後輩想いのセンパイ
昔、まだ小学生になる前、母の知り合いだという女性に連れられてやってきたのが誠だった。
その頃は女の子と間違えられる程の美少女顔だった誠はそれはそれは俺たち兄弟に構い倒された。
一番上の兄と真ん中の姉はその美貌に陥落し誠は2人にひたすら可愛がられていた。末っ子の俺はそんな誠が面白くなくて、唯一誠をいじめる側に回ったのだった。
屋敷の倉庫に閉じ込めたこともあるし、庭の池に落としたこともある。でも、その度泣きながら後をついてくる様子に、俺は多分初めて加虐心を覚えたのだ。
その後徐々に誠を虐めることは無くなり、周りに対しても効率的に事が運ぶよう、そういった思考を隠して過ごしてきた、が、今目の前にいる女子生徒を前に幼少期以来の加虐心が再びむくむくと膨れ上がるのを感じた。
すいません、と涙目で謝る彼女にもっと大げさに泣いてしまえばいい、と久しく感じた事のなかった感情が溢れてくる。
そんな自分に少し戸惑いながらも追い詰めるのをやめられない。
坂口柊子のことを調べるのは、いとも容易かった。先日、響が概要を調べ上げた時に再確認したがやはり機密情報扱いにはなっていないようだった。
あの後さらに詳しく調べてみると、なんと誠の話した内容とは真逆のような女だった。
SNSには少女漫画思考じみた空想で溢れかえり、時々俺も登場している所を見ると、彼女が一番気に入っているのは誠で、あとのメンバーは同列というところだろう。
誠は人嫌いに見えて、一度自分の中に入ってきた人物にはとことん甘くなる性質がある。
家族や自分を含めた生徒会メンバーが例として挙げられるが、もし恋に落ちた女にならどうなってしまうのだろうか。
そんな興味も刺激されたために調べてみたものの、これは近づけると厄介な人物そうだ。
しかし、誠の話では俺たちに全く興味の無い素ぶりだったと言っている。そこであることを思い出した。生徒会メンバーのファンでありながら、それを表に出す事のないグループがあることを。
そのグループは表立って近づいてくることも無ければ絡んでくることもなく俺たちにはほとんど気付かれていない集団だった。だからこそ、後輩のほのかな恋心を実らせてやろうと考えたのだった。
思い立ったら後は実行するだけだった。彼女を放課後に呼び出し生徒会の手伝いとでも言って、俺たちの近くに居させよう。
すると、誠はどうなるんだろうか。あの人嫌いが必死でも求愛するのだろうか。もし上手くいかない時は俺たちが手を添えてやってもいい。
そんな思いからこの生徒会室に呼び出したが、これは誤算だったのかもしれない。
手伝いに喜んで食いついてくるかと思えば、案外頭の回る人物だったらしい。怯えた顔をして断ってきた。
その顔もなかなかいいなぁと思いながら、少し脅してやるとますます震えて顔いっぱいに絶望の2文字が浮かんでいた。
最後は無理やり頷かせたようなものだが、久しぶりに感じる充足感にこれは私も楽しめそうだと口の端を上げた。
翌日、呼び出しに応じて生徒会室にやってきた彼女を見た誠の反応はそれはそれは面白いもので、俺にはこの作戦が成功する未来が見えた。