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家の構造が違う。
壁と屋根があって人が住むのは同じだが、シンの建てようとした家はここでは使えない。いや、海の側ならどうなのだろう? 流石にそこまでは話を聞いたことが無いし、そんな事を気にしたことは無い。
「だから、二階は好きにしていいって言ったろ!」
「玄関から入って大きな梁があるってのは憧れるだろ?」
目の詰まった巨木を魔法を使い、1ヵ月かけ乾燥させた木材を傍にシンがわがままを言っている。
基本口出ししない。俺にも理解できるように教えてくれる。そんな俺が求めたのは砦のような丈夫さを持つ住処。
ちなみに間取りはティルが考え、道路側の一室が大きく店舗のような作りになっている。
「上流から木材と一緒に石材を運んだのはシンだし、アーチ状に組んだのもシン。漆喰はフェイだけど、石灰を集めるのに差込鍵をフィリアに売ったのは確かにシンだ。
縦・横・斜め、アーチを上手く使えば、石材だけで崩れないって言ったのはお前だろ? 木材は必要ないし、お前が好きにしていいって言ったのは二階だ」
「一階の天井は二階の床下だ!」
間違ってはいないが、バカな事言ってないでさっさとやれよ……。無駄に凝るからフェイ達の家より遅れてんだよ。あっちはもう煉瓦屋根の準備まで行ってる。
「あのな、ウチはともかくフェイの所の梁だってあんなに必要ないんだよ。地震だってダンジョンがあればそれ以上伝わらない。ここだって開拓地だったんだろ? だったら派遣の段階でクリアされている」
「台風は?」
「無い……と思う。俺が住んでいたのは山の方だから、海岸の天気まではちょっと……」
どこそこ地方が台風で……って話は聞いたことがあるが、豪雨と嵐と台風の違いは知らないし、五年に一回、嵐だと思ったら近所の人はすごい雨だったと話しているのを聞いた。
壁で自立できているのになっているので、シンの建てようとした家は柱だけを最初に組み上げようとする必要が無い。火山近くや温泉地などなら地震の可能性がある地域には必要かもしれないが、ここなら魔物と野盗対策の方が優先だ。
「だろ? だから安全策として―――」
「あのクッソデカく長い石。重かったけど、あれは何のためにやった?」
見えるだけで四本。背骨と肋骨のように縦横に見事に納まり、とても良い出来だがシンに任せるには話を聞いてから行動した方がいい事に気付いた。
こんなデカいの。親父が守っていた門並みの石材だろ。シンが木に括り付けて、ウォーターボール?ウォーターウォール?で浮き上がらせて設置した。あんなもん何個も積み上げるのだから、入場料が必要になるわけだ。
「……自重で周りの石を挟んで、ズレないようにし、垂直方向・水平方向の荷重を支える為」
「木の梁と何が違う?」
「……同じです」
「そうだろ? 一階は共同と俺達兄妹のスペース、二階はシンとエルさんにチャコのスペース。いい加減あの小屋から移れるようにしろよ。俺達も手伝うからさ」
柱の加工だけはやっているようだが、まだまだ足りない。二階の屋根まで完成してもらわないと、隙間を埋めてあるとはいえ一階に住むには不安が残っている。
「フェイの方は煉瓦終わってる?」
「ガキどもがそりゃー楽しそうにウチの分も作ってるよ。それより何種類芋と豆植えてあるんだよ?」
シンが管理していた畑だけじゃ食べていけないのは考えるまでもなかったので、シンが手を付けていなかった開拓時代の畑の整備と手が空いた人と子供たちでやっている。整備の為に刈った大量の雑草は牛の餌と、川魚の罠になって食事を楽しませてくれる。余った時間に焼き物作ったりとなかなか忙しい。
「名前知らないけど、蒸かすとおいしい芋・加熱で甘い芋・加熱すると潰しやすい芋・長くて粘りのある芋の四種。豆は正直把握できてない」
「なんでだよ」
「パッと見た目茶色だったり黒だったり、小さくて緑でまだかな~と思ったら、一気に枯れて種にしかならなそうだったり……。本職じゃないと判断できない」
「他にもあっただろ?」
「葉物野菜と香辛料になりそうなのもこの前フィリアで買った」
美味しい料理がさらに良くなる。と、内心期待している。そんな事を思っていたら珍しくシンの方から相談したい事があると切り出された。
「魔道具で、荷物とかいっぱい入るの無い? 牛車で買いに行くのが面倒なんだ」
「魔道具は無い」
「は?」
「ちなみに、魔道具と神具と呪具の区別はついてるか?」
さっぱりだと言うシンに物作りの専門家のフェイを呼んで来てもらった。
「そうだねー。まずは神具からだねー。ダンジョンに居る神様が直接創った道具。
神剣・真槍、色々あるけど、シンちゃんが欲しがってるのは、神具アイテムブックとしてあるよー」
ダンジョンの一定の深さより深く潜ると、神々からのご褒美として神具が手に入れる事が出来る。その代表がアイテムブック。
二日・三日じゃ攻略できないダンジョンを造ってしまった神々が、人々に長時間潜れるよう救済処置。
「アイテムブックなの? アイテムバックとかじゃなくて??」
「そっちは呪具だよ。ダンジョンとか魔力の濃い場所に鞄とか入れ物を置いておくと、たま~に分解されずに『入れる事』っていう役目を持った魔力が付加されるんだ。物によるけど、二~三倍収納が増えて、重さも軽く感じるみたい。魔剣とかもそうだし、珍しいので木製なのに斧をもはじき返す盾なんて呪具もあるよー」
「アイテムブックとバックの差は?」
「全ての物には魔力があるでしょ? 逆に魔力がその物と同じだったら物が存在するって事になるじゃん。アイテムブックは魔力を写し取って記録し、保存するから劣化も重さも無し。だけど、保存のたびに劣化は出るっていう仮説があるねー。
アイテムバックは入れ物。入れ物だから、何でも入れられるし、持ち運びしやすいから重さも軽減されるよー。便利便利。
そうそう、アイテムブックは記録しないといけないから、魔力を動かせる生物は無理っぽい。アイテムブック自体が魔法で中まで調べるみたいで、生きていたら途中で魔法がはじかれちゃうんだ。他にも、魔力が濃いものだとブックの許容量を超えるときもあるから出来ないらしいよ」
冒険者仲間から聞いたのだが、魔力を描くらしく、自宅を写し取ろうとして本のページが間に合わなかったらしい。くっだらい笑い話にはなっているが、似たような話が道具製作者にも話は伝わっているっぽい。
「神具ってのは神様由来で、呪具ってのが道具が魔力を持ったって感じ?」
「そうそう。で、魔道具ってのが人が作り出した限定的な物。
アイテムバックだって、容量を広げるのと、人が持つ時に重さを軽減させる。って、二つの役割を持っているのだけど、同時に魔道具で再現できるには作る腕と材料を揃えるより呪具を買った方が遥かに安いの。
まぁ、使い方が限定な分、ピンキリだよねー。同じ火だって、種火からロープを焼き切るまで調整できるのもあるしー。材料と知識さえあれば作るのは簡単だけどこんがらがるよー」
「あー、確かに。一つ一つは単純だけど、まともに動かすのは難しい。だろ?
火を起こす。だけなら、魔力の活性化と文字を扱えれば魔道具もどきは俺でも作れる。だけど、使っている間の魔力の供給源はどっから持ってくるか?とか、供給源を魔石からだとすると、どのタイミングでストップさせるか?そもそも止める方法は?ってなる。それだったら、|獣人で効率が悪かろうが《苦手だろうが》魔法を使った方が早いし、荷物も減らせる」
魔道具は本人の魔力を使って火を起こす。ってのが一番簡単だが、ハッキリ言って材料の無駄。そんなことするより、魔法で火を起こす方が効率がいい。さらに言うなら、俺は強化魔法で力を上げて、摩擦や火打石を使った方が早い。
『火』を表す文字を地面に書いても一回きりの魔道具の代わりになるが、種火系の魔道具を冒険者が持っているのは被救護者に貸したり、怪我をして魔法を使っている余裕がない時の為にしかほとんど使われていない。
他にも、剣の呪具の一部を文字の代わりに使えば、火を切ったり、火で切ったりと生物系の魔物に効果が高いのもあるが、思うように作れずに研究費だけで身代を潰すのもいる。
「正直、火種さえあれば魔道具は十分だな」
「え?」
「うんうん。場所にもよるけど冒険者だとそんなもんだよ。後は水だねー」
「いやいやいやいや。もっと上手く使おうよ。もったいないって」
あっ。この言い方だと金になる。
言葉として間違っているのかもしれないが、シンはお金に頓着しないのに、儲ける事に貪欲なのだ。
儲けようと積極的に動かない。だけど、似たような仕事でも最大限に稼ごうとするのがシンだ。
「火種は道具があればなんとかなるじゃん。それにお金を掛けるんだったら冷やす方に掛けようよ」
「あー。血抜きして冷やして持って帰れって事か。無駄。意味なし。やってられない」
街に住んでいる人にありがちだが、肉なんか出来るだけ使えるようにする。それは大切だが、実際は供給過多なのだ。
地上だけでも人が住んでいる土地は少ない。それなのにダンジョンがある為食べようと思えば食べれる魔物も多く、一匹に掛けられる時間があまりにも少ない。
「って訳で、意味がないどころか、世界中の人が一日2~3匹魔物を狩ったとしても魔物の繁殖の方が多いって話だ。フィリアが祭りの時行ったろ? 積極的に狩るのは禁止されているけど、何もしなくても通っただけで一日5~6匹飼っても文句言われないんだよ」
「肉は余ってるのにスラムが出来るのか? それはそれで問題だけど……。
そういう事なら、美味いところだけ冷やせばいいんじゃん」
「それはそれで要らない部位を処分するのが面倒だろ。全部街に持って帰れば肉屋が仕分けして、使えない部位は農家が肥料にするらしいぞ」
「マジかー……。そっかー……」
あっ。こいつ諦めてない。フェイなんか、何を作らされるのだろうとワクワクしている。……こいつが悩んだ時、頭を抱えながら笑っている姿は狂気だから止めてほしい。
「くっそ! 俺にはどうしようもできないのか? みんなが美味しいと言って食べてくれた魚の干物が俺がいなくても作れるかもしれないのにぃぃ!!」
「ものすごくわざとらしいが、一応聞いておこう。何故そんな事を思った?」
短くまとめると、魚の体温は海水と同じ温度。人が触っただけでも身焼けを起こしてしまう。
そのまま煮たり焼いたりならまだしも、干物にするときは火傷してパサついた部分から旨味が逃げるらしい。
「それを防ぐための魔道具が欲しいと?」
「一人だったら自前の魔法でやれるんだけど、ジルは苦手でしょ? それに冷たい程度にしておけば、夏場の寝苦しい夜に枕を冷やせばよく眠れると思う」
魔法だったら寝たら効力が無くなる為、長時間効果を発揮するには媒体となる物が必要になるが、魔道具なら環境を整えれば面倒な準備も必要ない。
「ちょっとばかり魅力的だが、火を出す魔道具みたいに道具に汎用性が無いな。
いいか? 使える魔道具ってのは、本人だけじゃなく、周りも欲しがらないとダメだ。冷たい枕ならそれなりにいるだろうが、どうやって広める? 寝床に呼んで自慢するのか? 商人ギルドのバランさんに頼んでも、バランさんは売りたい相手にしか売らないタイプだぞ。
肉や魚を冷やすのだって、買った相手がその肉をそれなりの値段をつけないと広まらんし、ギルドに渡したとき、一緒くたになるんだぞ。どうやって特定するんだよ」
ムッとしているが、その前に家をどうにかしろよ。
ちなみにシンが畑に植えたことがあるのは
ジャガイモ サツマイモ タロイモ(里芋系) とろろ芋 に 似た芋です。
異空間の道具袋使おうと思ったのですが、どうしても合わない気がしたので
1.すべて物に魔力がある
2.魔法自体は魔力で疑似的な現象を起こしている
この2つを拡大解釈して、アイテムのの魔力を記録する本としました。