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最推しは人それぞれ

どうしても学園ものが書きたくて…



ここは、乙女ゲームの世界なんでしょうか?

いや私はいたって正常で常識を持っています。痛い妄想に囚われている訳でも電波でもありません。


私がそんなことを思ってしまうには訳がある。

今年から通っている高校にはイケメンばかりが所属している生徒会があるのだが、何故か女子はいない。生徒会のメンバーは漏れなくお金持ちや権力者の家庭で、皆んな幼なじみときた。

はい、おかしいよね。ほんと乙女ゲー転生でもしたのかと言いたい。

でも私はトラックに跳ねられたり、突然光に包まれたり、ゲームの「世界を変えたいですか?」とかいう怪しいボタンをクリックしたわけでもないのだ。

ただ、家がちょっとしたお金持ちで私立に通わせてもらってるだけの女子高生なんだ。その証拠に今まで彼らと話したことも認識されたこともないのだから、確実にヒロインでは無い。


今朝もSNSには学校や姉妹校なんかで知り合った友人達の彼らに関する投稿がひっきりなしに流れている。


『やばい、一条王子の登校時間と被った…周りすんごい人だけどお顔を拝見できただけで憂鬱な月曜日乗り切れる…朝からその笑顔眩しいです…!』


『昨日三嶋先輩、駅前のカフェにいたらしい!あそこ時々行くけどお会いしたことないよ!』


『二階堂様に壁ドンされた状態で「今日話していた男は一体誰ですか?」とか嫉妬されながらネチネチ怒られたい…』



それぞれにイイねを付けて気になった投稿にはコメントをする。

私だってお年頃だから、彼らの見た目にときめいたり言動に一喜一憂したりする。それこそテレビの中のアイドルとおんなじだ。ミーハーと言われても構わない。事実だから。




私立第一慶賛高校は、生徒の半数ほどは通学に車で送迎してもらっている。うちは親の方針で電車通学だ。なんでも、大人になって電車にも乗れないのは恥ずかしいらしい。おそらく経験談だろうから大人しく聞いておくことにした。


友人の目撃情報や妄想投稿なんかを見てニヤニヤしながら電車に揺られること20分、高校の最寄り駅のアナウンスが流れた。スマホをカバンにしまって降りる準備をしていると、ふと斜め前に小さな男の子を連れた妊婦さんが立っていることに気がついた。

少し早めの電車だからかいつもより乗客は少ないが、それでも座席は埋まってしまっている。私はいつも空いている駅から乗っているため座れているが、この親子は座れなかったのだろう。いつから立っているのか、もっと早く気づいてあげれば良かったと少し後悔しながら、声を掛けようと腰をあげた。



「あの…」

「あの…」



全く同時に同じく腰を上げた人物がいた。

3人ほど人を挟んだ左側にその人はいて、腰を上げた時にバッチリと目があった。

真っ黒で固そうな髪の毛はツンツンとしている。目元はキリッとしていて狼っぽい野生味を感じる。身長は183センチで程よく付いた筋肉とスラリとしたプロポーションが魅力的。

なんとそこに居たのは私の最推しである、生徒会所属の四宮誠先輩だった。



しばらく言葉が出てこずに呆然と見つめてしまったが、四宮先輩の「ここ良かったら…」という言葉で目が覚めた。

慌てて私もその親子に席を譲ろうとその場に立つと、空気を読んだ座席の乗客が私が空けた席の方に詰めてくれて、無事に親子は座ることができた。


私と先輩へ母親の女性は「親切にありがとうございます」と会釈をしてくれて、まだ話すことが出来ない男の子は降りる際にバイバイと手を振ってくれた。


四宮先輩はあまり笑わないクールな人だけどこの時は表情を少し緩めてバイバイと振り返していた。もちろん私も笑顔で振り返したけど、脳内では普段笑わない人の貴重な笑顔プラスバイバイのフリ付きというギャップ萌えの嵐でどうにかなりそうだった。



は、早く学校でこの事を報告せねば…。

半ば呆然としながらその事だけを頭に巡らせて黙々と歩く。もちろん四宮先輩の姿はない。電車を降りてから、こちらの方を全く見ずにサッサと歩いて行ってしまわれたから。


ああ、少しでも会話できるのでは、と思った私が恥ずかしい…。あの時目が合ったという事実だけで奇跡なのです。欲張りになるつもりはありません。




◾️四宮 誠 (しのみや まこと) 2年

生徒会メンバー 書記を担当

無口でクールな性格

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