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空の魔法使い  作者: テルヒコ
城塞の陰謀
14/61

臆病故に立ち向かう

 直剣を持った男が斬りかかる。

 ベンソンは縦に振られた剣を半身でするりと躱し、その動きの流れで回転を付け、剣の腹で男の側頭部を殴る。


「下手くそめが、隙しか無いではないか」


 男が崩れ落ちると同時、ダガーを両手に持った別の男がベンソンに斬りかかる。が、双剣で受け止められたーーかと思いきや、逆に両手の武器を弾き飛ばされる。

 体勢を崩した男が動揺する間も無く、腹に蹴りが入る。

 数メートル吹き飛んだ男は動かなかった。


「地がなっとらん。小手先と技を一緒にしとる甘ったれが」


 辛辣なダメ出しと共にベンソンは向かってくる敵を千切っては投げる。殺しもせずに、ベンソンの周囲には既に何人も転がされていた。


チュイン!


 唐突に飛来した物体が双剣と衝突し、金属音と共に軌道が逸れる。


「最初のもそうだが、脳みそが足りとらんな。的当て遊びなら童でも出来るというに」


 ベンソンの周囲の味方がのされた事で同士討ちを気にしなくなった弓士が矢を射るが、やはり辛辣なダメ出しと共に弾かれてしまった。


 実際、矢を弾く剣士など反則も良いところだ。頭を使うも何も、普通当てさえすればそれで終わりのはずなのだが……。

 先の小娘には矢が届きすらせず、この男には脳みそが足りんと酷評される始末。


 理不尽に弓士達が泣きたい思いでいると、突然ベンソンが何かを投げつけてきた。

 弓士達の足元に転がったそれは、ベンソンがミノーから事前に受け取っていた例のアレだった。

 後衛は勢い良く噴き出した煙に呑まれ、意識を失った。


「ふむ、便利なものだな。」


 前衛は歯が立たず、後方支援すら無力化されてしまい、ベンソンに充てられた者は戸惑い、やや遠巻きに見つめた。

 そんな中で、ベンソンはミノーの事を思った。


(これだけのものだ。あの娘もあの魔法書の本当の力は儂にすら伏せておきたかったのやも知れんな)


 確かに、服なり日用品を喚び出せる魔法書それだけでも有用だ。だがそれは強力な武器をも喚び出せる。こうして前衛を無視して後方を無力化できる武器。しかも殺傷性無しだ。使い道はあろうと、ベンソンは一人納得する。


 逆に先程扉を吹き飛ばした球……あれは初見ならば自分でも恐らく死ぬだろうと、ベンソンはあたりをつける。扉を吹っ飛ばす様な爆発に耐えられる人間がいるものかと考えれば、当然だった。


(そして真に恐るべきは……やはりあの魔法書は異質だ)


 ある時突然適正者の前に姿を現し、その者に力を与えるという魔法書。その在りようは様々。手帳の様な形でも何らおかしくはない。

 問題はミノーがその魔法書の力をどこまで解放しているのかだった。

 恐らくあの娘は切り札の他に、まだ奥の手を秘めている。その中には目の前の屑共の居場所を突き止めた魔法も含まれているのかもしれない。


 あれで中々に慎重な性格だというのはベンソンも知るところだった。

 過ぎたる力が必ずしも良い結末をもたらすものでは無い。それを分かって隠し通そうとしたのかもしれないと、ベンソンも理解しようとしていた。


(……まあ、悪気あって何かをしでかすという事も無かろう。それなら戻ってから直接聞いても……!)


 瞬間、ベンソンは異変を察知する。幾多の戦場を経験した彼は、いつしか空気の流れか、人が生み出す圧力か、所謂第六感的な勘が働くようになった。

 今、彼が感じたのは……。


「魔道士……!それも五人とは」


 いよいよ敵も奥の手を繰り出した。魔道士が五人、ミノーと相対していた。


 ベンソンは何かとミノーの事は評価している。一見は年端も行かぬ小娘だが、行動には熟考が伴う。しかしその性格は不遜。故に慎重になり過ぎる事も無い。勘も良いのだろう。結果を見据えた行動を選ぶ。

 そしてそれは戦いに於いても重要な要素だとベンソンは考える。勿論経験も体力も足りていないが、少なくともその辺に転がってる脳足りん共に比べたら魔法が使えるだけマシだろうと考えていた。


 だが、今その相手はミノーと同じ魔法使い。しかも五人。

 連中がどこから湧いて出たかは置いておくとして、これは流石に部が悪かろうとベンソンは見立てる。

 ベンソンは直ちにミノーの加勢に向かおうとする。だが……。


「やってくれたな、元超級冒険者……いや、【嵐獣狩り】と言った方が良いか」


「邪魔だ」


 問いかけをバッサリ切り捨てたベンソンは間も無く男に斬りかかる。だがその一撃は男のガントレットにより、今日初めて受け止められた。


「……」


 ベンソンは面白く無さそうに一度引く。

 どうやらそれなりに出来る相手らしい。立ちはだかった男は余裕の表情だった。


「全く、その軽そうな双剣でどうすればそんな重い一撃が出せるのか。超級冒険者はやはり化け物か」


 一撃が軽いのは鍛錬が足りんのだろうと、ベンソンは内心で吐き捨てる。

 実際、目の前の屑共の鍛錬事情などはどうでも良い。それよりも……。


「あの小娘もそうだ。あんな出鱈目な魔道士をギルドが抱えているとはな。

貴様は有名だから良い……あれは何者だ?」


 やはり気になるだろう。見れば分かる、ミノーの力は常識外れ……ある種の規格外だ。


 それは置いておくとして、ベンソンは……。


「気に入らんな」


「は?」


「そんな事は儂が知りたい」


 知りたいが、本人から聞いた所で意味は無い。


「ふん、敵に話す事などは無いか?」


「己の眼で見極めるという事を知らん様だな若造が」


 それをこの男は上辺の答えを得んとする。その答えで得られる正解などその場限りのものでしかない。事とその理由を人は自分で知らねばならない。


「自分で得ぬ答えなど何程の役にも立たん。

そこで楽をしようなど、道を踏み外した屑らしい考えだ」


 これがベンソンの考え方だった。

 しかしその一言を境に、男の空気が剣呑なものに変わる。


「……ならば本人から聞くとしよう」


 男が低い姿勢で構えた。


「自分が何者かってねえ……そう言うお兄さんは説明できますか?」


 しかし、ベンソンに相対した所で背後から声が掛かった。


◇◇◇


  嘘だろうと、彼はその声がした現実を受け入れられないでいた。


 背後から聞こえた声に聞き覚えなど無い。その短い波長の、それでいて力みのない音は女のもの。

 味方に女は居ないでは無い。だが声はその誰のものでも無い。当然目の前の双剣使いでもない。その背理から導き出される声の主は……。


「自分が何者かってねえ……そう言う兄さんは説明できますか?」


  艶めく長髪が、一重瞼の下から覗く鋭い瞳が、黒い光を放っていた。

 自らが零した疑問。その少女が何者か。それを口にしたのは数秒前。その少女はその十数秒前に味方の魔道士五人と相対していたはず。


「答えに困る?それはあたしもなんだよね」


 だがそれは目の前に居る。

 嘘だろうと、男はもう一度現実を疑う。

 男が少女から視線を奥に移すと、既に地に伏した味方の魔道士五人全員が目に入った。


「あたしあんまり個性は無いんだよね。昔お友達のマユちゃんにはオーラが無いとか言われたしさ」


  魔道士五人を瞬殺する者が無個性なものか。説明できぬなら代弁してやると、男は声を荒げる。


「化け物め……何をした!」


 男がそう吐き捨てると、ミノーは少々驚いた様に眉を上げる。


「ところでマスター、この偉そうな人ってもしかして組織の幹部的な人じゃないですか?」


 無慈悲にもミノーは男をスルーしては、その向こうに居るベンソンに声をかける。


「偉そうなのはお前も大概だがなミノー。だが多分にそうであろうな」


「じゃあ捕まえちゃいましょう……って、え、偉そうですか?あたし!?」


 化け物呼ばわりされた時よりも驚いた顔でリアクションをしていた。


「自覚しておらんかったのか……」


  益体も無い会話が始まる。男からすれば、ただでさえ部下が伸されて怒りを抑えて出てきたのにこの仕打ち。面白くはないだろう。


「貴ッ様ら……!」


 青筋立てて震える位には。


◇◇◇


 その匂いを先に嗅ぎつけたのはベンソンだ。空気の読める力の延長。それが反応した。


「何処までも人を虚仮にする貴様らには誠意というものを教えてやらねばならんな」


「何が誠意だ。行動が伴わんではないか」


「あたしの故郷にはインギン無礼って言葉がありますよ」


 口上には二人分の口撃が返って来た。

 慇懃無礼とは意味が分かっても漢字では書けないミノーだった。


「ふん、まあ精々足掻いて見せろ」


 そう言うが早いか、男から光が漏れだす。青く、液体の様な不定形の形をとったそれは床に広がり、部屋の全体に浸透した。


 未だこの世界の常識に明るいとは言えないミノーからすれば「魔法かな?」程度で済んだが、ベンソンからすれば……。


「馬鹿な……」


 只事では無さそうだった。それを見てミノーも驚いたフリをしておいた。


「嘘でしょ……(迫真の演技)」


 やがてその魔法は効果を発揮する。

 ミノーが昏睡させ、ベンソンが伸した連中が意識を取り戻し始めた。そこには五人の魔道士も含まれている。


「上位の治癒魔法だと?」


「仕切り直しだな。まあ、其方の手の内は見せて貰ったがな」


 二人の様子を見て気を良くしたのだろう。男は得意げである。


「私は後ろから観戦するとしよう。化け物も化け物狩りも……いつまで保つか見ものだ」


「マスター、やっぱ偉そうですよこの人。あたしなんて可愛いもんでしょう?」


 言ってる間にも二人の間は人垣で遮られる。

 二回戦とは、ミノーも内心では流石に面倒臭い。いや考えれば面倒臭いどころの話ではない。この調子では三回戦も四回戦もあり得る。


 そうなれば流石に拙い。既にこちらの手の内は割れている。だんだんと通用しなくなる筈だ。

 そして何より、魔法の力も無限ではない。


 垣間見えた未来。このままではどうにもならない。


(いや、本気ならなんとでもなる……けど……)


 本気を出せば自分の力の、表向きの設定に矛盾が生じる。

 人垣の向こうには本当の自分を見せたくない人が居るのだ。だがその時、ミノーの頭にベンソンの言葉が蘇る。


『相手が殺しに来るならば殺さねばならぬ事もある。でなければ殺されるのはこちらだぞ』


 それは……それだけは……本当に取り返しのつかない事になると、ミノーは決心をつけた。


「マスター!」


人垣を飛び越しベンソンに呼びかける。


「なんだ!」


 ベンソンも返答する。


「正直に言うと!あたし本気出したく無いです!」


「……」


 別に面倒だから本気を出したくないとかそんな事では無い。本気の魔法はそう、とても痛いのだ。それに……。


「マスターはあたしに本気を出させたいんだと思います!でも!あたしが本気を出したらマスターはどうしますか!」


「何?」


「あたしがおかしいのは知っています!それをギルドに置いてくれているマスターには感謝してるつもりです!」


「……」


「あたしは!ここに居たいです!

マスターも、アネゴも、コノンさんも、ライくんとルヨちゃんも!一緒に居たいです!

だから!それを壊そうとする奴が許せなくてここに来ました!」


「ああ……そうか」


「でも!それを守る為にあたしが化け物になったら!」


「分かった」


「マスターは!あたしを……!」


「もういい!分かった!化け物だろうがなんだろうが、うちで面倒見てやる!」


「……」


「だがなミノー!儂はこの手で化け物を仕留めた事がある!

しかしそいつはな!お前の様に人を殺す事を躊躇ったりしなかった!それに!

そんな風に涙を流したりはしなかった!」


「……!」


「お前は少しばかり魔法が得意なだけのただの小娘だ!

餓鬼ならな!大人にもう少し頼って見せろ!それは信頼というものだ!」


「はは……もう子供って歳でも……うーん、こんなザマではおんなじかな」


 ミノー……いや、美濃澄という人間は臆病だった。正直、人と関わる事一つ恐ろしくもある。


 無論、孤独も怖い。この世を一人で生きれる事など無いと、頭では分かっていた。だから、表面上の人格は臆病な本性とは裏腹にフレンドリーで人も話し易い様なペルソナになった。だが、最後の最後で人を信用する勇気は持てなかった。


 決して進展しない他者との距離。最早怯懦と言って良かった。そして誰かが言った。停滞は後退と同義であると。 気が付けば一人だった。


 やがてミノーはこの世にやって来た。そして、彼女は何も変わっていない。


ずびびーっ!


 汚い音を立ててミノーは鼻をかんだ。魔法で作ったチリ紙はその辺にポイ捨てする。


「じゃあ、もうマスターが働く事は無いですよ」


 だが、これから先も変わらないとは限らない。

 黒い瞳は更に鋭い光を放った。

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