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新しい風



新学期になった。クラスの皆さんはさぞ楽しい夏休みだったのだろう、あちらこちらからどこぞの別荘に行っただの、海に行っただのと話が聞こえてくる。前の席のユミちゃんだってグアムに行ってきたらしい。いいな…私も旅行行きたかった。


ちなみにユミちゃんには、朝教室に着いた瞬間にこの前からの怒涛の日々を報告した。あまり広まるといけないからとりあえずユミちゃんにしか言ってない。会長は生徒には秘密だなんだって言ってたけど、そんなの私の精神衛生上よくないんだよ。ふん。


ユミちゃんはそれはそれは驚いて、言葉を無くしていた。でも次の瞬間には顔を青く染めて私の腕をガシッと掴んだ。



「柊ちゃん、この話はぜっっったいに漏らしちゃ駄目だからね…」


「う、うす」


「先輩方にバレたらこの学校から追放どころか、生きていけるかも分かんないよ…」



ユミちゃんの目がマジだ。この場合の先輩とはAグループとBグループの女子の先輩である。彼女たちはタイプは違うものの生徒会に陶酔している人達なので、確かにこんなことがバレようものならどうなるか分からない。


考えないようにしていた現実をユミちゃんのひとことで実感し、私も震える手で彼女の腕を掴んだ。



「ユミちゃん…ずっと友達でいてね…」


「それ死亡フラグだから!言っちゃだめ!」






落ち着きを取り戻したあと、ユミちゃんと今日からの難題である五井君の勉強会について話し合った。


会長は教室で見てねと言っていたが、よくよく考えればそんなのは無理だ。ファンのグループにすぐバレてしまう。そうなったら私は生きていけないだろう。


どこかいい場所はと考えていたところで、ユミちゃんが自習室で行うことを提案してくれた。4人ほどが座れる小部屋が複数あるので勉強中はバレることがまずない。

本来は受験勉強のために設けられている自習室。利用者は3年生ばかりで勉学に忙しいDグループしかいないはずだ。


あとはそれを会長から五井君に伝えてもらおう。

そう思いスマホを取り出して会長に時間と場所をメッセージで送っていると、ユミちゃんがガタガタと私の机を鳴らし出した。



「ちょちょっと待って柊ちゃん、いや坂口柊子」


「え、なに?」


「もしかして悠里様の連絡先知ってるの?」


「あ、まあ、ほら!手伝いしてた時に、ね!」


「……羨ましいいいいいい!!!」



揺らしていた机にそのまま突っ伏したユミちゃんを横目で見ながら、交換したのは無理やりだったけどね、となんとも言えない気持ちで言葉を飲み込んだ。









会長に連絡係のような事をさせて恐縮だったが、正確に伝わったようで時間通りに五井君は自習室にやってきてくれた。

相変わらずチャラチャラとした見た目だが、勉強する気はあるらしく、勉強道具は持参しているみたいだ。



「じゃ、よろしくね坂口さん!」


「あ、うん。こちらこそよろしく。何の教科書持ってきた?」


「数学持ってきた。全く分かんないんだよね」


「分かった、じゃあ今日は数学をしよう」




そんなやり取りのあと始まった勉強会だけど、確かに会長の言っていることは正しかったらしい。基本的なことが全くもって分かって無かったが、物分りが異常に良いらしく、一度教えたことはスラスラと自分で応用して解いている。


この人、授業さえ聞いてればめちゃくちゃ賢いんじゃ…



「坂口さん?終わったよ」


「あ、ああ了解です、じゃあ最後にこっちやってみようか」


「はーい」



駄々をこねる訳でもなく、淡々と私が言う問題に取り組む姿勢はもはや優等生に見える。

ほんとにこれ、私が教える意味があるのかと言いたくなるような雰囲気だ。



1時間ほど続けた勉強会も最後に解いたこの問題で終了だ。この調子でいけば会長が言っていたレベルにまでは余裕そうだ。というより悠々と抜かされそうで私も危ない。



「坂口さん、ありがとね」


「え?あ、ううん私の勉強にもなるし」


「めちゃくちゃ分かりやすかったよ」


「ありがとう、五井君の理解力があったからこそだと思うけどね」



なんだかこの1時間で彼の印象がガラリと変わってしまった。もちろん良い風に。

思っていた程苦痛にはならなさそうだと安堵して、そういえば、と五井君に向き直る。



「なにかあった時の為に連絡先交換しておきたいんだけど良いかな?」


「…え、うん良いよ」


「あ、ごめん!別に嫌だったら良いんだ!今日と同じ時間にここに集合って事にしとこうか!」



軽い気持ちで連絡先の交換を持ち出してしまったが、相手はあの生徒会のメンバーだった。すっかり失念してしまっていた。

少し困惑した表情の五井君に焦って撤回したけれど、彼はそんな私を見てクスりと笑った。


「ううん、ごめん。良いんだ坂口さんだったら。なんか新鮮でさ、ビックリしただけ」


「新鮮?」


「こっちの話だから気にしないで」



元のニコニコした表情になった五井君は鞄の中をゴソゴソと探って、黒のスマホを取り出した。


その後無事に連絡先を交換した私達は、細心の注意を払って自習室から出た。あんなに心配だった勉強会もこうして終わってみれば実に有意義なものに思えた。五井君の頭の良さに刺激され、家に帰ってからの復習方法を頭に巡らせたのだった。


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