山田王子、爆誕
そこは薄暗く、どのくらいの広さであったのか。
辺りには曲がったスコップや、ケーブル、ガラスの破片、黒ずんだ植物、人や動物と思わしき骨などが散らばっている。
端的に言うならば――そこは“ゴミ捨て場”であった。
「洒落にならん臭さだな。雨に濡れた犬が、屁でもこいたような……」
ぼやきながら一郎が体を動かすも、何故か全裸であった。
しかも、異様なまでに体が引き締まっている。一時、細マッチョなどという言葉が流行っていたが、それの究極のような体型であった。
――ちょ、落ち着け! マイ・サン!(我が息子)
下半身を見ると愚息が雄々しく起立し、激しい自己主張を行っている。
数億年ぶり、と言う事を考えるとギネス級の朝勃ちであった。
山田君、絶好調である。
「何で全裸……と言うか、この化物は何だ!?」
一郎が入っていたコールドスリープカプセルを包み込むように、巨大な機械が目の前に佇んでいた。それは機械、生物、無機物が混ざり合った混合獣のような姿をしており、軽く三階建てぐらいの大きさがある。
「まさか、夢で会話してた“オカン”は……こいつなのか?」
話しかけるも、機械は答えない。
既に寿命を迎え、その役目を終えたのだ。機械の一部に反射するキラキラとした鏡のような部分があり、そこで一郎は自らの姿を初めて知る事となった。
「誰だ、こいつ……殴りたくなるようなイケメンなんですけど!?」
そこに映っているのは、悔しくなってくるような美貌の男。
流れるような黒髪に、視線だけで女を落としてしまいそうな、冷たく光る瞳。
年齢も十代にしか見えず、間違っても山田一郎の容貌ではなかった。
「何が起きてる……大体、ここは何処だ?」
一郎は体を蝕む病魔に絶望し、未完成のコールドスリープ治療を受ける事を選んだのだが、まさかゴミ捨て場に捨てられているなど、想定外であったのだろう。
「山本……は、居る筈もないか……」
怪しい研究をしていた友人を思うも、まさか生きているとは思えない。
最低でも百年は目覚める事はない、との説明を受けていたからだ。あの言が正しいのであれば、同い年であった山本はとうに死んでいる。
「とにかく、服を……何かないのか……」
一郎がそう呟いた時、目の前にゲームのようなスクリーン画面が映し出された。
そこには、所持品と思わしきものが並んである。
「嘘だろ……まだ夢でも見てるのか……?」
そんな事が頭を過ぎるも、五感の全てがこれが現実である事を伝えていた。
呼吸をすれば肺が動き、手を当てれば心臓も確かな鼓動を刻んでいる。ひとまず、一郎は画面に描かれている服らしきものを指で選ぶ。
「流星の極光服……何だ、この痛々しいネーミングは」
選んだ瞬間、全身が光に包まれ、自動的に服を纏っていた。
服の隋所に黄金のようなものが散りばめられた、純白の軍服である。
右肩からは体を覆うようなマントがかけられていたが、それらも非常に凝った形をしており、時に眩い光を放っていた。
どんな舞台俳優でも着るのを躊躇うであろう、ド派手な軍服である。
「こんな格好、無理だろ! 何処のコスプレイヤーだよ!」
一郎が騒ぐも、他に服はない。
しかも、憎たらしいくらいにその軍服が似合っていた。
頭に被っている軍帽も、その容貌を一層に引き立てている。
「と、とにかく、ここを出よう。誰かに会えば、ここが何処かも分かる筈だ……」
辺りを見回すも、暗くて良く分からない。その上、物音一つしない。
まるで、停止した世界であった。
あまりの暗さに一郎が諦めようとした時、その視界が突然開ける。
――星視発動!
それは、星に愛されし王子を導く光――
どんな暗夜の中にあっても、正常な視界を保つ事が出来る能力である。
今の一郎には知る由もなかったが、盲目などの異常状態も無効化し、遠くの物を見る際にはズームアップする事も可能な能力であった。
「凄ぇ! 一気に明るくなったぞ……って、ここは」
しかし、視界が開けた事によって、ここが異常な場所なのだと再認識してしまう。何処を見てもゴミばかりであり、生き物一つ居そうもない。
ゴミ捨て場と言うよりは、様々な残骸達の墓地のようであった。
「……出よう、気味が悪い」
とは言え、出口が何処にあるのかなど分からない。《星視》を駆使し、遥か上空に光を見つけた一郎は、そこを目指すべく動き出す。
「壁でも見つけて登っていくか? どうせなら、空でも飛べたら良いのにな」
――鳥の飛行発動!
一郎が益体もない事を呟いた時、その体がフワリと浮き上がった。
その、ありえない現象に頭が真っ白になる。
「俺の体が、浮いてる件について……」
ふと、一郎の頭に“オカン”と交わした会話が蘇る。
寝惚けながらも、空を飛びたいなどと馬鹿な事をほざいていたものだ。
(まさか、あの時の会話が原因なのか……?)
戸惑いながらも、一郎が懸命に体を動かす。
浮いたり、沈んだり、左右に動いてみたり、それはこの世界における、凄まじい高位魔法であったのだが、一郎はそれを呼吸するように扱う事が出来た。
「ヤバイ。慣れてくると楽しいな――!」
調子に乗って様々な動きを試すも、一郎が内包する“気力”は尽きる事を知らず、何処までもその“遊覧飛行”を可能とした。
「すっごーーーい!」
遂に感極まったのか、一郎は何処かのサーバルキャットのような事を叫びつつ、遥か上空の光へと向う。しかし、高速で飛翔する一郎を以ってしても、出口は非常に遠く、底知れないものがあった。
「メッチャ遠いんですけど……もう、エベレストとか超えてないか?」
一郎が冗談半分で呟いた内容は、決して間違ってはいなかった。
その巨大な穴から、上の階層には想像を絶する高さがあり、一度でもそこへ落ちれば、二度と戻る事は出来ない。
だが、一郎の魔力は規格外であり、やがて長い闇すら抜けていく。
到達した光の先に広がっていたのは薄暗い洞窟と、棍棒を持った見慣れぬ化物。それを前に震える、二人の女の子であった。
(何だこれ? RPGで良く見るオーガみたいだけど……)
そこに居たのは、緑色の肌をした魔物。
腰には布らしきものを巻いていたが、そこに知性は感じられない。
一郎は取りあえず、「大丈夫ですか?」と声をかけようとしたが、この男に付与された能力は、そんな“平凡な台詞”を許さなかった。
――シリウスの火花Ⅴ 発動!
目の奥から激しい火花が散り、一郎の視界が真っ白に染まる。
その上、口から意図しないキザな言葉が飛び出した。
「――助けが必要かな。お嬢さん?」
(何を言ってんだ、この口はぁぁぁぁぁ!)
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山田 一郎
種族 人間
年齢 18歳(中身はオッサン)
武器 ―― 銀河の星剣
星をも断ち切る、と謳われた稀代の名剣。
斬撃だけではなく、魔力も底上げしてくれる。
防具 ―― 流星の極光服
金銀が散りばめられたド派手な軍服。
純白を基調とし、右肩からは足まで届くほどのマントが翻っている。
資金 ―― 全通貨をMAX所持
内訳:賎貨、銅貨、大銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨。
減らない。石油王。
レベル 777
体力 77777 / 77777
気力 77777 / 77777
攻撃 777
防御 777
俊敏 777
魔力 777
魔防 777
【能力】 ―― 健康体Ⅴ
いかなる病魔も退ける、屈強な肉体。
Ⅰを所持しているだけで、病院要らずの生涯を送れるだろう。
【能力】 ―― 流星の王子様Ⅴ
プリンス・オブ・シューティングスター。
人を惹き付けて止まない、魅力的な人間となる。
主に顔を見られる事によって、能力が発動。
Ⅰでもかなりの性能を持っており、カンストであるⅤともなると、
それは「魔性」や「化生」と言った類に近い。
尚、同性には効果が薄く、人間種以外には全く効果がない。
【能力】 ―― シリウスの火花Ⅴ
「流星の王子様」から派生した支援能力。
膨大な貯蔵データ内の中から、その場に適した台詞をランダムで言い放つ。
レベルの上昇と共に連動力もUPしていくため、
双方の能力がカンストしているならば、隙のない厨二生活が約束されるだろう。
無論、一郎にとっては迷惑以外のなにものでもない。
発動時、目の奥から激しい火花が散る。
*注
シリウス――全天21の1等星の一つ。
太陽を除けば、地球上から見える最も明るい恒星。
ギリシャ語で「焼き焦がすもの」「光り輝くもの」を意味する。
【能力】 ―― その他、多数
「流星の王子様」には様々な派生能力が存在している。
それらは時に一郎を助け、時には七転八倒させるであろう。
【魔法】 ―― 全魔術回路を所持
洒落にならないものが揃っており、神と呼んだ方が早い。
一郎 is GOD
追記
異世界ランキングで、日刊一位になっていました。
まだ投稿して間もないのに、本当にありがとうございます!




