大領地の領主
ウェイナリアが話を聞くと見るや、ミノーは共通の敵について話した。
ブルーニカであった事、ベンソンとライが依頼を受けて戦争屋を追っている事を、話せる範囲で話した。
ミノーとベンソンがブルーニカで相対した戦争屋の事、依頼を引き継いだライの事を。
「あたし達の事情は大体こんな感じですけど……」
自身やライとルヨの魔人としての能力、依頼の詳細などを伏せながらも説明をした所で、ウェイナリアに問う。
「まず、彼らは何者ですか?
接触があった事は分かっています。知っている事を教えてください」
「……良いでしょう。ですが、この場にてお教えはできませんわ」
ならばどうするのかと、ミノーはウェイナリアの言葉を待つ。
「後程使者を送ります。正式に会談の場を設け、こちらから説明させていただきますわ」
説明を貰えるならば否やは無い。
ミノーもその場で了承し、ルヨ共々その場を辞した。
演習場の片隅にはウェイナリアとミオレフだけが残った。
「母上……」
「ミオレフ、貴方でしょう?わたくしと連中の接触があった事を彼女に伝えたのは」
ウェイナリアの言う通りだ。
レフテオエルと怪しい男達の接触があった事。ミノーがミオレフから出会った日の夜に聞き出したものである。
「ごめんなさい……」
利用されていた。その事実を奥歯に噛み締め、ミオレフは頭を下げた。
ミオレフから見、ウェイナリアはミノーに追いつめられている様にも見えた。
自分の所為でレフテオエルの不利に働いたのでは無いかと、二人の会話の最中も気が気でなかった。
「良いのよ。ミオレフ」
しかしそんなミオレフにかけられた母の言葉は、優しげだった。
「貴方はこのレフテオエル領をどう思うかしら?
大きな領だと思うでしょうか?名の割に小さいと思うでしょうか?」
ミオレフはレフテオエルから出た事は殆ど無い。しかし幼い頃、大公領の都を見たことはあった。
そんな朧げな記憶と比べても、ミオレフから見て、レフテオエルは遜色ない。
いや、物の多さでは勝っているのでは無いだろうか。
「貴方の考えがそのどちらかであろうと、レフテオエルは貴方が思っているよりも大きいわ」
しかしミオレフが自らの考えを口に出すより早く、ウェイナリアはそう断言して見せた。
「人も物も金も、あらゆる力がここには集結しています。
いえ、ここだけではありません。レフテオエルの名に人々が寄せる期待が、信頼が、その力を他領ーー他国にすら及ばせているのですよ。
例え【黒鉄】が我々の敵になろうとも、レフテオエルの敗北はありません」
「しかし母上、彼女は魔獣にすら勝てる冒険者です。それに魔剣も……」
「そうね、もしもあの娘が狂気に身を任せ、レフテオエルを灰燼に帰すつもりならばこちらの勝ちは難しいわ」
それは無い。短い付き合いだが、初めて会った時から強大な力を持つ一方で、ミノーは優しかった。
自らの狼藉を見逃し、本気で行いを正してくれた。
「それは……」
「あの娘はその様な事をしないと貴方が思うならば、それが貴方の思うあの娘の限界です」
「……」
「レフテオエルが個人に負ける事はありません。
この領地は巨大です。その全貌は領主であるわたくしですら、既に把握する事は不可能。
そのために部下には領主に匹敵する権限を与え、裏ギルドとさえ手を組んでレフテオエルを動かしているのです。
レフテオエルを一人で止める事は出来ません……敵にも、味方にも」
「僕に出来る事は……」
「ありません」
「……」
「しかし、貴方は知っておくべきです。
貴方にその力が無いから何も出来ない事を。そして力があったところで、レフテオエルでは一人で何かが出来るわけでは無いと言う事を」
そう言ってウェイナリアは立ち上がった。
「いずれは貴方がレフテオエルの領主となるのです。一人で何かを成そうとは努々思わぬ事ですよ」
ウェイナリアの言に、ミオレフは俯きかけていた顔を上げた。
その顔は驚き……というよりは愕然と言った方が良い表情に染まっていた。
「は、母上!しかし兄上は……!」
「……リガティの事は忘れなさい」
そう言ってウェイナリアは、思わず立ち上がったミオレフに背を向けて歩み始める。
「あの子は既に敵です」
立ち尽くすミオレフをそのままに、ウェイナリアは去って行った。
「ミノーちゃん」
「んー?」
「ウェイナリアさんの事わざと怒らせたの?」
「いや、まさか殺しにくるほどとは思ってなかったよ」
「……あんまり危ない事しないでよ。
お兄ちゃんだってミノーちゃんがそういう事するのが嫌だから……」
「ごめんよルヨちゃん。
でももう後戻りはしないし、できない」
「……」
「ルヨちゃん、怖いなら手伝わなくても良いんだよ?」
「それは……ダメ」
「あたしももう手段を選ぶ気は無いよ。
いや、選びはするか……けど容赦はしない。
これからやる事に関わるべきじゃあ無いと思うけど」
「そんなこと……」
「人を殺すと言っても?」
「……殺さないよ。
ミノーちゃん、みんなのために死のうとしてるもん」
「……」
「ボクだって大丈夫だよ。
またみんなで笑えるならボクだって戦える」
「……そっか。ありがとうルヨちゃん」




