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「しっかし蒸し暑いねー。この国は」

「近くに海があるだけましだぞ。盆地だったら、風が入り込まないからもっとヤバいらしいぞ」


 焼き鳥に焼きそば、枝豆にビール。祭りの後の家庭から、野球中継が聞こえる。運営の手伝いをした報酬なのだ。お賽銭の方を貰ってきても文句はないだろうけど、そっちは設備に使ってほしい。


「あまり大きな声で話すなよ。さっき見た警官は最近来たばっかりだから、職質されるぞ」


 地元の奴らは俺を見ても見て見ぬふり。まぁ、アイツらがガキの頃からこの時期だけ遊んでやってるから、なんとなく聞いちゃいけないって思っているだろうけど……。


「結構ベテランっぽかったよ?」

「まだここに来て十年も経ってないよ。ここじゃ、『前に産まれたってヤツ』ってのが言われなくなるには、親にならないと更新されないんだよ」


 何を納得したのか「平和だねー」と宣いやがった。


「あっちみたいに人が制御できない神々の『祭り』があるわけじゃないからね。自然の脅威とかが『この前』の基準になっちゃうんだよ。だから、だから十年二十年がこの前になっちゃうんだよな」


「本当に向こうと繋がってるんだな。分身って言うのは嘘じゃないんだ……」

「嘘だと思われてた! 流石に初めの頃は出来なかったけど、今は問題ない。大体、そっちのダンジョンみたいに特定の場所にいるっていうのと違ってどこででも祈る人がいるんだ。元の成り立ちからして違うよ」


 分身しなきゃいくら道祖神がサポートに入るからといって、神無月の恵比寿様が日本中を見守ることはできない。恵比寿様ありがとうございます。


「まあいい。あちらでは一年たったが、魔力の消費が一向に進んでいないのはなんでだ?」

「あのなぁ。確かにバランスが崩れると崩壊って可能性があるよ。でも、危ういバランスの中だけしか生まれない事もあるんじゃないの? それがわからないと完全な協力は出来ない。もしかしたら、どこかの学者さんが「このままだとまずい」って発表するかもしれない。そうなれば向こうの人だけで問題は解決するんじゃないのか?

 言ったろ? 俺は一回失敗したってな。だから、言っちゃ悪いが都市から消えてもいいと言われている人を都市と関係ない場所で受け入れているだけだ」


 なんだかんだ言ってもどうしても必死になれないのは、向こうが滅んでも実害がない事なんだろう。それは神に祭り上げられ分身を覚えて頃の比ではない。

 この違和感を目の前の創造神は自覚していない。神と人の境界が少なすぎるから、気軽に別世界へ助けを頼んだのかも入れない。


「それより、なんでメートル法使ってんだよ。そっちでは赤道か光の速さが知れ渡ってるのか?」

「……神剣の長さを1メートルにした。

 しかたがなかったんだよ! 基準となるのが無かったんだから!! ……そりゃ、必要だと思ったよ。でも思いつかなかったんだ」

「重さとかも?」

「ほとんど同じ」


「あのなぁ、たまに変だな~って思っていたんだよ。冒険者の知識は俺なんかじゃ太刀打ちできないほど成熟している。って言えばいいのか?

 とにかく、臨機応変に対応できているのに、道具が悪い。こっちの物をそのまま持って行ったんだろ? それで十分使えるから、変えようとしない?のか、多少不便でも人が我慢するものだって思ってるのか、そういう風になっちゃったんだろね。完成品で入ってくるから、こっちでもよくある事だよ」


 下手にいじると本人以外は使えないって言われるし、メシのタネになるのを広めるバカはいない。


「そういうのがあるのか?」

「あるある。似たような問題で『筆算して、答えを書きなさい』って問題が出て、小数点以下の一番下の値が0だった場合、0に線で消さないと減点だったとか。

 筆算自体は計算するのを頭の中でやる暗算じゃなくて、書いて確認するためのモノ。解答例が0を消していたから減点にしたってのは変。

 もちろん、別の理由があるのなら減点は仕方ないけど、筆算自体がただのメモだという事が前提じゃないといけない。

 ね? ただ与えられただけじゃなく、何のために生まれたのか? っていうのを知っておかないとダメになっちゃうんだよ」


 向こうで刀がある時点でだいぶおかしい。あんなので獣を倒せるのか?

 獣は大抵毛が生えてる。しかも、泥汚れがひどい。薙刀みたいに遠心力があれば、あの形状が役に立つだろうが、人が振るえるから刀なんだろう。腕や魔法があれば刀でも役立つだろうが、獣相手には向かないし、わざわざ対人戦用に荷物になる物を持たない。魔法も含めた腕がいい人が神剣みたいなのを手に入れてこそ、あちらでは役立つだろう。

 相手に刃を押し付け、一気に引く。これが出来るのなら……。それと、短刀なら役立つかも知らない。

 

「日本刀はロマンだけど、あっちで使うのなら作った人が泣くような使い道はしてほしくないな」

「あ、うん。好きなんだね日本刀」

「まあな」

「なんかごめんね」


 文句を言っても、二人は向こうがどうなったって簡単に滅びる存在じゃないから、真剣みが少ない。コレがあるから二人とも現地で生きる人任せになるし、干渉しすぎてもいけない。


「まぁ、とりあえず、こじつけでも(ジルやフェイで)人を集めれる理由は出来た。ぶっちゃけどのジャンルで人を集めるかだ」

「あー……。何がいいんだろうね」


 昼間のガキ共と遊ぶとき、金を掛けずに勝負ができる方法と、どこにでもある癖のある食べれる物を知ってれば博士なんかの称号を貰える。エンジンの仕組みだろうがコンピュータだろうが、初期の頃から発展していくのを見ていけば、生み出すのは無理でも理解はそんなに難しいものじゃない。

 学問・美食・遊戯に安全、出来れば仕事。人を集めるには生活より、目玉商品のように特化した実例があった方が集めやすい。生活方面は人が集まる前に「これくらい従うのは我慢できる」というルールさえ決めておけば何とかなる。

 資源なしで人を集めるには日本の地方は頑張っている。それを真似ればいい。


「そういえば、あっちの宿で肉酒って言うの? 原料が肉の味の濃いお酒。飲んだ時はびっくりしたよ。

 あれだけは正直びっくりした」

「いいだろ~。アレだけはウチの自慢だよ。飲みたいってのもあったんだけど、初めの頃は魔物に穀物食い荒らされて……。実際はアルコールに似た別物だけど、こっちのお酒知ってるから我慢できなかったんだよ」


「なんだよそれ。って言いたいが、キンッキンに冷やしたビール飲んでる以上何も言えないわー」

「だろ? でも、唐揚げくらいウチでも広まると思っていたのに、なんでだろうな?」


「揚げ物は大変だぞ。テンプラだって江戸の話じゃ、高温まで持っていけなくてじっくり揚げるから、油っこくて大根おろしが必要だって聞いたし……。魔物がいるんだから薪だって高いだろ? お手軽にはならんだろうな」

「あ゛あぁ……。そう言う事か。しばらくは無理になるな。

 そっち方面で街づくりしない?」


 シンにとっては美食は比較的簡単だし、肉酒なんて興味対象がある以上是非に進めたい。

 進めたいのだが、問題もかなり多い。

 フェイは楽に落とせそうだし、スラム出身者は結束が強い分他に行くよりマシだと思わせればいい。一番の問題はジル。

 家族を失い、守る対象が1人になったが、身を守る術を教わったティルが幸せになったら立ち去る可能性が高い。それにティルは兄妹の様子を見てると依存性が高いから、万が一今の段階でジルが出て行くことを決めたなら付いて行くだろう。

 上手い事、人質や枷になるのがない。


「無理だね。ウチに来た人の中で一番の戦闘経験者で、どこででも生きていけそうなジルが住みたい場所ってのがいまいち理解できない」

「んー……、あーあーあー。そういえば居たね。星4の冒険者だっけ? フィリアで試験受ければ白星になれそうだったのに、興味なかったから、単純な強さって訳でもなさそう」


 色々やったのは見せるため。無駄話をしていたのはジルが何に興味を持つのか知りたかったため。だが、ジルは楽しいと思っても、夢中にはならなさそうだ。


「お金なくってーって言う単純な理由でもなさそうなんだよね。インテリ冒険者っぽかったから魔力の活性化も、あっ!後でいいか。農業も化学もぜーんぶ興味はあるが無ければ無いでいいタイプ。色々やったけどサッパリ」

「だからやってることがブレていたのか。それで、さっき何か気が付いたようだけど?」


「活性化のやり方? 魔力の元? とにかくそう言うの。人によって場所が違うじゃん。アレって良いの?」

「祝福やるわけじゃないし構わん。予想はつくと思うけど、魔法の大家が偶々あの場所で、一族が心臓付近だっただけ。ほら、顔つきが似ているのと同じ」


 そう言えば、祝福ってのが理解できない。

 御守りを渡すのは祝福に入るのか? 祈祷は……関係ないな。祓う事はしても……、祓いやすい場を整えるのも祝福に入るのだろうか??


「祝福やったことない」

「え! いやいやいやいや、才能を開花させるとかそういうのだよ?」


 かなり驚いたようで、唐揚げを落としそうになっている。どうでもいいが、唐揚げにフォークは合わないが、爪楊枝なら許容範囲内なのは俺だけだろうか?


「……無いな。精々持っている才能から余計なものを祓うくらいだ。ニュアンス的に近いのが、邪念を祓って集中させるかな?」


 ぶつぶつと「ありえない」と言っているが、そんなもんだぞ。信仰心が無くても構わないから日本の神やってるんだから。


「まぁ、大丈夫だと思ってたからそのまま活性化の方法広めるよ。流石に人死には頂けないからね。

 まずは拠点づくり。合間に、人集め。後は離職率を……って、とにかく有能な人を逃がさないようにしないとな」


「それなら魔法関係だな。直接見れない分物理法則とほぼ同じ力があるから、今の拠点みたいに現物が無い時は役に立つよ」

「はぁ? 保養所だろ。街はダンジョンがあるから生活出来るんだろ? だったら、保養所もある方が人が集まるじゃん」

「オイオイ勘弁してくれよ。此処と向こうじゃ気質が違うんだ。少しばかり過激な方が受け入れられるんだって」

「それが主流だからの癒しだろ? 外でスリル、ウチで癒し」

「それじゃ、今までシンのやりたいようにやっていたから、今度はこっちの提案受けてもらうぞ」

「いいよ。ただし、住むところと平行な」


 この後、蒸し暑い夏の夜に厨二病のような魔法のアイディアを出す青年の声と、それを上回る設定厨房の話声が続いたそうだ。



※『筆算して、答えを書きなさい』などは完全に個人の感想です。

※肉酒:現在地球にあるかどうか不明の酵母菌を利用した物。

 魔法があるんだからそんな酒もあってもいいかな?と……

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