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分かっていたつもりでした





今年は、部活と生徒会手伝いとでなんとも忙しい夏休みだった。

秋のコンクールに出す絵はなんとなくこの怒涛の夏休みをテーマにヒマワリにした。

爽やかなイメージが強いヒマワリだけど、その奥のドロドロとした感情とか、眩しい光の裏の深い闇とか、下絵の段階でなんともカオスな絵になってしまうことが確定した。


色を付け出すと、なんだか絵の雰囲気変わったね?と先輩にまで言われた時は苦笑いをするしかなかった。

先生には結構褒められたからコンクールには出展してもらえるかもしれない。


そんな夏休みもあと1週間となった。忙しかった生徒会もなんとかひと段落ついたようで、私の手伝いも今日で終わる予定だ。やっと終わるという安堵と、もう二度とこの人達と関わることは無いのだろうという寂寥感に少しだけ浸った。


いつも通り副会長の隣にある自席について資料を確認しているとトントンと優しく肩を叩かれた。

振り向くと、先ほどまで難しい顔でタブレットを睨んでいた会長がいつもの笑顔でそこにいた。



「ねえねえ坂口さん?ちょっと聞きたいけどいいかな?」


「…なんですか」


「そんな警戒しないで」



会長がしたくもない笑顔をしているときは何かしら厄介なことがあるということだというのを私はこの1ヶ月で学んだのだった。

あからさまに警戒心マックスな私にため息をついて、その人はタブレットをよこした。その頃には会長の笑顔も消えていた。


見ろ、ということなのだろう、大人しくタブレットを受け取り見てみると1人の学生の情報が載っていた。



「1年A組五井隆之介、超が付くほど女好き、いろんな女を取っ替え引っ替え好き放題らしいな。だが意外にも男子生徒ともそれなりに上手くやれている珍しいタイプ」


「えー、と」


「父親が五井正蔵、分かるか?民自党の元幹事長だ。母親は女優の新道みどり」


「あ、はい」


「成績は下の下、どうしようもない阿呆らしいが恐らくこれは敢えてだろう。昔から奴は賢い子供だったからな」


「あ、あの!」


怒涛のように流れる情報に僅か混乱しながら、勇気を出して挙手をすると、はいどうぞ、と発言権がもらえた。


「どどうして五井君の情報を?」


なんとなく会長の言わんとする事が分かってしまうのは慣れというものだろうか。どうせ次期メンバーの五井君のために資料まとめとけ、とかそんなんだろうな。


会長はニヤリと笑ってぐっと顔を近づけてきた。ちょ、美しくて緊張するんでやめてください。




「分かってんだろ?隆之介に勉強、教えて欲しいんだよ」


「……はあ?!」



予想の斜め上をいく会長の発言に美しい顔が近いとかいってわずかに動揺していた気持ちは吹っ飛び、つい大きな声を出してしまった。


近くで集中して資料をまとめていた副会長も私の声で驚いてしまったのか、どうしました、とこちらを見た。



「す、すいません、大きな声だして」


「いえ大丈夫ならいいんですよ」


そう言ってまた作業に戻った副会長に軽くお辞儀していると会長のクスクスという笑い声が聞こえた。


「でっけえ声だな。そんなに驚いたか」


「びっくりしますよ、そりゃ…」



なんで、私が五井君に勉強教えなくちゃいけないの。生徒会メンバーなんて皆んな賢いんだから教える人いるでしょういくらでも。



何がおかしいのか未だにクスクス笑いが治らない会長を睨んでいると、副会長があんまりいじめてやるなよ、と言ってくれた。優しい、二階堂先輩に惚れそう。



「とりあえず、慶賛の生徒会ってのは代々成績良くないとダメなわけ、で、今回は何故か阿呆のフリしてる隆之介の順位を20位以内に上げて欲しい」


「そんなの五井君に言えば勉強してくれるんじゃ…」


「あのね、隆之介が俺らの言うこと聞かないから頼んでんの、あいつ女なら誰でもホイホイ付いてくから坂口さんでも大丈夫!絶対言うこと聞いてくれる!」



とっても良い笑顔の会長の顔を殴りたい気分になった私は悪くないと思うんだ。

いや、良いんだけどさ。

ここにいる皆さんに比べたらどうせ私なんて地味でパッとしない顔立ちですよ。



「生徒会のお手伝いは今日で終わりだからさ、教室で見てやってね。先生と本人には俺から言っておくから


「…はい」



断る権利は私になんて初めから存在してないのだ。

少し卑屈になりながら、ため息をついて私は了承した。



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