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 シスを手伝った翌日。フェイに木製の小さな車輪を頼み、俺は俺で大工仕事を久々にこなしに来た。


「それで、ジルは何を作るの?」

「シスの役に立ちそうなのだよ」

「シュノーケル渡したのに……」

「なんでお前は風呂に行くときに渡した! 昨日のの風呂場が大変だったって言ったろうが、行く前にディズに謝っとけ……って逃げるな~!!」


 昨日の夜、風呂場がうるさくて、覗きだと思われないよう静かになってから向かったら、シス以外がぐったりしていた。シュノーケルと呼ばれる顔を水面に浸けていても呼吸ができる道具を渡したためにシスが興奮して暴れたそうだ。

 そんなもん渡せば遊ぶだろ? 俺でも遊んでしまう……と思う。それを知ってて渡したんだから性格悪い。

 

 何はともあれ、シスの道具作らなきゃいかん。


「お兄ちゃんは何を作るのです?」


 朝食時兄ちゃんはシンとエルさんがやる事があるらしくこれから出かけるらしい。ティルは魔法の勉強は休み。勉強勉強だけだと応用が利かなくなるから今日はお休みになった。と言っても、こんなところでやる事もないらしく、朝から後ろをついてきてる。


「船のようなウキ? シスが足を取られても掴めるやつ。で、ついでにフェイの車輪を付けて運べるような物」

「……お兄ちゃんもそうだけど、シンさんも人に物を送るのが好きなのです」

「俺の場合は、自分の武器が決まらなかったからなー。自分だったら、こっちの方がいいだろうな~ってのが有るとついつい進めちまう。シンのヤツは、こういう種類のあるからやってみたら?って感じ。

 本人が持っているのを渡すのと、本人が気が付いていないのを提案するのは違うぞ」


 長剣を持つ奴に技量の面から短剣を進める事はあっても、トンファーなんて進めない。


「今回はディズに必要なのも教えてもらったからな。桶じゃ高すぎてシスが休めん」


 足のつかない場所で休むのなら、桶はつかまりにくいし、魚も入れにくそうだ。ついでにディズとシスは別の場所で似たようなことするのだから、それぞれ持っていた方がいい。って事なので、俺が用意して二人は昨日の続きをするらしい。


 俺もシンも大工仕事は素人だからって、計算上の家を作る為の木材の3倍の量を集めていた。最終的に使ったのは2倍ちょっとだったので、失敗して使えなくなった木材が一件分ある。

 ちなみに余った約半件分の木材は、倉庫や家具に使われており、ここにあるのは何かに使えるんじゃないか?と一応とっておいたもので、最終的に燃料になる予定のモノになっている。


「どんな形にするのです?」

「しいて言うなら、靴だな。真ん中に命綱を括り付けて、疲れた時体重をかけても水が入らないようにする。そんでもって、歩くときは入り口…踵の方を持ち上げて爪先にある車輪を転がして引っ張っていける。って感じだな」


 靴は戦闘職はもちろん、旅に出る人の必需品である。

 街では足の裏さえ保護出来ればいいので、鞣しすらしていない皮サンダルが主流。荷運びや職人などは足の甲を守るガードのあるサボサンダル。冒険者や兵士・騎士になると戦闘中脱げないよう靴になる。下世話な話だが、お金も地位も持っている人が鞣した革の靴を履くのが主流になっている。

 ただ、元々は寒さ対策が靴の役目なので、寒冷地方や冬場は靴を履く人が多い。


「むー。普通に欲しかったです」

「欲しかった(・・・)って言われても、街中の石畳じゃ小さな車輪が噛んで意味ないだろ? ここみたいに固めの土じゃないとな。あぁ、ついでに雨じゃ漁をしないって言うんだから使えるってのもあるな」


 フェイなら木を組んで水が入り込めないようなヤツを作りそうだが、あいにく俺は自信が無い。よさげな丸太を長さ1メートルの幅50センチに切り出し、海面に浸かる面と反対側を適当に平らにして中をくり抜くときにやり易いようにする。シンに活性化の奥義を教わってもらえなかったら相当時間がかかる作業だ。

 ちなみに長さは俺が両肘を開いておけるくらい。幅は抱きしめて泳げるくらいなのでかなり適当。

 靴で言う『つま先』部分に抱き付いて泳げるようにしたかった為、予想より薄くなってしまったが元はシスが使うんだから意外とこれくらいの方が良いのかもしれない。


「靴に荷物を運ぶ鞄か~。ちょっと欲しいです。中をくり抜くの大変じゃないです?」

「本職に頼れ。俺じゃ中途半端なもんしか作れん。

 まぁ、多少は(ノミ)の扱いが上手くなってきたが、そこまで拘らなくてもいいだろ。浮くのが一番。あとはオマケだ」


 木を大体の大きさに切って、使いやすそうな部分で形を整え、割らないよう空洞を作る。まだまだ途中だが、ここまで約30分。三分の二……いや、準備も含めると二分の一は強化魔法を使っていたか?

 魔法ってのはハッキリとは解明されていない。前にシンが言っていたのは、発動条件やら発動できなかった例で言わば魔法側(・・・)の立場に立った言い方になる。

 極端な話、気力体力も充実した朝、寝起きに簡単な魔法は使えなくても、一呼吸したら難しい魔法が発動した。なんて事はあり得る話。

 そんな使う側の法則がハッキリしなくても、シンに習う前はこんな長時間強化魔法が使えたためしは無かった。おそらく魔法に馴染むというのはこういう事で、これが出来てから冒険者の白星を貰えるのかもしれない。


「そう言えば、普段何やってるんだ? いや、魔法を使って道整えてるのは知ってんだけど、完成形だけで、現場見てないからさ」


 開拓跡であるここの道は、魔物や盗賊が奥まで侵入しにくいよう道を複雑にしているのが一般的。その道をシンは無視した。

 シンの言う「管理がしにくい」とか「場所の無駄遣い」って、誰もが思っているが安全のために言えない事を「チャコがいるから」の一言で終わらせた。

 それでも危ないと思うのだが、単純な戦闘だとシンの方が強かった……。森の中ならチャコの勝ちが見れそうだが、平地では駄目。トロールの力を無理矢理人間に詰め込んだヤツ。しかも、白星の新人冒険者って言うんだから始末に悪い。勝てるとしたら気配察知能力が低いくらい。そこを突けば行けそうだが、経験積んでベテランになったらお手上げだ。


「風の刃で余分な草を刈って、弱い風の衝撃で集めるのです。土を焼いて根を燃やし、水を含ませ土地を固める。川沿いの道には樹木を移して大地と結ぶ」

「随分と詩的に言うな……。水路は?」

「……アレはいけないのです。最後には人の手で同じものが出来ると思いますが、シンさんもエルさんも変です。13メートルの道に沿って小川を流すし……。アレが話に聞くダンジョン変換と思ったのです!

 強化魔法は下手ですけど、まとまっていればゴブリン20体ならいけます。それならたぶん私は星4くらいの冒険者です? あの人たちと同じ事が出来たら星幾つの冒険者なのですか!?」


 シンとエルさんの事はほっといていい。

 それよりもお兄ちゃんはゴブリン20体相手に出来るってのが衝撃fだぞ?


「シンさんの計画では、街を囲む壁を作るのはいいのです。なんであんなに性格悪い壁を作ろうとするんですか?」


 今住んでいる場所を中央部として、北と西にそれぞれ15分ほど歩くと森があり、南に5分で入り江、東に8分ほどで海がある。川は大きな流れとして2本あり、1本は北東から中央部の北まで流れて東へ進路を変えて海に出る。もう1本は北西から中央南付近までゆったりと流れ、入り江に流れていく。

 シンは、南に壁を作らず入り江全体を囲うように壁を作る予定だそうだ。現に、魔法でくるぶしの上あたりまでの小さなウネが出来ている。水路で出た土を土壁に利用するつもりらしい。

 今のところ門は北東ではあるが、東側は北から囲う壁が東の壁を囲うようになっており、海側を一度南に歩く必要がある。

 門周りの構造はシンはとぼけたように、「虎口って言うんだっけ? 通路を狭くして、門に入るのに時間がかかるのだから、北から魔物が襲ってきたときの時間稼ぎ」と言っているが、盗賊相手のキル・ゾーンにしか思いつかない。ソレが有効なだけに壁の内側に入ろうとした分、入る人が警戒するのを気にしない(完全無視)性格のようだ。


「ああそうだ。しかも、壁の外だって海があるから、一気に人が入り込めない。ホント(たち)が悪い」

「質が悪いって言えば、シンさんは何のためにやってるのです?」

「ん?」

「はぁ~。お兄ちゃんは組織相手は疑り深いのに、個人相手には信用しすぎるのです! あれだけの事がやれる人達は正規の開拓団に居てもおかしくないのです」

「開拓団ってどんなところか知ってるのか?」

「知らないです」


 人が住めるところは思っているより少ない。シンと肉の話をした時にも思ったのだが、妹も街を出なかったからあまり知られてないようだ。


「開拓団ってのは都市兵が付いて行くほぼ戦争みたいなもんなんだよ。

 開拓する理由は人が多くなったとか、食糧事情とかいろいろ言うけど、結局は街の勢力範囲を広げる為だ。知識・技術・戦闘能力は間違いなく開拓団に所属してそうだが、アイツの思考は間違いなく悪戯小僧で、勢力拡大を命令されてる組織には扱いきれないし扱おうとしない。

 他にも、都市兵とかの都市の関係者は規律がしっかりしていないといけないけど、実際に開拓する方は後が無い奴らだろうな。都市関係者の中に斥候とか冒険者も含まれてるみたいで、噂では都市関係者は一か月とか期間で交代らしいぞ」


 街を繁栄させる≧街を魔物や略奪者から守る準備をする>開拓団を派遣。だから、ほとんど機能していない開拓団なんかに予算は割かない。


「う~ん」

「シンみたいなのは、『大成功より労働力に見合った成功』が必要な組織には合わない。

 それに、知識だけなら一級品だけど、合わないこともある。畑を休ませるなんとか農業は街でやったら最初の収穫で食糧難が起きる。やれるとしたら、人口の少ないうちに体制を確立しなきゃ無理。魔物が少なくて土地があったら開拓団なんて出さないっての。

 ただし、アイツもあまり把握していない共栄作物(コンパニオンプランツ)ってのがあるらしいんだが、本当にあるんだったら絶対に広めた方がいい」

「そうなると、ますます目的が分からなくなります」

「そうかな~。私には解りやすい方だと思うよ~。ジルちゃん。頼まれてたの持ってきたよ~」


 車輪を二つ左右の手に持って、脇に二つを繋げる木材を挟んだフェイが立っていた。


ソレ(車輪)ってそれぞれ動いたり動いたり止まったりするやつだろ? そこまで手間かけなくてもいいんじゃないか?」

「いや~、私も何だけど、子供って予想外にあちこち動くからさー。顧客に合わせた物を作るのが仕事です!」


 靴型の船兼荷台の幅を計って、作業を開始する。

 どうやら、俺が作ったのを上に乗せるつもりらしい。


「それより、解りやすいってのはどういうことだ?」


 ティルも興味があるみたいだが、表情を変えずに見ている。ティルは知識を教わるときは素直なのだが、自分が知らないで誰かが気が付くような事を知りたいときはこうなる。一応俺にはバレてるので、素直に聞いてくるのは可愛いものだが……。


「んとねー。私は私が面白いと思うのを作るのが好きなの。その為には材料が必要だしー、新しい発想もお金も必要。その為に依頼を受けているんだけど、たま~に私なんかが考え付かないのを依頼してくる人がいるんだ。そうなると、ホントは全部一人で作りたいんだけど、重要なところ以外は他の人に仕事を振るワケ。シンちゃんがやっているのはそういう事」

「言いたい事は分かるが、目的が解からんって」

「そりゃー解んないよ。ものすっごくくだらないことかもしれないしー。でもね、国を作るつもりならありかな~。なんてね」


「ちょっと待ってください。そんなことしたらそれこそ戦争です」

「あ! 大丈夫大丈夫。シンちゃんはたぶん見捨てないよ。都市から攻められても、防衛はどうすればいいか経験になるし、たとえ負けたとしても敗走の経験になるから最後まで諦めない。諦めるとしたらシンちゃんが一人になったときぐらいじゃないかな~」

「ん? なんでそこまで考え付くんだ?」

「そりゃ、私も経験したもん! 国って言ったけど、私の場合はお店! 見た目はそんなに変えなかったけど、地下とか拡張始めるとこだったんだから。それがおっちゃんの一言で全部パーだよ。まぁ、私が悪かったんだけど、次は同じ事しないよ」


 確かに……。失敗して全部終わってから、次は上手くやろうって言いそうだ。


「まっ、そんな感じかな~? 本当の目的ってのは勘だけど、そこまで外れてないと思うよ。水路とかの計画考えるとね」

「アイツの頭の中が解らない(理解しがたい)事が分かった(判断できた)。いずれここを捨てる事になるかもしれないけど、当分先って事か」

「んにゃ。それこそ、私達がここを奪ってシンちゃんを排除しようとすれば、捨てるだろうね。私がフィリアから追い出されるのを当たり前のように見てたから……。

 それより、この荷台って海に浮かべるって言ってたよね? たぶん沈むよ」

「え!」

「沈むって言うか、横に倒れるよ~。そもそも、砂地や岩場じゃ車輪は使えないじゃん」


 砂地はともかく、岩場は考えてあった。だけど、その前に転覆の事なんて考えてなかった。少し考えてみれば分かる事なのに……。フェイも船関係は作った事が無いが、自立させる道具など作った経験が生かされている。

 この後もフェイにダメだしされて、作り直しなった。ちなみに初代は灰を入れる容器になった。


コンパニオンプランツはやった事がありますが、家庭菜園レベルなので効果は実感していません。


簡易地図です

挿絵(By みてみん)

緑:森

紫:壁予定

茶:標高がちょっと高い

水色:海・川

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