魔王からの追求
引き続き四宮先輩視点です。
「で?彼女は何なわけ?」
夏も本番に差し掛かろうとする季節、まだまだカラッとした暑さのためか、エアコンは入れずにいるらしい。
新館の最上階の1番奥の一室は、選ばれし者だけが入れるのだといつしか目の前の魔王が語っていた気がする。
聞いてないんだけど?と言外に含んで笑顔を貼り付けている会長にほとほと困りながらため息をついた。
「だーかーらー、知らないんだって言ってるだろ?」
俺だって知りたいさ、と思いながらも口には出さずに答える。このやり取り放課後になってもう3回目だ。いい加減にしてほしい、と堪らず眉間に皺が寄り始めると、そのやり取りを隣で話を聞いていた副会長が手元にあるタブレットをいじり出した。
「1年C組 坂口柊子、父親は坂口医院の医院長、母親はフラワーアーティストの坂口カオル、幼稚舎から高等部まで慶賛の完全内部生ですね。成績は上から数えた方が早い。中等部から美術部所属で実力はまあまあ、学校生活で特に目立ったところは無く品行方正で真面目だそうです」
会長を睨んでいたのを隣のメガネに向ける。
その人は飄々とした顔でタブレットに目を通していた。
「ちょ、響さん…勘弁してよ…」
げんなりして机に突っ伏すと、彼はきょとんとした顔で会長と俺とを見比べた。
「なんです?調べて欲しかったんじゃないんですか?」
「これだもんな…響さん、プライバシーって知ってる?」
この人は効率重視の社畜野郎なので、ここでの会話は全て生徒会の仕事だと思っている。
響さんは、せっかく調べてあげたのにとブツブツ言いながらまた仕事に取り掛かった。
「おい響を責めるなよ。どうせお前も知りたかったんだろ?」
「うっ」
悠里さんに軽く頭を叩かれてうめく。
確かにこの人の言う通りだ。俺は今日1日彼女の事が気になって頭から離れなかった。黒髪ロングの女子生徒を目で追っては人違いに落胆して、そのせいでいつもは声を掛けてきそうにもない奴らに絡まれて大変うっとうしかったのだ。
そうか、1年なのか…そりゃあ会わないはずだ。
落ち着いた雰囲気の彼女はてっきり同級か3年だと思っていた。
あと、内部生なのに成績が上から数えた方が早いことに感心する。だいたい外部性や特待生が上位を占めるから。努力家なんだな…あとは美術部ってことか、美術室どこにあったっけか…
机に突っ伏したまま、色んな情報を整理して彼女の事を妄想していると悠里さんがコンコンと自分の机を叩いて顔を上げさせられた。
「そんで?そんな情報とっくに分かりきってんだよ。その子のこと好きなの?彼女にすんの?」
この人もプライバシーなんて関係無かったな…と途方に暮れながらも、だんだんとイライラが増している魔王の様子に渋々口を開いた。
「まだ好きかどうかは分かんない。でも気になってるのは確か。」
簡潔に今の自分の気持ちを話したつもりだが、魔王様はお気に召さなかったらしい。めちゃくちゃ不満そうに腕を組んでいる。
「好きか分かんないってお前…あんな顔しといてよく言うよ…」
「え?なんて?」
「なんでもねえよ、この直感バカ」
「なんでそこで罵倒!?」
ブツブツと聞こえない声で言うから聞き返しただけなのに何故かバカ扱いされてしまった。
ほんとこの人は表と裏で顔が全く違う。切り替えが大変だろうと昔聞いた事があるが、この方が世の中渡りやすいんだと黒い顔で言っていたのは何歳の頃だったか。
「はい、うるさいですよ2人とも。今日はただでさえ三嶋くんがお休みで忙しいんですからね。さっさと仕事してください。」
「へーへー」
「すんません…」
▪️二階堂 響 (にかいどう ひびき) 3年
生徒会メンバー 副会長
仕事効率最優先 表裏の無い真っ直ぐな性格