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プロローグの作り方(焼智の誤算)

「さて、では実際にプロローグを組み立ててゆくよ、準備はいいかねKO林くん!」

「ところで焼智先生、そもそもプロローグってなんですか?」

「君はまたそういう話が長くなりそうな質問を……」

「あ、本当は知らないんですね?」

「知っているとも、よく耳をかっぽじって聞きたまえ!」


 プロローグとは本来は演劇の前口上をさす言葉、古くはギリシア演劇の開劇前に狂言回しなどが物語のあらましや作者の意図などを解説する、まさに『前説』を指すのだという。

 ここから転じて、現代解釈では広く『物語の前に置かれた短いイントロ部分』をさすようになったのだ。


「そもそも物語に独立したプロローグというものは必須ではないのだよ」

「でも、冒頭っていうものを前回解説してくださったじゃあないですか」

「厳密に言えば冒頭とプロローグは本文と同一であるなしの別があるものなのだよ。しかし、物語構成として最初に提示しておくべき情報はほぼ同一、その提示方法が違うという、演出の違いでしかないのだ」

「今回作ろうとしているのは『プロローグ』なんですよね?」

「そう、なぜなら冒頭に独立したプロローグを作る方が簡単であって基礎だからね。ここにどんな情報が入るべきかを理解してさえいれば、後はその情報をどうアレンジするかは作者の腕次第、応用編なのだよ」

「なるほど、わかったような気がします」

「解ると実際にやるのとでは大違いなのだよ、はじめるぞ、KO林君!」

「はい!」


 プロローグがどんなものか、イメージするには映画を思い浮かべるといい。

 例えばスペースオペラであれば悠々と宇宙を行くシーンから始まったり、ホラーであれば最初の犠牲者がパクリと食べられるシーンであったり、物語の核心に近い印象的なカットを短く入れる技法が多いね? 

 これは『張り手型』と呼ばれる技法で、つまりは動きのあるシーンからはいることで観客にその世界のあらましを疑似体験してもらい、そのシーンにつながる物語はおいおいゆっくりと展開してゆくのだよ。

 物語にもこのパターンのプロローグを取り入れる作者は多くて、この場合時系列をすっ飛ばすことになるから、私はこれを独自に「ナゼコンナコトニナッタノカ、オモイオコセバ型」と呼んでいる。


「『張り手型』じゃないプロローグっていうのもあるんですか?」

「あるとも、某有名スペースオペラではおなじみのテーマ音楽をバックに物語のあらましを解説する文章が流れるじゃあないか、あれなんかは実にプロローグだよね」

「文章なんかではまったく意味不明なポエム的な何かが置かれていたりしますよね」

「君は少しオブラートというものを覚えた方がいいな。でも、気持ちはわかった。例えばこうだね」


“世界は神によって作られたのか否か。

そんなことは誰も知らぬし、知ってはならないこと。

だからその紙にはたった一言、こう書かれていた。

「憎い……憎い憎いあなた……でも愛してる」“


「わあ、何がいいたいのかよくわかりませんね」

「いや、使いようはあるのだよ。こういう文章は代名詞的なあつかいをすればいい、つまりはこのすぐ後にこの文章を解説する出来事があればいいのだよ」

「なるほど、使いようですか」

「しかしこれは応用編、我々が今やろうとしているのは基礎だ。きちんと4W1Hを考えて作ってみようね」

「はい!」


さて、プロローグが前説であるのならこれは短いほうがよいに決まっている。物語の要素を以下に簡潔に読者に伝えるかが大事になるわけだ。

だからと言って「え~、これより始まります物語は~」などと始められては物語としては興ざめである。

 映画の場合、ここは強みで映像であればそれが画面にとつぜん現れたゾンビであれ、いきなりのキスシーンであれ、一個の『シーン』として成立する。

 そう、プロローグとは独立したひとつのシーンであり、映画のように映像による補助は存在しないのだと心得ていないと失敗するのである。


「これが前回言った『現実とかけ離れた設定ほど先に出しておけ』なのだよ」

「なるほど、確かに映画ならファンタジー世界の映像を映せばいいだけの話が、物語では文字だけで何とかして知らせなくてはならないですものねえ」

「そう、だからこそ時代背景も登場人物も見えない戦闘シーンなどここに置かれては読んでいるほうは大いに混乱するのだよ」

「誰がどんな服装を着て、どんな場所で戦っているのか、見えるのは作者だけですものね」

「特に昨今は魔法と銃器が存在したり、ファンタジー世界に現代知識が存在したりといった複雑な設定も多いだろう? だからこそ基礎を押さえて、そこからアレンジして欲しいとぼかあ思うんだよ」


 では、基礎とは何か。

 これは単純に「物語の自己紹介」をここでしておこうということに尽きるのだよ。

 例えばあなたは、いま書いている物語を一言で表せるだろうか。普通は至極簡単に言い表せるものである。

 私の作品で言えば「男と女がいちゃいちゃする話」が多いかな?

 物語の自己紹介などその程度で十分なのである。


「つまりだよ、『男と女がいちゃいちゃする話』なのに、冒頭に男も女も出てこず、難しい経済状況の説明(専門用語あり)などが始まったら、混乱しないかい?」

「でも、男が経済学者だったり、経済的な戦略上のお付き合いから始まる恋だったり、あるんじゃないんですか?」

「わかっていないね、KO林君、僕は『男も女も出てこない』と言ったんだよ?」

「あ! つまり、男ないし女を出してしまえばいいんですね!」

「そう、例えば男が経済についての講義をしている、それを女が聞いていれば『誰が』という情報は提示されるのだよ」

「その講義がどんな場所で行われているのかを書けば、『どこで』も提示されるわけですね!」

「察しがいいぞKO林君! そして、登場人物がいて場所が決まれば、これはもう『シーン』として撮影も可能なわけだ!」

「同じ要領で『いつ、何を、どうする』も埋めればいいわけですね」

「そう、作者は5W1H、その全てを掌握しておかなくてはならない。そしてそのうちのひとつを故意に隠すのだ!」

「たいていの場合は『どうする』が欠落するんですよね、これから始まる長い物語の中で語るわけですし」

「そうだ、いいぞ! KO林君!」

「あれ? そうしたら、プロローグってめっちゃ長くなるんじゃないですか?」

「ノンノン、プロローグが長い長い物語であることを知っているのは作者だけでいいのさ」

「なんかかっこいいですね、それ!」


常態、プロローグが短いシーンであるのは省略と整理整頓の賜物であるべきなのだよ。

例えば作品ジャンル、これは文体の硬軟や既存に在るテンプレートを利用することで省略可能だったりする。同じように時代を表すのに登場人物の口調を利用したり、場所などは現代であれば誰もが知っている状況を作り出したり、省略しまくった結果短くなるべきがプロローグなのだよ。


「さて、では件の怪文をプロローグに仕立ててみようか。今回はセオリーどおりにひねりなく、基本にあくまでも忠実に」


“サナトリウムの庭で、夫に向けての文を書く。

あの人は今頃、私のいない家にお稚児さんを上げて、ナニをしている最中かしら、うふふ。

 春の日差しはうららかで、これがまぶしくなる夏ごろには家に帰れるんだって、きのうお医者様に言われたの。

 でも、これはまだ内緒。だって私の復讐はそこから始まるんだもの。

 だから手紙には短く一行だけ、心をこめて……

「憎い……憎い憎いあなた……でも、愛してる」“


「ちょ! 先生、これ! 療養に行ってる先生の奥さんなんじゃ!」

「あははははは、生きていたならまた次回!」

「読者の方に挨拶なんかしている場合じゃありませんよ! まさか、怪文二十面相って……」


焼智にせまる危機!

果たして彼は怪文二十面相の魔の手から逃れることができるのか!?

次回「焼智、腹上に死す」にご期待くださいっ!


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