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流星の山田君 ―PRINCE OF SHOOTING STAR―  作者: 神埼 黒音
一章 流星の王子様
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魔神召喚 ― 「ライダー」

 一郎に振り飛ばされたミリとオネアが、ピコの住む村へと向っていた。

 彼女達の心を釘付けにしてしまった、王子を追っているのだ。その足取りは何処までも軽く、これまでの陰鬱さが嘘のように明るい。



「王子の手が私の顔を掴んだのよ! すっごく良い香りがしたわ!」


「逞しい足が私の全身を貫いたんでしゅ! 王子しゃまは私のはじめてを散らした人でしゅ!」



 一郎が聞けば、仰け反りそうな会話をしながら二人が笑う。

 彼女達にとって、一郎はその容貌だけではなく、力強い戦力でもある。五体ものオーガを瞬時に焼き払うなど、尋常ではない魔力の持ち主であった。



「あの王子は、何処から来たのかしら……」


「王城じゃないんでしゅか?」


「馬鹿な事を言わないで! あんな腰抜けどもの城に、あの王子が居る訳ないわ。もしも居たなら、必ず何らかの噂になっている筈よ」



 彼女達が居た階層には、確かに王城がある。

 だが、そこに住んでいるのは貴族達に振り回されている王家があるだけであり、あんな華麗な存在がいるならば、かの階層も大きく変わっていたであろう。



「王子を追うわよ。そして、一緒に元の階層へ戻るんだからっ!」


「王子しゃま……早く会いたいでしゅ……」



 二人は程なくピコが住んでいた村に辿り着いたが、そこで一郎が起こした騒動と、その顛末を聞いて更に想いを募らせる。

 何処からどう聞いても、それは颯爽たる“英雄”の姿であったからだ。




 一方、英雄と呼ばれる男とピコは広い平原を歩いていた――

 歩きながら一郎は様々な質問をピコへとぶつけていたが、返って来るのは何とも不思議な答えが多い。



「一つ聞きたいんだが。オーガは人を攫って、何をさせているんだ?」


「そうですね……単純なものでは、岩や石を運ばせて一種のモニュメントのようなものを作らせたりしているようです」



 種族として信仰している存在があるらしく、それらの像や、それらに捧げる何かを作っているらしい。



「後は、魚を獲らせたり」


「魚とは、どういう意味で言っているんだ?」


「え? その、川から獲っていますが……」



 その言葉に、一郎が黙り込む。

 一郎はここを、近代的なシェルターに類するものとして考えていたのだが、その前提は早くも崩れそうであった。

 現代人が浮かべる“シェルター”の中に、川などが流れている筈がない。



「変な事を聞くが、その魚は食用として獲らせているのか?」


「いえ、他にも絞って油にしたり、粕は肥料にしたりします」


「そ、そうか……」



 一郎からすれば、何がなんだか分からない。

 近代的なのか、原始的なのか、ファンタジーなのか、それらの全てが入り混じったような、聞いた事もないような世界であった。



「この上にはゴブリンが住んで居ると言っていたが、更に上があるのか?」


「はい。その上には、人間の作った大きな国があると聞きます。一郎さん、これを見て下さい……大昔、上から降りてきた冒険者が村に置いていった物です」


 そう言って差し出されたのは、カビ臭い一冊の本。

 中を開くと、そこには「階層世界」との文字が記されてあり、“上”には巨大な森や、灼熱の砂漠地帯、海底に沈んだ古代都市や、空に浮かぶ城などがあると描かれている。



(どうなってるんだ……これが本当なら、シェルターどころの話じゃない)



 本の内容が真実なら、ここがどれだけの深さなのか、もしくは高さなのか、想像を絶するものがあった。



「それよりも、一郎さんっ! オーガ達をどうやって駆逐するんですか!?」


「……それに関しては、一つ考えがある」



 それだけ言うと、一郎は深い熟考に入る。ピコも空気を読んで沈黙した。

 あれからというもの、一郎は自分の能力について調べるべく、様々な行動を試していたのだが、所持品と同じような“画面”を開く事に成功したのだ。



「――コマンド」



 それを呟いた時、半透明の画面が目の前に現れた。

 どうやら、自分にしか認識出来ないらしい。


 完全にゲーム画面そのものであり、所持品の項目や、現在の時刻まで表示される非常に便利なものである。そこには自己のステータスだけではなく、能力の詳細も記されており、一郎はそこでデタラメな能力の数々を知って愕然とした。


 しかも、まだ未知数な能力があるらしかったが、発動していないため、それらの項目には素っ気無く、「未発動」と記されているのみである。こんなものは一郎からすれば、いつ爆発するか分からない地雷でしかない。

 実際、その爆発によって相手も死ぬだろうが、一郎も精神的に死ぬであろう。



(何が流星の王子様だ……)



 長い眠りから覚めてみれば、厨二王子になっていたなど、コントでしかない。

 また、その厨二全開の行為を現実にしてしまえる能力を備えている点が、非常に性質が悪かった。



(二度とあんな羞恥プレイはごめんだぞ……!)



 この階層には、オーガが数千体は存在しているという。それらを殲滅する前に、一郎は自分の方が先に精神的な死を迎えるだろうと確信していた。



(魔神召喚、か……これしかない)



 一郎が目を付けた項目である。

 これこそが、不思議な声にあつかましく願った“部下”であろう。

 願いがそのまま反映されているのであれば、彼らが面倒事を片付けてくれる筈であった。


 そこに記されているのは、“五柱の魔神”と呼ばれる存在。

 ソルジャー、ライダー、ワイズマン、マシーン、エクストラとある。そのどれも、一郎の生活には馴染みのない単語ばかりであった。



(最初にソルジャーってのは安易だし、ライダーを見てみるか)



 ライダーを選ぶと、そこに経歴らしきものが表示された。

 それらは魔神と呼ぶに相応しい存在である。




 ライダー

 種族:魔神

 年齢:30歳


 戦乱の世に絶望し、その身を闇に堕とした騎兵。

 透明化や気配遮断の能力を所持し、暗殺を得意とする。また、第二形態を所持しており、能力値を爆発的に高める事も可能。

 その圧倒的な強さから、デスアダー(死を与える者)と呼ばれている。




 その経歴を見て、一郎が思わず腹の中で唸る。

 ダークヒーロー、とでも言うべきであろうか? 男はいつの時代も、こういった影のある存在を好む。



(何か格好良いな、こいつ……)



 同時に、男とは年齢を重ねるにつれ、凝り固まった正義のヒーロー像に、あまり魅力を感じなくなってしまう一面があるのかも知れない。



(よし、お前に決めた。ちょっと、世紀末に君臨した覇者っぽいしな!)



 湧き上がる興奮のままに、一郎がライダーが選択する。

 瞬間、心臓からかつてない程の鼓動が鳴り響き、立っていられないほどの火花が散った。一郎の体が激しく揺れ、その体から暴風のような大魔力が吹き荒れる。



「い、一郎さん……! これは……!?」


「ピコ、はな、れろ……ッ!」



 それだけ口にするのが、精一杯であった。

 一郎の足元から巨大な魔方陣が浮かび上がり、一郎の気力が凄まじい勢いで減少していく。常人がこんな召喚を行えば、一秒も持たずにミイラと化すであろう。


 浮かび上がった巨大な魔法陣の美しさに、ピコが息を飲む。

 その魔法陣は一秒たりとも同じ紋様を描かず、目まぐるしく刻まれた文字と紋様を変化させていく。


 大気を震わせるような大魔力が吹き荒れる中、一郎はその中心で何かを耐えるように左手で顔を覆い、右目だけで魔法陣を睨みつけていた。



(クソ! こいつ、何をはじめる気だ……ッ!)



 一郎はもう、立っているだけで限界であったが、その鼓動と火花は鳴り止まず、全身の血液まで踊り出すようであった。

 おもむろにその口が開き、いよいよ、魔神の召喚がはじまる。



「我が意を世界に刻む者――顕現せよッ! 死を与える者(デスアダー)!」





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