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 兄妹で話し合って2日。生木(なまき)は家に使いたくないらしいがが、とにかく壁と屋根が欲しくて柱と毛皮で出来た寝るだけの小屋が建った。シンとエルさんはいい人だが、ティルもホッとしているところを見ると、やはり気後れしていたみたいだ。

 

「ほいほ~い。んじゃ、基本から。

 魔法ってのは魔力に手を加えて起きた事。で、魔力ってなんだ? って言うと、よく解らない価値のあるモノ。本当に詳しくはエルに聞いてね。創世記から始まるから……。

 なんだかよく解らないってのが嫌なら、お金だと思って。

 魔力ってお金を払って、魔法で助けてもらう。ジルは冒険者でしょ? それと同じだね。

 なんで魔力でそんな事出来るんだ?って聞かれても解らん。なんだかよく知らない相手に魔力あげると力を貰える。って知ってればいい」


 当たり前って言ったら当たり前の事を地面にぶっ倒れながら聞いている。

 なんでこんな事になったのかさっぱり解らん。やらされたのは、追い駆けっこと言う名の狩り。

 逃げるティルに襲いかかるチャコから俺が守る。いくら獣人でも獣には勝てん。しかも相手は狂い熊を単体で狩れる守護者がテンション上げて、意味のなさそうな走りをしてる為対応すると余計喜んでスピードを上げてくる。


 命じた元凶は川のそば土手に穴を掘り、木材に使えない打ち払った枝を燃やしている。鳥の肉も土鍋に入れて煮ているので、それが夕飯になるらしい。

 これでさっきの追い駆けっこが意味がないなら絶対殴ってやる。


「魔法にもいくつかあって、理解するには短期と長期の魔法もある。

 冒険者にお金を出して助けてもらう。腕がいい人ならすぐに終わるけど、これがその場限りの関係で、所謂攻撃魔法や。

 冒険者に護衛を頼む。契約の間特に必要が無くてもいてもらう。まぁ、いることで抑止力になるんだけどね。これが結界とか飲み水出す魔法とかで、前払いの魔力消費とか契約内容・指示だしが上手い人、所謂凄腕魔法使い」


「あの、シンさん―――」

「質問は手を上げてから!」


「すっすいません。ハイっ」


「うん。疑問を持つのは良い事だ。出来る限り答えるから質問するように。では、はい、ティル君」


 ティルはもう回復したようだな。ドクンドクンと心臓の音がまだ聞こえるぜ。


「結界と同じなら、飲み水を魔力で作ると体の中で消えてしまいませんか? 他にもストーンバレットは消えるのに、ストーンウォールで建てた砦がありますがあれはなぜ残るのです?」


「飲み水を作るウォータークリエイトはちょっと特殊だから後にするよ。それにストーンウォールにの方が水と違って蒸発とか浸み込んだりしないからそっちからね。

 ストーンバレットが消えるのはその場限りの短期の魔法。これはいいな?

 後でまた話するけど、同じ土属性のストーンウォールは土と無属性の合わさったのなんだ。

 無属性も後で話すけど動かす力だと思っていい。

 ストーンバレットは魔力消費の割合は、土と無が5:5の割合だとしたら、ストーンウォールは土が出てくるように見えて、実は土が2、無が8になる。

 これも冒険者で例えると、倒したい魔物がいたら、剣で倒すか毒で倒すか? 最終的に倒した結果が欲しい。それと同じように石を出して壁にするか?地面の土を使って壁を作るか?になる。

 前に普通に使うのと、空飛びながら使うのを比べてみたけど、もろくてほとんど消えた結果になったんだ。

 足りないものを魔法で持ってきたから魔法が解けると消えるのと、元々ある物を動かして作ったから、魔法が解けても消えないって訳」


 空飛びながら魔法って、バカだろ! 


「仕事したらゴミは持ち帰りましょう。って、すごくいい事じゃない?」


 なに得意げに「あれ~? 俺いいこと言っちゃったよー」って顔してんだよ。


「最後がなけりゃよくそこまで調べたって思うんだが、なんで台無しにする?

 獣人はな、属性魔法なんて使えないから俺要らねえじゃん」


「基本誰でも使えるぞ。人間に比べて耳がいいってのと同じように……。属性に交渉するって言えばいいのかなー? とにかくそれが低すぎて、何倍もかかる。それなら無属性の強化で殴った方が早いってなる。

 それと手を上げてから質問しろよ」


 手を上げるのも億劫にさせたやつが言うなよ。それとも俺に質問させないようにやったのか? いじめか??


「質問です。貴族の方の方が魔法の才能があると言われているのですが、どれくらい違うのです?」


「そんなもん人によるよ。時間と暇があればやれる余裕があるってだけ。

 貴族の方がーってのは、生活に余裕があるからだと思うよ。生きるだけで精一杯って人は今ある物だけでやらないと生きていけないから、不確定な事(魔法なんて)やってる暇はない。

 やろうとするチャンスは平等・才能不平等。これが世の中ってなもんだよ」


 穴の火も落ち着き灰が多くなってきたのを見計らって、シンは土鍋を取り出してきた。

 肉を煮る料理は、ずっと火にかけているとうまみが染み出すそうだが、煮すぎると今度は肉を食べた時に肉らしい味が少なく残念な気持ちになるんだそうだ。

 今回は鳥を使ったそうだが、皮や肉の少ない手羽先を煮て、後から他の部位を加えて煮立たせてから火から外し、余熱で火を通すのだそうだ。

 ……普通こんな手間は掛けてる暇はない。魔法を理解しようとする個人の能力(スキル)もそうだが、料理人を雇うような地位(立場)の家系なのだろうか。


「まぁ、魔法なんて魔力を代償によく解らない事をする。ってのでいいんじゃない? 解らないけど、法則を利用して、思い道理に使うやり方は判れは良い。

 魔法を完全に理解するには、ダンジョン作るようなそれこそ神様じゃないとねー」


 食事だって味なんか見えないんだから、美味しかった法則を集めたのが料理なんでしょ?って、確かに経験則だな。


「おい! 結局魔法って何なんだよ!!」


「解らないことが判っただろ? 魔法は道具であり、組み合わせで出来てる。

 そうだねー、家なんて壁があって屋根がある。でも、組み合わせしだいで間取りが変わるのと一緒で、実は魔法も手を加えることが出来るってこと知ってればいいよ」


 シンが料理と説明に夢中になっている間に、エルさんは火の消えていない焚火にワイバーンの皮膜を敷……。

 ―――ワイバーン! そんなの良く狩れ……るだろうな。マジで守護者って強いな。他にも見た目からヤバそうな毛皮が積んでいる。


「二人とも魔力の活性化は出来るだろ? それを意識してやってくれ」


「いいけど、まだ聞きた―――」

「さっさとやれ! ジルは考えるより体験した方が理解が早い」


 ティルと扱いが違い過ぎるんじゃないですかねぇ?

 ワザとらしい傲慢な態度に妹に視線を向けると、ソレがわかっているのか苦笑いしている。


 活性化。魔法の発動準備で、体内に意識を集中さの魔力を際立たせる。体を鍛えるように使えば使うほど強くなるが、ほとんど上手くいかない。ヒョロガキ(病弱な奴)が筋肉を鍛える為の筋肉がないと愚痴っていたが、言いえて妙だった。

 活性化の基本となる心臓付近に手を当て、瞳を閉じる……。


「はいっ! 終了~」


 手を叩く音が意外に大きくて目を開けたら、あきれ顔のシンと寝ころんだチャコを撫でているエルさんがいる。


「なんでだ?」


「色々間違ってるから。とにかく二人ともここに寝て」


 差された先はおきに被せたワイバーンの皮膜の上。火傷はしないだろうが、こんな使い方をしていいもんじゃない。


「質問です。間違ってるとは何をでしょうか? 魔法使いのほとんどがこのやり方です」


 攻撃魔法だろうが強化魔法だろうが魔法使いと呼ばれる奴らは活性化を上手く使いこなせる。

 冒険者ギルドでもそういう奴らは、『白星』と呼ばれ、経験がない奴でも「白星の1」などと名乗ればパーティーの勧誘が起きる。それくらい白星は期待されていて、ギルドでもその試験は念入に調査される。


「使い方が根本から間違ってるんだ。それを証明って言うか、理解してもらうにはこの方法がいい。横になって目をつぶって」


 もう扱いの差はいいや。教わってんだから悪意……はあるが、嫌悪感の感じない程度のイジリだし……。


「あったかいでしょー。リラックスしてー。上に掛けるから目をつぶってー」


「しんはどっかの店員だったのか?」


「んにゃ。口調とか態度とか、お約束みたいなもんだ。顔も被せるけど口と鼻は開けとく。獣くさいのは我慢して。

 んじゃ行くよー。そうだねー、とにかく死体になったように想像してー。指先から消えていくのもいいし、スライムみたいにグダってもいいよー。ゆっくりゆっくりー、体が無くなるように考えてー。

 一番最後まで残った場所見つけたら教えてー」


 子ともに言い聞かせるような間延びした言い方に力が抜けていく。

 背中の温かさと上に乗せられた適度な重みで、眠りにつく前の全てが暗くなる寸前で最後に意識が残る場所が判った。


「シン。俺は、喉と鳩尾の間で上の方」


「ジルはそこが魔力の活性の要。

 今度はそこを中心にゆっくりと体をつくっていって。さっきまで走っていたから血が指先まで届いてるのが解るでしょ? 活性化をしながらやってみてねー」


「おー……。なんとなく解ってきた。ちょっと難しいけどな」


「要になってる場所がちょっとズレてたみたいだね。そりゃ上手くいかないわ。肘とか慣れれば上手く出来るようになるよ」


 魔力の活性化をすると、力が湧き上がってくる気がしていたが、これはすごい。すごい分今まで上手く出来なかったところが目立ってきたが、訓練すれば白星にもなれそうだ。


「エル? そっちはどう?」


「まだ場所が特定できません」


「ジルは起きてもいいし、練習しててもいいから。ちょっと離れるよ」


 軽くうなずいて了解の合図を送ると、活性化を続ける。

 こんなに力強く活性化が成功したことは無かった。これなら、強化魔法で星5……いや、白星の5くらいすぐに行けそうだ。








「お兄ちゃんが言ってた活性化って、こんなに違うのです」


「いい加減落ち着きなって。まぁ、今までが今までだから浮かれるのもいいけど、魔法使いなんて言ったらなんでも頼られて大変だぞ。

 上に行こうとするのはいいが、判断するのは自分なんだからそこを間違えちゃいけない」


 ティルは眉間辺りに要があったらしい。それで心臓付近に集中しても活性化の効果が少なかった。ソレが才能の壁だと思っていたから余計嬉しいらしい。


「おー。ジルが冷静でびっくりした。正直、これがあれば他に行っても平気だって出ていくんだと思ってたよ。っていうか、水炊き食えよ」


「あ、うん……。ちょっとは思った。だけど、アンタはこれを教えても問題ないって思ったんだろ? それなら、搾り取れるだけ搾り取って、その間にシンがどんなことをやるのか見てみたいって思ったんだよ。仮に出ていくとしたらそれからだな」


 シンの作る料理は基本旨い。それでも手が出ないのは、取り皿にユズ(注意:柚子に似た別果実です。名前が同じなのは偶然と言う事で)の果汁が絞ってある。すっぱいし、皮は苦いしで食べる勇気がない。


「ハイ、シンさん質問です。なぜこんなことに気が付いたので?」


「んー。ダンジョンのモンスターってドロップ品が個体ごとに違うじゃん。アレってなんでだろって思ったらさ、それでも大体決まってるけど特徴になるのが決まってるから、魔力がためやすい。つまり、要になるのがあるんじゃないか?って思ったんだ。で、その結果がこれなわけよ」


 確かに角を持つ魔物のドロップ品偶に爪や牙の時があるが、ほとんどは角になるらしい。でも、俺たち冒険者達は、ドロップ品はラッキー程度でその先は考えていなった。

 もしかしたら気付いてる奴らがいるかもしれないが、ソレを平気で教えるんだからこいつは変だ。


「んでな、ダンジョン見てて思ったんだけど、ダンジョン内って自然風化っていうのが早いじゃん? 何倍も早くなっても魔力の要とかそれがあれば残るんなら、ダンジョン以外なら魔力があれば存在し続ける。存在し続けるのなら魔力がある。

 それで、話は戻るんだけどウォータークリエイトってのは、魔力を先払いで長期契約しているんだから残っていても不思議は無いし、その場で消えるウォーターボールに比べ魔力消費が大きいってのに納得がいくんだわ」


 シンはそこでいったん話を止めて、鍋からスープと共に肉をすくい、取り皿に入れてスープを飲んだ。マジで飲んだ! ……。むせるどころかユズ追加しやがった。


「ドロップ品は魔力があるから残る。短期の魔法は呼び出された後、使ったら消える。

 モノと魔力の両方が揃わないと消えていくんだから、ウォータークリエイトは不安定な水を世界になじませてるんじゃないか?って思ったわけ。

 合ってるかどうかはこの世界を創った神様じゃないとわっかんねえんだけどな」


 そういって鳥肉を箸でつまみ口に運んで、たまにチャコに鳥皮を上げていた。

 シンの食事作法は独特だった。


 スプーン・フォーク・ナイフは使えるが、ほとんど箸だけで済んでしまう。

 彼の故郷では、今では形骸化されたそうだが、食事をする場所で切り分ける事はしないらしい。一緒に食事をしている仲を刃物で切るとして、刃物は持ち込まないようにするらしい。言わゆる言葉遊びだったそうだ。大きくて口に入らないものは、箸で裂いたとしても他人に渡さなければいいらしい。

 他にも食事前は「いただきます」は、命を貰います。食後の「ご馳走さま」は、「馳走」が走り回るという意味で、野菜を育てた人や調理してくれた人すべてに、もてなしてくれてありがとうと言う意味なのだそうだ。本人曰く、教会の祈りを神相手じゃなく人相手にやるだけの習慣で、強要はしないらしい。


「なぁ、シン達はどこから来たんだ? 箸も見たことないしこんな活性化なんて、ギルドでも把握してない」


「ちょっとお兄ちゃん!」


「そりゃそうだ。ダンジョンのドロップ品って、なんで残んだろ?って考えたの一年前だもん。それまではそういうもんだなって思ってたし、利用することは考えたけど、自分の納得の為ってのはここ一年だからギルドが知るわけないじゃん」


 シンは物知りで頭は良いのに、基本バカだ。



 ユズの果汁は少ない量なら旨かった。だが! すっぱい肉ってのは俺はダメだ。



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