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「ん? あぁ、そうか。ティルは……?」


 明り取りの窓から光が差し込み、毛皮にくるまって眠る妹に朝日が当たる。いつもゆるくまとめた赤い髪も土埃で艶を無くしてしまっていた。もう少し俺に余裕があればもっと楽な逃走劇が出来たのかもしれない。

 いつになったら足りなくて後悔する事から抜け出せるのだろうか……。


「さてと。身分は客だが、厄介者の客だよな」


 多種多様の畑から出された食事は芋と塩。どう考えても歓迎されていない。


 農業をやった事がないジルは、あの畑からどれだけの食糧が採れるか想像でていないが、シンの畑のほとんどはそのまま肥料になっていた。

 神や天使だから、食事は息抜き。土鍋しかなかったのも各種収穫後に一回目しか食べていなかっただけだし、食糧庫予定地は整地しただけなので、夕食の材料など無かった。

 一世帯当たりどれだけ畑が必要か? そういった計算は得意だが、想定外の事となるといろいろ残念な神である。


「目が悪いから弓はエルさんか? シンなら罠を使いそうだな」


 部屋を区切る皮をくぐり抜けると、焚火の部屋には誰もいない。耳の良い獣人の俺にも気づかず外に出たようだ。

 ドアを横に開いて焚火の残り香の部屋から、緑豊かな朝の風に当たる。湿った森の空気でもなく、乾きと活気のある街の空とも肌触りが違い、無意識に背伸びをしてしまった。


「おはようございます。ジルさん」


「おっ…… はよう。エルさん。気が付かなくてすみません。驚きました」


 人形めいた顔に陽の光に当たった少女の髪は金に近い茶色で、首筋できつく飾りのない紐でくくって色気などないのに健康的で、ティルなんかは嫉妬しそうだ。


「シンさんはどこに? それと弓矢を借りたいのですが?」


「チャコさんと海の方へ。弓は一度使ったっきり使い勝手が良くないので釣り竿に変わりました。食事の用意をするので狩りなど時間の掛るような事はお勧めしません」


 よく知らない鳥を掲げ、「準備がありますので」と……。

 リザード系が人間の皮をかぶったような変化の少ない表情で家に入っていった。

 あの調子ならティルに危害は与えなさそうだな。


「使用人だったのか? 丁寧な感じだけど、ズレてる?」


 シンがいる方へ向かうと、ちょうどいい感じで体がほぐれてきた。寝床があるだけましだったが、硬い地面に毛皮じゃキツイ。ティルの体力が戻るまで世話になるのだったら、草原から草をを刈って寝床くらい作ってあげた方が良いんじゃないのか?


「よう! どうした? 難しい顔して??」


 家の方から流れてる川が流れ込んでいる部分だけが侵食して、それなりに広い内海を作り波も穏やかだった。これなら釣りも悪くない。


「シンは朝早いんだな。世話になってるんだ、寝床くらい作ろうと思ってな。どれくらい材料が必要になるか考えたんだ」


 シンは紐の両端に石をつけたものを持っていて、チャコがしきりに尻尾を振っている。遊んであげてやれよ。


「りょうか~い。チャコ取って来~いッ!」


 プラプラと紐を揺らしていたら、いきなり魔力が集まってシンが海へと思いっきり投げた。


「驚いた。すごい強化。ってチャコ!! って海の上走ってんのは守護者の力か? 仕草はまるっきり犬なんだけど」


「本人気にしてないからいいんじゃないの? それで、ここに住むって決まったんだ」


「ン? あぁ、寝床ね。シン達は慣れてるかもしれねーけど、俺だって起きた時背中がバキバキいってたぞ。まだ決定じゃないけど、ティルの体休ませるにはちょっとな。作るのはついでだよついで」


 食事どころか休むことも寝ることも必須じゃないシン達は、寝床のことなど全く気にせず二人が眠った後会議を開き、今後の方針を変えていた。

 二人が離れてもこの場所の話が広がるのなら、取り込んでしまえと……。


「じゃあ、飯食ったら森に行くか」


「なんで森?」


「ベットの材料だろ?」


「宿屋のベットほど上等なもんじゃねえぞ」


 作れって言われたら作れそうだが、大工道具あんのか?


「そうだねー。ちょっとやる事がが変わったからねー。金属とかも必要になったし……。

 お、チャコ帰ってきた」


 強化魔法で飛んでった紐を拾ってきたよう―――


「あれ。見間違いじゃなきゃ……。鳥、咥えてるよな? さっきエルさんが持ってたのは?」


 シンは得意げに親指を立てて、


「チャコが遊べて、食糧確保だな」


「守護者を猟犬扱いすんなー!!」








「旨いな」


「美味しいです」


「だろ? 料理の知識だけは結構あるんだ」


 シンやチャコと共に血抜きした鳥をぶら下げて家に向かうと、羽をむしられ削ぎ切りされた鳥を棒に重ねて刺し、天井からぶら下がった棒でじっくり炙っていた。

 鳥は塩を振って丸焼きが極上でそれが食べたい派の俺と、美味しいのは食べたいが料理でかさ増しして沢山食べたい派のシンで、意見の交換があった。

 落ちた油を香草の入った鍋で受けてそれを掛けるって卑怯だろ……。茹でてすり潰した塩の効いた芋と鳥脂なんて犯罪的だろぅ……。

 確かに丸焼きだと中身は蒸し鳥と変わらないし、焼くと肉汁が落ちるから我慢して食べてたなんてカッコ悪くて言えなかったけど、焼き目を削ぎ落し脂漬けながら焼くなんて……、先に言えよ!! 肉料理は得意じゃないって、滅茶滅茶旨いじゃないかこのギロピタって料理は!


「飯食ったら俺とジルは森に行くから、エルはティルちゃんに畑とか教えといて」


「はい」


「え?」


「え? 寝床作るって言うんだから住むんだろ? ちょうど人出が増えればやれることも多いし、助かるんだけど、違うの?」


 あっ、シンにとって寝床ってベットや家の事か!

 どうする。当てもない旅を続けるのか? 運よく住む場所が見つかっても、安心して住めるか?

 ここだって、シンが戦えないなら俺が狩りに出なくちゃいけない。目が悪いと言っても、あれだけの強化魔法を使えるんだ。ないとは思うが、ティルが襲われてもしたら抵抗できない。


「いや、違わない。ついでだから聞くが、シンは魔法が使えるよな? それを教えてくれ」


 シンは一瞬エルに視線を送っていた。ティルも驚いた顔で俺を見ている。

 料理の待ち時間に話し合った。その結果、今は体調を考えて3日は世話になる。それ以上は様子を見てから。になったばかり。


 おそらくシンは戦闘能力が必要な職業。それにお手本のような強化魔法は、どこかの組織で基礎を教わらないとあぁはならない。

 それに家の中の焚火の上の吊るす棒に、あの料理はここら辺では見かけない。冒険者でも知らない道具があるほど聖域を跨ぐ仕事をしているベテランなら、星4を知らないなんて言わない。

 あり得るとすれば、研究者関係か? 魔法薬に錬金術、一番可能性の高いのは魔法を道具で再現する魔道具開発。

 エルさんは助手兼監視役か?


 俺はまだ潰しは効くがティルが正規の魔法を覚えれば、他の聖域に行ったとしても生活できるだろう。


「あー、うん。……そうだね。こっちも魔法使うのにちょうどいいし、教えられる事は教えるよ。ただ、その分いろいろ協力してもらうよ。それと、今日は準備するから兄妹でしっかり話し合ってくれ。後々『本当は~』とか言ってやりたくないとか言ってもどうにも出来ない。もちろん断ってもいいよ~」


 シンも自分が勘違いしたことに気付いたようだが、『本当は~やりたくない~』って言ったのは俺に対する忠告だった。


「まぁ、コンゴトモヨロシク。ってやつだ」


吊るす棒=自在鉤(囲炉裏のに吊るす鉤。魚の木彫りが多いのは火事にならないようにとの願掛けらしい)

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