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空の魔法使い  作者: テルヒコ
虚空の魔人
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嫌いな自分

 まだ湾内にあるその船は小さな波を容易くかき分けながら風に帆を膨らませては進む。

 出航した船は程なくして湾の出口に差し掛かる。

 レフテオエルの三日月型の湾の出口を前にして第三港の桟橋は既に遠く、人の姿も判別はつかない。

 甲板では小さく揺れる船に合わせ、小さな獣人の少年がゆらゆらと揺れていた。


「まだ体が良くは動かんのだろう。部屋に行って休んだらどうだ?」


 ベンソンがそう言うと、ライは曖昧に笑う。

 彼は揺れに合わせてゆらゆらとしていたのではなく、揺られてふらふらとしていただけだった。


「海をこんなに近くで見るのは初めてなので。それに体の方も順調に回復していますよ」


 ライの体はミノーとの戦闘から数日が経過した今尚、完全には回復していなかった。

 ライとルヨの体はミノーとはそれぞれ能力こそ違えど、性質は非常に近い。

 ライは雷を発生させたり、その活動範囲を操作する事が出来る。しかし本来ならば雷は何と無しに発生などしないし、流れやすい方に雷は流れるものだ。

 魔人は力の行使によってその法則を捻じ曲げる。それが自らのキャパシティを超えた時、魔法は剥げる。

 魔法が剥がれれば回復するまで魔法が使えず、体もまた機能を停止する。

 ライはミノーの魔法に対抗するために電気の流れやすい真空中や金属を無視して雷を飛ばしたり、電池に雷を奪われるなりしてかなりの魔法を剥がされていた。

 そして彼の体は、ミノーのように一晩寝たら全回復などというチートは持って居なかった。


「もう三日程あれば元に戻ると思います」

「そうか。しかし彼奴(ミノー)の前では随分と元気そうにしていたな」


 この愛らしい見かけでは全く想像もつかないが、ライも一八歳の男子なのだ。ミノーに弱った所など見せまいという気遣いと意地位はあった。

 因みに比は六対四である。

 しかし、ベンソンの言にライは肩を竦める。


「ベンソンさん程じゃ無いですよ。ミノーを見つけるや否や杖どころか添木まで外しちゃって……」


 ベンソンも大概だった。

 実際、ミノーとの戦闘では結構やらかしていた。

 鋼獣相手の時ですら終わった後にミノーを担いで街に戻る位の事が出来たベンソンが、殆ど動けなくなる程にやらかしたのだ。

 一応治癒魔法師にはかかったが、最低限治さねばならぬ部分以外は治していない。

 依頼の目的地までは勝手に治るに任せるつもりで添木や杖で動いていたのだが、やはり気遣いと意地で全部外していた。

 因みに比は五対五だ。


「仕方あるまい……あそこで如何にも怪我人といった格好で居ったなら、今度は空を飛んででも付いて来かねん……」


 実際無い話ではないので困る。

 しかしライとベンソン、案外通ずる所はあるようだ。

 現に苦笑いするライもベンソンの言に同感らしい。


「それだけ、愛されているんでしょう」


 ベンソンはふんと鼻を鳴らし、皮肉げに笑って見せる。


「儂は嫌いだと言われたがな」

「それは……」


 そう言ってライは手帳の魔剣を開いてみる。


「ああ、彼女の故郷には『嫌よ嫌よも好きの内』という言葉があるみたいです」

「なんだそれは」

「『押すな押すなは押せの意味』というのもありますね」

「滅茶苦茶ではないか……」


 ベンソンはミノーと話しているような困惑を覚える。

 それも案外と間違っていなかったりもするのだが。

 その魔剣はミノーの記憶の限りが詰まっており、ライはそれを自由に引き出せる。

 ライが言っている事は延いてはミノーの言に等しいのだ。ベンソンの困惑はある意味正しい。


「ええ、流石に僕にも意味不明です」


 ライはそう言うが、その表情は決して悪いものでは無かった。


「ミノーは『心とは記憶』と、そう言いました。彼女の言うところ、魔剣(これ)は彼女の心です」

「……」

「しかしその心を覗いて見ても、彼女の考えは分からない。

それは何故か……答えは簡単なもので、記憶だけが心では無いからです。

彼女は……まだ僕達に本当に心を開いた訳ではありません」

「だがそれでも、彼奴はそれをお前に託した。

心を得られんまでも、信頼は得られたのだろう。お前はそれ以上を望むのか?」

「はい」


 今度は真っ直ぐにベンソンを見て言って見せる。

 ベンソンもまたライを真っ直ぐに見、試すような視線を送る。

 幼い見かけにそぐわない空気を纏うライは、ベンソンから見ても年相応以上の内面を持っていた。


「でも今は、彼女が寄せてくれた信頼に応える時です」

「当然だ」


 依頼を無事に達成し、戻る。

 その為にミノーは魔剣を明け渡したのだ。




「見えなくなっちゃったね」


 第三港の桟橋から二人を見送ったルヨは横に居るであろうミノーに言ちる。


「なんかライ君もマスターもふらふらしてるなあ……大丈夫かしら……」


 ミノーはと言えばその横で、小さくなった背丈より大きな四重レンズを展開し、遥か遠方の船の甲板を覗き見していた。


「……今から空飛べば間に合うかな」

「駄目だからね!?」


 ルヨは横から抱きつく様に取り押える。


「冗談だよ?」


 等と言って実際にやりそうだから困る。現に……。


「でもやっぱりさ、あたしが行った方良くない?」


 魔剣を渡して船が出ても尚これだ。最早往生際云々のレベルの話ですらない。


「ルヨちゃんだってさ、ライ君と離れるのは嫌じゃない?」

「お兄ちゃんがやりたいって言ったんだもん」

「でもそれはライ君の話でしょ」

「……お兄ちゃんね、小さい頃からずっとボクのことばっかりで、わがままとか自分のこと言ったこと無いの。

でもミノーちゃんと会ってから、お兄ちゃん変わったよ。街に行きたいって言ったのも、お兄ちゃんが言い出したの」


(そう言えばまだ言葉通じなかったとき、ライ君とエルフのおじいさんが何やら長々と話してたっけ)


「だからちょっと寂しいけどお兄ちゃんがやりたいって言ったことだから、ボクはお兄ちゃんがやりたいようにさせてあげたいの」

「……」


 ルヨの思いの程を聞いたミノーは小さくなった口をへの字に曲げ、心から不機嫌な顔をしていた。


「どうしたの?」

「ん?いや……うーん、別に」


(はあ……いつもこうだよ)


 ミノーの心は確かに記憶だけで出来ている訳では無い。

 ライはそれに気が付いているが、彼が彼女の心を得ようと言うならばそれは非常に難しいものとなるだろう。

 何せミノーは自らの心の在り処も分かっていないのだから。


(いつだってあたし以外。あたし以外はみんな立派で大人なんだから)


 今ミノーが気を悪くしているのは何故か。

 嫉妬と自己嫌悪だろう。

 しかしミノーは気が付けて居ない。

 ただただ、事実のみを見てやきもきとするだけだった。


「まったく、これだからみんな嫌いだよ……」






















 ……とか言っちゃって?

 んっはははは!マジバカ本当バカじゃないの?あのバカ!んははははは!

 一体どう生きて来たらああなっちゃう訳?

 まあ、あたしには意味無いけどね。そんな事。

 でも記憶は心、ね……それならじきにここにも来れるかな。無駄に頭だけは回るんだから、そこだけは褒めたげよっか。ここまで来たらさ。

 てか、その為にアレの体を千切って無理矢理こっちに連れて来たんだから。

 どうせ回す頭ならもっと回せよ。バカなりに。

 これはあいつらにも、もっと頑張って貰わなきゃかな?ルール無用で勝手にあたしを呼び出す迷惑な奴らと思ってたけど、悪い事は悪い事だけじゃないって所か。うん。まあ、手出しはしないから何も変わんないけどさ。

 しかししかし、早く来て要件を済まして貰わないと〜……

















世界、吹っ飛んじゃうよ?

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