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「あちゃー。客に事情を話さないのは仕方ないにしても、フェイさんはもう少し考えてからの方が良いぞ」


 シンの呆れたような忠告にフェイは不満気にに首をかしげて、


「そお? でも、頼まれていた分はしっかり働いたよ?」

「シンの言う事も当然だな。この店が無くなったら今までの商品はどこに頼めばいい? 腕が悪くて資金繰りに困ってるのなら客はいないからいいけど、いい物しか作れない、後は客が合わせろってタイプの店じゃないんだろ?」

「ジルってそういうの気にしないと思ってた」

「義父さんに覚えていても損はないって言われたからな」


 裏仕事だけだったらこんなにも屋台に使う道具を取り扱っていない。それだけの需要があるはずなのにフェイはそれを簡単に切り捨てようとした。それなら怒られても仕方がない。実際、フェイもしゅんとなってしまった。


「おやっさん。これで大丈夫か?」

「……お前さんは引き抜きたいんじゃないのか?」

「欲しいよ。そりゃ欲しい。でも、それだけだ」


「つまり、技術が欲しいんじゃな?」

「あわよくば、人手も欲しい。って考えはある」


 シンはフェイも欲しいらしい。こいつなら自分で何とかするんじゃないのか?って思うだろうけど全工程の一部なら上回れてもいい物は出来ないとシンは知っている。


「で? どうするつもりじゃ?」

「門は開けてる。入るか出るかは本人が決めればいい。ただ、入るには税が必要だし、審査もするのが当然だろ? これで勘弁してくれないか?」

「お主はな。じゃがフェイは無理じゃ。ここをどこだと思っとる。もうすでに一部の影の者が動いておるはずじゃ」


 まずい事になった。まずいから動くのは判る。でもそこまでか?


「ほれっ、お主の友の者とフェイは理解してないようじゃぞ」


「あー、ここって表側の裏街道突き進む人の店でもあるだろ?」

「らしいな」

「うん。普通じゃ扱わない武器も作ってた。おもしろかった」


「あ゛ぁ? まあいいや。完全な裏だったらナイフとかシンプルな方がいいだろうけど、表に出る裏だったら衆人環視の前で気が付いたらとか威嚇に使うからかなりヤバい物を作っていたんだろうね。その武器をフェイさんは作ってた。

 それが外に出たら模倣犯とかか……。ヤバいだろうなぁ」


 そうか。普通の店じゃない事忘れていた。シンは模倣犯と言っているがいくつかの暗殺者の仕掛けを組み合わせれば新しい手口が見つかるかもしれない。それに、どう守れば暗殺されにくいか計画出来る(考えられる)


「逆に言えば、今までの未解決事件も犯人への手がかりも……」

「そういう事。俺やジルみたいに手がかりって考えるけど、フェイさんは犯人がいる事件なら犯人と会ってるか、繋ぎが取れる」


 ちょっと考えただけで次々と頭を抱えてしまう想像が出来るんだ。詳細を知っているフェイは今になって自分がどれほど危険な状態か理解し始めた。


「さらに……。と言うか、一番まずい事なんだけど、ここは裏の連中がここを紹介したって事は、勝手に抜けるとなると面子をつぶしたって事になるよな?」

「そうじゃ。 

 ……なんじゃ? お主以外はそれの何が問題かピンと来ないようだぞ」


「大体さぁ、面子にこだわるのは貴族だろ? そりゃ、なめられたら終わりってのは冒険者でもあるけど……。あっ!」

「そう、冒険者は星いくつ。貴族なら爵位。何らかの判断基準があるけど無い場合は……」

「うへぇ。やっとわかってきた」


 貴族なら犯罪すれすれどころか、犯罪はもみ消すこともあるって聞いたことあるが、犯罪組織が犯罪を犯すのをためらうことは無いだろう。


「それで、シンはどうしたらいいと思う?」

「知らないよ。だいたいこの店を立てるお金と維持費、仕入れの開拓に横やりが来ないように根回し。軽く考えてもこれだけあるんだよ? あっ、話が回ってるって事は護衛もしてるか……。押し付けられた恩だろうけど、後ろ足で砂をぶっかけてる状態だね」

「だから、なんか手はないのか?って聞いてるんだよ。流石に可哀そうだろ」

「あのなぁ。本人がどうにかしたいって言わない限りただのお節介なの!!」


 シンが言うには病気と同じ。

 俺達が病気になった原因突きとめて治療しても、本人が同じ事したらやってらんないだろ?との事。確かにその通りだ。


「というわけで、俺達ができるのは応急処置みたいなもんしかない。それだって、報酬を払う気が無いと手伝えない」


 フェイは最初はオドオドしていたが、おやっさんに怒られている本当の理由を知り落ち着いてきた。


「悪いと思うよ~。でもね、フェイはフェイらしく生きるにはシンちゃんについていくしかないんだよ~。それとも何かい? 生きてる実感もないまま生き延びるのは苦痛だよ~。フェイみたいに精霊族の血を引く人は我慢して壊れちゃったのを何人か見たことあるからね。

 フェイが上げられるものは全部シンちゃんに上げる。だから、思うように生きられる場所を作って!」


「……。思うように生きられる場所を作ったとしたら、俺の為に作らないじゃん。却下だバカ。詐欺師かお前は?」


 ちょっといい感じな話になりかけていたけど、冷酷に突っ込むシンは偉いと思う。







「しくしくしくしく……」

「だぁー、だぁー」

「やーい! ねーちゃん変な顔」

「ごめんなさいごめんなさい。弟がごめんなさい」


「平和だねー」

「この状況でのんびり歩けるお前の頭が平和だろうな」


「……」

「……」


 もうすぐ夕方に差し掛かる頃、フィリアの街を出て泣いて歩くフェイとそれに群がる子供と後をついていくチャコ。怯えながらも子供たちを見守る少年少女。フェイの店を処分し、荷牛車をを引く俺たちが続く。


「これで本当に大丈夫なのか?」

「さぁ? おやっさんがマジ切れしたのは、フェイの面倒見ている人の苦労を少しも考えないで無かった事のようにふるまった事だよ。同じ苦労あわせたいだろうし、きちんと育てれば子供を裏社会に入れなくてもいいって、一石二鳥じゃない。これで、おやっさんの派閥の人間は定期的にフェイに仕事を受けてもらうって事で手を打ってもらえたのが御の字だね。

 それに過激派の方からの暗殺者なら殺していいってしね」

「そうじゃない。ギルドの雑用係(おやっさん)が言っても下が付いてこないんじゃないか?」


 近くで物騒な単語が聞こえたらしい少年少女がびくついて視線から外れようとしている。

 さてはて、この二人は(過激派)になるつもりか見極めないといけないのに、ギルドの雑用係(おやっさん)を信用するのか?


「暴走する奴は過激派だよ。例えそれが恫喝だとしても、口出しするってのは交渉相手が未熟だって認めてるようなもんだろ? おやっさんの面子を潰すことになる。だったらそいつは消えてもらった方が反乱分子が無くなって、おやっさんに貸し……にはならないけど、多少は恩を売れるってなもんだよ」 


 強がりでないお前の暗い嘲笑が、子供たちへの最大の悪影響なんじゃないか?


「そう言えば、なんでフェイはシンと一緒に来るって言ったんだ?」

「釣りの糸巻きって、魚が力いっぱい逃げたら切れるでしょ?

 歯車二つつけて、かみ合う歯を斜めにすれば、糸が切れる前に歯が外れて糸が切れないじゃん?

 これ一つじゃダメだろうけど、やり方変えればなんとかなるだろうから作ってって言ったら……」


 釣り。

 泳げない子供が出来る比較的安全な食料入手。これで生活するには場所も獲物も足りない。

 大きな湖や海ならば大人でも釣りをしているのを見かけるが、生活に余裕がある奴らか、網が張れない場所に住んでいる魚狙いのプロしかいない。


 プロしかいないから、少年は憧れる。同年代で一番だとしても、すぐ上の世代に釣りだけでは生きていけない名人がいる時点で現実を知る。

 前を歩く少年が、驚きと期待に満ちた目でシンの顔を盗み見てる。これで少年は裏切る可能性は僅かに減った。


 シン(こいつは)裏社会の面子の事は解るのに、普通の事は知らないんだ? どうせなら売られていく事を諦めたような少女の方にもフォローが欲しいんだが!


「まあいいや。そこで野営の準備しよう。ちょうど何人かいるから楽だろ?」

「いいね。やっぱり旅って言うのはこういうのが無いと。

 こんちわー! ご一緒していいっすかー?」


 街道から少しずれた森との境にある小さな平地に男が三人野営の準備で枯れ木などを集めている。奥にはいくつか凶暴な魔物の骸が積まれている。


「ん? おぉ。それはいいが、人買いじゃないだろうな?」


「ハハハ、そんなんじゃないけど、メンバー的に笑えねえ。フェイの所行って野営の道具下ろすからシンも手伝え」

「了解~。俺達人買いじゃないよ~。どちらかって言うと押し付けられた感じ。

 まっ、今日会ったばかりだから仕方ないし、口ではなんとでもいえるから話半分で聞いておいてくださいよ」


 シンのヘラヘラした態度が悲壮感を薄れさせてくれるのは俺達兄妹で身をもって知っているけど、もう少しどうにかならないのだろうか?


 子供たちを牛車に集めテントの支柱になる棒を少年少女に渡し、年少組を邪魔にならないよう牛車に押し込む。


「雨でもないのにテント張るのか?」

「街近くの街道沿いなら魔物出ねえよ。ガキ共は邪魔にならないようテント被って遊んでろ。チャコ、後は頼んだ。シン!行くぞ!!」

「ふぇ!?」


 荷台から一本だけ完成してあるトンファーをつかみ、強化魔法を張り巡らせると、「クソッ! やっちまえ!!」と怒声を浴びせかけられる。


 クソッ、まだ魔力活性化が制御できてない(相手にバレた)


「え?え! ちょっと……! どうなってんだよ!」

「この状況でお前は!! ……ぶちのめしてるなら後で話す!!」


 敵は見えてるだけで5人。

 バカみたいなシンの強化で蹴り上げられたのが1人。

 集団とは離れているが、一人だけ俺達を見ずに牛車に向かって走りこんでくる男の懐に入り込もうとすると、目が合った。


 武器を使った攻撃は相手を傷つけ倒すものと、相手を倒すために武器を振るうのがある。さあ、お前はどちらだ?


 強化が完全に制御されていない段階で全力も出せるはずもないが、今までよりも素早く踏み込むことができた。

 腰を落としてトンファーを持つ右手で殴りつけると、相手は後方に避けながら剣を振るう。


 相手は武器を使って敵を倒すタイプ。

 そして俺は素手だろうが武器だろうが、相手を倒すために武器を振るうタイプなんだよ。


 剣を振りぬき、さらに切りつけようと振りかぶろうとする相手の腕を左手で突きさすように掴み、落としていた腰をさらに安定させ引きずり込みながらトンファーで殴りつける。


 「ふふふふふふ……。最ッ高ーだね!」


 殺すことに躊躇は無いが、ストレスになる。他人からバカな事を言われようが、俺には刃物を使う場合には出血という追加効果があると思っている。追加効果(出血)のせいで相手を殺す可能性がない方が思う存分力を振るえるようになる。それが手に入ったんだ。最高だろ?








 魔物の骸傍に全部で8人の半裸の男達を縄で縛り上げられ、自分の服で顔を覆われている。何でも、子供たちの情操教育に悪いらしい。

 俺が倒したのは接近戦2人に隠れていた遠距離1人。

 シンが倒したのは接近戦3人。

 チャコが隠れていた2人。

 平地で戦えば負ける可能性はないだろうから、戦闘センスとしては高い方からチャコ・俺・シンの順になる。シンは力は圧倒的だが攻撃されてから方向がわかるくらいで、警戒には慣れていないようだった。


「それで、なんで怪しいと思ったんだ?」

「落ち着けって、後から考えたら……って事あるけど、シンはまさにそれだな。知識を集めてじっくり考えるタイプ。

 失敗していい状況で何度も試し、自信が出たら次へ行くタイプだろ? だから、襲われても何とかなりそうな俺達3人だけでフィリアに行った。まぁ、フェイの(ごたごた)は予定外だったけど、見捨てるよかましってとこか?」

「……そうだけど、なんかうれしそうだな?」


 そりゃ今までシンだけでも何とかなりそうだったのに、苦手なところを見つけたんだ。俺だけだ足を引っ張ってる状況が嫌だった。


「ジ~ル~く~ん~。俺は勘違いがあったりしたら普通~に謝るんだが、答えもヒントも出すつもりの奴に只々意味もなく時間稼ぎされるとイラっと来るタイプなんだわ」


「ごめんごめん。ちょっと優越感に浸っていただけだ。

 まずこの場所、おかしくないか?」

「ん? ……あ~あ~あ~、魔物か! こんな街道沿いに魔物の生息地があったら使わないもんな!

 って事は、こいつら俺達を皆殺しにして魔物がやったって事にしようとした?」


 一つヒントを出したらハズレでない答えを出すのが学者っぽいところだな。


「たぶんな。それに『祭り』も近いってのが、こいつらが助けようとしたのに間に合わなかった。って事にしたんじゃないか? 今日より明日、明日より明後日、魔物がどんどん活発になる。朝方襲われたって今夜偽装するつもりだったのかも?」


 適当に言いつつも、半分くらい当たっているんじゃないかと思っている。


「それで、まさかそれだけで俺がこいつらが敵だと思ったと思う?」

「まだあんの!? ……この男達を処分してく間、考えてもいい?」


 処分の言葉が聞こえたのだろう、覆面のように自分たちの服で顔を隠された半裸の男達が解かれない縄をゆすって抵抗する。

 シンはそんな男達を無視して、「子供の食欲無くなるからこれ持って」と魔物を背中に担ぎ上げさせ森の中に足を進めた。


「こいつらどうするつもりだ?」

「放してやるさ」

「え?」


 近くにいた男の背を蹴り飛ばし、「子供達には放してやったって言えばいいだろ? 縛られた上血塗れで目隠し、声も出せないし音も聞きづらい、たぶん死ぬだろうけど生きたまま放したのは間違いない」といって、ついでに夕食の野草を採取して男達の方向感覚を惑わせてから野営地へと戻る。


「あーダメだ。わかんねぇ。答え教えて」


「ここの場所だよ。昼過ぎにフィリアを出ただろ? で、今は夕方だ。俺達が野営地にしてるのは、普段は休憩場所だろうな。

 フィリアから出た場合なら相当急ぎの用件で、こんな場所で野営するわけない。

 帰るんだったら、急げば暗くなる頃にフィリアに入れる。準備だって時間がかかるんだ。動かせないほどの急病が出なきゃここに泊まる必要ないだろ」


「あー……。ジルは最初っから疑って、魔物で敵認定した(敵だと思った)んだ……。俺は自分がバカじゃないと思ってたけど、なんで気が付かなかったんだろ」


「シンは旅をあまり経験してないんだろ? 俺だってそんなに多くないけど、多少なりとも知ってるヤツの差だな」


「うわ……。何そのドヤ顔。殴りてぇ」


 なんだかよくわかんねえ擬音使っているが、変に拗ねても可愛くないぞ。


「お前の強化は半端ないんだから止めろよ!」


本文の釣りの糸巻き(リール)の構造は負荷がかかると外れる構造は、金色混ぜたインスタントコーヒーの蓋とやってることは同じです。(もちろん形状は違います)

他に私が工作機械を使わずに作れるとしたら、リールの糸を巻く方の軸に「ネジの頭の溝」をつけ、ハンドルの軸に「ネジ回しの山」をつけ(本当に作るとしたら六角ネジを外れやすいように六角推の形にする)、押しながら回す。くらいかな?


でも、リール自体知らなかったら、こんな事考え付かないです。

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