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「さて、私も発言していいかしら?」


 シンが勝負していない負けを勝手に認めて、今度はシンが俺の作ったヤツの改造に話が進んだ。

 地面の凹凸がシンが思っている以上に大きい場所を移動しているのに驚いているようだった。その時は本体を倒してソリの部分で乗り越えばいいのだが、そこを改造したいらしい。

 車輪を三角形に変えて、各頂点に適度な大きさの車輪を付け、履板(りはん)と呼ばれるベルト状の物を巻きつけたいらしい。

 回転できる三角形の頂点に車輪は、無視するには大きいが、移動できないほどでもない段差なら三角形が回転して乗り上げられるようだ。

 だが、履板の意味をシンに聞くと、「自転してないから意味ないか」と言って取りやめになった。

 おそらくコイツは、何らかの完成形を知ってる。それが、研究室の機密じゃない事を祈る。


「そうね。どうやら私は必要ないらしいわ。もう会うことはないでしょうけ―――ぶへっ!」


「おっ! 神様が出してはならない声を出したぞ」

「……チャコ。放してあげろよ。シンは飼い主としてどうにかならんのか?」

「そりゃ無理だろ。チャコは神力っつったっけ? それで比較的若い神だって判明したんだろ? つまり未熟って事だ。俺だって未熟なんだから、完全に制御できるわけないだろ?

 それに完全って存在はな、この世を創った神様だって完璧じゃない。ダンジョン創ってる神がいるんだからどこかで補填してるんだから、完全で完璧ってのは過去の事実のみ!ってやつだ」


 シンは渋めのお茶が好みらしく、前足でステラ様を優しく押さえつけているチャコを見ながらお茶を淹れている。


「いい事言ってるつもりなんだろうが、この状況を治める気ゼロだろ?」

「まぁね。チャコもちっこいのも神力がある神なら、俺が止められるわけないじゃん」

「むぐ……」


「チャコ! お前の我儘で連れて来たんだから、しっかり面倒見ろよ」

「わう!」

「なんだかんだ言っても、しっかり治めるじゃん」


 もう少し強く押したら何か出るんじゃないか?という状態のステラ様を助けようと手を伸ばすが、チャコの視線が絡みついてくる。ワイバーンを単独撃破する犬という、よくわからん存在であるが、神力を持つ神々に連なるモノならば逆らうだけ無駄なので、ステラ様を助けるのは早々に諦めた。


「ところでシンさんは昨日どこに行っていたのです?」

「この拠点を紹介してくれた奴に会ってきた」


 ある意味夢中になりやすい(おバカな)男どもが趣味に走ると碌に話を聞かない。それを知っていて話が途切れる隙を突き、本人(男達)も前の話にかすっているので違和感なく話を続けられた。


「まぁー……、なんて言ったらいいのかなー? もう少し働いて(発展させて)下さいってお願いされた。……んだけど、何からやればいいかサッパリで、終着点も決まってない。ってな状態」

「終着点です?」

「難攻不落の要塞都市にしたい・飢える事のない農業都市・技術の最先端の研究都市・誰もが来たがる娯楽都市。他にも立地的に難しいけど商業都市なんかもあるね。

 とにかく、それに関わる人を呼び込む魅力が無いといけないし、大きくなれば最終的に国がちょっかいかけてくるんだろうから、価値を高めないと」

「えっと……。たぶんそこまで発展しないと思うのです」

「いや、そうでもなさそうだ。お前だって魔力の活性化出来なかったら、ここで生活するのも大変だったと思うぞ。正直知り合いに教えたいほどだ」


 と言ってもアルザスは白星だし、元の街の連中は外に出るほど強くない。ティルが行けないのなら行く気はない。フィリアでは自分たちの用事が優先で教える時間も無かった。あれ? もしかして寂しい人生になってない? まぁ、教えてあげたい『つもり』だから、俺はケチなわけない。すべて状況が悪い。


「防衛考えても、大物はチャコがいれば平気そうだし……」


 そのチャコは気絶したステラ様を部屋の隅に運び、丸めた体の隙間に入れて温めるように寝ていた。今日はユンヌと遊びに行かないらしい。









「ハッキリ言おう。ステラはここでダンジョン創って役に立て!」

「想像はついていたし、チャコ先輩から逃げられない以上仕方がない事だわ。ただ、チャコ先輩に私をお人形扱いするのは止めてと口添えしてよ」


 ダンジョンを創っていない神。そんなもんが居るのなら、ぜひ確保したいと思うのは権力者なら当然だろう。それが本当の意味で神を確保できればだが……


 ダンジョンは生活必需施設である。

 ダンジョンなしでも生活は出来るかもしれないが、人の生活圏と魔物の活動拠点は被っている場所がほとんどである。そのような状態で農業だけで食料の安定供給など出来るわけがなく、狩りや採取が食卓の半分を占める事になっている。神々はそのダンジョンの中で小さな世界を創りだし、複雑な生態系を持つ地上と限定的な生態系のダンジョンで人は今生の繁栄を謳歌している。

 人を手助けする神々は数多く存在する。だがソレは、慈悲があっての手助けで、最初の計画から協力というのは聞いたことは無い。


「おー。そうなればいいな~。とは思ったが、こっちから言うとは思わなかった。もう少し搦め手でいくと思った」

「どうだい?しびれる?憧れる??」

「バ~カ」


 すぐに拍手してしまった事を後悔したが、普通言うか? 冒険者でも格下相手にこんな事言う奴はハブられる。精々奴隷相手なら許される。良好な関係を望むなら言ってはならない言葉だ。


「チャコの方が神力?ってのが高くて、どうやらチャコはステラを見捨てるつもりはない。だったら、無駄飯食わせるほどの余裕はないんだから働くのは当然だよな?」

「そうよね。私もそう思うわ。ただ、ダンジョンを維持するのに必要な力が必要なの。それを用意してくれる?」

「報酬は当然だな。支払えるのはそんなにないが、こっちの生活に影響のない程度なら問題ないな」


「イヤイヤイヤイヤ……アンタらはそれでいいのかよ!」


「何言ってんだよ。いくら何でもタダ働きを強要するほどブラックじゃない」

「私だって譲れないものがあるわ。そこに踏み込まない限り人族の……違うわね。人を含めた自然のバランスを極端に壊したくないし、貴方達人族だけの世界など想像したくないわ」

「俺はそっちの方が想像しやすいんだが?」

「街に籠ってる人族ならそうね。でも考えて見なさい。人は利用し、改良することに優れているわ。でも、お酒を生みだしたり、穀物を人族が直接生み出したりするわけではないの。あくまで利用するだけ」

「なるほど、そういう意味ね。人族とか植物族とか菌族とか、そういう風に分けてるのか」


 二人の間でどんどん認識のズレをすり合わせている。ダンジョンを持っていないと言えども、神相手に一番最初に話す内容ではないと思う。現に少し目を話したら、神の住処(すみか)の事からトイレの話になってるし……。

 少しばかり呆れていると、腕をチョンチョンと突っ突かれた。


「おにいちゃん。どんなダンジョン出来るのです?」

「一番多いのは洞窟型だな。移動場所(ルート)が限られてる分、進みやすい。運が良ければ鉱石も手に入れられる」


 他に罠がある建物型は神具が多くて、平地や森など自然型は薬草の他に食料が採取されやすい。

 その中で都市が発展するのは、自然環境にない物をダンジョンが有している場合なのだ。

 この場所の場合人を集めるには、森と平地があるので、鉱石が出やすい洞窟型か神具のある地下神殿等の建物型のダンジョンになる。


 とは言っても、ぼっち(ソロ)だったので、冒険者の常識として知っておくべきことの羅列で上手く誤魔化しただけである。


「補足ですが、神々はジルさんの言う何々型に合う型は好き勝手に創れません。

 獣人族の方たちが魔力の属性変換が苦手なように、海を司る神が火山地帯の洞窟型のダンジョンを創る事は困難ですよ」

「え! そうなのか? あっいや、理屈は分るけど、どのダンジョンにどんな神がいらっしゃるってのまで知られているのか? どうしてエルさんはそれを知っている?」

「はい。一部ですが、記録されています。また、神々と人が近かった頃の神話として残っています。ですから調べようと思えば誰でもこの答えに行きつきます」

「知らなかったのです。ステラ様はどういったのが創れるのです?」


 完全に予想外だった。人には出来ないから神の名を持つと思っていた。だけど、ダンジョンが複数ある時点で、神が人が思うほど万能ではないのだろう。


「そうね。私は自然が好きよ。それと、妖精族の源流になっているからかしら? 私は人と同じように物を作れるわ。ただ、条件……違うわね。ダンジョン内でモノを造るには条件があるのよ」


 ティルの質問が聞こえたのだろう。少し疲れた感のあるステラ様が話に割って入ってきた。

 疲れさせた原因であろうシンは、チャコを足の間に挟み、額や耳の付け根を爪でカリカリかいてあげてチャコをうっとりさせている。いまだチャコが見えない位置に手を持って行くと警戒される俺達とは扱いが違うようだ。


「その条件とは何なのです?」

「簡単に言うと魔力よ。ただ、普通の魔力ではなく、ダンジョンのテリトリー内で生命が魔力を消費した後に残るよくわからない力を私たち(神々)が利用できるの」

「?」

「シン、説明して上げて」


「んー。そのまんまの意味だろう?って言ってもダメ? そうだなー、俺がダンジョン創っている訳じゃないからはっきり言えないけど、ダンジョンってのが俺の土地だとする。

 俺の土地には湧き水が湧いている。湧いているのが魔力な。

 旅人が来て「水が飲みたい」って言われたら、そりゃあげるよな? あげた対価として……違うな。旅人が無意識で払ってるんだから、あるかどうかわかんないけど、使い捨てのコップとか……。安全に水が飲める使い捨ての魔法のコップを旅人が使うんだ。

 使い捨てなんだから捨てるんだけど、実を言うとそのコップの素材は万能素材で、それを集めて水飲み場の設備を整えるんだ」


「お前、最後考えるのを止めただろ?」

「そりゃそうだよ。無理矢理当てはめたんだもん。別に万能素材じゃなくて、実は栄養価の高い食べ物で、神が働くのにこれが必要だったって例え話にしても良かったくらいだもん」


「確かに働きとしては微妙に違いますわ。魔力自体が属性を持った力で、旅人が魔法を使うことで、その属性だけを消費して()が扱える力になりますの」

「そこは勘弁してくれよ。ってか、その説明でいいじゃん」

「私にとっては生まれた時から出来る力なのよ。出来ない人にどこまで説明すればいいのか知らなかったのよ」


 二人が話し始めた時に「存在するための力」だとか、「概念としての力を仮定して……」だとかいろいろ言っていたのはこういう事らしい。よくここまでまとめたものだ。


「それで、シンだったらどんなダンジョンにする?」


 シンはニヤリと笑うと、こう言った。



「まずは闘技場と周辺施設だな」




ステラ様は、元々フィリアからの帰り道に登場予定でした。

神様の数え方は、一柱・二柱ですが、一人・二人とさせてもらっています。


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