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愛の狩人 その名は焼智~プロットづくりに役立つフローチャート思考法~

さてさて、おなじみのKO林少年、すやすやと安眠していたところを真夜中に目を覚ましてしまったのだが、これには理由がある。何しろ夜中だというのに、彼の寝室に侵入し、あまつさえその体をなで回した不届き者がいるのだ。

そして今、その侵入者と対峙しているのだが……彼が凍り付いたように声を失っているのは、侵入者がむしゃぶりつきたくなるような巨乳を揺らす金髪美人だからではない。頬骨も華奢に、確かに女性化しているようだが、それは、あまりによく知る人物の顔だったのである。

「ハーイ、ヤケチーデ~ス」

「焼智先生、何やってるんですか」

「KO林くんが~、キョニューが好きだと聞いて~、TSしてみまシ~タ」

「はあ、マジでなんでもアリっすね、先生は」

戸惑うKO林少年の隣に、ヤケチーがするりと体をすり寄せる。そして、大きな胸を彼の腕にゆったりと押し付けた。

「ヘイ、ボーイ、お姉さんがイイコトおしえてあげまーす」

「何を教える気ですか? まさか、エッチなことじゃないですよね?」

「それはもちろん……」

「先生、知ってますか? ボクみたいな未成年に手を出すと、それだけで刑事罰になるんですよ?」

「……」

「まさか、エッチなことをしようとしていたんですか?」

「まままままさか! そんなわけがないだろう!」

「へえ、じゃあ何をしに来たんです?」

「プ……プロットを書く上で大事なコツを君に伝授しようと思ってね!」

「わざわざ巨乳の女性になる必要は?」

「それは……ほ、ほら、合理性という奴だよ。人にものを教えるには、美人教師が一番効率が良いのだよ。何しろ健全な男子であれば巨乳のお姉さんが目の前にいる、これだけで目が冴えて授業内容がすっきりと頭に入るものだろう?」

「詭弁ですね」

「う」

「まあいいです。ボクも早く終わらせてねむりたいんで、さっさと始めてください」

「よーし、よく聞きたまえ」


アナターは、ノベールを書くときにplotをつくりマースかー?


「そのうざい喋り方やめて」


はい。

小説を書く身であれば一度くらいはプロットを作る、もしくは作るのを試してみたことがあるだろう。

ところが、このうちの実に多くがプロットとしての機能にたどり着かぬものであると断言しておこう。

ときにはあらすじであったり、ときには進行表であったり、またあるときには単なる執筆メモであったりと、物語を滞りなく進めるための『設計図』としては今一歩届かぬものが多いのだ。

その理由を紐解いてゆこう。


「ドゥーユーアンダスタァン?」

「はあ、わかりましたけど、その喋り方はやめてくださいね。あと、上着を脱ごうとするのも」

「ちっ」

「というか、プロットなんてどこかに提出するんでもない限り、好きに書けばいいものなんじゃないんですか?」

「もちろん、プロットの書式に決まりなどない。だが、それをしてあえて言おう、プロット初心者は『フローチャート』で練習しろと!」

「フローチャートって、あれですよね、情報を書いた箱を矢印でつなげるやつ」

「そう! しかも仕事に使われるような固いものではなく、雑誌にお遊び心理テスト的に載っている『あなたは朝ごはんを食べましたか、イエス、ノー』みたいな軽量なものが良いのだよ!」

「ええ? それじゃあ物語が二股に別れてしまうじゃないですか」

「何を言ってるんだね、KO林くん、二股どころか、選択肢は無限にある、それが人生というものだよ」

「待ってください、それじゃあ物語はゴールにたどり着けませんよね? 余計に迷走するんじゃあ……」

「何をいうかね。たくさんある選択肢の中から正しいものを選び取り、そして主人公を目的の場所へ導く、それこそが作者の仕事なのだよ」


フローチャートの答えがいくつも用意されるように、物語の結末は複数用意することができます。この感覚はゲームをやる人ならばピンとくるでしょうが、マルチエンディングに似ています。

しかし、小説は目的の答えにまっすぐに届く一本道シナリオ、それぞれの選択肢にどのような回答をするのかは作者の手に委ねられているのです。

これによって無数にあるマルチエンディングの中から、自分の望む結末に至るようにフローチャートを調整する、これがプロットの基本構造です。


「ドゥーユーアンダスタァン?」

「それはもういいですから。あと、さりげなくボクの股間を触ろうとしないでください」

「ちっ」

「おおよその形はわかりました。フローチャートの、選択し終わったものを抜き書きしたような、一本道の形になればいいんですね」

「そのとおりさ!」

「それならば、仕事に使われるような手順書的なものでいいじゃないですか」

「甘いなKO林くん、すべての人の人生は選択の繰り返しである、よって、仮想といえども小説の中で生きる主人公に与えられるべきは選択肢の発生する問いかけなのだよ」

「選択肢ですか? ちょっとわかんないですね」

「例えばだよ、今日、私がこうして女性の体を手に入れた理由、これがどうしてだかわかるかね?」

「ボクが巨乳好きだからですか?」

「その通り! しかし、『KO林くんが巨乳好きだ』という情報を得たとき、私にはほかの選択肢も多くあったのだよ」

「確かに、巨乳のお姉さんを連れてくるとか、パッドで盛るとか、ほかにも手はいくらでもありますもんね」

「その通り! しかし、しかしだよ、それでは話が面白くならないではないか! だから私は君にプロットの意義を教えるためにあえて! あえてTSという吹っ切った手段に出たのだよ」

「あ、そっすか」


KO林くんの冷たい視線には気づかなかったということにして……実はこの『問いかけを考える』ことこそイコールで物語なのです。

全ての物語には起点がある。つまりは主人公には『物語の舞台に上がりますか』という問いかけがなされている。そしてそれに『はい』と答えたということが大前提。

さて、それに続くフローチャートをあなたが作ってみましょうということなのです。

最初にどんな冒険を置きますか?

私ならこうです。


女性になりますか?

        ▶はい

         いいえ


「で、女性になったと?」

「いや、これはこの項目の主目的でしかないのだよ。私は女性になることを選んだ、それゆえに怪しい博士のもとを訪ね、怪しい薬を買ったと、これがこの項目中に置かれたエピソードだ」

「買ったんですか? また無駄遣いですか」

「いや、その……」

「まあ、いいです。この項目での主目的は果たした、そして次の項目に進むわけですね。先生はここにどんな選択肢を置いたんですか」

「こうだ!」


   KO林邸にたどりついた!

   どうしますか?


        戦う     魔法

        逃げる   ▶しのびこむ


「うわあ、はっきりいって犯罪ですね」

「そういうな、KO林くん、これも愛ゆえの選択なのだよ」

「でも、わかりました。次の物語に進むための項目は、常にこうした選択肢を必要とする形になると、そういうことですね」

「そうさ、つまり、『ここで世界観を』とか、『生い立ちを説明するための会話』という一文が選択肢を発生させると思うかね?」

「ああ、なるほど、だから先生はそういうものを行動指示書と呼ぶんですか」

「その通り。これが『生い立ちを説明するための会話を始めますか』ならば、十分に選択肢は発生する。これに伴い、その『イエス・ノー』にたどり着くまでのエピソードも発生するではないかね!」

「つまり、本当の意味で『キャラが動く』ということですね」

「君は本当に察しがいいなあ、KO林くん」

「はい、察しがいいので先生がキス顔しているのもお見通しですよ~。でも、しませんからね」

「イケズ……」

「今のはつまり、『先生がキス顔をしている、キスしますか』という問いかけがボクにあったということですね。そしてボクはそれに『ノー』と答えを出した」

「いい感じだね。しかし私はその次に『KO林くんに断られた、腕力で押しますか』という問いかけを用意している。私はこの問いかけの答えにたどり着くべく逡巡し、策をめぐらし、そして行動するだろう。そういったエピソードのつなぎ合わせが物語だ!」

「つまり、登場人物が行動したり、思い悩んだり、そういった選択肢を用意しろ、というのが今回の話のキモですね」

「そう、これがフローチャート思考法さ!」

「で、ボクが先生の選択肢に対抗するべく用意する問いかけですが……『身の危険を感じる、通報しますか?』というものなんですけどね」

「いや、通報は……いや……そうだ、せっかくだから選択方式であったものがどんな形になるか、まとめてみせよう!」


KO林くんのために巨乳になろう→怪しい科学者から薬を買う→KO林邸に侵入→騒がれないように話を合わせる→話術巧みにすきを窺う


「そうか、先生、さっきからすきを窺っているんですね?」

「いや、それは……そう、この流れのとおりに進めるならば、会話などなんでもいいという見本に……」

「へえ、この会話、ブラフですか」

「まって、まって、通報だけは~!」


     KO林少年が電話をとった、どうしますか

          戦う    魔法

         ▶逃げる    土下座


乳を揺らして逃げる焼智、はたして彼は警察の追っ手をかわすことができるのか?

逃げろ、焼智、次回更新は君の乳にかかっている!

次回、『思い出の丘にて』をお楽しみに!






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