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妖精からの誘い

8/20.題名と本文を編集しました。



テストを目前に控えた放課後というのは随分静かなものだ。基本的に部活は休みになるところばかりで、廊下を歩いても図書室と職員室を行き来している真面目な外部生くらいにしか出会わない。


そんな中、この美術室だけは絵具独特の匂いが充満し、誰も何も話していないにも関わらず異様な熱気に包まれていた。テストも目前だが、コンクールも目前な美術部は部員のほぼ全員が美術室に集まり黙々と自分の作品に打ち込んでいる。


私はと言えば、あと少しのところで完成する大きなヒマワリを目の前にして最後の仕上げに少々手間取っており、何度も修正を重ねていた。


そうこうしている間にも会長が生徒会室で待っているのだと思うと全く身が入らず、結局途中で切り上げて目的地へ向かうことにした。






「柊子さん、」



画材を片付け美術室から出た時、控えめな声で声を掛けられた。振り向けば手をもじもじさせて立っている意外な人物が。




「ヒロくん!珍しいねえ高等部にだなんて!」




1学年下の中等部3年橘宏光、通称ヒロくん。私の従兄弟である。薄い色素で描いたような容姿は控えめに言っても妖精そのもので、兄弟のいない私にとって小さな頃から絶対的な守るべき対象でもあった。


この学園は中等部と高等部に隔たりが無く、互いの生徒の往来が多いのは確かだが、それでも気弱なヒロ君がこんなところにまでやってきた事に驚いた。



「あ、あのね……、柊子さんに確認したい事があって……」


「うん、何かな?」



ヒロくんは、いつもならニコニコと私の目を見て話してくれるのに今日は何だか俯きがちでその麗しい顔を見る事ができない。


私より少しだけ背の高いヒロ君に近づいて顔を覗いてみる、と私が近づいた事に気がつかなかったヒロ君の見開かれた目が見えた。



「わっ!!柊子さん……近いよ」



背を仰け反らせて私から距離を取るヒロ君に心を痛めながら、ごめんね、と思ってもいない言葉を口にする。


ふー、と息を吐いたヒロくんは意を決したように私に向き直った。今度はしっかりと目を見てくれている。



「今度の僕の誕生日会、柊子さん来てくれるのかなあって思って……」


「んぐっ…!」


「柊子さん?どうかした?」


「ううん……気にしないで」




キラキラのエフェクトが付いているように見えた、ヒロ君の控えめだが確実なおねだり顔を間近で見てしまい、目が潰れるかと思ったとは言わないでおこう。




「えーっとね、誕生日会は多分行けないと思うんだ……」


「ん、そっか……分かった。」


「ごめんね、別の日にお祝いさせて欲しいな」



ヒロ君の家、もとい母の実家である橘家は名だたる華道の家元で、母も幼い頃から華道の英才教育を受けて来た。しかし華道だけでは物足りなくなった母は家族の反対を押し切り美大に進み、フラワーアーティストの道を選んだ。更にはその時出会った、当時研修医の父と卒業後すぐに駆け落ち同然に家を出たのだった。


私が産まれるまでは実家とは完全に関係を切っていた母だったが、私が産まれたあと実家と連絡を取り和解に至ったという経緯がある。


今では盆や正月などの長期休暇の際には家族3人で母の実家に訪れるのが恒例行事だし何の確執もないが、パーティーなどの華々しいイベントなどは極力顔を出さないようにしている。母曰く、心にもない事を言う輩がうじゃうじゃと居るような所たがら私に何らかの害意が向けられるのが我慢ならないとの事だ。


私も、高貴なセレブの中に入っていくのは気が引けて、毎回家族以外が参加するようなイベントは断っていた。

ヒロ君には申し訳ないが、今度別でプレゼントを持っていく事にしよう。




悲しげな彼に別れを告げて、生徒会室に向かう廊下を歩きながらボーッと考える。

私もそういうパーティーに憧れが無い訳ではないのだ。ただ、何かされた時最適な対応を取れるのかが心配なだけ。母の顔もしくは祖父母の家名に泥を塗るわけにはいかない。父の実家ではそういったイベントは無かったし、幼い頃から参加する機会が殆ど無かった。せめて、どういうものか分かっていればなあ、とため息を一つ吐いた。




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