戦う資格
短いとですソーリー
道の真ん中に出来上がった窪みの向こう、建物の陰からミノーとルヨは姿を現わす。
ウェイナリアはこのときになってようやく目を開けた。
月明かりがあろうと薄暗い中、変装のため染めた二人の白い髪はよく目立った。
「何をしているのかしら?貴女達のすべき事は無いと言った筈ですが」
今更ウェイナリアに穏やかさは無い。
戦いの後で気が立っているのか、それともここに二人居ないはずの二人を相手に真剣なのか、定かではない。
それでも、薄暗い月明かりの下ですら射抜くような眼光がミノーを捉えているのが分かった。
問いかけに、ミノーは口を開く。
しかし、出かかった言葉は直前で飲み込まれた。
「……そうね、その通りですよ」
それでもウェイナリアには聞こえていた。
確かに領軍では対処出来ない事案だった。
元の話では、その様な事態はミノーが実力で対処するとの事だった。
だが、それを言えるだろうか?
自らの身内に対し自ら手を下したウェイナリアに対し、『人の仕事を取るな』と。
物の道理は自分には無い。ウェイナリアの言う『その通り』とはこの事だ。
音の魔法使いは聞き取る。それは心の音さえも。
ミノーが疑問に思う、ウェイナリアのありとあらゆるものを見透かす様な仕草はこれだ。
それでも、理解できない事はある。
「何故ここに居るのかしら?」
「……音が消えました。ウェイナリアさんの使う魔法ですよね」
「……そう」
ウェイナリアはミノーの後ろに控えるルヨに目を向ける。成る程ミノーは、ルヨの優れた聴覚を逆に使ったのだ。
つまるところ……。
「でしたらもう、貴女は手を引きなさい」
「……え」
ウェイナリアは以降、ミノーと協力して事に当たる事はない。そして、ミノーが事に関わる事も許さない。
初回である今回ではっきりした。
ウェイナリアは内心にもそうそう下品な言葉は用いない。しかし、その心中を文章にして表すならばこうだ。
『この餓鬼、全部分かってて来やがった』
ミノーに対し、それだけの怒りをすら覚えていた。
はっきり本人の口から聞いた。『音が消えたから来た』と。何故音が消えたらウェイナリアについて来るのか……それはウェイナリアが音を消した理由を分かっていなければ判断出来よう筈も無い。
つまるところミノーは、ミノーを汚れ仕事から遠ざけようとしたウェイナリアの意志を『そんなの知らん』とばかりに無下にした事になる。
そこまではまだ私情に収まる範囲だろう。だがミノーは勝手に行動を起こして手を出す気でいたのだ。
今回の事はウェイナリアにも非がないとは言えない。少々言葉は足りなかっただろう。
それでもミノーは足りない言葉を補う事はできるのに、その言葉を聞き入れはしなかった。
それでは信頼関係も協力関係もあったものではない。それなのに力だけはあるのだ。
事は重要な局面を迎えつつある。味方でもない、危険性を持つ人物を置いておく道理はない。
ウェイナリアの、領主としての判断だ。
しかしレフテオエルの総てを背負う領主としては当然の判断に、ミノーは納得しない。できない。
「ちょっと待ってください、なんでーー」
「ミノーちゃん!」
疑問をぶつける為、ウェイナリアに詰め寄ろうとするミノー。
予期せぬ襲撃だった。それはウェイナリアすらも。
三人の内、唯一反応したルヨが暴風を纏ってミノーを庇った。
やがてレフテオエルの夜は白け、朝を迎える。
……はあ〜油断したねえ。
まあ、知らないからそうなってんだろうけどさ。見くびりすぎだよ、魔法を。
超常という現実を無限的な有限から引き寄せる力……それが人の死くらいでさ、止まるわけないじゃん?
ま、仕方ないかあ。あの空に魔法が残ってればそれも周知の事実だったりしたかもだけど、この空はまだまだ未熟だよねえ。
んん〜……空が途切れる前に来れるかしら、あいつ……。




