なエルさんが身分証の事忘れるような人じゃないだろ? 下手に詮索すると、お前らはヤバそうだから、聞かないけどさぁ。エルさんも持って無いなら伝手を作らなきゃな」
「おすすめは?」
1.冒険者ギルド:活性化の情報を渡せば、確実に融通が利く。ただ、この程度で情報を渡すのはもったいない。
2.職人系ギルド:シンなら何か知ってそう。エルの事は他所から来た情報提供者にでっち上げる。
3.スラムからの新規。見初められた事にできるが、エルの雰囲気からして無理そう。
「ほとんど俺だよりじゃん! ってか、3は無いな」
「言っておいてなんだが、3は無いよな」
身だしなみも立ち振る舞いもスラムに生きる者ではない。演技力も期待できなさそうだ。
「炉が欲しいんだからついでに見て回って、2が出来なそうだったら1にするってのどう?」
「シンだったら何か出ると思って期待してたんだけど、流石に無理か。軽く食べて臨機応変に行くか」
「良い事を教えてあげよう。
みんなが知っている事を知らなくても、聞けば呆れられるが、知らない事を知ってると頭よく思われる。あっ、きちんと聞かないとただのバカだからな。
だから俺は常識なんか覚えない!」
覚えろバカ。
メモ書き
10歳から税を支払いというのは、その年齢まで生きれば軽率なことで死ぬことは無いだろう。という設定です。
乳幼児の死亡率が高いので、人口を増やしたいが低年齢で税を掛けると増えないだろうと行政の判断。
ちなみに成人は15歳
間隔が狭いですが、10歳まで生き残ったら用心深い・生命力が高い・対応力がある等で生き残る能力が高いです。
ただ。17歳までは(季節が2回めぐるまでは)一人前と認めていない。3回目で冬越しの準備をしていなくても助けない。