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棺の皇国  作者: 天海りく
終天崩落
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 リリーはやっと松葉杖なしで歩けるようになって、身軽な体に心も軽くなった気分だった。腹の傷も痛みは和らいで少しは楽になった。これなら皇都への帰還もそう苦痛にはならないはずだ。

「あとは、演習ができるようになったら完璧ね」

「無理は、よくない」

 軍議に向かう中で、バルドが窘めてくる。

「さすがにまだ派手に動かないわよ。今日辺り、皇都から連絡くるんでしょ。もうそろそろ帰らなきゃ、まずいわよね」

 皇都に皇主不在が長引くのはあまりよくないことだ。帰らないわけにもいかない。

「帰還あるのみ」

 バルドもそうなるはずだとうなずく。

 だが、皇都より取り急いでやってきた使者が持ってきた報告は、誰も予想し得ないことだった。

「皇家同士の戦が終わって、新しい戦が始まったってこと……?」

 ベーケ伯爵の急死、ディックハウト皇主の崩御、そうして皇家廃絶を望む新たな反乱軍の蜂起。

 みっつの情報が一度にもたらされて、議場は騒然となっていた.

リリーは状況を必死にかみ砕いて、側にいるバルドの顔を見上げる。

「……戦であることにかわりなし。即時、情報収拾にあたるべし」

 戸惑いなどまったく顔に出さずに、バルドが冷静に指示を出して一同はうなずく。正確な状況が分からない限りは、身動きが取れないのはどんな戦でも変わらない。

 将であるバルドが淡々と軍議を進めていくのに、動揺していた者達も少しずつ落ち着きを取り戻していく。

 ただ、未曾有の事態に対する不安や困惑が消え去ったわけではない。

(これが最後の戦になるんだわ。この国も本当に終わる)

 リリーはバルドの足りない言葉の補完をして軍議の補佐をしながら、自分の心臓の鼓動に耳を澄ませる。

 永遠に続くとも思われた千年の皇国を築いた皇祖は、まだ鼓動を打ち続けている。この心臓が止まる瞬間と、全ての終わりは同時になるのかもしれない。

 新たな時代の夜明けは間近。

 そして、皇国が永遠に明けない夜の中で眠りにつくのも、もう間もなくだった。


【第二部了】


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