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天使と悪魔とそれから私




一条グループは不動産や食品加工など様々な事業を展開し成功している日本随一のグループ企業である。


始まりは明治時代の呉服店からだと聞いたことがあるが、そのDNAはしっかりと現代にも受け継がれており、今や老舗アパレル企業となっている一条ブランドは慶賛の制服を代々手がけておりこの辺りでは一番人気だ。



そんなグループの御曹司である人物と向かい合うこと約数分、なんだか凄い話になってきた。



「は?」


「あれ?聞こえなかった?生徒会のお仕事を手伝って欲しいって言ったんだよ」


「え、と…」


「ははは、びっくりしちゃったかな。実はね、そろそろ学園祭の企画を始める所なんだけど、」


会長は驚いて固まる私に構わず説明を始めた。


慶賛高校の学園祭では、10月に体育祭と文化祭が連続して実施される。中等部でもそうだったが、確か夏休み明けぐらいから学園祭の準備で全生徒が忙しくなるはずだ。


「実は生徒会が圧倒的に人手不足でさ、猫の手でも借りたいところなんだよね。」


「は、はあ…」


「でも僕らこんな感じで目立っちゃってるし、なかなかお手伝いを頼むのも難しくって…」



それはそうかもしれない。誰かを選んで手伝いを頼んでしまったら、自分は特別なのでは無いかと変に期待を持たせてしまうことになりかねない。

それがファン心理だけに留まればいいが、彼らは家庭の事情もある。特定の人物に声をかけるのは難しいだろう。


だから、と会長は目の前の私を真っ直ぐ見つめた。



「君には、生徒には内緒でお手伝いして欲しいんだよね」


「ど、どうして私なんでしょう?それに、私も、あの、皆さんのファンの1人なんですが…それは大丈夫なんでしょうか…」



今は驚き過ぎて何も思うところは無いが、もう少し経ったら私だって自惚れてしまうのではないだろうか…

それに生徒会の仕事中、先輩方の行動に夢中で仕事にならない、なんてこともあるかもしれない。

いや、ある。絶対ある。悶える自信しかない。



「それは、まあ死ぬ気で仕事に集中してもらうしかないかな。あ!その代わり内申は上げといてもらえるように頼んどくから」


「む、無理です!多分私、皆さんに気を取られてしまって足手まといになると思います…」


ここは、自惚れたまま了承しても良いかもしれないが、その先を考えた時、仕事が出来ない烙印を押されて、嫌われて、さらに内申にも響く、という未来を容易に想像できてしまい、とてもじゃないが頷く事はできなかった。


しかし、そんな私をあざ笑うようにして会長はタブレットをトントンと叩いた。



「断ったら、これ『最推し』とやらの四宮誠に見せてもいいんだよ?」


「そ!そんな…!」


それは非常に困る。7割が四宮先輩で埋め尽くされている投稿の内容は、本来であれば会長の目に止まって良いようなものでもないのだ。あんなくだらない妄想やら願望が今度は本人にまで晒されるなんて…


絶望が顔全体に現れていたのか、会長は私の顔を見てくすりと笑うと更に追い討ちをかけてきた。



「それに、この学校では僕に逆らう事は君だけの問題でもないしね」


それは、暗にこの人に逆らったら私だけでなく家にも影響があることを言っているのだろう。

にこりと笑った会長はいつも通り天使のように綺麗だけれど、今回ばかりは背後に悪魔を背負っているように見えた。



「わ、わかりました…お手伝いさせていただきます…」


「そう、ありがとう助かるよ。あ、そうそう君がどれほど僕たちの事を気にいってくれているかは知っているつもりだけど、誠だけじゃなく誰かに手を出そうものなら…分かるよね?」



笑顔を消し、冷たささえも滲む表情でそう言われてしまえば、ひたすら無言でコクコクと頷くしかなかった。






翌日、ユミちゃんに何があったのかを聞かれたが、昨日の会長の様子を思い出して背中がぶるりと震えた。



「ゆ、ユミちゃん、何があったかは話せないの…でも私しばらくSNSから抜けるね…」



そう言っただけで、ユミちゃんは神妙な顔つきで了承してくれた。よっぽど私の顔色が悪かったのかもしれない。



「分かったよ。何があったかは分からないけど、あんまり思い詰めないでね…」


「ありがとう…」



あなたの大好きな会長様にやられたんだよ、とは言えず私はその日1日顔が白いままだった。



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