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流星の山田君 ―PRINCE OF SHOOTING STAR―  作者: 神埼 黒音
一章 流星の王子様
7/23

覇者の降臨

 魔方陣が青い光となり、一点に収束していく。

 光は一つの形を象っていき、やがて、蒼き巨馬に跨る偉丈夫の姿となった。



(ちょ……待てよッ! 本当に世紀末の覇者っぽいんですけど!?)



 その姿を見て、一郎が心の中で叫ぶ。それは魔神と言うより、世紀末にでも君臨しそうな覇者の風貌と、洒落にならない威圧感を放つ男であった。

 どう贔屓目に見ても、一郎に従うような存在には見えない。



(ヤバイ……死んだわ、これ)



 込み上げてくる原始的な恐怖に苛まれながら、一郎が何とか言葉を搾り出そうとするも、偉丈夫の行動の方が遥かに早かった。彼は音も立てずに巨馬から降りたかと思うと、片膝を付き、深々と頭を下げたのだ。



「デスアダー、御方の前に――」


「あ、あぁ……よ、良く来てくれたね……」



 横を見ると、既にピコは気を失っていた。

 デスアダーが放つ威圧感に、耐えられなくなったのだろう。一郎も、この存在を前にしているだけで、今にも失禁しそうであった。


 しかし、一郎の言葉を聞いたデスアダーは肩を震わせ、地にめり込まんばかりにその頭を垂れ、驚懼の体を示す。



「数にもならぬこの身に対し、勿体無き御言葉……!」


「い、いや! 楽にしてくれれば、嬉しいかなー、なんて……」



 一郎は恐怖のあまり、壊れたコンピューターのようになっていたが、デスアダーは益々、その身を縮こませるのみである。声をかけて貰えるだけで、望外の喜びであると言わんばかりの姿であった。



「そ、その、オーガを倒そうと思っていてね……で、出来れば、手伝ってくれると嬉しいかなー、なんて思っちゃったり……」


「どうか、我が身に御下命を。御方を不快させる――“虫ケラ”の悉くを平らげて参ります」


「そ、それは助かるね……あはは……」



 デスアダーの目が微かに動き、ピコの姿を捉える。

 仰向けに倒れ、目をぐるぐるとさせた可愛い姿であったが、この魔神の目には彼の姿がどう映っているのか空恐ろしいものがあった。



「こ、この子は知人でね! 敵ではないんだ……!」


「そうでありましたか。失礼を」


(あぁぁ! こんな怖いのと二人っきりとか無理ゲーだろ!)



 一郎がピコの体を激しく揺らし、無理やり気絶から叩き起こす。

 起き上がったは良いものの、目の前に佇むデスアダーにピコが再度、悲鳴をあげたが、一郎はその口を無理やり押さえ込む。



(静かにしろ! この人の機嫌損ねたら、絶対に殺されるだろ!)


「むごご……っ!」



 その必死の思いが伝わったのか、ピコが荒い息を吐きながらも、何とか気持ちを落ち着かせる。両人の滑稽とも言える姿を見ても、デスアダーの表情は全く変わらず、視線一つで城を陥落させるような重い空気を放っていた。



「御方、どうかこの地にて吉報をお待ち下さい――」


「ま、待って下さい! この辺りは夜になると岩狼や、岩蜥蜴が出て危険なんです。火を焚いて、その、朝を待った方が良いと思います……」



 デスアダーはすぐにでも出発しようとする素振りを見せたが、意外な事にピコが慌てて口を挟む。その言が不快だったのか、魔神がぎょろりと目を向けた。



「うぬは、この身がそんな蟻どもに遅れをとるとでも言いたいのか――?」



 デスアダーが放つ空気に、一郎の肌が粟立つ。

 “知人”と言っていなければ、間違いなく、ピコはこの場で首を捻じ切られていたであろう。



「タ、タンマ、タンマ! 確かに、少し疲れたし、休憩しよう! 休憩!」


「――万事、御方の御判断のままに」



 取り成すように慌てて一郎が声を上げると、デスアダーが深々と頭を下げる。

 何を言っても、何を命令しても頷きそうな風情であったが、その容貌があまりにも怖すぎるため、一郎からすれば恐怖しか感じない存在であった。


 その後、ピコは逃げるようにキャンプ地の設営に入り、テントや火の支度をしていたが、勝手の分からない一郎は辺りを警戒するフリをしながら呆然としていた。



(何て存在を呼んでしまったんだ……)



 楽をしたいと召喚したはいいが、苦労の方が遥かに多くなりそうである。

 今は従順そうに見えても、とてもないが、こんな存在をいつまでも制御出来るとは一郎には思えなかった。



「い、一郎さん、テントの支度が出来ました!」


「そうか!」



 逃げるようにして、一郎は布で出来た簡易テントの中に入る。

 快適とは言えないが、少し横にならなければ精神的な疲労で倒れそうであった。これまでの事を振り返りながら目を閉じると、外から声が聞こえてくる。



「そ、その、干し魚があるんですが……」


「――要らぬ」



 恐る恐るピコが話しかけるも、デスアダーの声はにべもない。

 小間使いか何かのようにしか認識していないのであろう。


 その後もピコはこの魔神に対し、何度か話しかけるという無謀なチャレンジに挑んだが、全て無反応であった。

 唯一、一郎に関する質問をした時、はじめて魔神が反応をみせる。



「その、一郎さんは……何処から来たのでしょうか……僕は、何も知らなくて」


「……ふむ」



 魔神はその質問に長い沈黙を続けていたが、ようやく重い口を開く。

 その目は遠くを見ており、何処か懐かしそうな素振りであった。



「我々の世界は、核の炎によって焼かれた――」


「……カクの炎!?」


(おいおいおい!)



 デスアダーが語り出した内容に、一郎は飛び上がる思いであったが、とても口を挟めるような相手ではない。まして、デスアダーの語る内容は奇しくも間違ってはおらず、地球はAIがはじめた戦争により、焦土と化してしまっていた。



「世は暴力が支配する無法地帯と化したが、御方はその偉大なる力で、立ちはだかる敵を全て討ち果たし、世に平穏と安寧を齎したのだ――」


「そんな、事が……!」


(ねーよッ!)



 一郎はその内容に脳内で叫ぶ。そして、断言出来た。

 そんなバイオレンスな過去は自分にはない、と。



「御方はこの世界でも秩序を回復させ、遍く威光を億兆に示されるであろう」


「は、はいっ! 一郎さんなら、きっとやってくれると思います!」


(出来る訳ねーだろ!)



 外で交わされる恐ろしい会話に、一郎は頭を抱える。

 この調子では、他の魔神も一郎に対してどんな認識を抱いているのか、分かったものではなかった。


 話は終わった、と言わんばかりにデスアダーが立ち上がり、愛馬へと向う。

 ピコは慌てて、その背へ声をかけた。



「ど、何処へ行かれるのですか!」


「語るまでもない」



 この恐るべき存在が、戦いに赴こうとしているのだとピコは直感する。

 同時に、叫んだ。



「や、奴らには、将軍と呼ばれる個体がいるようです!」


「……将とは。片腹痛い」



 短く呟き、デスアダーが愛馬へ跨る。

 蒼き巨馬は一声、雄々しく嘶くと、地ではなく“空を翔けて”いった。



「あの馬、空を飛べるんだ……」



 ピコは呆然とそれを見送ったが、一部始終を見ていた一郎も少なからず、衝撃を受けていた。何処の世界に、空を飛べる馬がいるのかと。

 反面、奇妙な程の安心感もある。



 “アレ”に勝てる存在は、この世に存在しないだろうと――



 実際、デスアダーの武力は尋常ではなく、彼を打倒しうる存在が居るとすれば、他の魔神達か一郎くらいであろう。

 まして、オーガ種など本人が語った通り、虫ケラでしかない。一郎がそんな事を考えていると、ピコが遠慮がちにテントの中へと声をかけてきた。



「一郎さん、あの方が行っちゃいましたけど……」


「……みたいだな」



 すっかり精も根も尽き果てたように、一郎がゴロリと横になる。

 とてもではないが、今は何かを考えれそうもなかった。変わりに、ピコからこの世界の知識を仕入れる事にする。



「ピコ、この世界の事をもっと聞かせてくれ」


「はいっ」



 嬉しそうにピコも隣に並び、ゴロリと横になった。

 一郎は眠気が来るまで様々な話を聞き、ピコから渡された本に目をやる。そこには変わらず、「階層」という文字が躍っていた。



(階層、か……。結局は上に行くしかないんだろうな。せめて、自分の好きだった“星空”の一つでも見たい)



 一郎の30代は入退院を繰り返す日々であったが、入院中には屋上へ上がり、星空を見上げる事が唯一の楽しみであったのだ。



(星空に地上か。一番上までいけば、ここが何なのか分かるんだろうか?)



 ――上の階層を目指す事。

 それにはまず、オーガを何とかしなくてはならない。

 この階層を抜けようとするなら、どちらにしてもぶつかる相手ではある。そんな考えに耽る一郎の姿を、ピコがまじまじと見ていた。



「一郎さんは、僕のヒーローです」


「何がヒーローなものか……」



 ピコの言葉に、一郎が苦々しい表情を浮かべる。

 冷凍睡眠から目覚めれば、訳の分からない世界にいて、訳の分からない力に振り回されている。これが、ありのままの一郎の姿であった。

 こんなものをヒーローなどと言われても、胸を張れる筈もない。



「ヒーローどころか……俺は諦めが悪いだけの、負け犬だ」


「そんな筈ありません!」



 ピコが見てきた一郎の姿は何処までも颯爽としており、“英雄”以外の何者でもなかったが、その実態は違う。

 一郎からすれば、あんな姿はまさに創られた虚像である。



(日本じゃ、重い病気に苦しんでいる人は幾らでも居た……)



 一郎はしみじみ思う。

 それでも、多くの人が諦めずに病へと立ち向かっていた、と。彼が最後に取った行動は、コールドスリープであった。


 一郎はそれを、一種の“逃亡”であると考えている。

 同時に、自分の諦めの悪さも感じていた。



「僕には詳しい事情は分かりませんけど……その、元気を出して下さい。僕に出来る事なら、何でもしますからっ!」


「ん? 今、何でもするって言ったよな?」


「え、えぇ……」



 不用意に放たれた一言に、一郎がすぐさま食い付く。

 気分を変えたかった、というのもあるのだろう。



「それじゃ、軽く踊って貰おうか」


「ど、どうして踊りなんですか……?」


「いや、ピコ太郎だし、踊りが上手いんじゃないかと思ってな」


「誰が太郎かッ! あっ、すいません、つい……」



 ピコが思わず、素で突っ込んでいた頃――

 恐るべき魔神がオーガの群れへと突撃を開始していた。






  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □






情報の一部が公開されました。



魔神デスアダー

一郎を唯一無二の主と仰ぐ騎兵。

戦乱の世を終息させ、秩序と平穏を齎した不世出の王であると認識している。

その忠誠心は何処までも強く、揺るぎない。


透明化や気配遮断など暗殺に向いた多くの能力を所持しているが、

彼が戦闘の手段として、それらを使う事は少ないであろう。

その拳一つで、神ですら打ち砕くであろうから。


愛馬には主君にちなんだ「流星号」の名を与えている。

馬と呼べるような可愛い生物ではなく、その力はT.REXなどの恐竜に近い。



レベル 555

体力 50000/50000

気力 10000/10000

攻撃 555

防御 555

俊敏 255

魔力 0

魔防 255



【能力】 ― 透明化、気配遮断、飛行、その他多数





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