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「ン?? あっ、体に変なところない?」
「ええ。特に問題は無いですけど、ここは?」
大きな木に草原。目の前にはいたずらっ子のような少年。
おかしい。さっきまで山の中で相棒とパトロールしていたはずなのに?
「実を言うと、探し物をしていたんだけど、君が土砂崩れに巻き込まれそうになっていてね。僕は仮にも神様だから転移で助けたんだ」
少年の服装を見ると、古代ローマの服装よろしく布を体に巻いたトーガに似ている。
「ああ、なんか色々察した。定番の異世界転移モノ?」
「すごいすごい。大正解だよ。
探してたって言うのも君みたいに死にゆく運命の人なんだ。今向こうに戻しても因果律の関係で残念な結果になってしまう。だから、こっちで神の加護を貰って魔法も使える第二の人生を歩んでもらいたいなぁ。っとね」
アホらしくてだいぶ落ち着いてきた。
愛犬チャコの首筋を撫でながらどうするべきか考えよう。
「色々突っ込みたいけど、なんで呼ぶはめになったの?」
「うーん。魔法も使えるようになってからの方が説明しやすいんだけどね……」
話をまとめると、この世界では生命以外でも存在するだけで力を生み出し、余剰分を魔力と呼んで利用してきた。
だが、人が集まる地域では魔力を覆う消費し、辺境では使われない魔力が過剰になったため、世界のバランスが崩れ崩壊に向かってしまう。
「だから、魔力の多い場所に人を呼んで開拓してもらって人を集めてもらおうかな~っと」
「こっちの人がやれ」
「それが持たないんだよね。
なんていうの? 親兄弟のしがらみとかあって、誰も行きたがらないし。犯罪者を追放してみたらしいけど、魔物……。魔力の多い動植物ね。そいつらがすぐに犯罪者を殺しちゃう。
地球に憧れて創ったのは良いけど、安全策で人の住む場所を決めてたから、他の場所に行くよう言っても神に見捨てられたとか言っちゃって……。ねえ」
「ねえ。じゃねえよ。犯罪者が死ぬような場所を開拓しろっていうのか!」
「犯罪者は逆恨みで事を起こさないように制限されているみたいでさあ。
今じゃ、他の場所を開拓するって言ったら犯罪者呼ばわりで誰もいなくなっちゃった」
それを強いてるのはどういうことかと聞くと、新たな聖域が発見されたとなるらしい。
開拓はしたくはないが、恩恵は受けたい。神託を与えると罪深き者扱いで、処刑された者もいるらしい。しかもやらないと世界の崩壊だそうだ。
あまりにアホな理由で呆れて見ていると、
「仕方ないじゃん。まだ1万年もたってないんだから!」
逆切れ起こした。
「創り直せよ。地球だって億単位の年齢だったはずだぞ」
「今生きてるのを消し去るにはちょっと……」
「それは同感だが、無計画なお前ごと創り直せ」
「いくら何でも神に向かってひどくない!?」
「こっちだって狛犬のチャコと土地神の仕事してたら拉致られたんだ! どうしてくれるんだよ」
「土地、神?」
呆けている相手を無視してチャコが足に擦り寄っては離れ、「ぐぬぬ~」と背伸びしている。散歩に行きたいときの仕草だ。
平常運転のチャコを恨みつつ「行っていい」と手で合図をすると飛び跳ねるように走っていった。
対で邪気を払うと言われている狛犬だが、元は仏教で土地神は土着信仰。
合うはずもないが「神様守るんだからいいんじゃねえ?」の考えで一緒に置かれて、最近になって力が安定したから今だ存在意義がぶれてるんじゃないかと思う。前もしめ縄にかみついてぶら下がって遊んでいたし……。仲良くなった犬に力を下ろしたのが間違いだったのだろうか?
「オウよ。江戸初期辺りで神隠しされてから祀られて神扱いだ。神が神を異世界転移って何考えてんだよ……」
土砂崩れぐらいで死なない。
神無月とか眷属で回してるから問題ないし。
土地神の究極は自然と一体化で後進に任せるか、何かを司って別の神になるんだから、こっちみたいに世界崩壊よりは問題ないんだけどさぁ……。
「どっちがヤバいって、間違いなくここの方がヤバいのが問題なんだよな」
この世界のアホ創造神のつむじを眺めながら、溜息が出た。
「俺は自然から生まれた神だけど、こっちの神は何をやってるんだよ」
いるだろ?従属神とか? そこらへんがしっかりやればいいのに。
「そんなこと言うけど、ダンジョン作りって結構大変なんだよ。
僕みたいにゼロから創るほど強くはないけど、みんな核を見つけて工夫してダンジョン造ってるんだよ」
「な・ん・で、ダンジョンなんか作ってんだよ!」
「え?」
「みんなってなんだよ、みんなって? 1柱毎1ダンジョンか?」
「うん」
「箱モノあったって、あるだけじゃ意味ないのに……。
箱庭系開発ゲームやれば解るけど、必要なところに必要なもん作らないとむしろマイナス。
ダンジョンあってもいいけど、そこら辺考えてんでしょ?」
顔を見ればわかる。まったくやっていない。
「まあいいや。とにかくその辺詳しい人いない? 何も知らないとアドバイスすら言えない」
たぶん手伝うことになるだろうが、聖約になりそうなことは言わない。それが原因で滅ぶことになるからだ。
今の言葉使いだって、どうとでも受け取れるのに合わせている。
「いや……。神って生み出すのが仕事だから! つくるのは神しかいないからそっちを優先にしちゃったって言うか……」
どんな魔法を使っても再現できない事をするのが、神の御業。子供を作る以外の他種族を生み出す事。ダンジョンという世界を作り、その中で生物が暮らしていけるのが、神の神たる由縁らしい。
創造神が近くにいるからそれに倣ったそうだ。
「ってことは、なにか? つくり出さないと神を名乗れないってノリ?
あいにくうちの国は神様のバーゲンセールでな。どんなところにもその場所を司る神がいるぞ。
トイレ関係する神がいるのは、仏教と神道ぐらいじゃねえの? 日本以外住んだことないから詳しく知らないけど」
信仰の自由って事で、仏教と神道は人だったときから馴染み深いけど、最近日本に来た神はあまり付き合いがない。
神父さんと坊さんが甘酒飲みながら、どんど焼きに参加しているカオスな神社は見た事あるが、軽く話す程度で都会のご近所さんほどの事しか知らない。相手の実家の家族構成まで知らないのと一緒だ。
「そんな……。それならどうやって威厳を保つの?」
「アホか!? 威厳? 神の威光? 人の神になりたいんなら、人間の指導者になれってんだ。
人と神は考え方が違う。集めなきゃいけない情報が違う。何より力が違い過ぎる。
俺も最初の頃人の為にって頑張りすぎて、周りに迷惑かけた。幸い管理が小さな土地だったから周りに助けられたぞ」
実際は助けてもらうどころか、かなり怒られた。
そりゃそうだ。下手したら何百年単位でやった事が、俺のせいで無駄になったんだから。
「……で、口は出すから詳しい人呼んでよ」
……何絶望的な顔してんだコラ!
土地神様
口が悪い
失敗もする
なんだかんだで面倒見がいい