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勇者殺し  作者: おちょぼ
3/4

勇者殺し3

 

 とうとう魔界に入ってしまった。

 このまま行けば魔王城まで二月ほどだろうか。

 何の成果もあげられてないが、まあもともと魔王も俺にそんな期待はしてないだろうし問題はない。


 でも勇者を暗殺できなくて焦ってますよ~という感じをアピールするためにちょっとだけ暗殺の回数を増やすことにしよう。

 とりあえず今日はベットの下にトラバサミを三個仕掛けた。

 これでいつもの三倍暗殺をしたことになるな。


「……さすがに雑すぎるだろう」


 うるさい。

 暗殺のネタを考えるのだって大変なんだぞ。

 そもそも俺は暗殺者じゃなくて小説家志望の一般魔族だ。


「まったく、絶対に私を殺してやるという熱意に燃えていたあの頃のお前はどこにいったんだか」


 そんな奴初めからいないわ。


 ……だが、うーん。あんまり舐められるのも考えものだな。

 思えばここ二週間ぐらいトラバサミ以外に暗殺を仕掛けた記憶がない。

 ここらで一つ、俺の本気を見せてもいいだろう。


 俺は変装して宿の朝食を食べに行く勇者を尻目に計画を練る。

 ……が、あまりいい案が浮かばない。


 問題なのはここが魔界だということだ。

 魔界であるから住んでいるのは人族ではなく魔族――勇者にとっての敵ばかりである。

 これがどういうことかというと、人間界のときのように人間を盾に勇者から逃げることができないということだ。


 俺は今まで、勇者から逃げるときにはすり抜けを駆使し、人族の建物の中に逃げることを繰り返して難を逃れていた。

 しかしここではそうはいかない。

 いざとなれば勇者は建物ごと俺を攻撃するだろう。


 まあ勇者も下手に目立つのはまずいと思っているのか、変装したり日課だった個人練習を止めたりと気をつかっているが。


 うーん。勇者に気づかれず、なおかつ殺傷力の高い方法。

 それだけでも難易度高いのに今度は逃走経路の確保まで考えなきゃならんとは。


「うむ、魔界のご飯もクセがあるが慣れればなかなかいけるな」


 そうこうしているうちに朝飯を食べ終えた勇者が戻ってきてしまった。

 勇者はそのまま荷物をまとめるとさっさと宿を引き払ってしまう。


 魔界での暗殺が難しい理由のもう一つがこれだ。

 勇者が魔界の宿に滞在する時間が短い。

 人間界ではしっかりと旅の疲れを癒すためなのか一日以上は街に滞在していたが、魔界に入ってからは夜に宿に泊まったらさっさと街を出ていってしまう。

 まあ周囲を魔族に囲まれて勇者が安心できるはずもないから仕方ないんだけど。

 勇者に襲われたときは魔界であるとはいえ、やはり街中の方が逃げやすいのでできれば街中で殺りたいんだがなあ。


 とりあえず隙を見せるまで勇者を尾行することにするか。




 魔界の自然は人間界よりいくらか厳しい。

 野生の魔物も強いし天候もころころ変わる。

 さっきまで晴れていたのに、にわかに曇り、ポツポツと雨が降ってきた。

 日光が苦手な俺からしたらありがたいが、勇者は顔をしかめている。


「雨か……。雨宿りできそうなところもないし、仕方ない。『排水(アンチウォーター)』」


 ポツポツという雨は勢いを増し、やがて一寸先も見えないような土砂降りとなった。

 勇者は魔法で雨をはじいて進むことにしたようだ。


 ……これはチャンスか?

 雨で視界は悪いし、ザアザアという雨の音でほとんどの物音はかき消される。

 絶好のシチュエーションだ。


 でもなぁ。

 そもそも勇者の最も厄介なところは人の悪意や敵意を感じとるという能力だ。

 俺が暗殺しようと思ったところで勇者には筒抜け。

 返り討ちにあうだけだ。


 ホント、暗殺封じの能力だよなぁ。


 何かないものか、勇者に気づかれずに暗殺をしかける方法は。

 ……いや、一個だけあるんだ。

 それは殺す気の無い暗殺。

 俺が朝にベットの下にトラバサミをしかけるようなアレだ。


 あのトラバサミは魔王に『暗殺がんばってますよー』とアピールするためのものだ。

 勇者に対する殺意など一欠片もない。

 だからこそ、仕掛けることができる。


 勇者は悪意や敵意に敏感なので、少しでも俺がそれを出せば、たとえ眠っていても気づいてくる。

 だが通常時なら俺の隠密能力の方が勇者の気配察知能力より上だ。


 だからこうやって近づくことだけならできる。

 でももしここで俺が勇者にセクハラしようなどと考えて尻に手を伸ばせば……


「ふんっ」


 危なっ!


「次にやったら本気で斬るぞ……」


 このように問答無用で斬りかかってくる。


 いったいどうすりゃいいんだ。

 俺には一切の悪意も敵意も殺意も持たずに攻撃するなんてことできねーよ。

 本職の暗殺者ならできるんだろうけど俺は暗殺者じゃないしな。

 今からプロの暗殺者に師事してやり方を教えてもらうか?

 いや、そんなことしてたら勇者が魔王のところに着いちゃうな。

 あーあ、どうすりゃいいんだろうなぁ。




 転機がきたのはその日から二日後のことだった。

 街についた勇者が宿をとり、その日の月見酒用の酒を買いに出かけたときのこと。

 俺は勇者をつける俺以外の存在がいることに気づいた。


 熱心な勇者のファン……ではないな。

 魔界に勇者のファンなんているはずないし、そもそも一般魔族にはバレないように変装しているし。

 そもそもただのファンなら潜伏魔法なんて使わないな。


 そう。

 勇者をストーキングしているソイツは潜伏魔法を使っている。

 しかも俺には及ばないがなかなか高度なやつだ。

 まあ隠密系の魔法・能力を無効化する夜王族の俺からしたらバレバレだが。


 勇者はどうだろう、気づいているのか?


「おお、やはり魔界も素晴らしい。見たことの無い酒ばかりで目移りしてしまうな」


 気づいてなさげだ。

 でもたぶんあのレベルの潜伏魔法じゃもう少し近づいたら気づかれるだろうな。


 でもあのストーカー凄いな。

 ああやって勇者を尾行してたら多少は敵意がもれて勇者が気づきそうなもんだけど。

 敵意や悪意を一切もらさずに勇者を尾行できるのか。

 まさか……暗殺者?



 ……これはもしかして使えるかもしれん。

 俺は素早く計画を練ると早速実行に移した。





 真夜中。

 空には細い三日月が輝いていている。

 勇者は窓際に座り遮る物のないそれを眺めながら魔界産の酒をコップに注いだ。


「魔界も人間界も変わらないな……」


 勇者はそう言ってコップを傾ける。

 俺はそんな勇者に背後から近づき……


「止めておけ。バレバレだぞ」


 振り返ることもなく言った勇者に止められてしまった。

 だが俺は止まらない。

 今の俺にはここで止められない理由があるのだ。


「今日はどうしたんだ?いつもは私のこの時間を邪魔するようなことはしないのに」


 俺の常ならない様子に違和感を感じたのか勇者が振り返った。


 ……今だ。


 窓の外から腕が伸びてくる。

 その手には握られた鋭利なナイフがぎらりと鈍い光を放った。

 そのナイフは蛇のような俊敏さで勇者の首筋に迫り……


 バチン


 勇者の雷をくらって動かなくなった。


 ですよねー。


 失敗したことを悟った俺はさっさとすり抜けで逃げ出した。


 俺の今回の作戦は『自分でできないなら人にやってもらおう作戦』だ。

 要するに殺意を出さずに敵を暗殺することができる本職の暗殺者に、俺が知る勇者の情報や潜伏魔法などの協力をする代わりに勇者を殺ってもらうという作戦である。

 作戦名まんまですね。


 うーん、それにしてもなんでバレたんだろ。

 やっぱり生物は何の感情も抱かずに他者を殺めることはできないということか?


 と、俺が失敗の原因を考えていると勇者が俺のことを追ってきていないことに気づいた。

 なんだろ。

 もしかしてあの暗殺者に尋問でもしてるのかな?

 それとも拷問?


 そういえば俺が初めて勇者にあった時も勇者につかまり拷問されかけた。

 あの時も何やら暗殺の対処に手馴れた様子だったな。

 魔王はそんなにたくさん暗殺者を送りこんでたのか?

 いや、あの派手好きな魔王がそんなことするはずがない。

 そもそも最強の暗殺種族と言われた夜王族を滅ぼそうとする奴だ。

 暗殺者のツテもないだろう。


 そうすると勇者が暗殺者の対処に馴れていたのはなんでだ?

 ……そういえば勇者は俺を見たとき「とうとう魔族からも刺客が」とか言ってたな。

 魔族から『も』ってことは魔族以外――つまり人族から暗殺者が送りこまれてたってことか?

 でもなんで?

 勇者は人間の敵である魔王を倒すために戦ってるんだろ。

 なんでそんな勇者を人間が殺す必要がある?


 そういえばさっき勇者の雷をくらったときに暗殺者の覆面がずれて顔が見えていたけど、あれは間違いなく人族だった。

 やはり人族が勇者を暗殺しようとしていることは間違いないのだろう。


 というか勇者はよくそんな自分を暗殺しようとする奴らのために戦えるな。

 俺だったらそんな連中とっとと見切って自由にするけどな。

 勇者にはそれができるだけの力はあるわけだし。


 それとも俺の考えがどっか間違ってるのか?


 まあいいや。

 人族のことなんて考えてもわかるわけないしな。


 とりあえず今日は勇者の所には行かないで適当に時間をつぶすとしよう。






 ――〇――●――〇――●――〇――




 翌日。


 その日は街までたどり着けず野宿をすることになった。

 食事もすませ、後は恒例の月見酒の時間だ。


 今日はいつも通り手を出さず、勇者の独り言なんだか愚痴なんだかよくわからない言葉を聞くのに徹しよう。

 と思っていたのだが。


 ん?


 勇者が酒を二瓶取り出した。

 おかしいな。

 勇者は何かこだわりでもあるのか飲むのは決まって一日一瓶だ。

 それなのに何で二瓶も?

 疑問に思っていると答えは勇者の方から出された。


「なあ魔族、いるんだろ?こっちに来て一緒に飲まないか?」


 ……なんだと?

 どういう風の吹き回しだ。

 今まで勇者が誰かと一緒に飲んでいたということは俺が見てきた間には1度も無かった。

 飲むのは大抵宿の一室で一人、月を見ながら。

 太陽酒みたいな例外はあったがそれでもほとんどがそうだった。


 まさかそろそろ目障りになった俺を酒に酔わせて殺しにきたか?

 いやいや、勇者はそんな搦め手を使う(たち)じゃない。


 だとしたら勇者の意図はなんだ?


「……だめか」


 勇者が顔を伏せ、ヤケに沈んだ声をもらす。


 …………まあ俺は貰える物はなんでも貰っておくタイプだからな。


 俺は潜伏魔法を解くと木の上から勇者の前に降り立った。

 その瞬間勇者は顔をあげ、パッと華やいだ顔をする。


「おお、来てくれたか。まあとりあえず座ってくれ。今酒を注ぐ」


 勇者はこころなしか弾んだ声で準備を始めた。

 なんだかヤケに嬉しそうというか楽しそうというか。

 こんな勇者を見るのは初めてだ。


 俺はなんだか新鮮な気持ちで勇者を眺めた。


「さあ準備できたぞ。コップを持ってくれ」


 言われてコップを持つ。

 どうやら魔法で作ったらしい、頑丈そうなコップだ。


「そうだな、では、我々を見守るあの三日月に……乾杯」


 乾杯。

 俺と勇者は軽くコップをぶつけると喉に魔界の酒を流しこんだ。


 ……にげぇ。

 実は酒を飲むのは初めてなんだが、あまりうまい飲み物だとは思えなかった。

 なんで勇者はこんなのを好きこのんで飲むんだ?


「ふぅ。やはり魔界産の酒はクセがあるが馴れるとそれが逆にたまらないな」


 さいですか。

 俺にはよくわかんねえな。


「ふっ、お前も案外子供なのだな」


 うるせえ。

 金がないから酒なんて飲む機会が無かっただけだ。


「そうか。ちなみに私は七歳のころから酒を飲み続けているぞ」


 ガキは酒を飲んじゃいけないんじゃなかったのか?

 勇者のくせに随分と不良少女だったんだな。


「ははは。何を言う。私は勇者である前に一人の人間。人間であれば悪事の一つや二つするものさ」


 そーいうもんか


「そういうものさ」


 勇者は軽くコップを傾ける。

 俺もそれに倣って少し酒を飲んでみる。


 ……やっぱり苦ぇ。

 

「私だって何も生まれた時から勇者だったわけじゃない。もともと私は中流階級の市民の子さ。もっとも、勇者になったときに縁は切られてしまったけどね」


 縁を切られる?

 勇者になるとそんなことされるのか。


「ああ。あの時は驚いたよ。十歳ぐらいの時か、ある日突然偉そうな大人達がやってきて、君は勇者だ神からのお告げだの色々言って親を言いくるめて私を連れていった。人類の代表たる勇者が平民出身であるというのは貴族達にとって都合が悪いんだろう」


 ふーん?

 そういえば特に考えたこともなかったんだけど勇者ってなんなんだ?


「勇者とは何か。ふむ、哲学的な質問だな。そうだな、さしずめ人類の最終兵器といったところか」


 いやそうじゃなくてだ。

 お前見たとこ二十歳ぐらいだろ?

 そんで十歳ぐらいまでは普通の暮らしして。

 そっからの十年間を全部訓練に費やしたとしても人族――というか生物が得られる強さを超えてるだろ。


「そうだなぁ。神が与えた人類への救済、とか人類の突然変異、とか色々な話を聞いたがどれも憶測の域を出ないものだった。まあ難しく考える必要はない。勇者といっても、ちょっと戦うのが得意なだけの、ただの人間さ」


 ふーん。

 ただの人間ねぇ。

 俺の知る人間てのは欲深くて弱いモノ虐めが大好き、貧弱でそのくせ数だけは多いって認識なんだが……お前がそれと一緒とは思えないな。


「ふっ、同じさ。あ、いや弱いモノ虐めは別に好きではないが」


 じゃあお前は自分が欲深くて貧弱で性欲が強いヤツだって思ってるのか。

 謙遜も過ぎれば毒だぞ。


「謙遜ではないよ。私にも人並みの欲望や望みがあり、そして弱みもある。性欲は……どうだろうな。私は自覚したことはないが案外強いかもしれないぞ?試してみるか?」


 ……いや遠慮しておく。

 それより俺は勇者の弱みとやらに興味があるんだが。


「言ったらそれを利用して暗殺するのだろう」


 まあな


「なら言わん」


 そうか


「そうだ」

 

 そこで少し沈黙が流れる。

 思えば勇者も変な奴だ。

 自分を暗殺しようとしている相手とこうして酒を酌み交わして話しをしているんだから。


 まあそれも俺が弱すぎて勇者にとって敵にすらなっていないってだけか。

 運がいいのか悪いのか。


 ちらりと勇者の様子を伺うと何やら空を見上げてぼうっとしている。

 どうやら月を眺めているようだ。

 そういえば勇者は酒を飲むときはいつも月を見上げているな。

 いや、月というよりは空か。

 月が見えない曇り空や新月でも空を見ながら酒を飲んでいた。

 何か思い入れでもあるのだろうか。


 ぼうっと空を仰ぐ勇者を眺めていると勇者がポツリと呟いた。


「私はな、空が好きだ」


 うん、まあ、見てればわかる。


「空は自由だ。何者にも縛られずどこまでも広がっている。自由の象徴だ。私は空を見る度に憧れにも似た感情を覚える…………だが同時に悲しくもなる。空はどこまでも広がって自由なのに、私はずっと縛られ続け、それが解かれることもない。私は永遠に空にはなれない。……だから私は酒を飲んで空を見るのさ」


 なに?お前ってもしかして勇者辞めたいの?


「辞めたいというわけではない。魔王の脅威を退けるのは誰かがやらねばならないことで、それを最も安全にできるのは勇者である私だ。そのことから逃げ出すつもりは無い。ただ……」


 ただ?


「私には夢があるんだ。幼い頃からの夢がな」


 へぇ、どんな?酒屋を作るとかか?


「よくわかったな。そう、酒屋だ。だがただの酒屋ではないぞ?世界中のありとあらゆる酒を扱う、世界一の酒屋だ」


 まあお前らしい夢だな。

 でもだったら魔王を倒してからなればいいだろ?

 今人間界は特に国どうしの仲は悪くないし、人間界を荒らしてる魔王を倒せばもう勇者の仕事はなくなる。

 その後なら勇者が酒屋やっても誰も文句言わないだろ?


「……無くならないよ、戦争は」


 ん?


「今人間界で戦争が起きていないのは(ひとえ)に魔王がいるからだ。魔王の脅威がある中、戦争などしようものなら魔王にその隙をつかれる。そのような隙を晒さないため、という利害で一時的に協力しあっているだけにすぎない。……なあ魔族。お前は人間の暗殺者がどうして私に送られているかわかるか?」


 さあ?前にも考えたがわからなかった。


「平和を守るためさ。魔王が消えれば、人は何か理由を見つけては戦争を始め殺し合う。肥沃な土地の利権、良質な鉱山の領有権、戦争の火種はそこら中に転がっている。それらは一度燃え上がれば多くの人の命を焼き尽くす。そうやって同族同士で殺し合うくらいなら、この仮初めの平和を享受したい。……皮肉なものだな。人間界に平和をもたらすために戦っていたはずなのに、今はこうして人間界の平和のために殺されようとしている」 


 ままならないな。


「まったくだ。人知を超えた力を持ちながらも所詮はそれだけしか能のない人間。権力も財力も人脈も持たない私では抗うことなどできないのさ」


 ふぅん。

 魔王を殺しても殺さなくても人間は死ぬと。

 いやこれ魔王が人間界にやってる迷惑行為やめれば解決するような。

 

「そんなことができるのか?」


 ……無理だな。

 あの魔王が人族のお願い聞くとも思えないし。


「そうか。まあ、だろうな」


 勇者はどこか諦めたように言うとぐいっと酒を呷った。

 そして酒のせいかほんのりと赤くなった顔で遠い目をする。


 うーん。

 変な関係性ではあるが勇者とは長いつき合いだ。

 俺は勇者に対して、うまくは言えないが、情のようなものを抱いている。

 おそらくこうして酒を奢っていたりするあたり勇者も同じなのだろう。


 だから何とかしてやりたいとは思うが……。




 なあ勇者。

 勇者やめて酒屋開くとかは嫌なんだよな?


「嫌、というより……できない、という事の方が正しいな。民はみな魔王を恐れている。その魔王を倒す役目を放棄した勇者の経営する酒屋など行くはずもない。魔王を倒した後も同様だ。今度は人類間の戦争の解決のため、という理由で戦争に駆り出されるようになる。勇者の役目は終わらないんだ」


 ん~じゃあ魔界で店開けば?

 魔界なら勇者の顔知ってる奴もそんないないだろうし魔族は酒だって好きだぞ。


「馬鹿を言うな。そんなことできるはずないだろう。魔界に住む人間なんて魔族に受け入れられるはずがない」


 そうか?

 俺は別に受け入れるけど。


「それは…………そうだな。少し私も頭が固くなっていたようだ。そうか、そういう道もあるのか……。いや、でも私は魔王を倒すことは絶対に成し遂げるつもりでいる。そして魔王が倒されたと知れればそれをやった私のことも魔界に知られるようになるだろう」


 うーん。

 そうか。

 今の魔王はなかなか人気があるからな。

 その魔王を殺したとなれば勇者に反感を持つ魔族もおおいだろうしなぁ。


「まあそういうことだ。でもありがとう。お前なりに真剣に考えてくれたんだな。それだけで私はうれしいよ」


 やめろよ照れくさい。

 てかお前もう酒空じゃん。

 俺の飲むか?


「いや遠慮しておくよ。私はまだ旅の途中だからね。こんなところで酒に溺れるわけにはいかないから自制しているのさ」


 でも俺これ以上この酒飲めそうにないんだけど……。


「そんなものは慣れさ。飲み続けていれば次第に次が欲しくなるようになる。なあそれより私の話しをしたんだ、お前の話も聞かせてくれないか?」


 え?俺?

 つっても特に人に聞かせるような話はなあ。


「なにか無いのか?ほら例えばお前の夢とか」


 夢?

 ああ、それならあるぞ。

 俺はな、小説家になりたいんだ。


「小説家。それは意外だな。魔族は皆、野蛮で刹那的な快楽を好むと思っていたよ」


 ま、そういう奴が多いのも事実だけどな。

 俺みたいに知性に溢れた文化的な男だっているわけだよ。


「ふふっ。ますますお前はおもしろいな。なあなにかお前の書いた作品は無いのか?よければちょっと見せてほしい」


 おっ。

 俺の作品が見たいというのか。

 お前の暗殺の片手間に書いてたまだ未完の作品だが特別に見せてやろう。

 実は人間界への進出を視野に入れて人族語の作品を書いていたんだ。


 俺は持ち物を入れてある袋の中から原稿を取り出すと勇者に渡した。


「ふむ。どれどれ……」


 俺の作品に目を通した勇者がピシりと固まった。

 どうやら俺のあまりの才能に言葉も出ないようだ。

 まあそれでもせっかく俺の作品を読んだんだ。

 感想ぐらいは欲しいな。


 俺が期待に満ちた目で勇者を見ていると一通り読み終わったらしい勇者の目が泳ぎだした。


「いや……これは……ええと、その……なんていうか」


 どうやら勇者のやつ、俺の文学的表現に対抗してか、何かカッコイイこと言おうとして言葉が出てこないようだ。


 おいおい勇者、そんなに気負わないでさ。

 もっと素直な、心からの感想を言ってくれよ。


「……言っても怒らないか?」


 怒るわけないだろ。

 俺はどんな感想でも大らかな心で受け入れるぞ。


「クソつまらん」


 よし殺そう。


「ま、待て!お前がなんでも受け入れるって言ったんじゃないか」


 ……確かにそうだな。

 ではお前の言い分も聞いておこう。

 だがお前の批判が的外れだと俺が判断した場合は殺す。


「くっ、かつてない殺気だ。どうして普段からこれだけ本気にならないんだ」


 御託はいい。

 さっさと言え。


「わかった。まあまず文法がめちゃくちゃだ。主語と述語が繋がっていないし修飾語の位置もおかしい。まあこれはまだ人族語の勉強中だということで見逃そう」


 ふむ。続けろ。


「次に表現の仕方だが……直接的すぎないか?魔族側ではこれでいいのかもしれないが人間界でやるには少し物足りない。登場人物の感情はストレートに書くのではなく情景描写で表現すると、表現の仕方に幅ができて深みが増す。ちなみにこれを人間界ではメタファーと言う。覚えておくと何かと役にたつぞ」


 …………。


「そして肝心のストーリーだが……ここが一番の問題だな。まず展開に起伏がない。そして安直だ。初めから緊張感がありすぎる。説明が不足していて読者が置いてきぼりだ。一度起承転結を意識して書いてみるといいだろう。『起』で世界観の説明、『承』で事件を起こして『転』で事件を解決し『結』でその結果何が起きたのかを書く。これを沿って書くことで起伏のあるわかりやすい文章に……」


 きぃえええええええい!!!!


「あぶなっ!突然ナイフを振り回すな!当たったら危ないだろう」


 どうやらお前は俺の将来のライバルになりそうだ。

 今のうちにここで消させてもらう。


「何を言っている!私はお前のためを思ってアドバイスをしているというのに」


 問答無用!


「くっ。どうやら本気のようだな。……いいだろう。私も一度本気のお前と戦ってみたかったんだ」


 勇者が剣を抜く。


 だが俺にも譲れない物があるのだ。

 俺はナイフを構え、蛇の如く勇者に襲いかかった。






 ま、五分で()されたんだけどネッ! 

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